日本大百科全書(ニッポニカ) 「死霊」の意味・わかりやすい解説
死霊(しれい)
しれい
民俗
死者の霊魂は49日間、屋根棟(むね)にとどまっているとか、屋敷の周りにいるとかいう。沖縄では四十九日までは家と墓所とを行き来しているという所がある。四十九日を過ぎると山へ行くという例が多い。福島県などでは村里近くの葉山(はやま)という山へ行くといわれる。そしてそこで死霊が浄(きよ)まると、さらに月山(がっさん)、羽黒山などの霊場に行って鎮まるという。一般の家では四十九日を過ぎると、それまで別置しておいた位牌(いはい)を仏壇に納める。
死者の年忌は33年または50年でトイキリといって終わりとしている。このとき墓を倒して杉などの生木(なまき)を立て、それ以後は回向(えこう)しない。仏は神になるなどといい、死霊は個性を失って先祖の霊と合一するものと考えられていた。現代では盆の霊(たま)迎えは墓所へ行くのが普通となっているが、所によっては村近くの山へ行く例が見受けられる。山へ行って火を焚(た)き、霊迎えをするのである。祖霊に対する考え方は時代によって変遷してきている。仏教などの影響も考えられる。人が死ぬとすぐ死霊が信州(長野県)の善光寺参りに行くという信仰をもっている土地が多い。このため死去するとすぐ「死に弁当」をつくって死者に供える。それを持って死霊は善光寺参りをするという。関西方面では那智(なち)(和歌山県)の妙法山とか、伯耆(ほうき)(鳥取県)の大山(だいせん)へ参るという所もある。村里近くの山が開発されて霊の鎮まる場所としては不適当となってきたことも考えられる。
[大藤時彦]