デジタル大辞泉
「直訴」の意味・読み・例文・類語
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じき‐そヂキ‥【直訴】
(一)〘 名詞 〙 直接、君主、将軍などに訴えること。特に、江戸時代は、将軍、領主に対する越訴(おっそ)を、明治以降は天皇に直接訴える場合をいい、厳禁された。直願。直奏。
(一)[初出の実例]﹁鎌倉中者、就二地主吹挙一、可レ申二子細一、無二其儀一者、不レ可レ用二直訴一之曲、今日被レ仰二遣問注所政所一、是為レ被レ禁二直訴之族一也﹂(出典‥吾妻鏡‐建長二年︵1250︶四月二九日)
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直訴 (じきそ)
定められた手続を踏まず直接に上級の権力に訴え出ること。越訴︵おつそ︶も同義。近世初頭には,特別の事情がある場合の直目安︵じきめやす︶の提出が認められていたが,訴訟法の整備によって禁止された。しかし農民は,順法的な訴願で要求が通らなければ,少数の代表者か惣百姓がさまざまな形態の直訴行動を行った。これが一揆で,指導者は厳刑に処せられたが,訴願の趣旨は受け入れられる場合が少なくなく大きな成果をあげた。
執筆者‥深谷 克己 江戸時代では,下総国印旛郡公津台方村の名主惣五郎が佐倉藩主堀田氏による収奪の実態を将軍に直訴し,妻子とともに処刑された事例や,上野国利根郡月夜野村の農民茂左衛門が沼田藩主真田氏の暴政を老中ならびに将軍に訴え出て,真田氏は改易となり,茂左衛門は捕らえられて死刑に処せられた磔茂左衛門の例などが有名である。明治時代には,1890年代から議会で足尾鉱毒問題を追及してきた田中正造が,政府の無責任な態度に絶望し,代議士を辞任して1901年12月天皇に直訴した事件が注目される。
執筆者‥宇野 俊一
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直訴
じきそ
中・近世の訴訟形態の一つで、所定の手続を経ないで直接に上部権力に訴え出ることをいう。鎌倉・室町期までは、荘園本所(ほんじょ)関係の訴訟で挙状(きょじょう)︵仲介の書状︶を帯しないもの、または判決の出されたものを再訴することを越訴(おっそ)といい、一般に禁止されていた。越訴の前者の意味が直訴に近いものであるが、幕府や朝廷または中央荘園(しょうえん)領主へ訴訟を行うことが一般化していた当時においては、とくに直訴を問題にしなかった。しかし、戦国期には奏者︵取次人︶を通す訴訟が確立して、この手続を無視した直接訴訟、いわゆる直訴を多くの大名が禁止するようになる。たとえば今川氏、武田氏、六角(ろっかく)氏などはその分国法中に直訴禁止規定を設けており、織田信長などもこれを禁止している。このような政策は、さらに江戸幕府にも継承された。近世では直訴は駈込訴(かけこみうったえ)、駕籠訴(かごそ)などとともに広い意味での越訴とされ、とくに村役人などの手を経ずに将軍や領主に対して行われるものを直訴といい、これに対しては厳罰が科せられた。
﹇大久保俊昭﹈
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直訴【じきそ】
訴訟の正規の順序をとびこして上級権力者に訴えること。越訴(おっそ)と同じであるが江戸時代には将軍や大名など最高権威者に直接訴えることを特に直訴といい,幕府・諸藩とも厳禁した。→百姓一揆
→関連項目佐倉惣五郎|日親|磔茂左衛門
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直訴
じきそ
定められた手続きをふまずに,君主,領主,為政者などに対して,直接請願を行なうこと。直願ともいう。中国では皇帝の行幸の途上直訴し,訴状が不実の場合には罰せられ,日本でも江戸時代には将軍または領主に対する直訴は厳重に罰せられた。明治以降,田中正造代議士が議会開院式から帰る天皇の馬車に直訴状を持って走り出た直訴事件︵1901.12.︶,名古屋で天皇が観兵式を行なったとき,北原泰作二等兵が天皇の馬前に走り寄り,訴状を差し出した事件︵1927.11.︶が有名である。第2次世界大戦後に廃止された請願令は﹁行幸ノ際沿道又ハ行幸地ニ於テ直願ヲ為サムトシタル者ハ1年以下ノ懲役ニ処ス﹂と定めていた。
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直訴
じきそ
将軍・老中・領主などに所定の手続きをふまずに訴えること。越訴の行為態様の一種。1721年(享保6)に設けられた目安箱は合法的直訴。通説では直訴には厳罰が科せられたとするが,処罰は訴訟の理非によるとの立場が有力。一般的には非合法な訴えとみるべきだが,管轄役所の不取次により直訴した場合などは訴状が受理された。
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直訴
じきそ
所定の手続きを経ないで直接に領主へ訴え出ること
越訴 (おつそ) の一種。江戸時代,農民運動の一形態としてみられる。五人組に断って村役人へ申し出,その奥印を得て訴えるのが順序であるが,それをしないで将軍・大名などに直接訴えるもの。極刑に処せられた。下総の佐倉惣五郎が有名。
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世界大百科事典(旧版)内の直訴の言及
【越訴】より
…戦国大名は,六角氏,長宗我部氏のように,家法によって再審請求を禁止する方向をとった。︻山本 博也︼
﹇近世﹈
近世では,訴訟の法に定められた順序を乱す違法な[直訴]︵じきそ︶のさまざまな方法を広く指す言葉となった。武士・公家から庶民に至るまで,一方では私的な争論を禁じ,他方では順を踏まない越訴を禁じて,訴訟の制度にもとづき大小の紛争を解決するというのが江戸幕府のたてまえであったが,実際には越訴は根絶できず,それへの対処も変化した。…
【強訴】より
…惣百姓による集団的な直訴行動。江戸時代の百姓一揆の中心的な闘争形態。…
【庭中】より
…一般的な手続過誤のほか,(1)[賦](くばり)奉行が訴状を受け取りながら所定の手続をとらず,他の奉行に訴えたがなお進行しない(訴が裁判所に係属しない)場合,庭中方管領から担当奉行に命じて手続を進行させる,(2)寺社本所領に関する訴訟で,幕府の執行命令が20日以上停滞した場合,庭中方管領から担当引付方に厳重に督促する,という制度であった。なお室町幕府では正式の手続をとらない将軍への直訴を庭中ということがあり,原則として禁止されていた。16世紀ころには,庭中と越訴の厳密な区別は失われ,ともに正規の手続を経ない権力者への直訴を意味するようになり,《日葡辞書》では主君を路上に待ちうけて請願書を提出すること,と説明している。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」