デジタル大辞泉
「等級」の意味・読み・例文・類語
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とう‐きゅう‥キフ【等級】
(一)〘 名詞 〙
(二)① 上下の段階。くらい。階級。
(一)[初出の実例]﹁凡博士助教。皆計二当年講授多少一。以為二考課等級一﹂(出典‥令義解︵718︶学)
(二)﹁等級でいえばデラックス級のホテルであった﹂(出典‥カールスバートにて︵1967︶︿柏原兵三﹀)
(三)[その他の文献]︹礼記‐月令︺
(三)② 天体の光度を示す階級。光度が二・五一二倍になるごとに一等級減少する。測定方法によって実視等級・写真等級・輻射計等級などがある。
(四)③ 同じ階級であること。︹文明本節用集︵室町中︶︺
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
等級
とうきゅう
magnitude
星の明るさ︵光度︶を示す階級。もともとはギリシア時代に肉眼で感じる星の明るさを区分するのに用いられたもので、非常に明るい約20個の星を1等星、肉眼でぎりぎりに見える暗い星を6等星とし、全天に見える星の明るさを1~6等星の6階級に分けていた。しかし、天文学の発達とともに、天体の明るさを人間の感覚で見積もるのではなく、客観的な方法で測定する必要が出てきた。天体の明るさとは、天体から地球に対して単位面積あたりに降り注ぐ光︵電磁波︶の強さに対応している。19世紀になって、この光の強さを定量的に測定できるようになり、1等星の光の強さは6等星のそれのおよそ100倍であることがわかった。そのため、イギリスの天文学者ポグソンNorman R. Pogson︵1829―1891︶は、等級の定義を改めて、5等級の差が光の強さでちょうど100倍に相当するように等級尺度を定めた。そして、全天にあらかじめ等級を定めたいくつかの測光標準星を設けて、それらを基準にして等級のゼロ点を決めるようにした。このようにして決められた等級の数値は一般に整数ではなく小数で表され、非常に明るければ等級は負の値になり、肉眼で見えないほど暗い場合には等級は6よりも大きい数になる。たとえば、シリウスはマイナス1.5等、バーナード星は9.5等である。地上で観測する場合、地球大気の吸収や散乱のために天体からの光は少し弱くなるが、等級はそのような減光を補正したものをいう。
人間には、外から受ける物理的刺激の強さとそれを受けたときの感覚の大きさとの間には﹁ウェーバー‐フェヒナーの法則﹂として知られる関係があり、たとえば、刺激の強さが1、2、4、8、16、…と一定の倍率で増えていくとき、感覚の大きさは1、2、3、4、5、…というように一定の間隔︵差︶で増えていく。天体の明るさの場合、感覚の大きさが等級の値︵明るいものほど値が小さい︶、刺激の強さが光の強さにあたる。したがって、5等級の差が光の強さで100倍に相当する等級尺度では、1等級の差は光の強さで﹁100の5乗根﹂倍、すなわち約2.512倍に相当する。等級︵m︶と光の強さ︵I︶の関係を数式で表すと、m=-2.5 log I+Cとなり、定数Cの値は標準星の観測からゼロ点を定めることで決まる。熟練した人が眼視観測で測った等級の誤差は0.1等程度であるが、写真︵乾板・フィルム︶による誤差は0.05等程度、光電管やCCDカメラで測定した等級の誤差は0.005等かそれ以下である。
﹇岡崎 彰﹈
現在では、さまざまな受光器やフィルターを組み合わせて、さまざまな波長域で等級を決めることが可能であるが、国際的な統一を図るため、いくつかの波長感度特性を定めた標準測光システムが採用されている。その代表的なものがジョンソンHarold L. Johnson(1921―1980)の「UBV測光システム」と、クロンGerald E. KronおよびカズンズAlan Cousins(1903―2001)の「RI測光システム」をあわせたものである。U(紫外)、B(青)、V(実視=黄)、R(赤)、I(赤外)の各等級で、波長0.36~0.79マイクロメートルの範囲をカバーしている。このうち、V等級は肉眼の感度に近い波長特性で測ったもので「実視等級」ともよばれ、眼視観測による等級の代用とされることが多い。前記より長波長側に延長した赤外の測光システムとして、J、K、L、M、Nの各等級があり、波長10マイクロメートルまでカバーしている。かつては写真観測で「写真等級」「写真実視等級」が用いられたこともあったが、現在ではほとんど使われていない。前者は前記のB等級にやや近く、後者はV等級に近い。なお、二つの波長で測った等級の差を「色指数」というが、これは連続光を放つ天体の表面温度を知る手がかりを与える。
[岡崎 彰]
電磁波の全波長域にわたって一様に感じる装置を想定して測った等級を「放射等級(輻射等級(ふくしゃとうきゅう))」という。ただ現実にはそのような装置は存在しない。それは天体からの電磁波は地球大気の吸収や電離層の反射などのために可視光と赤外線・電波の一部の波長域しか地上まで到達しないので、直接的な測定は実質的に不可能だからである。しかし、理論モデルや大気圏外の観測例などを参考にして、実視等級と色指数などから放射等級を推定できる。放射等級は、天体から1秒間に放たれる放射エネルギーに対応する等級であり、天体の物理的性質を知るうえで重要な量である。
[岡崎 彰]
各天体までの距離はそれぞれ異なるので、地球から観測した天体の明るさは天体自身の実際の明るさを表しているわけではない。その意味で、これまで述べてきた等級のことを詳しくは﹁見かけの等級﹂といい、波長域別の等級などと組み合わせて、たとえば﹁見かけの実視等級﹂﹁見かけの放射等級﹂などと表現する。一方、天体の実際の明るさを比較するためには、どれも同一の距離10パーセク︵32.6光年︶に置いたときの等級で比べると都合がよい。この等級を﹁絶対等級﹂といい、たとえば﹁絶対実視等級﹂﹁絶対放射等級﹂などと表現する。絶対放射等級は光度を等級の尺度で表したものであり、両者は互いに換算できる。単に等級という場合は、一般には見かけの等級をさす。光源からやってくる光の強さは光源までの距離の2乗に反比例するので、dパーセクの距離にある天体を10パーセクの位置においたとき、光の強さは(d/10)2倍になる。したがって、見かけの等級mと絶対等級Mとの関係式は、M=m+5-5logdとなる。太陽の見かけの実視等級はマイナス26.7等、シリウスはマイナス1.5等であるが、絶対実視等級はそれぞれ4.9等、1.4等なので、実際の明るさではシリウスが太陽よりも3.5等ほど明るい。
﹇岡崎 彰﹈
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等級 (とうきゅう)
magnitude
天文学で星の明るさを表すのに使う物理量の比の表現法の一つ。比の常用対数の2.5倍で,デシベルの1/8である。天体の明るさは,いちばん明るい太陽から現在観測されるもっとも暗いものまで1020倍もあるから,対数を使うのが適している。目に見える星の明るさを1等星から6等星までに分けたのが始まりで,1856年にポグソンN.R.Pogson︵1829-91︶が5等の差を100倍,1等で
と精密化した。この割合で明るいほうにも暗いほうにも広げてある。つまり等級mは明るさをIとしたとき,m=c-2.5logIと表せる。logは常用対数,cは定数で,慣習的に決められている。天体は表面の温度,重力加速度などで決まる波長分布の光を放射している。そのエネルギー分布に,大気,光学系,フィルター,受光器などの感度分布をかけあわせて星の明るさが測定される。実視等級は目の感度分布で見た星の明るさで,パンクロ乾板に黄色フィルターをかけた写真で代用する。写真等級は非整色乾板の写真で測った明るさの等級である。この差がP-Vという色で昔は用いられた。現在ふつうに実視等級といって使われるのはV等級である。これはジョンソンH.L.Johnson︵1921-80︶の三色測光の一つで,反射鏡に黄色フィルター︵5500Åに最大透過度をもち約700Åの幅︶を通した光を定められた光電増倍管で測る。器械による差を少なくするため,系の定義は標準星の等級を表示することで与えてある。星の実視等級を測るときは,基本星表にある標準星をいっしょにいくつか測り,その値をジョンソンの値に結びつけることで統一した系の明るさを得る。精度はよくて1/100等である。地球上︵ただし大気の外に換算し︶で受けるエネルギーの絶対値と上の実視等級を結びつけるのはむずかしい問題である。地上にある2000K程度の近似黒体と,大気外の高温の星を同一器械で観測しなければならない。現在もっともよいとされるのはV=0.03のこと座のベガの5556Åの波長で3.45×10⁻9erg/s/cm2/Åである。このように観測されたものを見かけの等級︵小文字mで表す︶という。星は距離が違うだけでなく,実際の明るさもさまざまだから,それを比較するには星を10パーセクの距離においた等級に換算する。これを絶対等級︵大文字Mで表す︶という。距離がπパーセクの星では,M=m+5-5logπとなる。m-Mは距離指数と呼ばれる。星のエネルギー分布はいろいろだから,絶対実視等級Mvだけで星のエネルギーを表すことはできない。星の放射を全波長域にわたり積分した値を等級で表したものを放射等級︵Mbolで表す︶という。Mbol=4.75-2.5 log︵太陽を単位とした星のエネルギー放射総量︶。人間の目の限界等級は6等だが,望遠鏡を通して眺めるときは,目のひとみ径︵7mm︶に対する望遠鏡の口径の面積比だけ大ざっぱに暗いところまで見える。︷6.8+5 log︵cmで表した口径︶︸等の程度である。
執筆者‥近藤 雅之
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等級(天文)【とうきゅう】
天体の光度を表す単位。古代ギリシアでは全天で最も明るい星約20個を1等星,肉眼でやっと見える星を6等星として,6等級に大別した。現在ではボン星表に6等星としてのっている星の光度の平均を6等とし︵北極星の光度が2.12等になる︶,光度が2.512倍︵︵式1︶,これを光比という︶になるごとに1等級減ずる。これにより1等星より明るい星,6等星より暗い星の等級,また整数でない等級が定義される。→実視等級/写真等級/絶対等級
→関連項目1等星|恒星|光度|分光視差
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普及版 字通
「等級」の読み・字形・画数・意味
【等級】とうきゆう(きふ)
差等を設ける。︹商君書、賞刑︺
謂(いはゆる)刑を壹にすとは、刑に等
無きなり。~國禁を犯し、上の制を亂る
は、罪死(ころ)して赦さず。
字通﹁等﹂の項目を見る。
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世界大百科事典(旧版)内の等級の言及
【軍隊】より
… 軍隊は他の組織体と同様に,その編制には職階とそれに充当する人員数を定めるが,さらに,すべての軍人にはそれぞれ階級を付与している。この階級は官等,等級,あるいは官階などと呼ばれるもので,最高指揮官から一兵にいたるまでの序列を定めたものである。近代軍では官と職を明確に区別し,しかも密接に関連させて,指揮系統を確立している。…
【マグニチュード】より
…一つの地震の全体としての大きさを表す数値。一般にMと略記するが,決定方式によってML,MS,mbのように添字を付けたり,小文字を用いたりして区別することもある。現在使われているマグニチュードはリヒターC.F.Richterによって1935年に提案されたものMLがもととなっているが,その決定法にはいろいろな方式がある。これらの方式は本来は同じ地震に対して同じ値が得られるものとして開発されたはずであるが,実際には方式によってかなりの系統的な差が出る。…
【恒星】より
…
﹇恒星の数と分布﹈
天の川が微光星の集りであることはG.ガリレイによって初めて望遠鏡で確認された。表2は全天の星の数を明るさの等級別に示したものである。表の中で,実視等級8とあるのは7.5等から8.4等まで四捨五入した値である。…
※「等級」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」