デジタル大辞泉
「望遠鏡」の意味・読み・例文・類語
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ぼうえん‐きょうバウヱンキャウ【望遠鏡】
- 〘 名詞 〙 遠くの物体を拡大して見るための光学器械。円筒の一端に装置した対物レンズで遠くの物体の実像を作り、それを接眼レンズで拡大してその虚像を見る。対物レンズに凸レンズを用いたものを屈折望遠鏡、反射鏡を用いたものを反射望遠鏡という。とおめがね。千里鏡。
- [初出の実例]「時に望遠鏡を候ふ者、遙かに土地の形容の彷彿たる者を見得たりと告ぐ」(出典:管蠡秘言(1777))
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望遠鏡
ぼうえんきょう
telescope
遠方にある物体を拡大して見るための光学器械。原理的には対物レンズと接眼レンズとからなり,対物レンズでつくられた遠方の物体の実像を接眼レンズで拡大された虚像として見るようになっている。星や太陽を観察するための天体望遠鏡には主光学系にレンズを使った屈折望遠鏡と,対物レンズの代わりに凹面反射鏡を使った反射望遠鏡があり,大型のものはほとんど後者である。また特殊なものとして天体から放射される電波をとらえる電波望遠鏡,大気圏外からの観測を前提とした紫外線望遠鏡︵→紫外線天文学︶や X線望遠鏡︵→X線天文学︶などもある。
光学望遠鏡は17世紀初めのヨーロッパで発明された。ガリレオ・ガリレイは1本の管中の前方の対物レンズに凸レンズを,後方の接眼レンズに凹レンズを使ったいわゆるガリレイ式望遠鏡をつくり,月面や木星の衛星を観測した。ついで 1611年,ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーがガリレイ式望遠鏡の改良型であるケプラー式望遠鏡を考案した。ケプラー式望遠鏡は,接眼レンズにも凸レンズを採用したもので視野を広く,また倒立実像ではあるが拡大率も高くできるという特色をもっていた。この型は構造的に完成されたもので屈折望遠鏡の基礎となり,その後の発展においても大きな改変はなされなかった。19世紀末までには屈折望遠鏡の大きさの限界といわれた口径40インチ︵約 102cm︶のものがシカゴ大学ヤーキズ天文台に建造された。反射望遠鏡は,光が鏡によって集められて焦点を結ぶものであり,イギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルがこの型の望遠鏡を使用して 1781年に天王星を発見したあと,広く使われるようになり,20世紀における有力な天文観測機器となった。世界の大反射望遠鏡には,ロシアの北カフカスにあるゼレンチュクスカヤ天文台の口径 236インチ︵約 6m︶のものや,アメリカ合衆国のカリフォルニアにあるパロマ山の口径 200インチ︵約 5m︶のヘール望遠鏡︵→ヘール天文台︶などがある。
もう一つの光学望遠鏡である反射屈折望遠鏡はシュミット望遠鏡︵→シュミットカメラ︶と呼ばれ,補正レンズと反射鏡を組合せたものでドイツのベルンハルト・V.シュミットにより 1930年に発明された。シュミット望遠鏡は球面収差を補正するための四次曲面レンズが球面状の反射鏡の前に配置され,広い視野と高解像力を得られるばかりでなく明るさも上げることができ,天文観測に理想的な機器となっている。
地球の大気は可視光線だけでなく,恒星,銀河,クエーサーを含めた多くの天体からの 1mmからおよそ 10mにまでわたる波長の電波も透過する。これらの電波を利用して天体を研究するための装置が電波望遠鏡である。宇宙からの電波は非常に微弱なのでこれらの電波をとらえるのには巨大なパラボラアンテナなどの特殊な装置が必要とされるが,その最大の単体装置としてはプエルトリコのアレシボ天文台にある直径 304mの固定球面電波反射鏡がある。
このほか可視光線よりもいくらか長い波長の電磁波を観測する赤外線望遠鏡や地上では観測できない紫外線,X線,γ線をとらえるための紫外線望遠鏡やX線望遠鏡などが開発され,地球を回る軌道衛星に搭載されている。紫外線望遠鏡の構造は反射望遠鏡と似ているが,光学面に高い反射性を付与するための特殊な被覆加工︵コーティング︶を必要とする。1990年4月,アメリカがスペースシャトルを使って地球軌道に打ち出したハッブル宇宙望遠鏡はこの紫外線望遠鏡である。中性子星,超新星の残存物,銀河集団やその他の高エネルギー天体系を観測するためのX線望遠鏡は,伝統的な光学望遠鏡とは根本的に設計が異なる。X線は非常に高いエネルギーをもつので,X線光子をレンズで集束させることはできず,通常の反射望遠鏡で観測しようとしても鏡を透過してしまう。X線望遠鏡は,焦点面上にきわめて低い角度,通常は 4°以下の浅い接触入射角で入ってくる光子を反射するために高度に研磨された円筒鏡を装備しており,形成される像は電子的な検出器で記録される。実用化されたX線望遠鏡には,アインシュタイン衛星またはアインシュタイン天文台と呼ばれる HEAO-2︵高エネルギー天体観測衛星 High Energy Astronomy Observatory。→X線観測衛星︶がある。
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望遠鏡 (ぼうえんきょう)
telescope
対物レンズと接眼レンズ,あるいは凹面鏡︵対物鏡という︶と接眼鏡の組合せによって遠方の物体を光学的に近づけ,拡大して観察するための装置。取り扱う電磁波の波長領域の拡大とともにX線望遠鏡,電波望遠鏡なども開発されたが,単に望遠鏡という場合は可視光の領域を対象とする光学望遠鏡を指す。
歴史的には17世紀初頭,オランダのミデルブルフにイタリアから技術導入されたガラス工場があり,クリスタルガラスが生産され,レンズ研磨から眼鏡の生産まで行われていたが,レンズ研磨師のリッペルスハイHans Lippershey︵?-1619︶が1608年に望遠鏡の特許を申請したことが記録に残っている。当時の望遠鏡は用途としてまず軍事目的が考えられていた。このオランダにおける望遠鏡の成功を聞いたガリレイは翌09年,理論的解析を行い,みずから望遠鏡を試作した。リッペルスハイからガリレイに至る望遠鏡は,凸の対物レンズと凹の接眼レンズの組合せであり,オランダ望遠鏡あるいはガリレイ望遠鏡と呼ばれている。像は正立するが視野の狭い欠点があり,現在ではオペラグラスに用いられる程度である。J.ケプラーは11年︽屈折光学︾を著し,その中で対物レンズ,接眼レンズともに凸レンズを用いた天体望遠鏡について述べている。これは今日ケプラー望遠鏡と呼ばれるものでC.シャイナーによって15年に作られた。得られるのは倒立像であるが,倍率を高くしても視野を広くとれる長所がある。天体の観測では倒立像であっても差しつかえはないが,地上望遠鏡として利用する場合には対物レンズと接眼レンズの間に像を正立させる光学系︵正立系︶を入れる必要がある。これにはレンズとプリズムを利用する方法があり,後者は本格的な双眼鏡に用いられている。ガリレイ式,ケプラー式のように,レンズを用いた望遠鏡︵屈折望遠鏡という︶では,色収差を完全になくすことはできない。この欠点を除くために,天体の実像をつくるのに凹面鏡を利用したものが反射望遠鏡である。スコットランドのグレゴリーJames Gregory︵1638-75︶が初めて実用的なものを設計した︵1663発表︶とされている。
日本への望遠鏡の伝来についてはいくつかの説があるが,1613年︵慶長18︶イギリスの使節が献上したのが最初らしい。遠眼鏡,千里鏡,星眼鏡などの名で呼ばれていたが,江戸初期には地上用のものの製作は幕府により禁止されていた。1830年代には国友藤兵衛一貫斎︵1778-1840︶が反射式の優れた望遠鏡をつくっており,月の表面や太陽黒点のスケッチを残している。
天体望遠鏡の一部を除けば,一般の望遠鏡はそのほとんどが屈折望遠鏡である。屈折望遠鏡は,焦点距離の長い対物レンズの後側焦点と,焦点距離の短い接眼レンズの前側焦点とを一致させたものである。対物レンズに入った平行光線は接眼レンズから平行光線として出ていき,全体として一種の無焦点︵アフォーカル︶系であるが,対物レンズから物体を見た小さな光線の開き角は,接眼レンズから出るときは大きく拡大される。したがって望遠鏡を通して見ると遠方の物体は拡大されて見える。この物体を見込む開き角の拡大比率を望遠鏡の倍率と呼び,対物レンズの焦点距離を接眼レンズの焦点距離で割ったものに等しい。なお望遠鏡の分解能は,接眼レンズの倍率が十分高い場合に識別できるもっとも接近した2点の間隔を角度で表したもので示される。理想的な場合この分解能は光の回折現象で決まり,光の波長に比例し,対物レンズの口径に反比例する。
望遠鏡は天体観測用のほか,地上用にも多く用いられ,双眼鏡,オペラグラスなどもその一種である。また各種照準望遠鏡,潜望鏡といった軍用にも非常に多く用いられる。測量器械,ボアスコープ,芯出し望遠鏡といった産業用にも多くのバリエーションがある。
→天体望遠鏡
執筆者‥小倉 磐夫
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望遠鏡
ぼうえんきょう
telescope
光学系の組合せにより、遠方の物体を拡大して眺める器械。レンズの光学的記述は11世紀のイブン・アル・ハイサムの著作にみられ、13世紀にはR・ベーコンが光学的利用を唱え、眼鏡がつくられ始めた。当初、レンズの材料は水晶か透明な緑柱石であったが、やがてガラスが使われるようになった。17世紀初めオランダで良質のレンズが生産され、眼鏡師のリッペルスハイHans Lippershey︵1570―1619︶が、1608年に望遠鏡を発明したとされる。これを聞いたイタリアのガリレイは、光学理論によってただちに倍率3倍の望遠鏡を製作し、さらに高性能のものに改良して、1609年に月面や天の川、そして惑星などに望遠鏡を向け、月面や木星の四大衛星︵ガリレオ衛星︶の忠実な記録を残し、これらの結果は10年に﹃星界からの報告﹄として刊行された。以降、天体観測に望遠鏡は不可欠の器械となり、ケプラー、ホイヘンス、ヘベリウス、ニュートン、W・ハーシェルら多くの研究者によって改良が重ねられた。天文学の発展が望遠鏡の発達と軌を一にしているといっても過言ではなく、今日では、口径6メートル鏡が実用に供されており、さらに大きな望遠鏡の建設が世界各国で計画されている。
望遠鏡は天文観測器械として発達したが、その本来の機能から、その当初から軍事用の器械としても、航海用器械としても重要であったことはいうまでもない。
望遠鏡の日本への渡来についての確かな記録は、江戸幕府によって編纂(へんさん)された外交資料集成の﹃通航一覧﹄第252巻にみられる。それによれば1613年︵慶長18︶に、イギリス軍艦クローブ号艦長セリスJohn Sarisが駿府(すんぷ)︵静岡︶で徳川家康に会見した際の献上品に、鉄砲などとともに﹁長一間之靉靆(あいたい)﹂があり、﹁六里見え﹂とある。靉靆とはめがねのことであり、それが長さ1間︵1.8メートル︶で、6里︵約24キロメートル︶離れたものがみえる、とあり、望遠鏡であることが知られる。以後も長崎のオランダ商館を通したりして望遠鏡は輸入されたが、それらを手本に日本でも望遠鏡を製作するようになった。
名を知られた望遠鏡製作者に岩崎家があり、その祖、善兵衛は﹁窺天鏡(きてんきょう)﹂と名づけた屈折望遠鏡を1793年︵寛政5︶に製作、この家は明治までその製造を続けた。また鉄砲鍛冶(かじ)の国友藤兵衛は天保(てんぽう)年間︵1830~1844︶に反射望遠鏡を自作し、太陽黒点を観測した。望遠鏡は遠目鏡(とおめがね)、星眼鏡ともよばれた。
﹇石田五郎﹈
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望遠鏡【ぼうえんきょう】
遠くの物体を拡大して大きく見るための器械。電波望遠鏡,X線望遠鏡などもあるが,単に望遠鏡といえばふつうは可視光による光学望遠鏡を指す。1608年にオランダでH.リッペルスハイなる人物が特許を申請したとの記録が残っており,翌年にはガリレイが自作の望遠鏡で月の観測を行っている。ガリレイまでの望遠鏡は対物レンズに凸レンズ,接眼レンズに凹レンズを用いた,今日ガリレイ式と呼ばれるものだが,1611年,ケプラーは︽屈折光学︾の中で,両者とも凸レンズを用いた天体望遠鏡について述べている。今日ケプラー式と呼ばれているもので,得られるのは倒立像だが,倍率を高くしても視野を広くとることができる。望遠鏡の性能は倍率,分解能,明るさ,はっきりした像の得られる画角︵有効画角︶などで表されるが,このうち分解能と明るさは対物レンズの口径が大きいほどよい。なお,実像を得るのに凹面鏡を用いた望遠鏡を反射望遠鏡という。
→関連項目双眼鏡|対物レンズ
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世界大百科事典(旧版)内の望遠鏡の言及
【倍率】より
… 虫眼鏡と顕微鏡では,像を明視の距離D(25cm)につくったときの横倍率で倍率を表し,虫眼鏡の焦点距離をf,顕微鏡の対物レンズと接眼レンズの焦点距離をそれぞれf1とf2とすれば,虫眼鏡の倍率はD/f,顕微鏡の倍率は⊿×D/(f1・f2)で与えられる(⊿は顕微鏡の光学的鏡筒長で,通常18cmである)。望遠鏡では,像の視角と肉眼で見た物体の視角の比を倍率といい,対物レンズおよび接眼レンズの焦点距離をそれぞれf1,f2としてf1/f2で与えられる。 実際の光学系では,倍率は歪曲や像面のとり方,すなわちピント合せによって変化する。…
【分解能】より
…これは分散系の性能とレンズの結像性能で決まるが,レンズを無収差としたとき,回折格子分光器では回折次数をm,開口に含まれる格子線の数をNとしてmNで,またファブリ=ペロー干渉分光器では干渉次数をk,[フィネス]をRとしてkRで,プリズム分光器ではプリズムの底辺の長さをt,プリズム材料の分散をδn/δλ(nはプリズムの屈折率)として,t・(δn/δλ)で与えられる。
﹇望遠鏡や目﹈
望遠鏡,顕微鏡などの光学器械や目(これも一種の光学器械とみなせる)などでは,2点または2線を分離して見分ける能力をいう。これらの光学器械では,二つの近接する,等しい光度の点や線の像は,その間隔をせばめていくとついには分離したものとしては見えなくなる。…
※「望遠鏡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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