デジタル大辞泉
「肺炎」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
はい‐えん【肺炎】
(一)〘 名詞 〙 肺の組織に発生した炎症。細菌、ウイルス、マイコプラスマ、真菌などの感染によって起こる。高熱、咳、痰、胸痛を主訴とする。突発的に発病することも、気管支炎から進行悪化してなることもある。肺焮衝(はいきんしょう)。︹医語類聚︵1872︶︺
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
肺炎
●おもな症状と経過
肺のなかで微生物︵病原体︶が増殖しておこる肺炎は、発熱、せき、痰(たん)、胸痛︵胸の痛み︶、呼吸困難︵息苦しさ︶などの症状を引きおこします。
重症になると、脱水症状や敗血症(はいけつしょう)をおこすこともあります。胸部のレントゲン写真を撮影して診断をつけます。
血液検査ではCRP︵C反応性たんぱく。炎症があると数値が上昇するので、炎症がおきているかどうかを判断する指標となる︶が陽性となり、白血球数が増加します。
治療は抗菌薬によって行いますが、そのためには肺炎の原因となっている微生物を見極める︵同定する︶必要があります。細菌などの病原微生物によって用いられる抗菌薬が変わってくるからです。
ただし、きちんと同定するには痰のなかの細菌を培養する必要があり、数日間必要なため、それを待たずに有効な可能性の高い抗菌薬を決めるために痰を顕微鏡で観察します。
細菌以外にもウイルスやマイコプラズマ、クラミジアなどが原因となる肺炎もあります。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
細菌の増殖が主として、肺胞上皮(はいほうじょうひ)と肺胞腔(はいほうくう)でおこる肺胞性肺炎は細菌によって発症することが多くあります。細菌に対する免疫反応によって好中球︵白血球のなかの顆粒球(かりゅうきゅう)で、体内に侵入した異物を追跡し、破壊する︶が集まり、水分が滲出(しんしゅつ)するためレントゲン写真では白っぽい影となります。細菌以外のウイルス、マイコプラズマ、クラミジアなどにより発症した肺炎では、肺胞と肺胞の間︵間質︶の炎症が主となり、間質性肺炎(かんしつせいはいえん)と呼ばれ、レントゲン写真では筋ばった影や網目状の影として認められます。
●病気の特徴
一般的にかぜをこじらせることによって発症する﹁市中肺炎﹂が多いのですが、入院中に免疫力の低下に伴って発症する﹁院内肺炎﹂もあります。
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
日本における肺炎診療のガイドラインは2000年に初めて公表されました。以後改訂を重ねて現在は市中肺炎、院内肺炎、さらに、2011年には高齢者医療の実情を反映した医療・介護関連肺炎のガイドラインも作成されています。
欧米や日本のガイドラインでは重症度を判定することと原因微生物の精査が重要であるとされ、ただちに経験に基づいた治療を開始することが推奨されています。
﹇治療とケア﹈安静を保ち、脱水症状の予防のために十分な水分を摂取する
﹇評価﹈☆☆
﹇評価のポイント﹈ 高熱のため脱水症状をおこしやすい場合、十分な水分摂取が適当と思われます。とくにお年寄りの場合は脱水症状をおこしやすいので注意が必要です。この方法は、専門家の意見や経験から支持されています。
﹇治療とケア﹈病原微生物に有効な抗菌薬を用いる
﹇評価﹈☆☆☆☆
﹇評価のポイント﹈ アメリカ胸部学会の定めたガイドラインによると、抗菌薬を用いるアプローチとして、適切な使用開始時間と、原因と思われる病原微生物に効果を認める抗菌薬を選ぶべきとしています。お年寄りを対象とした臨床研究によると、病院の外来受診から8時間以内に適切な抗菌薬を用いると、1カ月後に死亡する割合が少なかったと報告しています。(1)(2)
﹇治療とケア﹈解熱薬は発熱による体力消耗を抑える程度に使用する
﹇評価﹈☆☆
﹇評価のポイント﹈ 解熱薬は副作用︵胃腸障害、腎(じん)機能障害など︶もあり、専門家の意見や経験から、必要以上には用いないほうがよいとされています。
﹇治療とケア﹈食欲低下により栄養状態が悪くなりがちなので、点滴でカロリーを補給する
﹇評価﹈☆☆
﹇評価のポイント﹈ 患者さんの全身状態を観察しながら点滴することが、専門家の意見や経験から支持されています。
よく使われている薬をEBMでチェック
かぜをこじらせて肺炎になった場合
﹇薬用途﹈痰が透明もしくは白色、痰の量は多くない︵予測病原体‥ウイルス、マイコプラズマ、クラミジア︶
﹇薬名﹈クラリス/クラリシッド︵クラリスロマイシン︶(3)(4)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈クラビット︵レボフロキサシン水和物︶(3)(5)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇評価のポイント﹈ クラリスロマイシンは、基礎疾患のない︵ほかの病気をもっていない︶若い成人の患者さんに対して、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。
かぜをこじらせて肺炎になった場合
﹇薬用途﹈膿性痰(のうせいたん)で黄色から緑色︵予測病原体‥インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ、黄色(おうしょく)ブドウ球菌︶
﹇薬名﹈クラリス/クラリシッド︵クラリスロマイシン︶(3)(4)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈ジスロマック︵アジスロマイシン水和物︶(6)(7)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈メイアクト︵セフジトレンピボキシル︶(8)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈クラビット︵レボフロキサシン水和物︶(9)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈オーグメンチン︵アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム︶(10)~(13)
﹇評価﹈☆☆☆☆
﹇薬名﹈ユナシン︵スルタミシリントシル酸塩水和物︶(10)~(13)
﹇評価﹈☆☆☆☆
﹇薬名﹈オゼックス/トスキサシン︵トスフロキサシントシル酸塩水和物︶(3)(5)(14)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈アベロックス︵モキシフロキサシン塩酸塩︶(21)
﹇評価﹈☆☆☆☆
﹇薬名﹈ジェニナック︵メシル酸ガレノキサシン水和物︶(22)
﹇評価﹈☆☆☆☆
﹇評価のポイント﹈ いずれの薬も、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。65歳以上あるいは慢性の心肺疾患がある場合には、トスフロキサシントシル酸塩水和物、レボフロキサシン水和物、モキシフロキサシン塩酸塩、メシル酸ガレノキサシン水和物などのレスピラトリーキノロンといわれる多種類の細菌に効果のある抗菌薬が日本呼吸器学会のガイドラインによって推奨されています。
かぜをこじらせて肺炎になった場合
﹇薬用途﹈膿性痰でさび色︵予測病原体‥肺炎球菌、肺炎桿菌(かんきん)、黄色ブドウ球菌︶
﹇薬名﹈メイアクト︵セフジトレンピボキシル︶(8)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈クラビット︵レボフロキサシン水和物︶(9)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇評価のポイント﹈ いずれの薬も、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。
かぜをこじらせて肺炎になった場合
﹇薬用途﹈予測病原体が不明
﹇薬名﹈オゼックス/トスキサシン︵トスフロキサシントシル酸塩水和物︶(14)
﹇評価﹈☆☆☆
﹇評価のポイント﹈ トスフロキサシントシル酸塩水和物は、臨床研究によって効果が確認されています。
入院を要する肺炎︵重症度は中等度︶︵予測病原体‥肺炎球菌、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌︶
﹇薬名﹈ユナシン-S︵アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウム︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈ロセフィン︵セフトリアキソンナトリウム水和物︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈セフォタックス︵セフォタキシムナトリウム︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈ジスロマック︵アジスロマイシン︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈クラリス︵クラリスロマイシン︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈ビブラマイシン︵ドキシサイクリン塩酸塩水和物︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈クラビット︵レボフロキサシン水和物︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈メロペン︵メロペネム水和物︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈チエナム︵イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇評価のポイント﹈ アメリカ胸部学会の定めたガイドラインでは、入院を要する肺炎に対して、βラクタム系抗菌薬に加えてマクロライド系抗菌薬を加えるべきとしています。日本呼吸器学会のガイドラインでも慢性の呼吸器疾患をもつ場合には、βラクタム系抗菌薬にニューキノロン系またはカルバペネム系の抗菌薬を加えるべきとしています。
βラクタム系抗菌薬には、ペニシリン系抗菌薬やセフェム系抗菌薬などがふくまれます。ガイドラインでは通常より量の多い︵通常の2~4倍量︶アンピシリン︵ペニシリン系抗菌薬︶を使うとよいとしています。
入院を要する肺炎︵重症度は重症︶
﹇薬名﹈ユナシン-S︵アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウム︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈ロセフィン︵セフトリアキソンナトリウム水和物︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈セフォタックス︵セフォタキシムナトリウム︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈ジスロマック︵アジスロマイシン︶(1)(15)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈ゾシン︵タゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウム︶(1)(16)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈マキシピーム︵セフェピム塩酸塩水和物︶(1)(16)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈モダシン︵セフタジジム水和物︶(1)(16)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈メロペン︵メロペネム水和物︶(1)(16)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈チエナム︵イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム︶(1)(16)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈シプロキサン︵シプロフロキサシン︶(1)(16)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈クラビット︵レボフロキサシン水和物︶(1)(16)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈アミカシン硫酸塩︵アミカシン硫酸塩︶(3)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈トブラシン/トービイ︵トブラマイシン︶(3)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈ダラシン︵クリンダマイシン塩酸塩︶(3)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇評価のポイント﹈ アメリカ胸部疾患学会のガイドラインでは重症の肺炎ではβラクタム系抗菌薬にマクロライド系かレスピラトリーキノロンといわれるニューキノロン系の抗菌薬を加えることを推奨しています。また、基礎疾患として呼吸器疾患があったり、肺炎をくり返していたり、また副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬を使用している患者さんでは、耐性菌に強いタゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウムやセフェピム塩酸塩水和物などのβラクタム系抗菌薬とニューキノロン系抗菌薬の併用を推奨しています。
日本のガイドラインではそれらに加えてアミカシン硫酸塩、トブラマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬の併用も勧められています。
入院中︵院内感染︶もしくは免疫力が低下している状態で肺炎に至った場合
﹇薬名﹈メロペン︵メロペネム水和物︶(2)(17)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈チエナム︵イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム︶(2)(17)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈塩酸バンコマイシン︵バンコマイシン塩酸塩︶(2)(18)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇薬名﹈シプロキサン︵シプロフロキサン︶(2)
﹇評価﹈☆☆☆☆☆
﹇評価のポイント﹈ いずれの薬も、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。
入院中︵院内感染︶もしくは免疫力が低下している状態で肺炎に至った場合
﹇薬用途﹈抗菌薬以外に必要に応じて
﹇薬名﹈ステロイド・パルス療法(19)
﹇評価﹈☆☆
﹇薬名﹈ガンマグロブリン療法(20)
﹇評価﹈★→
﹇評価のポイント﹈ 抗菌薬のみと抗菌薬に副腎皮質ステロイドを加えた治療を比べたところ、症状に変化がなかったとする臨床研究があります。ほかに選択肢のない場合に検討するべきでしょう。また、抗菌薬のみと抗菌薬にガンマグロブリンを加えた治療を比べたところ、効果は変わらなかったと報告されています。
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
原因は肺のなかでの微生物の増殖
肺のなかで微生物が増殖しておこる肺炎は、発熱、せき、痰、胸痛などの症状を引きおこします。重症になると、脱水症状や呼吸困難、敗血症をおこすこともあります。
原因となる微生物を確かめるのが理想
治療としては、痰の培養により原因となる微生物を明確にし、感受性検査で有効なことが確かめられた抗菌薬を用いることが理想的です。
肺炎を引きおこす病原微生物は非常にたくさんの種類があり、その種類によって有効な抗菌薬が異なるからです。
有効と予測される抗菌薬をまず使う
肺炎の病原微生物を見極める検査には何日間か必要となるため、患者さんの年齢や基礎疾患︵もっている病気︶、服用中の薬剤、院内肺炎なのか市中肺炎なのか、レントゲン写真の所見、痰の検査︵グラム染色︶などの臨床情報を総合して、もっとも可能性の高い原因となる微生物を予測して抗菌薬をとりあえず開始すること︵経験的治療︶になります。
1種類の抗菌薬で始めるのが原則
この場合、患者さんの呼吸、全身状態が一刻の猶予も許さないといった場合を除けば、できるだけ1種類の抗菌薬を用いるべきです。痰の培養結果がでた時点で、経験的に始めた抗菌薬の効果がない場合は、感受性検査で有効とされる抗菌薬に変更されます。
解熱薬の使用は慎重に
発熱時の解熱薬や水分補給、去痰薬を必要に応じて対症的に用いることは十分理にかなっていると思います。しかし、解熱薬はさまざまな副作用︵胃腸障害、腎機能障害など︶を引きおこすこともあり、必要以上に使用すべきではありません。
日本呼吸器学会などの専門学会が、EBMの手順にのっとって肺炎治療のガイドラインを作成し、改定が重ねられています。最近では、市中肺炎、院内肺炎だけでなく、高齢者医療の実情を反映した医療・介護関連肺炎のガイドラインも作成されています。できるだけそれらに則した治療を行うよう勧められています。
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出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報
肺炎
はいえん
Pneumonia
(感染症)
肺炎は、肺(はい)胞(ほう)性(せい)肺炎と間(かん)質(しつ)性(せい)肺炎に大別されます。原因別死亡率では、肺炎は4位に位置しており、肺炎で死亡する人の92%は65歳以上の高齢者です。
原因となる病原体︵病因微生物︶などの種類により、細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、真(しん)菌(きん)性(せい)肺炎、寄生虫肺炎などに分類されます。
病理形態学的な分類では、大(だい)葉(よう)性(せい)肺炎︵肺炎球菌、クレブシエラ︶と気管支肺炎︵黄色ブドウ球菌、嚥(えん)下(げせ)性(い)肺炎高齢者や脳血管障害のある人に多い連(れん)鎖(さき)球(ゅう)菌(きん)性(せい)肺炎など︶に分かれます。
患者さんの背景による分類では、市(しち)中(ゅう)肺炎︵在宅肺炎︶、院内肺炎に大きく分けられます。市中肺炎は通常の社会生活を営んでいる人にみられる肺炎です。一方、院内肺炎は入院している患者さんが基礎疾患︵糖尿病、がん、エイズ、外科的手術後など︶や治療︵副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制薬など︶により感染しやすくなり、病院内で感染した肺炎です。
院内肺炎ガイドライン︵2008年改訂︶では、生命予後予測因子5項目︵①悪性腫瘍または免疫不全、②血中酸素濃度、③意識レベル、④年齢︵70歳以上︶、⑤脱水︶とCRP︵C反応性蛋白︶20㎎以上などが重視されています。
①細菌性肺炎
肺炎のなかで最も頻度の高いものです。かぜ症候群に引き続き起こる市中肺炎では、肺炎球菌、インフルエンザ菌、連鎖球菌︵とくにミレリグループ︶によるものが多くなっています。慢性気管支炎、びまん性汎細気管支炎(はんさいきかんしえん)、気管支拡張症などをもつ患者さんには、インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラキセラ︵ブランハメラ︶、緑(りょ)膿(くの)菌(うきん)による肺炎の頻度が高くなっています。
市中肺炎の原因微生物の上位7種を表2に示します。院内肺炎では、発症前に抗菌薬が使用されていると、MRSA︵メチシリン耐(たい)性(せい)黄(おう)色(しょく)ブドウ球(きゅ)菌(うきん)︶などの耐性菌やマクロライド系抗菌薬・ニューキノロン系薬耐性菌の頻度が高くなります︵表3︶。
原因別の特徴は以下のようになっています。
・肺炎球菌性肺炎‥市中肺炎の起炎菌としての頻度が最も高い。
・インフルエンザ菌性肺炎‥慢性気道感染患者の気管支肺炎としてみられる。
・黄色ブドウ球菌性肺炎‥気管支︵巣(そう)状(じょう)︶肺炎の代表的な原因菌。
・レジオネラ肺炎‥クーリングタワーの稼働時期に集団発生がみられる。
・クレブシエラ肺炎‥高齢者、アルコール多飲者に発症しやすい。
・緑膿菌性肺炎‥院内肺炎の代表的菌種で、化学療法歴の長い症例では、緑膿菌の持続感染がみられる。
②マイコプラズマ肺炎
15~25歳の若年者に比較的多く、頑固な乾いた咳(せき)がみられます。
③クラミジア肺炎
鳥類との接触歴のある人に多く、高熱、乾いた咳、頭痛、筋肉痛などがみられます。
④ウイルス性肺炎
肺炎を起こすウイルスは、呼吸器系ウイルス︵向(こう)肺(はい)性(せい)ウイルス︶の頻度が高く、インフルエンザウイルスがその代表です。これに引き続く細菌の二次感染︵肺炎球菌、インフルエンザ菌︶による肺炎︵インフルエンザ後肺炎︶がほとんどです。
発熱、全身倦(けん)怠(たい)感(かん)、食欲不振などの全身症状と、咳、痰、胸痛、呼吸困難などの呼吸器症状がみられます。肺炎球菌性肺炎では悪(おか)寒(ん)、発熱、頭痛、咳、痰を5大症候とし、そのほか頭痛、全身倦怠感、食欲不振などの全身症状がみられます。
痰は粘性膿性から、のちに特異的なさび色の痰になります。肺炎の重症度は、呼吸困難の程度、チアノーゼ︵皮膚や粘膜が青色になる︶の有無、意識障害の有無などにより判断されます。
検査所見としては、白血球増加、CRP高値などの炎症反応が特徴的です。胸部X線検査では、気管支内空気︵エアブロンコグラム‥気管支空気像︶や肺胞空気像を伴う浸(しん)潤(じゅん)陰影がみられます。間質性陰影はウイルス、マイコプラズマ、クラミジア肺炎にしばしばみられ、すりガラス、網状、粒状陰影を示します。ウイルス性肺炎では異(いけ)形(い)リンパ球の出現がみられ、マイコプラズマ肺炎では寒冷凝集反応が上昇します。
痰の検査をして、肺炎の原因菌を探します。膿性痰︵うみ状の痰︶では細菌感染症が疑われます。細菌培養検査、グラム染色、痰の染色所見、血清診断︵抗体価︶以外に、肺炎球菌やレジオネラの尿中抗原検出キットによる迅速診断ができます。
化学療法が主ですが、補助療法︵免疫グロブリン製剤やGCSF製剤や好中球エラスターゼ阻害薬など︶や呼吸管理なども重要です。体力の弱っている高齢者では、口から薬をのむことができず、逆に食欲不振が増して誤(ごえ)嚥(んせ)性(い)肺炎を併発し、症状を悪化させることがあるので、即効性があり確実な抗生物質の経静脈的︵血管注射︶投与が行われます。
●化学療法
肺への移行がよい薬としてマクロライド、クリンダマイシン、テトラサイクリン、リファンピシン、ニューキノロン系薬剤、アミノ配糖体系抗菌薬があります。肺炎球菌、連鎖球菌では、ペニシリン、マクロライド、セフェム系抗生物質が効果的です。
黄色ブドウ球菌は近年MRSA︵メチシリン耐性黄色ブドウ球菌︶が増加しており、多剤に耐性ができている︵薬が効かない︶場合、バンコマイシンが使用されます。マイコプラズマ肺炎ではテトラサイクリン系、マクロライド系抗生物質が有効です。
●一般療法、補助療法
全身の栄養状態の改善、痰が出にくい時の療法、脱水に対する処置、低酸素血症に対する酸素療法などが必要です。人工呼吸管理を必要とする場合もあります。
呼吸器専門医のいる病院︵とくに国立病院機構の呼吸器専門病院など︶を受診し、相談する必要があります。
肺結核、肺膿瘍、膿胸
岡田 全司
肺炎
はいえん
Pneumonia
(お年寄りの病気)
高度高齢化社会を迎えて、肺炎の重要性が増しています。抗菌薬の発達にもかかわらず、肺炎は全死亡原因の第4位、高齢者に限ってみると第1位です。高齢者肺炎のほとんどは、誤(ごえ)嚥(ん)による肺炎であり、よく繰り返すことから、単に肺炎を治療するだけではなく、予防することが重要になります。
肺炎による死亡は60代では10万例あたり5人程度ですが、80代では、10万例あたり約70~160人で10倍以上になります。85歳以上では、10万人あたり年間2000人以上が肺炎で死亡し、毎日200人以上が肺炎で治療されていると推定されます。
誤嚥性肺炎は、嚥(えん)下(げ)機能障害のために、咽(いん)頭(とう)、副(ふく)鼻(びく)腔(う)、歯周、口腔に常在する病原体が、唾液などの分泌物とともに気道に入り込み、肺炎を発症したものです。この場合は食事の誤嚥ではなく、夜間寝ている間に知らず知らずのうちに飲み込まれる不(ふけ)顕(んせ)性(い)誤嚥が原因になることが多いようです。
不顕性誤嚥は、特別な現象ではありません。元気な高齢者であっても、夜間は嚥下機能が低下するため、容易に誤嚥してしまいます。とくに、鎮静薬、向精神薬などの薬を服用している場合は、嚥下反射が抑えられ、不顕性誤嚥を起こしやすいものです。加齢とともに、のどぼとけの位置は下がり、嚥下の時にのどをふさぐのに時間がかかるようになるからです。
しかし、不顕性誤嚥のすべてが肺炎を発症するわけではなく、軽度の炎症であれば、そのまま治癒します。むせているからといってすぐに絶食にして予防する必要はありません。しかし、体位変換ができない場合や重症肺(はい)気(きし)腫(ゅ)などでは、容易に気道閉塞が生じて肺炎発症を助長します。つまり、不顕性誤嚥が肺炎に結びつくのは、宿主の免疫能や肺機能の低下、体位変換能力の低下などが背景としてあり、深く関わっているといえます。
誤嚥性肺炎は適切な抗生物質の投与で治ることが多いものです。ただし、肺炎の原因である不顕性誤嚥が減らなければ、いったん改善した肺炎が悪化します。そこで、誤嚥を減らす予防策が重要となります。あお向けに寝かして放置していると誤嚥が悪化するので、頭部や上半身をベッドで高くしたり、口腔ケアなどを行うと有効です。口腔ケアは、肺炎の原因となる口腔内の病原微生物を減らし、その結果として肺炎を減らすのに有効です。たとえ歯がなくともブラッシングをしたり、就寝前にポピヨンヨードでうがいすることも有効な方法です。栄養状態の低下、筋力の低下、意識レベルの低下が誤嚥を増やすため、日ごろよりこれらに対処しておきましょう。
また、嚥下を改善する物質が知られています。アンジオテンシン変(へん)換(かん)酵(こう)素(そ)阻害薬︵ACE阻害薬︶は、高血圧の薬ですが、嚥下反射物質(substance P︶濃度を上昇させて肺炎を予防します。唐(とう)辛(がら)子(し)に含まれるカプサイシンにも、同様の作用が認められています。カプサイシンの入った辛いものを食べて嚥下反射あるいは咳(せき)反射を高めておくことは、誤嚥予防、肺炎予防に役立ちます。また、脳梗塞予防薬である抗血小板薬︵シロスタゾール︶も、嚥下反射を高めて肺炎を予防することがわかってきました。
加齢とともに増える不顕性誤嚥を完全になくすことは困難ですが、誤嚥を防ぐ対策は無数にあります。自分に合った予防策を立てましょう。
寺本 信嗣
肺炎
はいえん
Pneumonia
(子どもの病気)
肺(はい)胞(ほう)領域を中心とした炎症を主体とする下気道感染症です。肺胞領域は、肺胞上皮細胞と肺胞上皮細胞に囲まれた肺(はい)胞(ほう)腔(くう)とからなる肺実質と、肺胞壁基底膜、毛細血管、結(けつ)合(ごう)織(しき)、肺(はい)嚢(のう)胞(ほう)、肺(はい)胞(ほう)道(どう)などの肺(はい)間(かん)質(しつ)からなります。
肺炎は病原微生物が肺胞に進入して、肺胞壁に滲(しん)出(しゅ)性(つせい)変化を引き起こしたものです。多くの場合、ウイルスが原因となりますが、約20%は細菌性肺炎です。
年齢層別では、乳児期は細菌によるものが最も多く、幼児期では細菌とウイルスによるものが多く、学童期では肺炎マイコプラズマや肺炎クラミジアによるものが多くなると報告されています。
原因となる細菌で最も多いものはインフルエンザ菌、ついで肺炎球菌となります。
肺炎は肺の局所症状ばかりでなく、併発する上・下気道感染症状と重なることが多く、全身症状として発熱、悪(おか)寒(ん)、頭痛、関節痛などがあり、呼吸器症状として、咳(せき)、痰、胸痛、呼吸困難などがあります。肺の下部の肺炎では腹痛などの消化器症状を伴うこともあります。
また、1~5歳未満の幼児では、多呼吸が細菌性肺炎を疑わせるよい指標であるとの報告があります。
肺炎の診断は、急性呼吸器症状に加えて、胸部X線写真で新たに現れた異常浸(しん)潤(じゅん)影が認められた時になされます。血液検査では、細菌性では白血球数の増加と核の左方移動、CRP強陽性などがみられます。また、年長児で痰を採取できる場合には痰から、採取できない場合には鼻咽頭からのスワブから細菌培養を行い、原因菌を検索します。
肺炎があっても、外来での治療は可能ですが、発熱が持続し、咳が強く水分も十分にとれないなど、全身状態が不良な場合には入院治療が必要となります。細菌培養の結果はすぐには判明しないため、胸部X線写真や血液検査の結果から、細菌かウイルスかマイコプラズマかを推定し、治療を開始します。
細菌やマイコプラズマに対しては抗菌薬が使用され、とくにマイコプラズマではマクロライド系の抗菌薬が使用されます。ウイルス性では、インフルエンザウイルスなど一部のものには有効な抗ウイルス薬が使用されますが、それら以外には有効な薬剤がなく、使用されません。
そのほか、気管支を拡張する気管支拡張薬や、痰を切りやすくする去(きょ)痰(たん)薬(やく)が使用されます。
坂井 貴胤
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
肺炎 (はいえん)
pneumonia
多くの場合,細菌やウイルスによって起こる肺の急性炎症で,病理形態学的には肺胞内への炎症性滲出をおもな特徴とする疾患。かつては肺結核と並んで1,2位を争う,致命率の高い重篤な呼吸器疾患として恐れられたが,化学療法の進歩普及により容易に制御しうる疾患となった。日本でも,1900年には,肺炎・気管支炎が死因の第1位で,人口10万人に対する死亡率は226.1であったが,96年には,死因第4位,死亡率56.9となっている。しかし今日でも,重症疾患の末期に起こる末期肺炎,乳幼児,老人の肺炎などは依然として致命率が高い。
分類
肺炎の分類は従来,発生機序,病理形態学,病原体などの観点から行われてきた。発生機序からみると,外界より特異的病原体が肺に侵入して起こる急性特異性肺炎︵原発性肺炎︶と,全身性重症疾患,老衰,手術後などのため防御力の低下によって上気道細菌叢で汚染された分泌物を吸引して起こす吸引性肺炎︵二次性肺炎︶とに分類され,そのほか,腸チフス,ブルセラ症,ペストなどの系統的感染症の経過中にその病原体により起こる転移性肺炎が挙げられる。病理形態学的にみると,肺内の炎症性変化の広がりと分布により,肺葉全体に炎症性変化の及ぶ大葉性肺炎lobar pneumonia︵クルップ性肺炎︶と,主として気管支とその周囲の肺胞組織に散在性に炎症を起こす気管支肺炎bronchopneumonia︵小葉性肺炎︶に分けられる。病因もしくは病原菌により分類すると,表のようになる。この分類は,化学療法などの治療法を選択するうえにきわめて有用である。これらのうち,ウイルス性肺炎およびウイルス様微生物による肺炎には,自覚症状が一般に軽く,X線像で特徴的陰影を呈し,白血球増加を示さず,痰中に病原細菌を証明せず,寒冷凝集反応が陽性を示す原発性非定型肺炎primaryatypical pneumonia︵略称PAP。異型肺炎︶が含まれ,その30~40%はマイコプラズマ肺炎で,他は不明のウイルスによる肺炎と考えられている。また,ウイルス性肺炎は2次的に細菌性肺炎を合併して悪化することがある。なお,これら肺胞内への炎症性滲出を主体とする肺炎に対し,肺の間質に炎症を起こす疾患があり,これを間質性肺炎と呼んで前者と区別している。前者は,間質性肺炎に対し,肺胞性肺炎と呼ばれることもある。
症状
化学療法剤の早期投与により,従来いわれている典型的症状をみることはまれになったが,肺炎双球菌による大葉性肺炎についてみると,倦怠感,頭痛,食欲不振などの前駆症状が2~3日続いたのち,悪寒・戦慄を伴って40℃に及ぶ高熱を発し,胸痛,ついで呼吸困難が出現する。胸痛を緩和するため患側を下にして横臥することもあり,110~140に及ぶ頻脈,顔面の紅潮,口唇ヘルペスがあり,呼吸は浅く鼻翼呼吸となりチアノーゼ状態となる。高熱は5~10日間続き︵稽留︵けいりゆう︶熱︶,その後多量の発汗とともに数時間で解熱する︵分利性解熱︶か,ときに数日間にわたって徐々に解熱する︵渙散︵かんさん︶性解熱︶。咳は病初は痰を伴わない乾性咳嗽︵がいそう︶︵からせき︶であるが,しだいに黄色膿性,ときに鉄さび色の痰を出す。重症例では,不安,せん妄,嗜眠,昏睡などの神経症状,便秘,鼓腸などの消化器症状や黄疸を起こすことがある。
胸部打聴診で濁音,捻髪音,気管支音,水泡性ラッセル音が聞かれ,著しい白血球増加があり,X線像では肺葉に一致した陰影をみる。気管支肺炎では,症状は潜行的で熱型も不規則となる。病原菌により肺炎像にも特徴があり,ブドウ球菌や肺炎杆菌による肺炎では膿瘍の形成がみられることがあり,ウイルス性肺炎では白血球数は正常範囲内にあるかときに減少し,X線像の変化に比べて症状は軽いなどである。
診断
症状経過と胸部所見,X線像,白血球数,痰の細菌検査などによって診断する。
ウイルス性肺炎では,病初および回復期血清について抗体価の変動をみる。とくに病原菌の検索は治療計画を立てるうえにも重要であり,細菌性肺炎では菌血症もみられるので血液培養も行い,痰のみならず経気管吸引または経皮吸引針生検などにより,病巣局所から直接検体を採取する工夫もされている。また,細菌の分離同定とともに薬剤感受性検査も併せて実施する。そのほか,気管支ファイバースコープを用いて経気管支肺生検を行い,サイトメガロウイルス肺炎の核内封入体や,ニューモシスチス・カリニ肺炎の原虫Pneumocystis cariniiの検出も行われる。
治療
化学療法剤の進歩普及は肺炎の治療を容易にし,入院治療させずに外来通院治療もひろく行われるようになった。治療の中心は化学療法であるが,一般療法,対症療法も軽視できない。
︵1︶一般療法 絶対安静とし保温に留意する。食事は,有熱時は果汁,スープなどの流動食とし,解熱後は消化しやすい高カロリー食とする。有熱時は水分,電解質の喪失が著しいので,輸液も行われる。
︵2︶対症療法 胸痛に対して鎮痛剤,局所の温湿布のほか,脊柱から胸骨まで大きな絆創膏をはり,呼吸運動を制限すると,痛みが緩和される。咳は胸痛,不眠,衰弱の原因となるため鎮咳剤を用いるが,痰の喀出を妨げないようにする。解熱剤は,再発熱により体力を消耗させ,熱型をみだして化学療法の効果判定を妨げるので一般には使用しない。呼吸困難には酸素吸入をするが,老人とくに慢性閉塞性肺疾患を合併しているときは,動脈血ガス分析を行いつつ慎重に実施する。循環障害を合併した場合は,強心剤,昇圧剤,ときに抗生物質と併用して副腎皮質ホルモンの投与も行う。
︵3︶化学療法 ペニシリン系,クロラムフェニコール,セフェム系,マクロライド系,アミノグルコシド系,ホスホマイシンなど多種類の抗生物質や抗真菌剤,抗原虫剤が用いられる。肺炎の病原菌も種々多様であり,かつ薬剤に対する感受性も同一菌種でも異なることがあるので,起炎菌の分離同定と薬剤感受性の結果で薬剤を選択することが望ましいが,病初は起炎菌を推定し薬剤の抗菌スペクトルを併せ考えて治療する。起炎菌を確定できない場合には,抗菌スペクトルを広げるため多剤併用も行う。ウイルス性肺炎にも,2次性細菌性肺炎を防止するため抗生物質を与える。なお,これら抗生物質には,薬剤アレルギー,アナフィラキシーショック,肝障害,造血器障害などの副作用があることもあるので,注意が必要である。
間質性肺炎interstitial pneumonia
肺胞中隔,肺胞道,小葉間間質などの肺間質に浮腫,細胞浸潤,ついで繊維性肥厚,さらに細気管支拡張による小囊胞形成へと進む病理形態学的特徴をもつ一群の疾患をさす。前記の肺炎に対して,肺臓炎pneumonitisなる用語で区別することもある。原因の明らかなものとして,ウイルス,弱毒細菌による感染,制癌剤,降圧剤の副作用として起こるもの,膠原︵こうげん︶病の肺病変によるものなどがあるが,狭義には原因不明のものを扱う。
乾性咳嗽と動作時の息ぎれで発病し,急性型では発熱,倦怠感があり,慢性型では関節痛,レイノー症状︵手の指が白~紫色になる症状︶などの膠原病に似た症状を呈する。X線像はすりガラス状,小輪状陰影などがみられるが,ついには蜂巣状陰影を呈する。呼吸機能検査では拘束性障害と低酸素血症がみられる。診断は,開胸肺生検もしくは経気管支肺生検により肺組織の小片を採取し,病理組織学的に診断する。治療には副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤が用いられ,予後は急性型で1ヵ月以内に死亡するものから慢性型で10年余に及ぶものまである。
執筆者‥木村 仁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
肺炎
はいえん
pneumonia
肺実質に炎症のあるものをいい、肺間質に病変のあるものは間質性肺炎または肺臓炎pneumonitisという。細菌、マイコプラズマ、ウイルスなどの感染により原発性または続発性にくることが多いが、真菌、寄生虫、原虫によるもの、物理的、化学的あるいは原因不明のものもある。
細菌性肺炎は、一肺葉以上のものを大葉性肺炎、一肺区域以下のものを気管支肺炎︵または巣状肺炎︶と大別されるが、第二次世界大戦後、化学療法の発達により、このような病理解剖学的な分類よりも起炎菌の検索を重視し、起炎菌名を冠した分類が一般に行われている。すなわち、ブドウ球菌性肺炎、大腸菌性肺炎のようによばれるが、グラム陽性球菌性肺炎とグラム陰性桿菌(かんきん)性肺炎とに大別することもある。健康成人に原発性におこる肺炎は、主としてグラム陽性球菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎であり、入院患者あるいは基礎疾患をもっている患者におこる肺炎は、圧倒的にグラム陰性桿菌性肺炎が多い。
細菌性肺炎の発症はほとんどが急性で、悪寒、戦慄(せんりつ)、発熱、咳(せき)、痰(たん)、胸痛、呼吸困難などの自覚症状がある。痰の多くは膿(のう)性で、ときに血痰、銹(さび)色痰が認められる。発熱は39~40℃となるが、高齢者では発熱の程度がかならずしも重症度を示さないので注意が必要である。チアノーゼや意識混濁も多い。細菌性肺炎では化学療法前に喀痰(かくたん)あるいは血液培養によって起炎菌の検出を試みることが必要である。血沈は亢進(こうしん)し、白血球増加が認められる。治療の根本は化学療法である。起炎菌が決定されたときは、その起炎菌が感受性を示す抗生物質を選択するが、通常は起炎菌が未定で推定しながら化学療法を行う。肺炎はインフルエンザの流行に一致して急増することが多く、また基礎疾患として心疾患や肺疾患を合併することが多い。グラム陰性桿菌性肺炎の予後は不良である。
マイコプラズマ肺炎はマイコプラズマ・ニューモニエMycoplasma pneumoniaeの感染によっておこる。4年の周期で流行がみられるといわれ、年度によって異なるが、全肺炎の30%くらいを占め、若年者に多い。もっとも多い症状は発熱と咳である。X線写真ではベール状の淡い陰影が下肺野にみられることが多い。マイコプラズマに対する抗体価および寒冷凝集反応が、回復期には急性期の4倍以上に上昇するものが多い。喀痰、咽頭(いんとう)ぬぐい液からマイコプラズマが分離される。エリスロマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコールが有効で、予後はよい。
ウイルスによっても肺炎がおこる。下気道感染をおこすウイルスとしては、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、エンテロウイルス、麻疹(ましん)ウイルス、サイトメガロウイルスなどがある。ウイルス感染はおもに上気道感染で、成人ではめったに肺炎になることはないが、小児では肺炎となる。ことにRSウイルスとアデノウイルスが、小児のウイルス肺炎をおこすおもなウイルスである。ウイルス肺炎は寒冷地に多く、ときに爆発的な流行をみることがある。予後は一般に良好である。小児、高齢者、心肺機能に障害のある場合では、細菌感染を合併すると予後不良のこともある。
リケッチアによる肺炎としては、Q熱による肺炎、ロッキー山紅斑(こうはん)熱、つつが虫病による肺炎があり、原虫によるニューモシスチス‐カリニpneumocystis carinii肺炎もある。そのほか、アレルギー性肺炎、リポイド肺炎、放射線性肺炎、薬物性肺炎、嚥下(えんげ)性肺炎などがある。
﹇山口智道﹈
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
はいえん【肺炎 (Pneumonia)】
肺臓︵はいぞう︶の炎症には、アレルギー反応や薬剤によっておこるものもありますが、ここでは微生物の感染が原因でおこる肺炎を取り上げます。
微生物の感染によっておこる肺炎は、さまざまの微生物によっておこされる肺実質の炎症すべてをさします。そして、肺炎の原因となる微生物には、大きく分けて、細菌と、細菌でない微生物︵ウイルス、マイコプラズマ、クラミジア、真菌︵しんきん︶など︶とがあります。
肺炎の分類で、もっともよく用いられているのは、肺炎にかかった場所で分ける方法です。大きく、市中肺炎︵しちゅうはいえん︶と院内肺炎︵いんないはいえん︶の2つに分けられ、原因となる微生物も大きくちがいます。
市中肺炎とは、日常生活を送っていた人が、病院・医院などの外で感染し発症した肺炎のことです。これらの人のなかには、まったく健康な若年者から、なにか病気︵基礎疾患︶をもっているが在宅で治療をしている人、高齢者まで、いろいろな人がいます。
市中肺炎の病原微生物は、細菌では、肺炎球菌︵はいえんきゅうきん︶がもっとも多く、インフルエンザ菌、黄色︵おうしょく︶ブドウ球菌︵きゅうきん︶などがあります。ほかには、マイコプラズマ、クラミジア、SARS︵サーズ︶ウイルス、インフルエンザウイルスなどがあります。
これらの微生物は強い毒性をもっていて、健康人にも肺炎をおこしますが、たいていは薬がよく効きます。しかし、高齢者、肺気腫︵はいきしゅ︶や糖尿病︵とうにょうびょう︶などの病気をもつ人、アルコールを多く飲む人では、ときに重症になることもあります。
一方の院内肺炎とは、さまざまな病気にかかって入院生活を送っている人が、病院内でかかる肺炎のことです。
院内肺炎にかかる理由の1つは、いろいろな抗生物質や抗菌薬を使用しているため、強い毒性のある菌は消えたものの、それらの薬剤に耐性︵たいせい︶をもったグラム陰性桿菌︵いんせいかんきん︶︵緑膿菌︵りょくのうきん︶が代表的︶や多剤耐性黄色︵たざいたいせいおうしょく︶ブドウ球菌︵きゅうきん︶などの細菌が、交代するように増えて肺炎がおこるためです。これを菌交代現象︵きんこうたいげんしょう︶といいます。
また、もとの病気の治療や臓器移植のため、副腎皮質︵ふくじんひしつ︶ホルモン薬や抗がん剤など、免疫力︵めんえきりょく︶を抑える薬を使用している患者さん、またエイズのように免疫力が弱まる病気の患者さんに、ニューモシスチス・カリニ、サイトメガロウイルス、真菌などの微生物が増殖し、肺炎になることがあります。これを宿主︵しゅくしゅ︶︵微生物が寄生している個体︶が健康なときは病気をおこさず、免疫力が弱くなったときだけ病気をおこすという意味で、日和見感染症︵ひよりみかんせんしょう︶といいます。
また、寝たきりの高齢者や意識障害のある患者さんでは、無意識に口の中の菌を気管内に飲み込み、肺炎︵嚥下性肺炎︵えんげせいはいえん︶︶をおこすことがあります。
これらの院内肺炎の原因になる微生物は、多くの薬剤に耐性で、患者さんの状態も悪いことが多いので、治療は容易ではなく、しばしば重症化することがあります。
このように、市中肺炎と院内肺炎では、肺炎にかかる患者さんの特徴、病原の微生物、薬剤に対する反応性が大きくちがうので、それぞれに応じた治療や対策を考えていく必要があります。
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はいえん【肺炎】
︽どんな病気か?︾
︿免疫力が落ちているときに感染しやすい﹀
肺炎(はいえん)は、細菌やウイルスなどの病原微生物(びょうげんびせいぶつ)の感染によって起こる肺の炎症です。
かぜやインフルエンザをこじらせたり、ほかの病気にかかっている場合、または高齢者など免疫力の落ちている状態の人がかかりやすい傾向があります。
症状はせき、たん、発熱、胸痛、呼吸困難などです。
︽関連する食品︾
︿粘膜を保護・強化するビタミンA成分が効果的﹀
○栄養成分としての働きから
肺炎にかかったら、免疫力を高め、体力を回復させるために、高エネルギー・高ビタミンの食事をとることがたいせつです。
ジャガイモや豆類は、細菌などを撃退するレクチンを含んでいます。
牛乳や乳製品に含まれるラクトフェリン、ラクトペルオキシダーゼには細菌などの増殖(ぞうしょく)をはばむ作用があります。
コマツナ、ニンジン、カボチャ、ツルムラサキ、ホウレンソウ、チンゲンサイ、モロヘイヤなどの緑黄色野菜に含まれるカロテンには抗酸化作用があり、免疫機能を高めるとともに、体内でビタミンAにかわって粘膜(ねんまく)を保護する役割もはたします。
︿食欲が落ちていたら、ジュースや煮ものにして﹀
そのほか、肺の粘膜を保護するビタミンA︵レチノール︶とC、細胞の老化を防ぐビタミンE、エネルギー代謝を支えるビタミンB1、B2をとることも忘れずに。
レチノールはウナギやレバー、ヤツメウナギ、チーズ、牛乳、たまごなどに、ビタミンCはイチゴ、パパイア、キウイ、グァバのほか、ミカン、レモン、グレープフルーツなどの柑橘類(かんきつるい)、淡色野菜や緑黄色野菜などに、B1は豚肉やニンニク、ウナギなどに、B2はレバー、ウナギ、納豆などに含まれています。
食欲が落ちることが多いので、これらをやわらかく煮たりジュースにするなど、くふうしてとりましょう。
○漢方的な働きから
レンコンとショウガを同量すりおろし、お湯を注いで1日3回飲むと、呼吸困難に効果があります。
出典 小学館食の医学館について 情報
肺炎
はいえん
pneumonia
肺炎の大部分は肺実質 (肺胞壁) の炎症であるが,ときとして小葉間結合組織や気管支周囲結合組織に限局した間質性の肺炎もある。肺実質の急性炎症は,滲出性炎症の病型をとることが多いために,肺の呼吸面が減少して,一種の窒息現象を起し,しばしば重態になる恐れがある。このため,的確な治療薬が開発されるまでは,危険な内科疾患の一つとされていた。かつては大葉性,小葉性,中心性,線状,尿毒症性,非定形などの区分が行われていたが,最近は原因別に分類され,細菌,ウイルス,真菌などによる感染性肺炎と,アレルギーや毒物などによる非感染性肺炎に大別される。主として化学療法を行う。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
肺炎
種々の病原体の感染により、肺実質の炎症を起こした状態。発熱、呼吸器症状、胸痛、頻脈などを伴い、風邪などの後に起こる二次性細菌性肺炎が多い。カリニ肺炎は、免疫機能が低下した時に起こる。
出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の肺炎の言及
【炎症】より
…炎症の︿炎﹀は,肺炎,中耳炎,虫垂炎などと日常使われている言葉で,身体の一部分の器官の名前の後に付けて,その部分に起こった熱や痛みを伴う病気を示している。炎症とは,このように︿炎﹀の付く病気や,また︿炎﹀の付かない病気でも日常よくみる“はれもの”とか“できもの”のように熱,痛み,はれを伴う病気の総称であり,腫瘍とか循環障害とか奇形などとは異なった疾患群を示す医学用語である。…
※「肺炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」