デジタル大辞泉
「血判」の意味・読み・例文・類語
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けっ‐ぱん【血判】
(一)〘 名詞 〙 起請文(きしょうもん)、誓詞(せいし)などに違背しない意を示すため、指を切り血を出して、署名の下に押すこと。また、その押したもの。南北朝期ごろから武家社会でみられ、戦国時代には盛んに用いられた。江戸時代、新たに役職に任ぜられたときなどに提出した誓詞には必ず行なわれたが、しだいに形式的なものとなった。けつばん。ちばん。
(一)[初出の実例]﹁以二血判一、無二別条一段申入候﹂(出典‥上杉家文書‐享祿三年︵1530︶一二月七日・本庄房長起請文)
(二)﹁此方より和睦を破り、血判(ケッパン)を反古にして﹂(出典‥浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記︵1781︶二)
血判の語誌
(1)﹁日葡辞書﹂には、ケッパン、ケツバン、チバンの三種があげられている。ケツバンがケッパンと変化したと思われるが、並用されていたようである。
(2)近世には、庶民の間にも広がり、遊女の起請文にも用いられた。
ち‐ばん【血判】
- 〘 名詞 〙 起請文、誓詞などに違背しない意を示すため、指などから血をとって、署名の下に押したり、花押を血で書いたりすること。また、その押したもの。けっぱん。〔文明本節用集(室町中)〕
- [初出の実例]「住とてもいやな熊野の浦ならし 牛王(ごわう)に血判(チハン)このむ言ひごと」(出典:俳諧・鷹筑波(1638)二)
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血判 (けっぱん)
自己の誠意を強調し,誓約の固さを示すために,署判のうえ,またはかたわらにみずからの血を付着させること。起請文にとくにその例が多いが,願文などにもみられる。また,類似の方法に血書があるが,これは,血液を墨・朱にまぜたりして,それで花押を書いたり,文章そのものを書くものである。
血判は早い例では南北朝時代から知られ,たとえば1338年︵延元3・暦応1︶の菊池武重起請文などにみられるが,一般には戦国時代とくに盛んになる。戦国大名どうしの盟約の場合は,相手の使者の眼前で起請文を書き,血判をすえることが多かったようである。さらに江戸時代にはいると,将軍の代替りのときや新たに役職についたときなど,広く武士社会で起請文に血判をすえる風習が行われ,これはやがて遊里で遊女が客に与える起請文のように,庶民の間にも広がっていった。それにともなって,男は左手,女は右手でとか,無名指︵薬指︶のつめの生えぎわを小刀や針でついて血を出すとか,紙におしつけるのは禁物で,したたらせるとか,それと逆に,左手の血を右手の薬指にうけて判の穴の白い所におすなどという作法も確立していく。
︽甲子夜話︵かつしやわ︶︾には,小刀で指を刺すのは傷のぐあいも悪く,血判も鮮やかでないので,太い針を用意して,さらに血止めの膏薬も懐中にあらかじめ忍ばせておくとよい,などといった先人の教訓が載せられており,すでに血判が形式化していたことが知られる。
執筆者‥千々和 到
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血判
けっぱん
自己の誠意を強調し、誓約の固さを表明するために、署判の上に自らの身血を付着させること。起請文(きしょうもん)にもっとも例が多いが、願文(がんもん)にも例があり、また、類似のものに、血液を墨・朱に混ぜたもので花押(かおう)を書いたり文章そのものを書く血書という方法もある。血判は早い例では南北朝時代の1338年(延元3・暦応1)菊池武重(たけしげ)起請文などにみられるが、戦国時代以降、とくに多く用いられるようになり、江戸時代には家臣が主君に出す起請文や、遊里の男女の間で取り交わされる起請文にも行われるようになった。近世には、男は左手、女は右手の指の血を垂らすのが作法とされていた。
[千々和到]
『荻野三七彦著『日本中世古文書の研究』(1964・荻野三七彦博士還暦記念論文集刊行会)』▽『『キリシタン信仰と習俗』(『岡田章雄著作集1』1983・思文閣出版)』
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血判【けっぱん】
文書の差出者が誠意を強く表すため,署名や花押(かおう)の上に自分の指を切って血を押すこと。願文(がんもん),起請文(きしょうもん),契約状等に用いる。戦国時代に武士たちの間に盛んに行われた。血だけで書かれたものは血書という。
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血判
けっぱん
文書の内容について自己の誠意を強く表現するため,署名または花押の上やかたわらに,小刀で指を突いて出た血を押したもの。おもに武家間に行われ,願文,起請文,請文,契状などに使われた。
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世界大百科事典(旧版)内の血判の言及
【血】より
…中世ヨーロッパには,殺人者が近寄ると死体から再び血が流れるという迷信が広くあり,ハンセン病(癩病)の治療に人血が有効とする考えもドイツなどに根強く残っていた。日本の血書や血判も,血がその人を代表するとみる観念に裏づけられている。血が流れて草花や土を染めた,という類の伝説は世界各地にあり,たとえば南方熊楠《十二支考》の〈虎〉の項に詳しい。…
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