日本大百科全書(ニッポニカ) 「貨幣主義」の意味・わかりやすい解説
貨幣主義
かへいしゅぎ
monetarism
大不況の解釈
貨幣数量説の基礎
景気変動の原因
インフレーションの原因
X%ルールの提案
実際的影響
1960年代後半から先進諸国のインフレーションは加速され、70年代にはスタグフレーションになってしまった。これに対して各国はインフレ克服を第一目標とし、貨幣主義の影響のもとに貨幣量増加率の削減を目ざす貨幣量重視の貨幣政策を採用するようになった。
わが国では1973~74年の過剰流動性と第一次石油ショックによる大インフレーションを克服するために貨幣量増加率を削減する貨幣政策が採用され、インフレ克服に成功したあとも物価安定を目標とする貨幣量重視政策が堅持されている。そのため79~80年の第二次石油ショックによるインフレは小さな程度ですみ、83年初めからM2(現金通貨・預金通貨・準通貨)+CD(譲渡性預金)の増加率は年率7%台に維持されており、84年12月の消費者物価は対前年同月比2.6%の上昇、卸売物価は同0.4%の上昇と、(2.6%告の失業率のもとで)物価はほとんど完全に安定するようになった。
イギリスでは1979年5月以来サッチャー政権が貨幣量増加率の抑制を最重点政策としてインフレ克服に努力してきた結果、消費者物価上昇率は80年の対前年比18.0%から84年12月の対前年同月比4.6%へと著しく鈍化した。しかしこの間、失業率は増加し、83年3月には12.6%に達し、その後84年12月も12.8%と高水準を維持している。
アメリカでは1981年1月以降レーガン政権が貨幣量増加率の削減によるインフレ抑制に全力をあげた結果、消費者物価上昇率は80年の対前年比13.5%から84年12月の対前年同月比4.0%へと著しく鈍化した。この間、失業率は増加し82年11月には10.6%に達したが、その後84年12月の7.1%まで減少してきた。
貨幣量増加率を削減してインフレ抑制に努める場合に、一時的に失業率が増大することはインフレ抑制の不可避的なコストである。インフレ率の鈍化に応じて予想インフレ率が引き下げられ、経済活動がそれに適応するようになると、生産水準は増加に転じ失業率は自然失業率まで減少し、適度の物価安定と完全雇用を同時に達成することが可能になることは、自然失業率仮説の予測するところである。イギリスの場合は別として、上述のような日本とアメリカの状況は、この予測の正しさを立証しているようにみえる。(書籍版 1985年)
[加藤寛孝]
『M・フリードマン著、保坂直達訳『インフレーションと失業』(1978・マグロウヒルブック)』▽『R・J・ゴードン編、加藤寛孝訳『フリードマンの貨幣理論』(1978・マグロウヒルブック)』▽『西山千明編著『フリードマンの思想』(1979・東京新聞出版局)』▽『M. FriedmanThe Optimum Quantity of Money and Other Essays (1969, Aldine Publishing Co., Chicago)』▽『M. Friedman and A. J. SchwartzA Monetary History of the United States 1867―1960 (1963, Princeton U. P.)』▽『M. Friedman and A. J. SchwartzMonetary Trends in the United States and the United Kingdom (1982, U. of Chicago P.)』▽『西山千明著『マネタリズム』(1976・東洋経済新報社)』▽『W・プール著、佐藤隆三監訳『マネタリズム入門』(1981・日本経済新聞社)』▽『新保生二著『現代日本経済の解明』(1979・東洋経済新報社)』▽『加藤寛孝著『マネタリストの日本経済論』(1982・日本経済新聞社)』