●1. はじめに

●2. ジェンダー概念の難しさ

●3. パフォーマティヴィティ

●4. 実践の記述

●5. まとめと展望

●文献

1. はじめに

●﹃実践の中のジェンダー﹄が書かれた問題関心の敷衍

●ジェンダー概念に含まれる、﹁社会的﹂であるということの意味をめぐる考察

2. ジェンダー概念の難しさ

2-1. ジェンダー概念の二重性

︵a︶記述概念としてのジェンダー

●性現象の︵非生物学的な︶因果説明  
●ex. ﹁社会的・文化的性差﹂

︵b︶評価概念としてのジェンダー

●﹁現実の悪さ﹂の批判  
●ex. 性別分業規範の批判

2-2. 二重性によるわかりにくさ

●︵a︶と︵b︶はどういう関係にあるのか  
●﹁暴露﹂話法  
●﹁現在の性のありようは不可避ではなく、受け入れる必要はない﹂  
●︵a︶が︵b︶の理由にされる

●﹁啓蒙﹂話法  
●﹁多くの人は支配的な価値観を内面化しているので、悪い考えを持って／行動をしてしまう﹂

●︵b︶が通じない根拠に︵a︶が持ち出される
 

●しかしXに社会的・文化的な原因があることは、Xが悪いことを意味しない  
●︵a︶は︵b︶の理由にならない  
●︵b︶は︵a︶によって正当化されない

●フェミニズムにとっては重要なのは︵b︶の主張  
●Xの﹁悪さ﹂はXの原因とは独立に考察ができる  
●では、フェミニズムの主張にとって、性現象の﹁社会﹂性はじつは関連がないものなのだろうか

3. パフォーマティヴィティ

3-1. ﹁新しい﹂ジェンダー概念

●80年代後半から90年代以降のいわゆるポストモダン・フェミニズムの潮流

●性現象の原因をめぐるものとは異なった主張  
●代表例としてのJ. バトラー︵Butler [1990]1999=1999︶

3-2. ﹁二重性﹂の継承

●記述概念と評価概念の二重性  

●︵a’︶アイデンティティや身体の﹁構築﹂  
●﹁表出によるパフォーマティヴな構築﹂
 

●︵b’︶攪乱という戦略  
●異性愛規範の批判

●アイデンティティの政治への批判
 

3-3. ﹁二重性によるわかりにくさ﹂の継承

●暴露話法と啓蒙話法の双方が受け継がれている  
●﹁セックスはつねにすでにジェンダーなのである﹂

●﹁パフォーマティヴに抑圧が︵再︶生産されている﹂

●しかし﹁Xのパフォーマティヴな構築﹂は、やはりXが﹁悪い﹂ものであることを意味しない  
●﹁社会性﹂の中身が﹁因果説明﹂から﹁パフォーマティヴィティ﹂に移っても、それがフェミニズムのおこなう規範的主張とどう関係するのかは相変わらず不明

●それどころか、︵a’︶の主張は事実に関する主張である︵ように見える︶にもかかわらず、その﹁正しさ﹂が未検討のまま︵どう検討したらいいかもよくわからない︶  
●何かしらの哲学的主張なのだとしても、どういう主張なのか不明  
驚くべきことに！すべての構築主義者は、プラトンによって設定されカントによって明確な形式を与えられた、現象と実在の二元論のうちに居るのである。構築主義者はポストモダニズムと自身が呼ぶものの恩恵を受けながら、本当はものすごく古めかしい人々なのだ。
 ︵Hacking 1999: 49=2006: 116︶
 


●いずれにせよ、他分野との対話は著しく阻害される

4. 実践の記述

4-1. ﹁パフォーマティヴ﹂という視点の再解釈︵1章︶

● 行為とアイデンティティの理解可能性への注目  
●オースティンに戻って︵Austin 1960=1978︶  
●発語内効力が適切に発動するためには、行為者のアイデンティティが適切なものでなければならない  
●発語内効力の理解︵行為の理解︶とアイデンティティの理解は、しばしば結びついておこなわれる  
●いつ、どうやって、私たちはジェンダーやセクシュアリティにかかわるアイデンティティを身に帯びる︵帯びさせられる︶のか、という問いは、行為の理解可能性との関係で考えることができる  
本書ではジェンダー概念が含んでいた﹁社会的﹂という言葉に、おおむね次のような内実を与えたいと思っている。すなわち、自己や他者の行為やアイデンティティが、いま．．どのように理解されるべきかを、行為の遂行をとおして人びとがお互いに示しあっている、その様子を指して﹁社会的﹂と呼びたい。︵vii︶
 

4-2. レリヴァンス問題︵2章、3章︶

● 社会学には上記の視点に相当する研究プログラムと、若干の蓄積がすでにある  
●記述の複数性  
●行為やアイデンティティの適切な理解は、社会成員のとっての課題である  
●ある人が特定のアイデンティティを帯びて他者との関係の中で行為するという事態は、﹁いま何者として、どう行為すべきか﹂という規範的問いを参照し／示しあうことで成立している

●﹁社会システム﹂というまとまり︵2章︶  
●人びとが﹁男性として／女性として﹂行為や経験をする、という事態も同様︵3章︶  

4-3. ﹁規範的﹂判断の実践的性格

● 法システムのレリヴァンス問題︵4章︶  
●﹁法的推論の遂行﹂が、いかに常識的知識を用いた行為理解の上で成立すると同時に、そこから分化しているか

●﹁女性の抑圧﹂の﹁社会﹂性  
フェミニズムがその不当性を訴えてきた﹁女性の抑圧﹂もまた、この社会の中での﹁女性として﹂の経験であるはず

● であるならその経験の理解可能性は、レリヴァンス問題への解として記述可能なはず

● 本書では特に、リベラリズムの語彙をめぐる﹁不当な﹂経験に注目している  
●﹁性的自由﹂の理解可能性︵5章、6章︶  
●﹁表現の自由﹂のレリヴァンス︵7章︶

5. まとめと展望

5-1. 規範的探究との関係

●﹁実践の記述﹂も、規範的判断を正当化したりはしない
● それでも  
●︵1︶人びとが﹁男性として／女性として﹂生活していること、そしてそこで生じている﹁女性の抑圧﹂という経験

●︵2︶その経験をめぐって交わされている規範的主張
は、いずれもその理解可能性が人びとの実践に支えられているという点で、接点を持つ

● 実践の記述は  
●︵1︶に関して、どのような理解をするのが適切かを指示しうる  
●ex. ﹁貞操 vs. 性的自由﹂﹁表現 vs. 行為﹂という理解の不十分さ

●︵2︶に関して、﹁︵1︶の理解を準拠点としたとき、いかなる対処が望ましいか﹂という、規範的判断のための比較の準拠点を与えうる  
●ex. ﹁性暴力被害者の意思の理解﹂を準拠点にしたとき、現在の理解の方法にどのような問題があり、どのような代替案がありうるか／﹁ポルノグラフィの被害の理解﹂を準拠点にしたとき、どのような﹁救済﹂が望ましいのか

5-2. ﹁因果説明﹂的議論との関係

●﹁因果説明﹂の理解可能性とその適切さについての議論ができるかもしれない

文献

Austin, J. L., 1960, How to Do Things with Words, Oxford Univ. Press.︵＝1978，坂本百大訳﹃言語と行為﹄ 大修館書店．︶

Butler, J., [1990]1999, Gender Trouble, New York: Routledge.︵＝1999，竹村和子訳﹃ジェンダー・トラブル――フェミニズムとアイデンティティの攪乱﹄ 青土社．︶

Hacking, Ian, 1999, The Social Construction of What?, Harvard University Press.︵＝2006，出口康夫・久米暁訳﹃何が社会的に構成されるのか﹄ 岩波書店．︶