「半導体素材の韓国への輸出規制」については誤解だらけ。写真は韓国半導体製造大手のSKハイニックス(写真:ロイター/アフロ) なぜ、相手が韓国になると日本の報道は歪んでしまうのだろう。もっと冷静に事実を報道して欲しいものだ。 今回の「韓国に対する輸出規制」に関しては、メディアは『半導体材料を“事実上の禁輸”』『対韓輸出規制を発動』などと、勇ましく報道している。それと同時に、記事では、『自由貿易を掲げてきた日本へ各国から批判が集まる懸念もある』『各国に恣意的なルール変更ともとられかねない』といった指摘もしている。 果たしてそうだろうか。 私は以前、経済産業省で貿易管理の責任者だった。その経験を踏まえれば、こうした誤解に基づく報道には首をかしげてしまう。こう指摘すると、経産省の代弁、もしくは擁護ととられるかもしれないが、それを恐れずに、正確な理解の一助になることを願ってあえてコメントしたい。 以
塩野義製薬を含む日本の製薬会社のワクチン開発が欧米勢より遅いのはなぜでしょうか。 手代木功・塩野義製薬社長(以下、手代木氏):ワクチンや治療薬、診断薬を開発するフットワークが重いのではないかと見られていることについては、真摯に受け止めないといけないと思っています。 もちろん、日本の製薬会社は規模が欧米に比べて小さいとか、バイオ医薬品の潮流に全体として乗り遅れたとか、そういった理由もあるでしょう。ただ今回、欧米で接種が始まっているメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンにしても、ウイルスベクターワクチンにしても、日本にそうしたプロジェクトをやるベンチャーや製薬会社がなかったのは、産官学でそうした基盤を育ててこなかったからです。その点については、欧米に学ぶところは多いと思います。 また、緊急事態だという割には、緊急時に備える制度が不十分という点もあります。米国では、Emergency Use
日経ビジネス電子版で「『ア・ピース・オブ・警句』~世間に転がる意味不明」、日経ビジネス本誌では「『pie in the sky』~ 絵に描いた餅べーション」を連載中のコラムニスト、小田嶋隆さんが亡くなりました。65歳でした。 小田嶋さんには、日経ビジネス電子版の前身である日経ビジネスオンラインの黎明(れいめい)期から看板コラムニストとして、支えていただきました。追悼の意を込めて、2021年11月12日に掲載した「晩年は誰のものでもない」を再掲します。 時の権力者だけでなく、社会に対して舌鋒(ぜっぽう)鋭く切り込む真のコラムニスト。その小田嶋さんがつむぐ1万字近い原稿を、短い言葉でどう表現するか。記事タイトルを短時間で考える担当編集者にとっては、連載の公開前日は勝負の1日でもありました。 再掲載するコラムは療養中の病室から送っていただいた原稿です。「晩年」という言葉やそれを何も考えずに使う社
決済事業者はユーザー獲得などに費やした先行投資を回収する必要があるが、「有料になるならやめる」(中小小売店の関係者)との声が漏れる。加盟店を引き留められるのだろうか。 決済手数料とは、電子マネーやクレジットカード、スマホ決済サービスを提供する事業者が、導入した加盟店から得る手数料だ。 例えば、Suicaなど交通系電子マネーは3.25%(米Squareの場合)、楽天ペイは3.24%。今年有料化を予定するLINE Payは10月から2.45%、メルペイは7月から2.6%となる。PayPayは10月に有料化を検討し、料率は未定としている。 クレジットカードは導入店舗ごとに与信を判断するため、1~6%程度と幅がある。経済産業省が18年4月にまとめた「キャッシュレス・ビジョン」によれば、中央値は3.00%となっている。 19年の消費増税に伴う「キャッシュレス決済・ポイント還元事業」では、キャッシュレ
日本の再成長への一手を考える「目覚めるニッポン」。今回は柳井正ファーストリテイリング会長兼社長。政治的な発言を控える経営者が増えるなか、柳井氏はあえて直言をやめない。怒りともいえる危機感を示し、企業経営から政治まで大改革の必要性を説く。 >>「目覚めるニッポン」シリーズ記事一覧へ 柳井 正氏 Yanai Tadashi ファーストリテイリング会長兼社長 1971年ジャスコ(現・イオン)入社。72年、実家の小郡商事(現・ファーストリテイリング)に転じ84年から社長。2005年から現職。01年からソフトバンクグループ社外取締役。山口県出身、70歳。(写真=竹井 俊晴) 最悪ですから、日本は。 この30年間、世界は急速に成長しています。日本は世界の最先端の国から、もう中位の国になっています。ひょっとしたら、発展途上国になるんじゃないかと僕は思うんですよ。 国民の所得は伸びず、企業もまだ製造業が優
インターネット上の意見に政府の圧力がかかるのは70カ国中53カ国、監視干渉行為をしない国は日本を含めてたった4カ国。ネット上の自由に迫る「影」は着々と広がり続けています。その実情とは。長年情報通信政策に携わり、現在は大手プロバイダーのIIJ副社長である谷脇康彦氏の著書『教養としてのインターネット論 世界の最先端を知る「10の論点」』から一部を抜粋して紹介します。 インターネットはどう生まれ、どう使われてきたか 1960年代のインターネット草創期。インターネットの普及は世界の人々の間で情報や知識を共有することを促し、透明で民主的な社会の実現に貢献するという期待が利用者の間に確かに存在していました。これはインターネットの基本精神である「自律・分散・協調」という面に依拠するものでした。 具体的には、インターネットを構成するルーターなどの機器は民間の人たちが「自律」的、つまり自由に設置・運用し、あ
住宅情報サイトだけでなく、様々なウェブサイトで不動産関連の鉄板記事となっているのが「持ち家か賃貸か」という議論だ。しかし多くの記事は結局、結論を出さないまま、読者に判断を任せて終わるものが多いように思う。しかし筆者が統計データを分析した結果、結論は明白だ。世の中の実態を見れば、持ち家に軍配が上がる。 今回は、なぜ賃貸よりも持ち家のほうが優れているのかを考えてみたい。 持ち家と賃貸のどちらが優れているかを考えるときに、よくいわれるのは以下のような点だ。 前提条件をどうするかによって結果が大きく異なるので、持ち家と賃貸のどちらが経済的に得かは断言できない 持ち家にも賃貸にも、それぞれメリットとデメリットがあるので、一概にどちらがよいとは言えない コストだけではなく、将来の暮らし方など、ライフスタイルによって、持ち家か賃貸かを選ぶべきである さらに、経済合理性を前面に出して、「利便性が高く資産性
前回(エマニュエル・トッド氏「第3次世界大戦が始まった」)において、フランスの歴史人口学者であるトッド氏は、ロシアのウクライナ侵攻に対する認識を示した。では、戦争終結への道筋をどのように見いだしているのか。また、日本のウクライナ戦争への対応をどのように評価しているのか。ロングインタビューの後編をお届けする。 1951年フランス生まれ。パリ政治学院卒。英ケンブリッジ大学で博士号を取得。家族構成や出生率、死亡率から世界の潮流を読む。76年の著書で旧ソ連の崩壊を予言した。米国の衰退期入りを指摘した2002年の『帝国以後』は世界的ベストセラーに。その後もアラブの春、トランプ大統領誕生、英国の欧州連合(EU)離脱を言い当てた。6月17日に『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書)を出版予定(写真:Abaca/アフロ) トッドさんはロシアのウクライナ侵攻により、「第3次世界大戦が始まった」と指摘
だが米国以上にユニークなのが日本だ。アジアの多くの国と同じように日本のリーダーシップは階層主義的だ(図の右半分)。上下関係がはっきりしていて、部下が人前で上司に意見することはめったにない。リーダーシップが階層主義的な国の多くは、意思決定はトップダウン型になる(図右上)。迅速で柔軟、一度決まったことでもすぐに変更や修正がある。中国やインドがこうしたケースだ。一方、日本の意思決定は合意型だ(図右下)。組織のなかで合意を積み上げていく。意思決定に時間はかかるが、ブレずに迅速に実行される。 リーダーシップと意思決定という2つの指標で、日本ほど正反対の極へ大きく振れる国は他にない。階層主義と合意主義の共存という珍しいパターンが、他文化の人から見て日本の組織やリーダーは分かりにくいという印象を与え、摩擦を生む原因になる。同じようにヒエラルキーを重視するにもかかわらず、インド人は日本人リーダーが意思決定
発達障害である自閉症は、人口の2%に及び、“グレーゾーン”も入れると1割を超すという。現在の診断名は「自閉スペクトラム症」で、かつてのアスペルガー症候群も含め、その現れ方は様々だ。そんな自閉症への理解を深めるために、日本の研究と治療と支援をリードしてきた医師、神尾陽子先生の研究室に行ってみた!その4回目。(文=川端裕人、写真=内海裕之) なにか病気なり、障害なりの対策をしようとする時に、まず必要なのは現状把握だ。 現在、治療や支援や配慮を必要としている人がどの程度いるのかを知りたい。そういった頻度を見ることは、疫学研究の第一歩である。 「先の九州での研究は、コホート研究としては結果を出せなかったんですが、1歳半のときの自閉症スクリーニング(選別)の精度がどうかは示せました。私たちは実際の健診に来た人を1歳半でスクリーニングして、6歳まで追いかけて、実際に自閉症を発症したか、そうではなかった
アスキー創業者で米マイクロソフト元副社長の西和彦氏が破産手続きを開始したことが明らかになった。西氏は新しい大学「日本先端工科大学(仮称)」の創設を目指していた。なぜ破産に至ったのか、西氏にその経緯や新大学の創設に対する影響などについて聞いた。 関連記事:「世界に通用する技術者育てる」大学を創設する西和彦氏の思い 第三者破産手続き開始を受けた経緯について、具体的に教えてください。 西和彦博士(情報学)・日本先端工科大学(仮称)設置準備委員会特別顧問(以下、西氏):今から5年ぐらい前、アスペクト(東京・台東、当時は神田駿河台)という総合出版社の社長が訪ねてこられ、「経営が良くないから出資してください」と頼まれたのです。結局、約3億円をアスペクトに出資しました。 3億円を出資したという事実を、当時のアスペクトの取引銀行である三菱UFJ銀行が知って、「(アスペクトに)貸しているお金を返してくれるか
悩み:昔は薄給に耐えたのに、年を取ったら若手厚遇…納得がいきません 上田さん、初めまして。私は現在59歳サラリーマンで、若く感じていた自分がいつの間にかこの年齢になっていました。今後の生き方や選択肢について相談したいと思っています。 最近、政府主導の企業改革や賃金上昇、人的資本への投資などの対策が進んでいますが、それにもかかわらず何かが足りないと感じます。若いころは薄給でしたが、「おまえもいつかは給料がぐんと上がる」と言われて、サービス残業や休日出勤も我慢してこなしてきました。そこそこの昇給はしましたが、50代以降の私はかつての先輩たちの境遇と比べるとはるかにレベルが低いです。 会社としては若い社員を厚遇し、新卒社員の初任給は毎年のようにどんどん上がります。まだ社会人になりたてで何もできない人に好条件を出す。一方、長く勤めてきた私に対して、心ない役員が「おまえは給料が高い」と言ってきました
米アップルのスマートフォン「iPhone」の発売日にはアップルストア前に長蛇の列ができるのが、日本でも恒例だ。だが、今年9月24日のiPhone 13発売日は、新型コロナウイルス対策のため来店が予約制となったことで、行列はほとんど見られなかった。 しかし、行列が鳴りを潜めた理由はコロナ禍だけではない。調査会社のBCN(東京・千代田)が家電量販店などの販売データを基に集計した販売台数ランキングによると、10月に入り最新のiPhone 13シリーズ(最安のiPhone 13 miniで8万6800円から)の販売数減速が目立つ。 代わりに台頭するのが廉価版のiPhone SE(第2世代、4万9800円から)だ。iPhone全体に占める販売割合は約4割だという。
日本でもあらゆる産業でカーボンニュートラル(脱炭素)を強く意識した動きが加速しています。日経BPではこうした新しい経済潮流をテーマに、日経ビジネス、日経クロステック、日経BP総合研究所の共催で、11月25日(木)から4週にわたってオンラインセミナー「ゼロカーボノミクスを勝ち抜く経営ビジョン ~日本企業はどう取り組むべきか~」を開催いたします(視聴無料、事前登録制・先着順、記事末尾に詳細)。 >>11月25日開催分を申し込む >>12月2日開催分を申し込む 世界最大のCO2排出国である中国に、もっと脱炭素を求めるべきだ――。そんな声がよく聞かれるが、中国は急速な経済発展で排出量を増大させつつも、太陽光パネルの生産・導入の両方で世界のトップを独走している。「脱炭素時代の石油」になることが確実視される太陽光発電における中国の実力はどれほどのものなのか。日本総合研究所の井熊均フェローら4人がまとめ
メニューの1番目「鰻(うな)重牛小鉢セット(2枚盛)」は税込み2338円。最も安い「鰻重・牛丼小盛セット」でも1837円だ。裏面に安価な単品の牛丼(並盛468円)なども掲載しているが、「おすすめ」には高単価なセットが並ぶ。 吉野家の広報担当者は「アジア圏の方はうな重やから揚げ、西欧圏の方は牛丼やシズル感がある牛すき鍋を好むように思われる。インバウンド対応のセットメニューは複数人でシェアして食べる方も多い」と説明する。 こうした訪日客の消費傾向を踏まえて「おすすめ」を決めているというわけだが、仮に2人でシェアして食べても客単価は1000円前後となる。訪日客のおすすめメニューの注文が増えれば客単価の上昇には確実に寄与するだろう。同社は「今後もインバウンド対応店舗や商品の検討を進めていく」としている。 「安いニッポン」そろそろ限界 円安が進み、訪日客はこれまで以上に「安いニッポン」を謳歌できる環
「日本型雇用が行き詰まっている」ということで雇用を巡る改革の動きは長年続いてきました。今いわゆる「ジョブ型」を中心とした議論が盛んになっています。海老原さんはどんなふうにご覧になっているんでしょうか。 海老原嗣生・雇用ジャーナリスト、ニッチモ代表取締役(以下、海老原氏):僕が人材系の仕事に携わるようになったときの初っぱなの議論が「新時代の日本型雇用」でした。今から30年前くらい、日経連(現在の経団連)が主導したプロジェクトだったんですね。あのとき問題になっていたのは、1990年代のバブル崩壊で業績が落ち込んで、会社の中のポストがなくなったこと。定期昇給で給与が上がり続けるという仕組みも終身雇用も難しくなっている中で「日本型でいいのか」という話でした。 海老原嗣生(えびはら・つぐお)氏 ニッチモ代表取締役、政府労働政策審議会人材開発分科会委員、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授 1964年
――世の中は魚離れと言われて久しいですが、魚も、旺盛な内食需要の受け皿になった? 栁下 近年はコロナの影響による内食需要の盛り上がりが当社の業績を下支えしたのは確かですが、魚離れという言われ方に対して私は懐疑的です。日本人は魚がものすごく大好きだと考えていますから。魚の消費が減る傾向にあるのは、売る側の問題でしょう。食品スーパーは典型例で、お客によく売れる魚をちょうど売れる量だけ仕入れている。翌日に持ち越せば廃棄に回るのを防ぐためという言い分は分かりますが、そうした売り場は魚の種類が少なく、お客の目線ではいつ行っても変化がほとんど見られないことになります。 しかし魚には何百と種類があって、当社は市場で「どんな魅力的な魚が揚がったか」「値ごろ感があるのはどれか」と、お客に本当に喜ばれることを考え抜いている。毎日、その繰り返しです。角上魚類が目指すのは、お客に「魚屋さん」と親しみを込めて呼ばれ
日本と多くの共通点を持つフィンランド。官民共創やイノベーションで先を走る同国に学ぶことで、不確実性時代に突入する日本の進むべき道を探る連載の最終回。今回はフィンランドの通信機器大手ノキアの取り組みと、フィンランドが持つ官民の信頼性から日本の今後について考える。(第2回の記事はこちら『フィンランドのイノベーション支える「トラスト社会」と「すきま」』) フィンランド・エスポー市北西部のケラ(Kera)地区に訪問後、我々は同市に本拠地を置く通信機器大手ノキアの本社に向かった。ケラ地区からは歩けるほどの距離だった。 ノキアは2000年から10年にかけて携帯電話端末で世界を席巻した。だがスマートフォン戦略に乗り遅れ、現在は製品や技術、ブランドを一新。BtoB(企業間取引)を中心に、5Gなど新たな通信技術を用いたネットワーク製品とソリューションを主たる事業としている。BtoC(消費者向け)時代とは異な
政府は新型コロナウイルスによる肺炎が拡大する中国湖北省武漢市に残された日本人退避のため、28日夜に民間チャーター機1機を派遣する方向で最終調整に入った。厚生労働省は「人権侵害に当たり、法的にも権限がない」として、退避した日本人の強制的な隔離をせず、自主的な医療施設の検診を呼びかける方針だ。 過去に、政府が民間チャーター機を使って在外邦人の帰国を支援したのは、2002年6月のインド・パキスタン情勢の激化や1998年5月にインドネシアのジャカルタで発生した暴動など、政治情勢の悪化が多い。外務省海外邦人安全課は「全ての記録を見直したわけではないが、感染症による退避支援は恐らく初めてだ」としている。 厚労省は28日、同チャーター機に医師1人、看護師2人、検疫官1人を同乗させることを決めた。日本からチャーター機に乗り、退避する日本人に対して復路の機内で診察や検疫を実施する。高熱などで移動が困難と医師
今回は、本当は「炎上」について書きたいと思っている。 しかしながら、まだ気力が戻っていない。 炎上を語るためには、炎上を覚悟しなければならない。 ところが、いまの自分には、炎上を引き受けながら、炎上の本質をえぐる原稿を書くための精神の準備が整っていない。 こんなふうにして、炎上は、ものを言う人間から気力を奪っていく……と、今回はこの結論だけをお伝えして、別の話題について書くことにする。 ものを書く人間に限らず、スポーツ選手であれミュージシャンであれ、何らかの形で社会に向けて発言する人間は、誰もが炎上のリスクをかかえている。 もっとも、炎上を避けること自体は、そんなにむずかしいタスクではない。 ものの言い方を手加減すればそれで済む。 ただ、私がこの場を借りて強く言っておきたいのは、 「この世界の中には、ものの言い方を手加減した瞬間に価値を喪失してしまうタイプの言論があるのだぞ」 という事実だ
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