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「ドン・カルロ」の版間の差分

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低声歌手の活躍する歌劇として知られ(題名役はテノールだが)、フィリッポやロドリーゴ、エボリには難曲ながら魅力的なアリアや、深く内面を語る音楽が与えられていて、低声歌手たちの演唱の充実ぶりが上演全体の成否に大きく関わっており、それぞれの役はイタリア・オペラをレパートリーとする低声歌手にとって目標ともなる大役である。

低声歌手の活躍する歌劇として知られ(題名役はテノールだが)、フィリッポやロドリーゴ、エボリには難曲ながら魅力的なアリアや、深く内面を語る音楽が与えられていて、低声歌手たちの演唱の充実ぶりが上演全体の成否に大きく関わっており、それぞれの役はイタリア・オペラをレパートリーとする低声歌手にとって目標ともなる大役である。

== さまざまな版 ==

[[ファイル:Don Carlo poster.jpg|thumb|right|200px|イタリア語5幕版の台本表紙。1869年[[フィレンツェ]]公演のもので、内容的には「イタリア初演版」とほぼ同じ]]

#フランス語原典版

#:初演のために作曲された版。上記の出来事により、第4幕第1場でのエリザベッタとエボリの二重唱などがカットされ、原典版そのままの形で上演されることはなかった。この版は[[ウィーン国立歌劇場]]で蘇生演奏された際、演奏時間が4時間以上かかった。

#フランス語初演版(全5幕)

#:カットを経て初演に使われた版。以上の版はグランド・オペラの習慣により第3幕にバレエ音楽が挿入されていた。

#イタリア初演版(全5幕)

#:アキッレ・デ・ロージェールがイタリア語に翻訳した版。フランス語版と音楽的にはほぼ同じ。67年6月4日のロンドン公演、同年10月27日のボローニャ公演(会場はテアトロ・コムナーレ)に使われたそれぞれの版があるが、この2つの版はほぼ同じ内容といわれる。ボローニャ公演に使用された楽譜がルッカ社から出版されたため、この版を“ルッカ版”ともいう。

#1872年イタリア語版(全5幕)

#:いわゆる“ナポリ版”。72年12月の[[サン・カルロ劇場]]([[ナポリ]])での上映に際して、以前にもヴェルディに協力したアントニオ・ギスランツォーニによって台本が改訂された。改訂されたのは第2幕のロドリーゴとフィリッポ、第5幕のエリザベッタとカルロそれぞれの二重唱などの場面。

#1884年イタリア語版(全4幕)

#:84年1月10日の[[ミラノ]]・[[スカラ座]]での上演にそなえ、大幅な改訂が行なわれた。バレエ音楽やそれまでの第1幕を全面カット(カルロのアリアのみが歌詞を変え、移調したうえで新しい第1幕に残された)して全4幕とし、また多くの場面の音楽を改訂、また台本もデュ・ロクルとアンジェロ・サナルディーニによって更なる改訂が行なわれた。内容的、音楽的に凝縮され密度の濃い版となったこともあり、特に1970年代以前はよく採用されていた(カラヤンなども好んで用いていた)。ヴェルディと関係の深いヨーロッパ有数の音楽出版社・リコルディ社から楽譜が出版されたため、“リコルディ4幕版”とも呼ばれる。

#1886年イタリア語版(全5幕)

#:86年12月[[モデナ]]のテアトロ・コムナーレでの上演の際に改訂されたもの。以前カットされた第1幕を復活(カルロのアリアも戻された)させ、バレエ音楽なしの5幕仕立てとされた。音楽的には84年イタリア語版をほぼそのまま用いており、第1幕が戻って物語の流れが明確になっていることなどから、1970年代以降、多くの上演で採用されるようになった。“モデナ版”、また、この版の楽譜もリコルディ社から出たため、“リコルディ5幕版”とも呼ばれる。



主な版は以上のようになっており、現在の上演の際によく用いられるのは 2.、 5.、 6.の版。最後の版は序幕がないのでオーケストラの倍になるギャラ対策で3時間15分以内になり、中規模の歌劇場でも良く演奏される。幾つかの版を組み合わせての上演も行なわれているため、どの版も決定版としては位置づけられない状態といえるかもしれない。

== 物語 ==


==『ドン・カルロス』(フランス語版)の上演状況 ==

[[File:Don Carlos poster.png|thumb|1867年パリ初演時のポスター]]


19[[|]][[ ()|]]'' [[:fr: Guillaume Tell (opéra) | Guillaume Tell]]'', [[1829]][[|]]{{||en| La favorite}}''[[:fr: La favorite| La favorite]]'' [[1840]][[ ()|]][[|]][[|]][[20]]

*1973年にジョン・マシソンが[[BBCコンサート・オーケストラ]]を指揮して[[英国放送協会]]で放送し、CDも制作した。<ref>配役は録音・録画の項のリストを参照。</ref>これは初演リハーサル時にカットされてこれまで一度も演奏されたことがなかった音楽までを復活させたものであった。さらに、[[クラウディオ・アバド]]がモデナ初演の5幕版をフランス語に戻した版を使用して[[ミラノ・スカラ座管弦楽団]]を指揮してCDを制作した。<ref>配役は録音・録画の項のリストを参照。</ref>この版は同年、 [[サラ・コールドウェル]] の指揮する [[オペラ・カンパニー・オブ・ボストン]]によって上演された。

*[[1986年]]には[[サンフランシスコ]]・オペラで[[ジョン・プリッチャード]]の指揮、{{仮リンク|ニール・シコフ|en|Neil Shicoff}}のドン・カルロス、ピラール・ローレンガーのエリザベートほかの配役で上演された。<ref>http://archive.sfopera.com/reports/rptOpera-id517.pdf</ref>

*[[1996年]]には[[ロベルト・アラーニャ]]の(ドン・カルロス)、カリタ・マッティラ(エリザベート)、[[トーマス・ハンプソン]]の(ロドリーグ)、 [[ヴァルトラウト・マイアー]]の(エボリ公女)、[[ジョゼ・ヴァン・ダム]]、エリック・ハーフヴァーソン]]の(大審問官)、 [[アントニオ・パッパーノ]]の指揮にて[[パリ]] のシャトレ座にてリュック・ボンディの演出で上演された。<ref>詳細は録音・録画の項のリストを参照。</ref>

*[[2004年]]6月には[[ベルトラン・ド・ビリー]]の指揮により[[ウィーン国立歌劇場]]にて初演時のカットを除いた完全全曲での上演が実現した。<ref>https://www.wiener-staatsoper.at/spielplan-tickets/detail/event/85748-don-carlos-franz/</ref> 

*[[2014年]] [[9月6日 ]]には日本でも演奏会形式にて5幕のパリ初演版を演奏し、日本初演を実現している。配役はドン・カルロスが[[佐野成宏]]、エリザベートが浜田理恵、フィリップ2世をカルロ・コロンバーラが歌い、ロドリーグが堀内康雄、エボリ公女が小山由美となっている。オーケストラはザ・オペラ・バンドで合唱が[[武蔵野音楽大学]]、会場は[[東京芸術劇場]]であった。<ref>http://www.geigeki.jp/performance/concert038/</ref>

*[[2017年]]10月から11月には[[パリ・オペラ座]]にて[[フィリップ・ジョルダン]]の指揮、[[ヨナス・カウフマン]]のドン・カルロス、イルダール・アブドラザコフ(フィリップ2世)リュドヴィク・テジエ(ロドリーグ)、ソーニャ・ヨンチェヴァ(エリザベート)、ディミトリ・ベロセルスキ(大審問官)、演出がクシシトフ・ワリコフスキという布陣で上演し、話題を集めた。<ref>https://www.operadeparis.fr/saison-17-18/opera/don-carlos</ref><ref>https://mainichi.jp/classic/articles/20171111/org/00m/200/002000d</ref><ref>https://www.operanews.com/Opera_News_Magazine/2017/10/Reviews/PARIS__Don_Carlo.html</ref> 

*2018年3月には[[リヨン国立オペラ]]でもダニエーレ・ルスティオーニの指揮、クリストフ・オノレの演出でフランス語による『ドン・カルロス』の上演を予定している。<ref>https://www.opera-lyon.com/fr/20172018/opera/don-carlos</ref>




== 初演当時の状況 ==


18651867[[ (1867)|]]186418666


1847[[:en: Jérusalem | Jérusalem]][[]]1855[[ ()|]]


[[:en: Camille du Locle| Camille du Locle]]1832-1903186612420

これらの出来事を経て『ドン・カルロス』は1867年3月11日、[[フランス第二帝政|フランス]]皇帝[[ナポレオン3世]]夫妻を迎え、オペラ座にて初演を迎えたのだったが、[[ウジェニー・ド・モンティジョ|ウジェニー皇后]](スペイン出身、熱心なカトリック信者と伝えられる)が内容に不快感を示して途中で席を立ってしまったこともあり、初演は失敗に終わってしまい、この作品でもヴェルディがパリでの決定的成功を得ることはかなわなかった。ヴェルディがこの歌劇の作曲者として評価されるのは、3か月後のロンドン上演の成功まで待たねばならなかった。


== 登場人物 ==

{| class="wikitable"

|-

! 人物<br/>(フランス語)!!人物<br/>(イタリア語)!! 声域!! 役 !! パリ初演時の配役<br/>(1867年3月11日) <br/>指揮:フランソワ<br/>・ジョルジュ=エンル!! ミラノ初演時の配役<br/>(1884年1月10日) <br/>指揮:<br/> [[フランコ・ファッチョ]]

|-

|フィリップ2世 ||フィリッポ2世 || [[バス (声域)|バス]] ||スペイン国王<br/> [[フェリペ2世]]、<br/>ドン・カルロの父||ルイ=アンリ・オバン||アレッサンドロ・<br/>シルベストリ

|-

|ドン・カルロス||ドン・カルロ|| [[テノール]] ||スペインの皇太子||ジャン・モレル || フランチェスコ<br/>・タマーニョ

|-

|ロドリーグ||ロドリーゴ|| [[バリトン]] ||ポーザ侯爵|| ジャン=バティスト<br/>・フォレ||ポール・レリ

|-

| 大審問官||宗教裁判長|| [[バス (声域)|バス]]||カトリック教会の<br/>最高権力者|| ジョセフ・ダヴィド||フランチェスコ<br/>・ナヴァリーニ

|-

| エリザベート ||エリザベッタ ||[[ソプラノ]] ||フランスのヴァロワ<br/>王朝の次女||マリー・サス|| アビガイッレ・<br/>ブルスキ=キアッティ

|-

| エボリ公女 ||- ||[[メゾ・ソプラノ]] || エリザベート<br/>の女官||ポリーヌ・ゲイマール<br/>・ロテール||ジュゼッピーナ<br/>・パスクワ

|-

| 修道士 || - || [[バス (声域)|バス]] ||先王[[カール5世]] <br/>の墓所から出てくる<br/>修道士||アルマン・カステルマリ||レオポルド<br/>・クロンベルグ

|-

| ティボー||テオバルド||[[ソプラノ]]||エリザベートの小姓|| レオニア・ルヴィリ||アメリア・ガルテン

|-

| レルマ伯爵||レルマ伯爵|| [[テノール]]|| 貴族||ガスパール||アンジェロ<br/>・フィオレンティーニ

|-

|王室の布告者||-|| [[テノール]] || -||メルマン||アンジェロ<br/>・フィオレンティーニ

|-

|天からの声||-|| [[ソプラノ]] || -||-|| -

|-

|アランベール<br/>伯爵夫人 ||アレンベルク<br/>伯爵夫人 ||黙役||貴族||ドミニク||アンジェラ・ピオラ

|-

|}

[[合唱]]:[[フランドル]]の使者、[[裁判員]]、[[兵士]]、[[修道士]]など、上演によってバレエ団<br>


== あらすじ ==

1867年稿による

舞台: [[16世紀]]半ば、第1幕はフランス、それ以降の幕はスペインへ移る。

=== 第1幕 ===

=== 第1幕 ===

'' [[フォンテンブロー]]の森''


16使


殿 [[]]姿使[[2]]2

=== 第2幕 ===

=== 第2幕 ===

==== 第1場 ====

''サン・ジュスト修道院の回廊''

[[ファイル:Don Carlos Spanien.jpg|thumb|right=1.3|若きドン・カルロス]]


455155[[]][[]]22

==== 第2場 ====

''修道院の前庭''



姿[[]][[]]殿殿使[[]]2姿2


=== 第3幕 ===

=== 第3幕 ===

==== 第1場 ====

''噴水のある王宮の庭園''

[[File:La princesa de Éboli.jpg|thumb|220px|エボリ公女のモデル<br>アナ・デ・メンドーサ]]

祝典の行事が続いている。翌日にはフィリップ2世の戴冠式が執り行われることになっているのである。エキゾチックな嗜好を凝らした音楽が展開される、カスタネットに合わせて合唱が「なんて沢山の花々、なんて沢山の星たち」を歌う。エリザベートとエボリ公女を伴ってやってくる。エリザベートは祝典の行事に辟易し、仮面を交換し、場を立ち去る。

王妃の舞踏会「ラ・ペレグリーナ」

海で最も見事な真珠を宿す魔法の洞窟を見つけた漁師の逸話が踊られる。15分程度の曲だがバレエ部分はカットされることが通例であり、これらを耳にする機会はなかなかない。ラ・ペレグリーナは16世紀からスペインの王室に所有されていた由緒ある真珠のこと。

エリザベートからの逢引の手紙と信じて、カルロスはいそいそとやって来る。エボリが入ってくるが、エリザベートのマスクを着けている。それとは知らず彼は愛を告白してしまう。カルロスはヴェールをとって人違いだと誤解に気づくが、動揺を隠せない。エボリ公女は最初、彼の困惑の理由を取り違え、宥めようとしロドリーグと国王が密会して、皇太子のことを話していたと告げる。しかしエボリ公女は間もなくカルロスと王妃の関係を理解し、激しい嫉妬にかられて仕返しを決意する。ロドリーグが間に入って友人カルロスを弁護し、エボリ公女と脅すが効き目はない、三重唱「私の怒りを逃れてもむだです」。危険を察知したロドリーグはカルロスにフランドルからの文書を渡すように促す。


==== 第2場 ====

''[[バリャドリッド]]の大聖堂の前にある大きな広場''


 民衆が集まっており、国王を讃える大合唱「歓喜に溢れたこの幸福な日に」が聴かれる。[[葬送行進曲]]が鳴り響く中、宗教裁判所で有罪とされた[[異端者]]を火刑台に連行する修道僧がやって来る。聖堂の扉が開かれ、王と廷臣たちが入場すると、王が異端者の処刑を宣告する。すると喪服を着てあらわれたカルロスに先導された6人のフランドルの代表団が王の前にひれ伏し、祖国への正義を求め抑圧されているフランドルの民にお慈悲をと願う。だが王は彼らを反逆者と決めつけ、皇太子の介入を叱責する。するとカルロスは剣を抜いて、フランドルの救済を宣言する。この無礼な振る舞いに、王は不敬罪に当たるとし息子の武器を取り上げるよう命じるが、スペインの大公たちはドン・カルロスの前に怖気づき誰も王子に近づこうとしない。ロドリーグが間に入り、かろうじて直接の決闘は避けられる。だがロドリーグが、彼に剣を差し出せと求める。カルロスは一瞬驚くが、おとなしく剣を渡す。ロドリーグは剣を王に差し出す。その場で王はロドリーグに公爵の位を授ける。王は妃の手を取って退場する。廷臣たちもみなあとに続く、彼らは火焙りを見るため見物席につくと遠くに炎の輝きが見える。冒頭の合唱が壮大に再現される。天上からは救済の声が聞こえるのだった。


=== 第4幕 ===

=== 第4幕 ===

''マドリードの王宮の王の書斎''

=== 第5幕 ===




退

== 初演当時の状況 ==


18651867[[ (1867)|]]186418666


==== 第2場 ====


1847[[]]1855[[ ()|]]

''ドン・カルロスの牢獄'' 

[[ファイル:Isabel de Valois2..jpg|thumb|right|エリザベート・ド・ヴァロワ1605年、フアン・パントハ・デ・ラ・クルス画]]

奥には鉄格子があって牢と番兵たちが行き来している中庭とを隔てている。


22[[ () | ]]

=== 第5幕 ===

''サン・ジュストの修道院 夜 月明り''


エリザベートがゆっくりと、物思いにふけりながら登場 彼女はカール5世の墓に近づいて跪く。皇太子を待つ王妃は、過ぎし日のフォンテンブローの森の思い出を懐かしむと、エリザベートに、少女時代の喜びとカルロスへの愛が蘇り、アリア「世のむなしさを知る神よ」を歌う。彼にロドリーグの遺言を伝え、新しい人生を歩ませるようとする。再会した恋人たちは最後の別れを告げる。「美しい夢を見ました」で王子はスペインを捨ててフランドルへ行き、自由のために戦うのだと伝える。続く二重唱は「天国で会いましょう」となり別れをお互いに確認する。そして天国で再会することを約束し、別れの悲しみをうたい上げ、「永遠にさらば」と二重唱になる。その場にフィリップ、大審問官及び審問所の役人たちが入って来て、二人を逮捕するよう衛兵に命令する。カルロスは身を守りつつカール5世の墓の方に戻って行くと扉が開き、修道士が現れる。カルロスを彼の腕の中に引き寄せマントで覆い隠すとカルロスを墓の中に引き入れる。エリザベートはそこへ倒れ、人々が驚愕するうちに幕が降りる。




1832 - 1903186612420


これらの出来事を経て『ドン・カルロス』は1867年3月11日、[[フランス第二帝政|フランス]]皇帝[[ナポレオン3世]]夫妻を迎え、オペラ座にて初演を迎えたのだったが、[[ウジェニー・ド・モンティジョ|ウジェニー皇后]](スペイン出身、熱心なカトリック信者と伝えられる)が内容に不快感を示して途中で席を立ってしまったこともあり、初演は失敗に終わってしまい、この作品でもヴェルディがパリでの決定的成功を得ることはかなわなかった。ヴェルディがこの歌劇の作曲者として評価されるのは、3か月後のロンドン上演の成功まで待たねばならなかった。



== 楽器編成 ==

== 楽器編成 ==

40行目: 142行目:

作曲者が生前全く聴けなかったフランス語5幕原典版が4時間5分、作曲者が立ち会ったフランス語5幕初演版が3時間25分、イタリア語版1886年のイタリア語5幕版が3時間25分、第1幕を除いた全4幕版が2時間50分、昔のドイツ語版もイタリア語版の演奏時間に順ずるが更に無数のカットの形がある。

作曲者が生前全く聴けなかったフランス語5幕原典版が4時間5分、作曲者が立ち会ったフランス語5幕初演版が3時間25分、イタリア語版1886年のイタリア語5幕版が3時間25分、第1幕を除いた全4幕版が2時間50分、昔のドイツ語版もイタリア語版の演奏時間に順ずるが更に無数のカットの形がある。



== さまざまな版 ==

[[ファイル:Don Carlo poster.jpg|thumb|right|200px|イタリア語5幕版の台本表紙。1869年[[フィレンツェ]]公演のもので、内容的には「イタリア初演版」とほぼ同じ]]

#フランス語原典版

#:初演のために作曲された版。上記の出来事により、第4幕第1場でのエリザベッタとエボリの二重唱などがカットされ、原典版そのままの形で上演されることはなかった。この版は最近[[ウィーン国立歌劇場]]で蘇生演奏されたが演奏時間が4時間以上かかった。

#フランス語初演版(全5幕)

#:カットを経て初演に使われた版。以上の版はグランド・オペラの習慣により第3幕にバレエ音楽が挿入されていた。

#イタリア初演版(全5幕)

#:アキッレ・デ・ロージェールがイタリア語に翻訳した版。フランス語版と音楽的にはほぼ同じ。67年6月4日のロンドン公演、同年10月27日のボローニャ公演(会場はテアトロ・コムナーレ)に使われたそれぞれの版があるが、この2つの版はほぼ同じ内容といわれる。ボローニャ公演に使用された楽譜がルッカ社から出版されたため、この版を“ルッカ版”ともいう。

#1872年イタリア語版(全5幕)

#:いわゆる“ナポリ版”。72年12月の[[サン・カルロ劇場]]([[ナポリ]])での上映に際して、以前にもヴェルディに協力したアントニオ・ギスランツォーニによって台本が改訂された。改訂されたのは第2幕のロドリーゴとフィリッポ、第5幕のエリザベッタとカルロそれぞれの二重唱などの場面。

#1884年イタリア語版(全4幕)

#:84年1月10日の[[ミラノ]]・[[スカラ座]]での上演にそなえ、大幅な改訂が行なわれた。バレエ音楽やそれまでの第1幕を全面カット(カルロのアリアのみが歌詞を変え、移調したうえで新しい第1幕に残された)して全4幕とし、また多くの場面の音楽を改訂、また台本もデュ・ロクルとアンジェロ・サナルディーニによって更なる改訂が行なわれた。内容的、音楽的に凝縮され密度の濃い版となったこともあり、特に1970年代以前はよく採用されていた(カラヤンなども好んで用いていた)。ヴェルディと関係の深いヨーロッパ有数の音楽出版社・リコルディ社から楽譜が出版されたため、“リコルディ4幕版”とも呼ばれる。

#1886年イタリア語版(全5幕)

#:86年12月[[モデナ]]のテアトロ・コムナーレでの上演の際に改訂されたもの。以前カットされた第1幕を復活(カルロのアリアも戻された)させ、バレエ音楽なしの5幕仕立てとされた。音楽的には84年イタリア語版をほぼそのまま用いており、第1幕が戻って物語の流れが明確になっていることなどから、1970年代以降、多くの上演で採用されるようになった。“モデナ版”、また、この版の楽譜もリコルディ社から出たため、“リコルディ5幕版”とも呼ばれる。



== フランス語版による録音・録画 ==

主な版は以上のようになっており、現在の上演の際によく用いられるのは 2.、 5.、 6.の版。最後の版は序幕がないのでオーケストラの倍になるギャラ対策で3時間15分以内になり、中規模の歌劇場でも良く演奏される。幾つかの版を組み合わせての上演も行なわれているため、どの版も決定版としては位置づけられない状態といえるかもしれない。

{| class="wikitable"

!年

!配役 <br>ドン・カルロス, <br>エリザベート,<br>ロドリーグ,<br>エボリ公女, <br>フィリップ2世,<br>大審問官,<br>修道士

!指揮者,<br>管弦楽団及び合唱団

!レーベル

|-

|1972

|アンドレ・テュルプ,<br>エディト・トランブレイ,<br>ロベール・サヴォワ,<br>ミシェル・ヴィルマ,<br>ジョゼフ・ルーロー,<br>リチャード・ヴァン・アラン,<br>ロバート・ロイド 

|ジョン・マシソン,<br>[[ BBCコンサート・オーケストラ]] <br> BBCシンガーズ

|CD: GALA ORCV-305<br>完全全曲による歴史的放送録音。

|-

|1983~1984

|[[プラシド・ドミンゴ]],<br>カーティア・リッチャレッリ,<br>[[レオ・ヌッチ]],<br>ルチア・ヴァレンティーニ=テッラーニ,<br>ルッジェーロ・ライモンディ,<br>[[ニコライ・ギャウロフ]],<br>ニキタ・ストロイェフ 

|[[クラウディオ・アバド]],<br>[[ミラノ・スカラ座管弦楽団]] <br>ミラノ・スカラ座管合唱団

|CD: DG No:4791919 <br>モデナ初演の5幕版をフランス語に戻した版

|-

|1996

|[[ロベルト・アラーニャ]],<br>カリタ・マッティラ,<br>[[トーマス・ハンプソン]],<br>[[ヴァルトラウト・マイアー]],<br>[[ジョゼ・ヴァン・ダム]],<br>エリック・ハーフヴァーソン,<br>チャバ・エリゼー

|[[アントニオ・パッパーノ]],<br>[[パリ管弦楽団]] <br>シャトレ座合唱団<br>演出:リュック・ボンディ

|DVD: ワーナーミュージック・ジャパン<br>No:109181<br>CD: EMI Classics 7243 5 56152<br>ギュンターとペタッツォーニが<br>校訂した版を参考にしたもの

|-

|2004

|ラモン・ヴァルガス,<br>イアノ・タマール,<br>ボー・スコウフス,<br>ナディア・ミヒャエル,<br>アラステア・マイルズ,<br>サイモン・ヤン,<br>ダン・パウル・ドゥミトレスク

|[[ベルトラン・ド・ビリー]]<br>[[ウィーン国立歌劇場管弦楽団]]<br>[[ウィーン国立歌劇場]]合唱団

| DVD: 日本コロムビア No:COBO6015 <br>演出:ペーター・コンヴィチュニー<br>5幕フランス語オリジナル版、1867年<br>CD:ORFEO DOR *CL* No:ORFEOR648054

|-

|}

・イタリア語版は多数あり。


== 参考文献 ==

*『新グローヴ オペラ事典』 [[白水社]](ISBN-13: 978-4560026632)

*『ラルース世界音楽事典』 [[福武書店]]刊

*『オペラ「ドン・カルロ」のスペイン史』西川 和子(著) [[彩流社]](ISBN-10: 4779114837)

*『オペラ名曲百科 上 増補版 イタリア・フランス・スペイン・ブラジル編』[[永竹由幸]] (著),[[音楽之友社]](ISBN 4-276-00311-3)

*『オペラは手ごわい』岸 純信 (著) [[春秋社]]  (ISBN-13: 978-4393935811)

*『ヴェルディとワーグナー』 荒井 秀直 (著) [[東京書籍]](ISBN-10: 4487753422)

*『黄金の翼=ジュゼッぺヴェルディ』[[加藤浩子]] (著) [[東京書籍]](ISBN-10: 4487797098)


== 脚注 ==

{{Reflist}}


== 外部リンク ==

* {{IMSLP|id=Verdi, Giuseppe}}




{{ヴェルディのオペラ}}

{{ヴェルディのオペラ}}


2018年1月8日 (月) 15:38時点における版

ファイル:1853 Opera 100.jpg
ドン・カルロ(ハンガリーの切手)

Don Carlo18651866518673Don Carlos

231787

内容


1622

 

610


さまざまな版

51869

(一)
414

(二)5
使3

(三)5
67641027使2使

(四)18725
721225

(五)18844
841101調1419704

(六)18865
86121584119705

 2. 5. 6.315

『ドン・カルロス』(フランス語版)の上演状況

1867年パリ初演時のポスター

19 Guillaume Tell, 1829 La favorite 184020

1973BBCCD[1]5使CD[2]   

1986[3]

1996 ]]  [4]

20046[5] 

2014 96 52[6]

201710112[7][8][9] 

20183[10]


初演当時の状況


18651867186418666

1847 Jérusalem1855

 Camille du Locle1832-1903186612420

186731133

登場人物

人物
(フランス語)
人物
(イタリア語)
声域 役  パリ初演時の配役
(1867年3月11日)
指揮:フランソワ
・ジョルジュ=エンル
ミラノ初演時の配役
(1884年1月10日)
指揮:
フランコ・ファッチョ
フィリップ2世  フィリッポ2世  バス スペイン国王
フェリペ2世
ドン・カルロの父
ルイ=アンリ・オバン アレッサンドロ・
シルベストリ
ドン・カルロス ドン・カルロ テノール スペインの皇太子 ジャン・モレル フランチェスコ
・タマーニョ
ロドリーグ ロドリーゴ バリトン ポーザ侯爵 ジャン=バティスト
・フォレ
ポール・レリ
大審問官 宗教裁判長 バス カトリック教会の
最高権力者
ジョセフ・ダヴィド フランチェスコ
・ナヴァリーニ
エリザベート  エリザベッタ  ソプラノ フランスのヴァロワ
王朝の次女
マリー・サス アビガイッレ・
ブルスキ=キアッティ
エボリ公女 メゾ・ソプラノ エリザベート
の女官
ポリーヌ・ゲイマール
・ロテール
ジュゼッピーナ
・パスクワ
修道士 バス 先王カール5世
の墓所から出てくる
修道士
アルマン・カステルマリ レオポルド
・クロンベルグ
ティボー テオバルド ソプラノ エリザベートの小姓 レオニア・ルヴィリ アメリア・ガルテン
レルマ伯爵 レルマ伯爵 テノール 貴族 ガスパール アンジェロ
・フィオレンティーニ
王室の布告者 テノール メルマン アンジェロ
・フィオレンティーニ
天からの声 ソプラノ
アランベール
伯爵夫人
アレンベルク
伯爵夫人
黙役 貴族 ドミニク アンジェラ・ピオラ

合唱フランドルの使者、裁判員兵士修道士など、上演によってバレエ団

あらすじ

1867年稿による 舞台: 16世紀半ば、第1幕はフランス、それ以降の幕はスペインへ移る。

第1幕


 

殿 姿使22

第2幕

第1場




45515522

第2場




姿殿殿使2姿2

第3幕

第1場

噴水のある王宮の庭園

エボリ公女のモデル
アナ・デ・メンドーサ

祝典の行事が続いている。翌日にはフィリップ2世の戴冠式が執り行われることになっているのである。エキゾチックな嗜好を凝らした音楽が展開される、カスタネットに合わせて合唱が「なんて沢山の花々、なんて沢山の星たち」を歌う。エリザベートとエボリ公女を伴ってやってくる。エリザベートは祝典の行事に辟易し、仮面を交換し、場を立ち去る。 王妃の舞踏会「ラ・ペレグリーナ」 海で最も見事な真珠を宿す魔法の洞窟を見つけた漁師の逸話が踊られる。15分程度の曲だがバレエ部分はカットされることが通例であり、これらを耳にする機会はなかなかない。ラ・ペレグリーナは16世紀からスペインの王室に所有されていた由緒ある真珠のこと。 エリザベートからの逢引の手紙と信じて、カルロスはいそいそとやって来る。エボリが入ってくるが、エリザベートのマスクを着けている。それとは知らず彼は愛を告白してしまう。カルロスはヴェールをとって人違いだと誤解に気づくが、動揺を隠せない。エボリ公女は最初、彼の困惑の理由を取り違え、宥めようとしロドリーグと国王が密会して、皇太子のことを話していたと告げる。しかしエボリ公女は間もなくカルロスと王妃の関係を理解し、激しい嫉妬にかられて仕返しを決意する。ロドリーグが間に入って友人カルロスを弁護し、エボリ公女と脅すが効き目はない、三重唱「私の怒りを逃れてもむだです」。危険を察知したロドリーグはカルロスにフランドルからの文書を渡すように促す。

第2場




 6退

第4幕




退

第2場


 
1605

22 

第5幕

サン・ジュストの修道院 夜 月明り

エリザベートがゆっくりと、物思いにふけりながら登場 彼女はカール5世の墓に近づいて跪く。皇太子を待つ王妃は、過ぎし日のフォンテンブローの森の思い出を懐かしむと、エリザベートに、少女時代の喜びとカルロスへの愛が蘇り、アリア「世のむなしさを知る神よ」を歌う。彼にロドリーグの遺言を伝え、新しい人生を歩ませるようとする。再会した恋人たちは最後の別れを告げる。「美しい夢を見ました」で王子はスペインを捨ててフランドルへ行き、自由のために戦うのだと伝える。続く二重唱は「天国で会いましょう」となり別れをお互いに確認する。そして天国で再会することを約束し、別れの悲しみをうたい上げ、「永遠にさらば」と二重唱になる。その場にフィリップ、大審問官及び審問所の役人たちが入って来て、二人を逮捕するよう衛兵に命令する。カルロスは身を守りつつカール5世の墓の方に戻って行くと扉が開き、修道士が現れる。カルロスを彼の腕の中に引き寄せマントで覆い隠すとカルロスを墓の中に引き入れる。エリザベートはそこへ倒れ、人々が驚愕するうちに幕が降りる。


楽器編成

ピッコロフルート2、オーボエ2、コーラングレクラリネット2、ファゴット4、ホルン4、コルネット2、トランペット2、トロンボーン3、オフィクレイドチューバ)、ティンパニ大太鼓シンバルトライアングルハープ弦五部

バンダ:クラリネット3、フリューゲルホルン2、ホルン4、バス・フリューゲルホルン、トランペット2、トロンボーン2、バス・チューバ

演奏時間

作曲者が生前全く聴けなかったフランス語5幕原典版が4時間5分、作曲者が立ち会ったフランス語5幕初演版が3時間25分、イタリア語版1886年のイタリア語5幕版が3時間25分、第1幕を除いた全4幕版が2時間50分、昔のドイツ語版もイタリア語版の演奏時間に順ずるが更に無数のカットの形がある。


フランス語版による録音・録画

配役
ドン・カルロス,
エリザベート,
ロドリーグ,
エボリ公女,
フィリップ2世,
大審問官,
修道士
指揮者,
管弦楽団及び合唱団
レーベル
1972 アンドレ・テュルプ,
エディト・トランブレイ,
ロベール・サヴォワ,
ミシェル・ヴィルマ,
ジョゼフ・ルーロー,
リチャード・ヴァン・アラン,
ロバート・ロイド 
ジョン・マシソン,
BBCコンサート・オーケストラ
BBCシンガーズ
CD: GALA ORCV-305
完全全曲による歴史的放送録音。
1983~1984 プラシド・ドミンゴ,
カーティア・リッチャレッリ,
レオ・ヌッチ,
ルチア・ヴァレンティーニ=テッラーニ,
ルッジェーロ・ライモンディ,
ニコライ・ギャウロフ,
ニキタ・ストロイェフ 
クラウディオ・アバド,
ミラノ・スカラ座管弦楽団
ミラノ・スカラ座管合唱団
CD: DG No:4791919
モデナ初演の5幕版をフランス語に戻した版
1996 ロベルト・アラーニャ,
カリタ・マッティラ,
トーマス・ハンプソン,
ヴァルトラウト・マイアー,
ジョゼ・ヴァン・ダム,
エリック・ハーフヴァーソン,
チャバ・エリゼー
アントニオ・パッパーノ,
パリ管弦楽団
シャトレ座合唱団
演出:リュック・ボンディ
DVD: ワーナーミュージック・ジャパン
No:109181
CD: EMI Classics 7243 5 56152
ギュンターとペタッツォーニが
校訂した版を参考にしたもの
2004 ラモン・ヴァルガス,
イアノ・タマール,
ボー・スコウフス,
ナディア・ミヒャエル,
アラステア・マイルズ,
サイモン・ヤン,
ダン・パウル・ドゥミトレスク
ベルトラン・ド・ビリー
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
DVD: 日本コロムビア No:COBO6015 
演出:ペーター・コンヴィチュニー
5幕フランス語オリジナル版、1867年
CD:ORFEO DOR *CL* No:ORFEOR648054

・イタリア語版は多数あり。

参考文献

  • 『新グローヴ オペラ事典』 白水社(ISBN-13: 978-4560026632)
  • 『ラルース世界音楽事典』 福武書店
  • 『オペラ「ドン・カルロ」のスペイン史』西川 和子(著) 彩流社(ISBN-10: 4779114837)
  • 『オペラ名曲百科 上 増補版 イタリア・フランス・スペイン・ブラジル編』永竹由幸 (著),音楽之友社ISBN 4-276-00311-3
  • 『オペラは手ごわい』岸 純信 (著) 春秋社  (ISBN-13: 978-4393935811)
  • 『ヴェルディとワーグナー』 荒井 秀直 (著) 東京書籍(ISBN-10: 4487753422)
  • 『黄金の翼=ジュゼッぺヴェルディ』加藤浩子 (著) 東京書籍(ISBN-10: 4487797098)

脚注

外部リンク