銀河フィラメント
表示
銀河フィラメント︵ぎんがフィラメント、英: galaxy filaments︶または別の呼び方で、超銀河団複合体︵ちょうぎんがふくごうたい、supercluster complexes︶あるいは グレートウォール (great walls) は、宇宙物理学の用語であり、現在のところ、大クエーサー群と共に知られている宇宙の最大の構造の1つである。
これらは典型的な長さが50から80MPc /h (h = ハッブル定数 / (100 km/s/Mpc)。現在の最尤推定値は h= 0.71 ) の巨大なひも状構造の集まりであり、各超空洞を仕切る境界領域を形作っている[2]。 フィラメントは重力的に拘束された銀河から構成されており、そのうちの特に多数の銀河が近接して存在する領域が、超銀河団と呼ばれているものである。
超銀河団の発見は1980年代に始まる。1987年にハワイ大学天文学研究所のR.ブレント・タリーが、現在われわれがペルセウス座・うお座超銀河団複合体と呼んでいるものを同定した。1989年にはCfA2 グレートウォールが発見されている[3]。これに引き続き2003年にはスローン・グレートウォールが発見されている[4]。
2006年に科学者たちは、3つのフィラメントが撚り集まって、人類に知られている最大の構造を形成していると発表した。これは、高密度に寄り集まった銀河と、ライマンアルファ・ブローブ (Lyman alpha blob) として知られている巨大なガス塊から構成されている[5]。
2011年に、最終的にフィラメントの特性に関するいくつかの仮説として結実する、さらに進んだ研究が、オーストラリアのモナシュ大学の学部生達によって実施された。学生の一人である Amelia Fraser-McKelvie は、X線分析を通じて、各フィラメントはダークマター理論に異論を唱えるには十分な量の大質量を含むことが確認されたと述べている[6]。監督した、モナシュ大の宇宙物理学者であるKevin Pimbblet 博士の初期の研究では、低密度であるが高温であると考えられている﹁失われた質量﹂("missing" matter) として、フィラメントが1つの候補となり得るとの提示がされていた[7]。
リスト
銀河フィラメントは狭義のフィラメントと銀河ウォールという2つのサブタイプに分類される。銀河フィラメント
銀河フィラメントのサブタイプとしての狭義のフィラメントは、長さ方向の軸に対して垂直に切った断面の長径と短径が大体同じになるものとして特徴づけられる。フィラメント名 | 発見年 | 概略距離 | 大きさ | 備考 |
---|---|---|---|---|
かみのけ座フィラメント | かみのけ座超銀河団はこのフィラメント中に存在する[8]。 また、CfA2グレートウォールの一部を形作っている[9]。 | |||
ペルセウス座・ペガスス座フィラメント | 1985 | うお座・くじら座超銀河団とは、フィラメントのメンバーであるペルセウス座・うお座超銀河団によって接続している[10]。 | ||
おおぐま座フィラメント | ホムンクルスの「足」を形作っているフィラメントの一部を成すCfA ホムンクルスと接続している[11] 。 | |||
やまねこ座・おおぐま座フィラメント | 1999 | 2000 km/s から 8000 km/s (赤方偏移換算長) |
やまねこ座・おおぐま座超銀河団と接続または分離している[11]。 | |
ClG J2143-4423フィラメント | 2004 | z=2.38 | 110Mpc | 原始銀河団 ClG J2143-4423を取り巻くフィラメント。2004年にグレートウォールに匹敵する長さのフィラメントが発見された。2008年の段階で、これは赤方偏移 2 を超える遠方の最大の構造である [12][13][14][15]。 |
銀河ウォール
銀河ウォールは銀河フィラメントのサブタイプであり、長さ方向の軸に対して垂直に切った断面の長径が短径に比して極めて大きいことが特徴である(つまり壁のように平べったい存在である)。
ウォール名 | 発見年 | 概略距離 | 大きさ | 備考 |
---|---|---|---|---|
CfA2グレートウォール (かみのけ座ウォール, グレートウォール,北グレートウォール、CfAグレートウォール) | 1989 | z=0.03058 | 長さ 251Mpc (7.5億光年) 幅 2.5億光年 厚さ 2000万光年 |
これは最初に発見された宇宙の超大規模構造あるいは疑似構造である。現在では2番目に大きな構造である。CfA ホムンクルスはグレートウォールの中心に位置しており、かみのけ座超銀河団がホムンクルスの構造の大部分を形作っている。かみのけ座銀河団がさらにその中心にある [16][17]。 |
スローン・グレートウォール (SDSSグレートウォール) | 2005 | z=0.07804 | 長さ 433Mpc | 知られている最大級の宇宙構造または疑似構造[16]。 |
ちょうこくしつ座ウォール (南グレートウォール、南ウォール) | 長さ 8000 km/s 幅 5000 km/s 厚さ 1000 km/s (赤方偏移換算長) |
ちょうこくしつ座ウォールは、ろ座ウォールに平行で、つる座ウォールに直角に位置する [18][19] 。 | ||
つる座ウォール | つる座ウォールは、ろ座ウォールとちょうこくしつ座ウォールに直角に位置する[19]。 | |||
ろ座ウォール | ろ座銀河団はこのウォールの一部である。ウォールはちょうこくしつ座ウォールはに平行で、つる座ウォールに直角に位置する[18][19]。 |
●ケンタウルス座ウォールまたはケンタウルス座グレートウォールが提案されている。ろ座ウォールはこの中に一部として含まれることになる。さらにケンタウルス座超銀河団とおとめ座超銀河団もこの中に含まれることになる (この場合、このウォールはローカルウォールまたはローカルグレートウォールということになる) [18][19]。
●グレートアトラクターの物理的実態として、じょうぎ座銀河団を一部として含むウォールが提案されている。このウォールはグレートアトラクターウォールまたはじょうぎ座ウォールと呼ばれている[20]。
●2000年に、電波銀河 B3 0003+387 の近傍の z=1.47 の距離に位置するウォールが提案されている[21]。
●2000年に、ハッブル・ディープ・フィールド北部の、z=0.559 の距離に位置するウォールが提案されている[22][23]。
![](//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d8/Nearsc.gif/500px-Nearsc.gif)
5億光年以内の宇宙マップ。最も近い銀河ウォールが見えている
最も近い銀河ウォールのマップ
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d8/Nearsc.gif/500px-Nearsc.gif)
宇宙の大規模構造のマップ
10億光年(307 Mpc)以内の宇宙マップ。近距離の超銀河団がフィラメントと超空洞を形作っていることがわかる。
最も近いウォール、超空洞、超銀河団のマップ。
2dF サーベイ・マップ。SDSSグレートウォールを含む。
2MASS XSC 赤外線スカイマップ
脚注
- ^ Simulating the Local Galaxy Population Max-Planck-Institut für Astrophysik
- ^ Bharadwaj, Somnath; Bhavsar, Suketu; Sheth, Jatush V. The Size of the Longest Filaments in the Universe. Astrophys.J. 606 (2004) 25-31
- ^ M. J. Geller & J. P. Huchra, Science 246, 897 (1989).
- ^ Sky and Telescope, "Refining the Cosmic Recipe", 14 November 2003
- ^ Than, Ker (2006年7月28日). “Scientists: Cosmic blob biggest thing in universe”. SPACE.com 2007年3月11日閲覧。
- ^ Monash student helps solve cosmic mystery of massive dimensions Sarah-Jane Collins, May 27, 2011
- ^ http://news.yahoo.com/s/afp/20110527/sc_afp/australiaastrophysicsscience
- ^ 'Astronomy and Astrophysics' (ISSN 0004-6361), vol. 138, no. 1, Sept. 1984, p. 85-92. Research supported by Cornell University "The Coma/A 1367 filament of galaxies" 09/1984 Bibcode: 1984A&A...138...85F
- ^ THE ASTRONOMICAL JOURNAL, 115:1745-1777, 1998 May ; THE STAR FORMATION PROPERTIES OF DISK GALAXIES: Hα IMAGING OF GALAXIES IN THE COMA SUPERCLUSTER
- ^ 'Astrophysical Journal', Part 1 (ISSN 0004-637X), vol. 299, Dec. 1, 1985, p. 5-14. "A possible 300 megaparsec filament of clusters of galaxies in Perseus-Pegasus" 12/1985 Bibcode: 1985ApJ...299....5B
- ^ a b 'The Astrophysical Journal Supplement Series', Volume 121, Issue 2, pp. 445-472. "Photometric Properties of Kiso Ultraviolet-Excess Galaxies in the Lynx-Ursa Major Region" 04/1999 Bibcode: 1999ApJS..121..445T
- ^ NASA, GIANT GALAXY STRING DEFIES MODELS OF HOW UNIVERSE EVOLVED, January 7, 2004
- ^ 'The Astrophysical Journal', Volume 602, Issue 2, pp. 545-554. The Distribution of Lyα-Emitting Galaxies at z=2.38 02/2004 Bibcode: 2004ApJ...602..545P doi:10.1086/381145
- ^ 'The Astrophysical Journal', Volume 614, Issue 1, pp. 75-83. The Distribution of Lyα-emitting Galaxies at z=2.38. II. Spectroscopy 10/2004 Bibcode: 2004ApJ...614...75F doi:10.1086/423417
- ^ 'Relativistic Astrophysics Legacy and Cosmology - Einstein's, ESO Astrophysics Symposia', Volume . ISBN 978-3-540-74712-3. Springer-Verlag Berlin Heidelberg, 2008, p. 358 Ultraviolet-Bright, High-Redshift ULIRGS 00/2008 Bibcode: 2008ralc.conf..358W
- ^ a b Chin. J. Astron. Astrophys. Vol. 6 (2006), No. 1, 35–42 Super-Large-Scale Structures in the Sloan Digital Sky Survey (PDF)
- ^ 'Scientific American', Vol. 280, No. 6, p. 30 - 37 Mapping the Universe (PDF, 1.43 MB) 06/1999 Bibcode: 1999SciAm.280f..30L
- ^ a b c Unveiling large-scale structures behind the Milky Way. Astronomical Society of the Pacific Conference Series, Vol. 67; Proceedings of a workshop at the Observatoire de Paris-Meudon; 18–21 January 1994; San Francisco: Astronomical Society of the Pacific (ASP); c1994; edited by Chantal Balkowski and R. C. Kraan-Korteweg, p.21 ; Visualization of Nearby Large-Scale Structures ; Fairall, A. P., Paverd, W. R., & Ashley, R. P. ; 1994ASPC...67...21F
- ^ a b c d 'Astrophysics and Space Science', Volume 230, Issue 1-2, pp. 225-235 Large-Scale Structures in the Distribution of Galaxies 08/1995 Bibcode: 1995Ap&SS.230..225F
- ^ World Science, Wall of galaxies tugs on ours, astronomers find April 19, 2006
- ^ 'The Astronomical Journal', Volume 120, Issue 5, pp. 2331-2337. B3 0003+387: AGN-Marked Large-Scale Structure at Redshift 1.47? 11/2000 Bibcode: 2000AJ....120.2331T doi:10.1086/316827
- ^ FermiLab, Astronomers Find Wall of Galaxies Traversing the Hubble Deep Field, DARPA, Monday, January 24, 2000
- ^ 'The Astronomical Journal', Volume 119, Issue 6, pp. 2571-2582 ; QSOS and Absorption-Line Systems surrounding the Hubble Deep Field ; 06/2000 ; doi:10.1086/301404 ; Bibcode: 2000AJ....119.2571V ;
参考文献
- arXiv, Pulling out Threads from the Cosmic Tapestry:Defining Filaments of Galaxies (PDF) , Kevin A. Pimbblet, 14 March 2005
関連項目
外部リンク
- Pictures of the filamentary network
- Astronomical Institute / Utrecht University - Astronomy Answers - Universe Family Tree: Filament (Dr Louis Strous)
- Astronomical Institute / Utrecht University - Astronomy Answers - From the Astronomical Dictionary - filament (Dr Louis Strous)
- The Universe Within One Billion Light Years with List of Nearby Superclusters (from the Atlas of the Universe):