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﹃こぶし文庫 戦後日本思想の原点﹄︵こぶしぶんこ せんごにほんしそうのげんてん︶は、1995年︵平成7年︶1月から2014年9月にかけてこぶし書房によって刊行された、全60巻の思想叢書である。単に﹃こぶし文庫﹄とも。
こぶし書房創業者で新左翼系思想家︵革マル派の理論的指導者︶たる黒田寛一にさまざまな形で影響を与えた、戦後日本思想の原点といえる諸著作を収録した叢書であり、日本の敗戦50年を記念して第一期分の刊行が開始された。刊行は中途2回の断絶をはさんで19年間にわたり継続され、2014年9月、第三期分︵全10巻︶の刊行完了をもって完結した[2]。
各巻はおおむね本文テクストのほか、編集担当者による﹁解説﹂、著者の﹁略年譜﹂﹁著作一覧﹂などが付される内容構成となっているが、刊行時点で著者が健在であった第48巻の大内力[1]﹃国家独占資本主義﹄、第49巻の鶴見俊輔﹃アメリカ哲学﹄については、著者によって新たに書き下ろされた序文︵まえがき︶が付されている[2]。また本叢書の構想に関わった黒田自身も第28巻の田辺元﹃歴史的現実﹄の編集・解説を担当している。
編集月報として、著者・著作についての関係者の回想を収録した小冊子﹃場 UTOPADA﹄が、1995年4月刊の第3巻︵三枝博音﹃技術思想の探究﹄︶および第4巻︵坂田太郎﹃イデオロギー論の系譜﹄︶より付されるようになり、2011年9月までに40号が刊行されている。
こぶし文庫﹁第一期﹂は黒田寛一が若き日に学び、理論的に格闘した戦後三大論争︵主体性論・技術論・価値論︶を中心に、自然弁証法・ヘーゲル論・認識論・ソ連論をめぐる諸著作を収録しており、1995年1月の梅本克己﹃唯物史観と道徳﹄︵第1巻︶をもって刊行が開始され、2000年5月の遊部久蔵﹃価値論と史的唯物論﹄︵第25巻︶をもって完結した。
続いて間をおかず刊行開始となった﹁第二期﹂では、戦争を挟んだ前後のそれぞれ50年に対象を拡げ、京都学派哲学とその流れを汲む主要著作を収録しており、2000年7月木村素衛﹃美の形成﹄︵第26巻︶をもって刊行開始、2008年5月の小山弘健﹃戦後日本共産党史﹄︵第50巻︶で完結した。
第二期完結後しばらくの間﹃こぶし文庫﹄は刊行を休止していたが、2006年に死去した黒田の生前の構想に基づき、戦後の文学論・芸術論・科学論・資本主義論争など各分野に収録対象を拡げる予定の﹁第三期﹂が第51巻の辻哲夫﹃物理学史の道﹄をもって2011年9月に刊行開始となり、2014年9月の宇野弘蔵﹃増補 農業問題序論﹄︵第60巻︶の刊行で完結した。こぶし書店は第3期の完結をもってシリーズ全体のひとまずの完結としている。
刊行書目[編集]
︵ ︶内は当該巻の編集・解説担当者。第24・30・36巻の﹁~エッセンス﹂は、作者の論文などを抜粋して収録したもの。
第一期[編集]
●第1巻‥梅本克己 ﹃唯物史観と道徳﹄ ︵武井邦夫︶ - 1995年1月刊。
●第2巻‥田辺振太郎 ﹃自然の弁証法研究﹄ ︵市野宏司︶ - 1995年1月刊。
●第3巻‥三枝博音 ﹃技術思想の探究﹄ ︵飯田賢一︶ - 1995年4月刊。
●第4巻‥坂田太郎 ﹃イデオロギー論の系譜﹄ ︵田中義久︶ - 1995年4月刊。
●第5巻‥宇野弘蔵 ﹃﹃資本論﹄と社会主義﹄ ︵降旗節雄︶ - 1995年6月刊。
●第6巻‥武市健人 ﹃ヘーゲル論理学の体系﹄ ︵清水正徳︶ - 1995年6月刊。
●第7巻‥北川宗蔵 ﹃経済学方法論﹄ ︵中村福治︶ - 1995年9月刊。
●第8巻‥舩山信一 ﹃日本哲学者の弁証法﹄ ︵服部健二︶ - 1995年9月刊。
●第9巻‥甘粕石介 ﹃現代哲学批判﹄ ︵鈴木正︶ - 1995年12月刊。
●第10巻‥高島善哉 ﹃価値論の復位﹄ ︵渡辺雅男︶ - 1995年12月刊。
●第11巻‥岡邦雄 ﹃新しい技術論﹄ ︵飯田賢一︶ - 1996年3月刊。
●第12巻‥山田坂仁 ﹃認識論と技術論﹄ ︵いいだもも︶ - 1996年3月刊。
●第13巻‥甘粕石介 ﹃ヘーゲル哲学への道﹄ ︵許萬元︶ - 1996年6月刊。
●第14巻‥務台理作 ﹃場所の論理学﹄ ︵北野裕通︶ - 1996年6月刊。
●第15巻‥三枝博音 ﹃ヘーゲル・大論理学﹄ ︵野崎茂︶ - 1996年9月刊。
●第16巻‥三浦つとむ ﹃この直言を敢てする﹄ ︵津田道夫︶ - 1996年9月刊。
●第17巻‥宇野弘蔵 ﹃価値論﹄ ︵降旗節雄︶ - 1996年12月刊。
●第18巻‥対馬忠行 ﹃クレムリンの神話﹄ ︵山口勇︶ - 1996年12月刊。
●第19巻‥松村一人 ﹃変革の論理のために﹄ ︵仲本章夫︶ - 1997年4月刊。
●第20巻‥村上信彦 ﹃女について‥反女性論的考察﹄ ︵篠原三郎︶ - 1997年4月刊。
●第21巻‥木村素衛 ﹃表現愛﹄ ︵小林恭︶ - 1997年9月刊。
●第22巻‥本多謙三 ﹃現象学と唯物弁証法﹄ ︵久野収︶ - 1997年9月刊。
●第23巻‥竹内好 ﹃日本イデオロギイ﹄ ︵鈴木正︶ - 1999年11月刊。
●第24巻‥三木清 ﹃三木清エッセンス﹄ ︵内田弘︶ - 2000年2月刊。
●第25巻‥遊部久蔵 ﹃価値論と史的唯物論﹄ ︵飯田裕康︶ - 2000年5月刊。
第二期[編集]
●第26巻‥木村素衛 ﹃美の形成﹄ ︵村瀬裕也︶ - 2000年7月刊。
●第27巻‥梅本克己 ﹃過渡期の哲学﹄ ︵田辺典信︶ - 2000年10月刊。
●第28巻‥田辺元 ﹃歴史的現実﹄ ︵黒田寛一︶ - 2001年1月刊。
●第29巻‥高山岩男 ﹃世界史の哲学﹄ ︵花沢秀文︶ - 2001年5月刊。
●第30巻‥九鬼周造 ﹃九鬼周造エッセンス﹄ ︵田中久文︶ - 2001年9月刊。
●第31巻‥戸坂潤 ﹃戸坂潤の哲学﹄ ︵吉田傑俊︶ - 2001年12月刊。
●第32巻‥廣西元信 ﹃資本論の誤訳﹄ ︵国分幸︶ - 2002年3月刊。
●第33巻‥高坂正顕 ﹃歴史の意味とその行方﹄ ︵高坂史朗︶ - 2002年10月刊。
●第34巻‥田辺元 ﹃仏教と西欧哲学﹄ ︵小坂国継︶ - 2003年3月刊。
●第35巻‥神山茂夫 ﹃天皇制に関する理論的諸問題﹄ ︵津田道夫︶ - 2003年6月刊。
●第36巻‥中井正一 ﹃中井正一エッセンス﹄ ︵鈴木正︶ - 2003年7月刊。
●第37巻‥滝沢克己 ﹃西田哲学の根本問題﹄ ︵小林孝吉︶ - 2004年7月刊。
●第38巻‥上山春平 ﹃弁証法の系譜‥マルクス主義とプラグマティズム﹄ - 2005年3月刊。
●第39巻‥武市健人 ﹃弁証法の急所﹄ ︵許萬元︶ - 2005年4月刊。
●第40巻‥田中吉六 ﹃史的唯物論の成立﹄ ︵渡辺啓︶ - 2005年6月刊。
●第41巻‥清水正徳 ﹃自己疎外論から﹃資本論﹄へ﹄ ︵降旗節雄[3]︶ - 2005年11月刊。
●第42巻‥藤本進治 ﹃認識論﹄ ︵山本晴義︶ - 2006年3月刊。
●第43巻‥加藤正 ﹃弁証法の探究﹄ ︵降旗節雄︶ - 2006年7月刊。
●第44巻‥古在由重 ﹃古在由重の哲学﹄ ︵吉田傑俊︶ - 2006年9月刊。
●第45巻‥宇野弘蔵・梅本克己 ﹃社会科学と弁証法﹄︵いいだもも︶ - 2006年11月刊。
●第46巻‥渡邉寛 ﹃レーニンとスターリン‥社会科学における﹄ ︵川上忠雄︶ - 2007年2月刊。
●第47巻‥三木清 ﹃三木清東亜協同体論集﹄ ︵内田弘︶ - 2007年4月刊。
●第48巻‥大内力 ﹃国家独占資本主義﹄ - 2007年7月刊。
●第49巻‥鶴見俊輔 ﹃アメリカ哲学﹄ - 2008年1月刊。
●第50巻‥小山弘健 ﹃戦後日本共産党史‥党内闘争の歴史﹄ ︵津田道夫︶ - 2008年5月刊。
第三期[編集]
●第51巻‥辻哲夫 ﹃物理学史への道﹄ ︵池内了︶ - 2011年9月刊。
●第52巻‥吉本隆明 ﹃芸術的抵抗と挫折﹄ ︵松本昌次︶ - 2012年2月刊。
●第53巻‥小田切秀雄 ﹃人間の信頼について﹄ ︵川村湊︶ - 2012年7月刊。
●第54巻‥廣重徹 ﹃戦後日本の科学運動﹄ ︵吉岡斉︶ - 2012年9月刊。
●第55巻‥柴田高好 ﹃現代とマルクス主義政治学﹄ - 2012年12月刊。
●第56巻‥鈴木正 ﹃日本思想史の遺産﹄ - 2013年3月刊。
●第57巻‥辻哲夫 ﹃日本の科学思想‥その自立への模索﹄ - 2013年5月刊。
●第58巻‥対馬忠行 ﹃日本資本主義論争史論﹄ - 2014年1月刊。
●第59巻‥小山弘健・山崎隆三 ﹃日本資本主義論争史﹄ - 2014年5月刊。
●第60巻‥宇野弘蔵 ﹃増補 農業問題序論﹄︵田中学︶ - 2014年9月刊。
(一)^ 当該巻の刊行後、2009年死去。
(二)^ なお、第41巻﹃自己疎外論から﹃資本論﹄へ﹄の著者・清水正徳は、前掲の通り第6巻の武市健人﹃ヘーゲル論理学の体系﹄の編・解説を担当しているが、第41巻刊行時には物故︵2004年没︶している。
(三)^ [1]によれば解説のみ担当。
参考文献[編集]
●﹃場 UTPADA﹄40︵2011年9月︶﹁編集手帖﹂。
関連項目[編集]
●埴谷雄高
●唯物論研究会
●西田幾多郎
●技術論論争
外部リンク[編集]
●こぶし書房