信用取引
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信用取引︵しんようとりひき、英: margin trading︶とは、金融用語の一つで、株取引において、現金や金融商品を委託保証金︵いたくほしょうきん、英: margin︶と呼ばれる担保として差し入れて、証券会社より借り入れて株の売買を行う投資手法のこと。英語読みのまま、マージンとも呼ばれる。現物取引と対比して使われることが多い。デリバティブ取引では、英語では区別しないが日本語では区別し、証拠金︵英: margin︶と呼ぶ。
概要[編集]
日本における戦後の証券取引所再開にあたって、ハーグ陸戦条約の条約附属書﹁陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則﹂の第43条との整合性は不明瞭であるが、GHQは、﹁取引所三原則﹂の一つとして﹁清算取引の禁止﹂を指示し、明治以後の株式取引の中心であり、米の先物取引を参考に創設された清算取引を否定した。一方、証券業者の側では、戦前の経験へのこだわりが捨てられず、取引の規模を拡大するという単純な意味での市場振興策として、清算取引の復活をしばしば訴えた。結局、1951年には、業界の主張を部分的に取り入れる形で、市場の厚みを増す﹁仮需給﹂を導入するとの名目の下に信用取引制度が創設された。 株式の信用取引においては、後述する﹁品受﹂および﹁品渡﹂により決済する場合を除いて、買い付けた株式や売りつけた株式代金そのものを投資家が手にすることはなく、あくまで売買によって生じた差額のみを受け取る、または支払う。 日本の場合、利用に当っては証券会社に信用取引用の口座を開設する必要がある。損益が膨大となりやすい特徴があるので、利用に当っては取引制度を十分に理解する必要があり、口座開設に当たって証券会社の審査が実施されている。アメリカの取引所の場合は、Regulation Tとportfolio marginの規制があり、Regulation Tの場合はレバレッジ最大2倍の規制であるが、10万ドル以上ある場合はportfolio marginを選択でき、より大きなレバレッジが可能になる。その他、各国、取引所の国および投資家の居住国により様々な規制がある。 2002年2月26日に金融庁より公表された﹁空売り規制の遵守状況に関する総点検結果等を踏まえた対応について﹂を受け、﹁貸借取引貸株料﹂が創設された。貸借取引貸株料とは、制度信用取引において、証券会社が証券金融会社から株券を借りてきて顧客に貸し付ける場合、証券金融会社が証券会社から、貸し付ける株券等の価額に対して一定率を乗じた額を日々徴収する制度。逆日歩の場合、株券等の貸付けを受けた証券会社から徴収した品貸料︵逆日歩︶は、当該株券等の買付代金の融資を受けた証券会社に支払われるが、貸借取引貸株料は融資を受けた証券会社に支払われることはない。この制度は、2002年5月7日約定分から実施されている。 先物取引の場合は、売り方と買い方の関係は、人気や金利、配当金については鞘︵現物と先物価格間や異なる限月間︶で現れるだけでゼロサムゲーム︵委託手数料等を除く︶であり、発注について売り方と買い方は同等であるが、信用取引の場合は、発注について売り方に買い方とは異なる足枷を設けたり、売り方と買い方の受け取り、支払い金利格差や売り方については貸借取引貸株料に加え、場合によって、逆日歩が加算され︵先物取引では貸借取引貸株料相当の鞘は存在しない︶中間費用がかかるため、先物取引の最大期限内であれば先物取引と比して取引コストが高いのが特徴である︵委託手数料等を除く︶。 信用取引の売りは、投機筋が株価が本来の価値以上に高いと思われると判断した場合に行われる行為である。信用取引の売りにより株価が本来の価値以下に下がると、買う投機筋が増加し株価が上昇する。﹁品受﹂および﹁品渡﹂の決済の場合を除き信用取引の売りは、売っただけの将来の決済による買い圧力となり、信用取引の買いは、買っただけの将来の決済による売り圧力となる。 2013年1月1日より、日本の金融商品取引法第161条の2に規定する取引及びその保証金に関する内閣府令の一部改正により、信用取引における法令の制限が改正され、信用取引に係る委託保証金の計算方法等が変更となり、︵イ︶信用取引により翌営業日に委託保証金の拘束が解除されていたものが、同日において、同一資金で何度でも信用取引の売買が可能となり、︵ロ︶建玉の反対売買による確定利益は、受渡日から利用が可能であったものが、受渡日前でも利用が可能となり、︵ハ︶信用取引で追証が発生した場合、信用取引の建て玉︵ポジション︶を解消しただけでは駄目で、実際に入金をする必要があったが、改正の後は、建て玉解消による委託証拠金維持率の回復による追証の解消が可能になった。︵ニ︶以上により、法令上、信用取引の差金決済が事実上、解禁され、信用取引において同一の保証金を使っての回転売買が無制限に可能となった。委託保証金[編集]
株式や資金を借り入れて株の売買を行う際には、委託保証金と呼ばれる担保を口座に預け入れる必要があり、これにより委託保証金を超えた金額︵通常は3倍前後、証券会社により異なる︶での売買が可能となる。委託保証金には現金以外に株式や国債などの有価証券︵代用有価証券︶を充てることも認められているが、この場合は当該証券類の時価に一定の掛け率︵80%前後︶を乗じた換算が行われる。信用買い[編集]
信用買いを行う際の大まかな流れは以下のとおりである。 (一)投資家は証券会社よりその資金を借り入れて株式を買い付ける。 (二)買い付けた株式は証券会社が保管する。 (三)定められた期日内にこの株式の売り付け、または代金を支払い現物で引き取ることを行う。 (四)買い付け時と売り付け時の代金の差額を受け取る、または支払う。 ●株式買い付け時より株価が上昇すれば、上限なく利益となる。 ●株価が下がり倒産等により無価値となった場合、損失は最大となる。 信用取引で売買した株式は名義の書き換えを行うことはできず、配当金および株主優待を受け取ることもできない[1]。投資家は証券会社に対して売買の手数料のほか、借り入れた資金の金利分を支払う[注 1][注 2]。 現物で株式を買い、それを担保に同株式を信用取引で買うことを信用2階建て、借入した金銭で現物で株式を買い、それを担保に同株式を信用取引で買うことを信用3階建てと言う。ただし株価が下げた場合は通常の信用取引よりも多大な追証や損失が発生する。 なお、﹁空買い﹂の呼称もあるが、一般的ではない。信用売り[編集]
流れ[編集]
信用売りを行う際の大まかな流れは以下のとおりである。 (一)投資家は証券会社より株式を借り入れ、それを市場で売却する︵空売りの呼称が一般的。ハタ売りとも︶。 (二)売却代金は証券会社が管理する。 (三)定められた期日内に同じ銘柄の株式の買い付けを行う。 (四)売却時と買い付け時の代金の差額を受け取る、または支払う。 ●株式売却時より株価が下がれば利益が得られる。また、 倒産等によって株式が無価値となった際に最大の利益となる。 ●反対に株価が上昇した場合には損失となり、その限度がない。 売却と買い付けが配当権利日を跨いだ場合は、配当金に相当する額を証券会社に支払わなければならない。逆日歩とは[編集]
投資家は売買の手数料のほか、株式を借りたことによる貸株料を支払う[2]。 これに加え、借り入れようとする株式が少なく、調達にコストがかかるときがあり、この場合には﹁逆日歩︵ぎゃくひぶ︶﹂としてさらに費用を支払う[3]。 ただし、売却時の代金を証券会社に預けることになるので、これに対しては金利︵日歩︶を受け取ることができる。 又、先物取引は、理論的には物理的に不可能な取組高の全量の受けの要求など受渡しの不安要素を除けば、差金決済が前提のため、理論上、無限の取組高が可能なのに対し、発行株式数に限りがあるため、受渡しの観点から現物株が背景の信用売りには一定の限度がある。信用取引口座[編集]
信用取引口座は、株式取引に使用できるブローカーとの融資口座です[4][5]。 信用融資で利用可能な資金は、トレーダーが所有し、融資の担保として提供する有価証券に基づいて、ブローカーによって決定されます[6][7]。 ブローカーは通常、各証券の価値のうち、トレーダーをさらに前進させるために使用させる割合を変更する権利を持っているため、利用可能残高が実際に使用される金額を下回った場合、マージンコールを行う可能性があります。いずれの場合も、ブローカーは通常、金利と証拠金口座に引き出した金額に対するその他の手数料を請求します。 信用取引口座には、相互信用取引口座と分離信用取引口座がある[8]。 分離証拠金モードでは、各取引ペアに保有され、貯蓄やその他の取引は、その取引ペアの基準通貨と気配値通貨に限定されます。 信用取引口座の現金残高がマイナスの場合、その金額はブローカーに支払わなければならず、通常は利子がつく[9]。 現金残高がプラスの場合、口座の所有者はその資金を再投資することができ、また所有者が引き出すことも、口座に残しておくこともでき、利息を得ることができる。信用売買の決済方法[編集]
上記のように、通常の信用取引では、反対売買︵買いの場合は売却、売りの場合は買い付け︶により決済しその差金を遣り取りするが、それ以外に、買いの場合に借り入れた金額を現金で差し入れて当該株式を取得したり︵現引き・品受、しなうけ︶、売りの場合で借り入れた株式を別途現物買いし、これを差し入れ︵現渡し・品渡、しなわたし︶るといった現物決済が行われることもある。又、信用取引と現物取引の区別はされているが、金銭消費貸借契約や株式消費貸借契約の部分を除けば実態は信用取引と現物取引は、同一市場で、取引されていて、清算機関にて現金と株式で決済されているから、そういう意味では同じことになる。日本の信用取引銘柄[編集]
国により事情は異なるが、日本の場合、信用取引は全ての上場銘柄について可能なわけではなく、特に空売りができる銘柄はごく一部のものに限られている。また、信用取引には取引制度の違いにより、制度信用取引と一般信用取引との2種類があり、それぞれに取引可能な銘柄が定められている。制度信用取引[編集]
制度信用取引は、証券取引所が一定の基準で選択した銘柄のみを扱い、金利︵または貸株料︶や弁済期限も一律に定められている。制度信用取引は、信用取引のために株や資金の貸出しを専門に行っている証券金融会社より、証券会社が株や資金を借入れて、投資家の注文を処理する仕組みとなっている。 ただし、株の貸出しに関しては制度信用取引の銘柄全てについて行われているのではなく、基準を満たした一部の銘柄に限られている。一般に制度信用取引が可能な銘柄を制度信用銘柄、貸株が認められ空売り可能な銘柄[注 3] を貸借銘柄と呼んでいる。一般信用取引[編集]
対する一般信用取引は、各証券会社が自己の裁量で自由に設定することが認められたもので、概して返済期限が制度信用取引のそれ︵買い/売りともに6ヶ月︶に比べて長め︵3年、無期限など︶に設定される。金利や貸株料も制度信用取引と同等か若干高めの設定となっている。対象銘柄も当該証券会社が定めたものとなるが、信用買いについては制度信用取引銘柄でない銘柄を含め全銘柄が対象となっていることが多い。一方、信用売りについては扱っていない証券会社が多く、扱っている証券会社も取扱対象は限定的な銘柄にとどまっている。追加保証金[編集]
追加保証金は略して追証︵おいしょう、英: margin call︶とも呼ばれる。 追加保証金とは、委託保証金率が最低保証金維持率︵概ね30%以下、証券会社により維持率は異なる︶を下回ったときに、追加の保証金を入金することを言う[10]。 なおデリバティブ取引の追加証拠金も﹁追証﹂と略す。委託保証金率[編集]
- 委託保証金率 = 実質保証金 ÷ 建代金合計 × 100
- 信用取引の担保 = 委託保証金現金 + 代用有価証券の評価額
- 実質保証金 = 信用取引の担保 - (評価損 + 決算損 + 諸経費)
私設取引システムの信用取引[編集]
詳細は「私設取引システム」を参照
アメリカでは私設取引所でも信用取引が可能だが、以前は日本の私設取引システム︵PTS︶市場で信用取引を行うことはできなかった[11][12][13]。しかし、金融庁が﹁金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針﹂を改正し、2019年8月からPTSでの信用取引が解禁された[14][15]。PTSを運営する金融商品取引業者が信用取引を取扱う場合は、﹁利益相反防止措置﹂と﹁自主規制措置﹂を講じなければならない[14]。
●利益相反防止措置‥当該金融商品取引業者やそのグループ会社が実質的な資金・株券の提供者とならないようにすること[14]。
●自主規制措置‥金融商品取引所の自主規制機能と同等の措置を講じること[14]。
2022年6月には、SBIグループのジャパンネクスト証券︵JNX︶、Cboeグローバル・マーケッツ傘下のCboeジャパン[16]に続く第3のPTS運営会社として、SBI系の大阪デジタルエクスチェンジ︵ODX)が株式PTS事業に新規参入した。
PTS にかかる規制緩和が行われ、日本証券クリアリング機構︵JSCC︶における清算解禁により、取引後の決済が取引所と全く同じになったことや、信用取引が PTS でも可能になったことで、PTSの市場シェア増加につながっている[15]。取引所取引に対するPTS取引の割合︵売買代金ベース︶の推移を見ると、信用取引の解禁前はJNX・Cboeジャパン・ODXの3社合計で5%程度だったが、2022年8月末時点では13.2%まで増えてきている[17]。
注意点[編集]
信用取引で株や資金を借りた際には、貸株料や金利が毎日発生する[18][19]。また、権利確定日をまたいで売り建てている場合は配当金に相当する金額を支払わねばならない。この金額は配当落調整金と呼ばれ、買い建てている者に支払われる。 信用取引では、自己資金以上の取引が可能なため、不用意に大きな取引を行ってしまい、予測が外れて借りていた株式や株式の購入資金を、定められた日までに返済できなくなる事態に陥ることもある。 過去には、このような信用取引の危険に対して利用に大きな制約を課してきたが、近年になり委託保証金の最低額を少なくしたり、審査の簡易化などが行われ、利用者が増加傾向にある。なお、このような傾向は投資家の利便性を高めることに繋がっているが、必ずしも投資家本位の改革ではなく、証券会社の収益源確保の必要性から進められている側面がある。 買い方、売り方共に、30日以上建て玉を維持している場合、1株当たり10銭の信用取引管理費が発生し、 また、信用買いをしている場合で、決算期末や増資の割当日などを越えて建玉を保持している場合は、1単元あたり50円︵税別︶の名義書換料が発生する。税金[編集]
信用取引の決済方法には、返済売買と現渡、現引、があり、それぞれ課税方法がある[20][21]。 ︻返済売買︼ 売買決済した際の差益が課税対象となる。 申告分離課税が適用され、税率は20.315%︵所得税15.315%、地方税5%︶となる。 ︻現渡︼ 現渡した際の差益が課税対象となる。 申告分離課税が適用され、税率は20.315%︵所得税15.315%、地方税5%︶となる。 ︻現引︼ 現引を行った時点では損益は確定せず、現引後、当該株式を売却した時点で、はじめて課税対象となる。関連項目[編集]
- 先物取引
- 先物取引所の一覧
- 証券市場
- 日経225先物取引
- 株価指数先物取引
- カルテル
- 公益通報者保護法
- 非市場経済
- 評価損益
- 証券金融会社
- 権利確定日
- 権利落ち日
- 空売り
- つなぎ売り
- ヘッジファンド
- 個人投資家
- デイトレード
- オー・エイチ・ティー
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
(一)^ 証券会社より﹁配当調整金﹂として配当金相当の金額を受け取る。
(二)^ 売り方が支払う貸株料は受渡日ベースでの両端入れ計算
(三)^ 受渡日ベースで初日不算入の片端入れの計算
(四)^ “Margin Account: Definition, How It Works, and Example”. www.investopedia.com. 2023年9月22日閲覧。
(五)^ “Buying on Margin: What Is a Margin Account?”. www.forbes.com. 2023年9月22日閲覧。
(六)^ “Using your securities to borrow money”. www.fidelity.com. 2023年9月22日閲覧。
(七)^ “Margin and Margin Trading Explained Plus Advantages and Disadvantages”. www.investopedia.com. 2023年9月22日閲覧。
(八)^ “マージン取引に関する用語集”. www.bitget.com. 2023年9月22日閲覧。
(九)^ “How do you pay off margin balance?”. greed-head.com. 2023年9月22日閲覧。
(十)^ 追証はなぜ支払わなければならない? 信用取引と保証金の仕組み ZUUオンライン 2018年5月1日
(11)^ “株の信用取引、夜間も17年にも証取外で解禁”. 日本経済新聞 (2016年8月26日). 2023年12月30日閲覧。
(12)^ “第2回﹁東京国際金融センターの推進に関する懇談会﹂議事次第”. 日本証券業協会. 2015年1月15日閲覧。
(13)^ PTS における信用取引の解禁 金融審市場WG報告︵大和総研 金融調査部 主任研究員 横山淳著 2017年1月26日公開︶ 2017年1月27日閲覧
(14)^ abcd“﹁金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針﹂の一部改正︵案︶の公表について”. www.fsa.go.jp. 2023年12月30日閲覧。
(15)^ ab“PTSウェビナー﹃市場インフラの一翼を担うPTS —基本的な役割と今後のビジネス展開について—﹄”. 大阪デジタルエクスチェンジ株式会社. 2023年12月28日閲覧。
(16)^ “About | Cboe”. www.cboe.co.jp. 2023年8月6日閲覧。
(17)^ “金融審議会﹁市場制度ワーキング・グループ﹂︵第21回︶事務局説明資料︵成長資金の円滑な供給、市場インフラの機能向上等︶”. 金融庁企画市場局市場課. p. 29. 2024年1月16日閲覧。
(18)^ いずれも、受渡日ベースでの両端入れでの計算
(19)^ 最高裁昭和33年6月6日判決民集12巻9号1373頁参照
(20)^ “建玉を決済した場合の税金はどうなりますか? | マネックス証券”. faq.monex.co.jp. 2022年2月1日閲覧。
(21)^ “信用取引の税金の取扱について教えてください。 | よくあるご質問 | GMOクリック証券 - 業界最安値水準の手数料体系!GMOクリック証券ではじめる株取引”. faq.click-sec.com. 2022年2月1日閲覧。
外部リンク[編集]
- 「日米の空売り規制」(野村資本市場研究所 研究レポート1999年冬号)
- 信用取引等に係る譲渡益の計算 - 国税庁
- 信用取引とは? - 楽天証券
- 信用取引のしくみ - 日本取引所グループ