奇跡の詩人
奇跡の詩人 ~11歳 脳障害児のメッセージ~ | |
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ジャンル | ドキュメンタリー番組 |
出演者 | 日木流奈 |
製作 | |
制作 | NHK |
放送 | |
放送国・地域 | 日本 |
放送期間 | 2002年4月28日 |
放送枠 | NHKスペシャル |
放送分 | 49分 |
NHKスペシャル |
﹃奇跡の詩人﹄︵きせきのしじん︶は、2002年4月28日にNHKの﹃NHKスペシャル﹄で放送されたドキュメンタリー番組。正式名称は﹁奇跡の詩人 〜11歳 脳障害児のメッセージ〜﹂である[1]。
重度の脳障害を抱えながら、文字盤を指すことによる執筆活動で、人々の反響をよんでいた少年︵以下、全て当時︶・日木流奈︵ひき るな︶をとりあげた番組である。その番組内容について視聴者から批判があり、後にNHKが釈明番組を放送する事態となった。
概要[編集]
1990年の出生時より先天性腹壁破裂を抱えて手術するも、低酸素性虚血性脳症の後遺症によって、脳障害を持つに至った横浜市在住[2]の少年・日木流奈をとりあげた。日木は3歳になった1993年より、障害の民間治療としてドーマン法︵人間能力開発研究所を興したグレン・ドーマンの考案によるためこの名がある︶またはファシリテイテッド・コミュニケーション︵FC法。﹁ファシリテイティド﹂、﹁ファシリテイテッド﹂とも︶と呼ばれるアメリカ発のリハビリ療法を受けており、文字盤にある文字を︵母・千史の補助によって︶指すことで、他の人とコミュニケーションをはかることを可能としている。また、リハビリを毎日続けながら、その意志通達方法を使って執筆した詩が、書籍として出版。番組放送前の2002年3月まで講演活動も行い、多くの読者・聴衆に反響を与えた。重度障害児の少年がこのようなことを可能としたのは、ドーマン法の成果であると紹介された。問題点および視聴者の反応[編集]
番組内では、日木が指したい文字を母親が読み取り、それに応じた手の動きを感知して文字盤の上の文字を高速で読み取り、それを口述できるとされた。しかし、この番組を視聴した視聴者の間で、母親が息子の手を持って文字盤を指している場面で、文字を指す日木の手と、文字盤を持つ母親の手が同時に動いている、また、息子があくびをしたり、よそ見や居眠りをしたりしている間も正確に文字盤を指している[3]、﹁混沌の中﹂などの語彙や淀みのない丁寧体の言葉遣いといった文章の内容が11歳の子供のものとは思えない、など不自然な場面が多々見られるという指摘がなされ[4]、﹁母親が少年の手を動かして文字盤を指させているのではないか﹂﹁ドーマン法は本当に効くのか﹂という疑問が沸き起こった。こうした経緯から、インターネットを中心にその内容の信憑性をめぐって議論になった。この疑問を巡っては﹃異議あり!﹁奇跡の詩人﹂﹄という批判本も出版された。批判派は、これが事実であるかどうか確認するために﹁母親が目隠しして、日木に何かを書いた紙を見せ、その後に今見たものは何かを尋ねる﹂などの第三者による厳密な検証をすべきだと主張している。しかし、父・貴はこうした検証を拒否しており、事実であるか疑わしい。 また両親が、まだ言葉の理解できない乳児である妹に対し、兄に﹁優しく触ること﹂などといった決まりごとを設け、それを守らなかったためにその妹を、部屋から追い出す様子も放送された。この場面に対しても、視聴者の間では﹁児童虐待ではないか﹂と問題視された。 番組に対して少なくない批判を受けたNHKは、特別に会見番組を放送するなどして﹁信憑性を否定する事実は無い﹂と広報し、番組内容に関する謝罪等は一切行わなかったが、番組制作当事者以外の専門家による意見や科学的な検証などは示さなかった。なおNHKは、この番組について、﹃NHKスペシャル﹄の番組で通常行われる再放送や海外での放送を取りやめた。日本小児科学会倫理委員会は、番組の中で紹介されているいくつかの治療方法に関して、医学的および科学的な見解から疑問を感じるとし、NHKに公開質問状を送ったが、やはり﹁番組作成者が間違いないと感じているので、間違いとは考えにくい﹂という弁明を受けた。 また、放送から数日後、講談社から日木著とされる﹃ひとが否定されないルール﹄が﹁NHKスペシャル大反響﹂の帯付きで発売され、NHKと講談社とのタイアップ疑惑も指摘された︵これについてNHKは否定している︶。釈明放送[編集]
同年5月11日放送の﹃土曜スタジオパーク﹄内で、番組製作責任者の山元修治チーフプロデューサー(2014年現在NHK金沢放送局局長[5] )が﹁奇跡の詩人﹂についての説明を行った。少年が自分で文字盤を指しているように見えたので、事実であるとした。その後[編集]
2021年、日木流奈は一部のネットメディアにおいて母親と共に取材に応じている[6]。それによると、母子ともに健在だという。さらに、この取材において父親および妹の所在も確認できる。脚注[編集]
(一)^ “奇跡の詩人~11歳 脳障害児のメッセージ~”. www6.nhk.or.jp. 日本放送協会 (2002年4月28日). 2021年4月2日閲覧。
(二)^ 毎日新聞﹁視聴室﹂、﹁希望に満ちた流奈君の日々﹂、2002年4月28日
(三)^ 森達也﹃ドキュメンタリーは嘘をつく﹄草思社、p.130
(四)^ 放送前日4月27日付の﹃しんぶん赤旗﹄﹁試写室から﹂欄が当番組を紹介したのに対し、2002年5月4日付同紙投書欄﹁読者の広場﹂に﹁﹃奇跡の詩人﹄番組の検証必要﹂の見出しで﹁試写室の解説のとおりに素直に受け止められなかった。映像からは、この子の表現したいことがそのまま伝えられているのか、なにか親の意図があるのではないかと思ってしまう。意図的な操作がなされていないか、番組の検証が必要だと思った﹂との意見が掲載された。
(五)^ ﹁金沢放送局、新たなステージへ!﹂NHK金沢放送局局長 山元修治 (PDF)
(六)^ 日木流奈さんインタビュー/第7回 私は心の世界を覗く人にとっての重石なんです
参考文献[編集]
●日木流奈﹃ひとが否定されないルール ―妹ソマにのこしたい世界﹄︵講談社、2002年5月7日、ISBN 4062113120︶
問題にされた書籍。
●﹃異議あり!﹁奇跡の詩人﹂﹄ ︵滝本太郎・石井謙一郎共編著、同時代社︶、2002年6月 ISBN 4886834752
番組およびFC法に対する批判・反論。
●﹃と学会年鑑2002﹄ ︵と学会著、太田出版、2002年1月︶ ISBN 4872336372
巻末の第10回日本トンデモ本大賞選考︵2001年8月18日開催︶において、ノミネート外作品として﹃伝わるのは愛しかないから﹄︵ナチュラルスピリット、2000年6月、﹁奇跡の詩人﹂放送前に発表されていた日木流奈の著書︶を紹介。
●﹃と学会年鑑BLUE﹄ ︵と学会著、太田出版、2003年4月︶ ISBN 4872337476
と学会メンバーの藤倉珊が﹃伝わるのは愛しかないから﹄の内容を紹介。と学会例会で発表されたのは2001年で﹁奇跡の詩人﹂放送前であったため︵﹃と学会年鑑BLUE﹄の出版は2003年︶、付記で番組を批判。
●﹃ハインズ博士﹁超科学﹂をきる﹄ ︵テレンス・ハインズ著、井山弘幸訳、化学同人、1995年3月︶ ISBN 4-7598-0275-4
15章﹁はびこるいかさま療法﹂の中で、ドーマン法の問題点や科学的間違いを指摘している。
●﹃SKEPTICAL INQUIRER﹄ May/June 2003,P.12-13︵The `Miracle Poet` Case,SADAHIKO NAKAJIMA︶
アメリカの科学的懐疑主義雑誌に投稿された、日本人による番組の概要解説および内容批判の記事。
●﹃こっくりさんはなぜ当たるのか﹄︵安斎育郎著、水曜社、2004年7月23日︶ISBN 4-88065-122-2