枕投げ
枕投げ︵まくらなげ︶は、複数人で枕を投げ合う遊戯である。複数の参加者と、適当な広さの場所、十分な数の枕があれば実行できる。また、チームを組んで行うこともある。移動教室や修学旅行などの学校の宿泊行事で、しばしば教師の目を盗んで行われる。枕合戦・ピローファイティングとも呼ぶが、これはピローファイト︵枕叩き︶を意味する場合もある。
日本の伝統的な﹁枕投げ﹂にルールを設定してスポーツ化された﹁全日 本まくら投げ大会in伊東温泉﹂。
2013年からは静岡県伊東温泉にて﹁全日本まくら投げ大会in伊東温泉﹂が開催されている。これは﹁まくら投げ﹂のスポーツ化に近く、8対8のドッジボール形式で実施され、ルールは40畳のフィールド内で、温泉浴衣を着用しクラッシュラテックスの素材の入った専用枕が使われる。大将、アタッカー、リベロ、サポーターという4つの役割が存在しており、布団を盾にして防御が可能、大将が当たったらその場で負け、﹁先生が来たぞ〜﹂コールによって10秒間試合の進行を止めて相手陣地の枕を回収が出来る等、一般的にイメージされる枕投げに近づける形でルールが制定された。伊東温泉だけではなく全国的な予選会へも発展し、伊東温泉発祥の公式ルールが浸透している。伊東温泉発祥の公式ルールを用いて実施される枕投げのことを﹁スポーツ枕投げ﹂と呼ぶこともある。[18]
歴史[編集]
枕投げの歴史は、現在のところ、ほとんど分かっていない。﹁枕投げ﹂という言葉そのものも、多くの国語辞典には未記載の語であり[1]、文献上の初出例も明らかでない。 江戸時代初期に使われていた括り枕の構造は現在のものに近いが[2]、髷を結うのが一般的であった江戸時代中期から明治・大正頃までは木箱に小型の括り枕を括りつけた箱枕や木材を加工した撥枕、陶磁器製の陶枕なども多く使われていた[3][4]。 枕投げがいつ頃始まったかを示す決定的な資料はないが、1924年︵大正13年︶に出版された﹃東京市立小学校児童 震災記念文集 高等科の巻﹄という書籍[5]に掲載されている児童の作文に、﹁枕投げ﹂が出てくる。 思い出せば去年の八月我が高等小学校生徒数十人で武州の御嶽山へ登山した事があった。彼の時は実に面白かった。昼の疲れを忘れて床の中で枕投げをした。室は暗い誰が投げたか、枕は友人に当った、友人は思わず痛いと声を上げた。此の声を聞くと皆クスクスクスと笑い出した。 — 東京市学務課︵編︶﹃東京市立小学校児童 震災記念文集 高等科の巻﹄培風館、1924年︵大正13年︶、293ページ[5]。 旧字旧仮名遣いの原文を新字新仮名遣いに改めて引用。文字強調は引用者。 また太平洋戦争末期に沖縄県から学童疎開した対馬丸の生存者が、﹁船内で枕投げに興じた﹂旨の証言をしている[6]。醒泉国民学校︵京都市下京区︶の1943年卒業生の体験談にも枕投げが登場する[7]。 西鉄観光バス︵福岡県︶が2004年、現在の団塊世代向けに修学旅行を再現する旅行を企画したところ、再現の要望が一番強かったのが旅館での枕投げだったという[8]。また、2010年には石川県の温泉旅館が同窓会向けとして枕投げ専用枕を用意するなどの宿泊プランを実施している[9]。その背景には、主に1950年代から70年代の修学旅行の話で枕投げの思い出が数多く登場するように[10]、枕投げが最も親しまれたのが団塊世代だったということがある。競技化[編集]
比較的大規模なイベント等で行われる枕投げでは、独自のルールが設定されることもある。たとえば、2001年に兵庫県有馬温泉・岡山県湯原温泉・広島県宮浜温泉で順次開催された﹁温泉旅館まくら投げ世界選手権﹂[11]においては、あたかも砲丸投げのように、投擲エリアから着地エリアに向けて枕を投げ、飛距離を競うことを目的とした。しかしながら、これは遊戯というよりは競技であり、一般にいわゆる枕投げの概念とは必ずしも相容れない[12][13][14]。2014年大会には室伏由佳も出場し世界記録を出したが直後に学生時代のライバル選手に記録を更新された[15]。 また、米ニューヨークやサンフランシスコなどの﹁ピローファイト﹂[16][17]の催しが﹁枕投げ﹂として紹介されることがあるが、これは、枕で互いに相手を打擲する遊戯ないし一種の格闘であり、一般的に考えられている枕投げとは異質である。中国湖南省長沙市での﹁枕頭大戦﹂は、相手に枕を投げたり、相手を枕で打ったりするもので、日本の修学旅行での枕投げと似る部分もあるが、イベントとして戸外で盛大に行われる点が異なっている。受賞[編集]
スポーツ枕投げ専用の競技枕やユニフォーム用の温泉浴衣が開発され、テレビのバラエティ番組や企業PRにも活用されている。 世界でも権威ある広告賞﹁アドフェスト︵アジア太平洋広告祭︶2021﹂で、スポーツ枕投げの一連の広報宣伝活動を高く評価され、広告祭の独自賞として知られる﹁ロータス・ルーツ﹂部門の最優秀賞に輝いた。同部門での日本の受賞は静岡県伊東市のみ。脚注[編集]
(一)^ ﹃三省堂国語辞典﹄では、第6版︵2008年︶に初めて記載された。これが国語辞典としては初出とみられる。
(二)^ “括り枕”. コトバンク. 2012年3月2日閲覧。
(三)^ Savemation 2003年1月号、P.2
(四)^ “夫婦枕︵箱枕︶︵めおとまくら︵はこまくら︶︶”. 三重県立博物館 (2011年2月24日). 2012年3月2日閲覧。
(五)^ ab﹁或一夜﹂﹃東京市立小学校児童 震災記念文集 高等科の巻﹄培風館、1924年9月1日。︵オンライン版当該ページ、国立国会図書館デジタルコレクション︶
(六)^ “NHK 戦争証言アーカイブス”. 日本放送協会. 2012年5月23日閲覧。 ※枕投げに関する証言はリンク先動画の再生時間13分17秒あたり。
(七)^ “修学旅行の﹁枕投げ﹂消えた? 多忙な日程、小部屋に宿泊…”. 京都新聞(2015年4月18日). 2015年5月7日閲覧。
(八)^ ﹃読売新聞﹄西部夕刊 2004年1月22日付﹁懐かしの修学旅行再現 ガイドは濃紺・白襟 食事はカレー・給食/西鉄観光バス﹂。なお、枕投げの要望についてバス会社社長は﹁こればかりはねぇ﹂とコメントしている。
(九)^ “加賀の温泉旅館が﹁大人のための修学旅行﹂企画-枕投げ用枕貸し出しも”. 金沢経済新聞 (2010年8月31日). 2012年3月3日閲覧。
(十)^ “修学旅行の﹁枕投げ﹂消えた? 多忙な日程、小部屋に宿泊…”. 京都新聞(2015年4月18日). 2015年5月7日閲覧。
(11)^ ウェブサイト﹁温泉旅館まくら投げ世界選手権﹂を参照。
(12)^ 温泉旅館まくら投げ世界選手権
(13)^ 温泉まくら投げ世界選手権
(14)^ 広島・宮浜温泉で﹁まくら投げ世界選手権﹂-グラウンドゴルフ場舞台に開催
(15)^ 第13回まくら投げ世界選手権in宮浜温泉!
(16)^ ﹁エキサイトニュース﹂2006年2月21日﹁NYで枕投げ大会が人気急上昇中!﹂。
(17)^ ﹁AFPBB News﹂2009年3月11日﹁外で枕投げ大会、米サンフランシスコ市当局が﹁マナー守って﹂﹂。
(18)^ 全日本まくら投げ大会(公式)
参考文献[編集]
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 温泉旅館まくら投げ世界選手権 - 飛距離競争
- 全国まくら投げ大会