毛糸
毛糸︵けいと︶は、羊毛やその他の獣毛などを原料としてつむいでつくった糸[1]。
編み物や毛織物に使われる。また毛糸刺繍などにも使われる。
業務用で大量使用されるものは、主にコーン巻きやカセという状態で流通している。[注釈 1]
一方、一般家庭用は、主に手編み︵"編み物"︶用なので、主に﹁玉巻き﹂状態で販売されており、そのラベルには、素材、太さ、適正号数︵かぎ針・棒針のサイズ︶、標準ゲージ、1玉の糸長や標準重量、色番やロットナンバー︵後述︶などが記載されている。
なお、本来は天然のウール︵哺乳類のアンダーコート。羊毛やその他の獣毛︶を原料としたものだけを毛糸と呼ぶが、その後、それに意図的に質感を似せて開発された、アクリル製のふわふわした糸も﹁アクリル毛糸﹂などと呼ぶことが︵アクリルは﹁毛﹂ではないので、本来は正しくないが︶便宜上、一部で行われるようになった。[注釈 2]
︵さらに編み物好きで、繊維産業のプロではない、素人たちの一部、特に辞書や百科事典も調べない若者などの間で、﹁毛糸﹂の意味を﹁編み物用の糸﹂の意味だとうっかり勘違いしている人がいて、正しくは﹁編み糸﹂と呼ぶべきものまで﹁毛糸﹂と呼んでしまうことがあるが、これはまったく正しくない。辞書や百科事典などには、そのような用法は掲載されていない。[注釈 3]︶
生産[編集]
ウールの繊維をつむいで毛糸を作る。 紡績と染色の前後関係は、染めてから紡績する方法と、紡績してから染める方法がある。→#染色方法による分類で解説。-
ウールを紡いで毛糸を作る(博物館の歴史展示)
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手作業で行う毛糸のつむぎ(ネパール)
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ウールを染色する作業
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多様な色に染められた毛糸
本来の毛糸︵動物繊維を素材とした糸︶の種類[編集]
●ウール︵羊毛︶ - メリノ、コリデール、シェトランドなど、羊の品種によってさらに分類される。 ●紡毛糸︵ぼうもうし、woolen yarn︶ ‥ 短い繊維を綿状にし、絡み合わせながら引き伸ばしたもの。一般的な毛糸はほとんどが紡毛糸である。洗いをかけることで風合いが増し、縮絨加工や、フェアアイルニッティングにおけるスティーク処理に適している。 ●梳毛糸︵そもうし、worsted yarn︶ ‥ 長い繊維を一方向に揃えて整え︵この状態を﹁スライバー(Sliver)﹂と呼ぶ︶、細く引き伸ばしたもの。滑らかで光沢があり、紡毛糸よりも高価。 ●モヘヤ アンゴラヤギの毛[注釈 4]を紡いだもの。光沢があり、柔らかく弾力性に富む。起毛加工したものがほとんど。 生後1年未満の仔ヤギから刈り取った初毛のみを用いたキッドモヘヤもある。 ●アルパカ ウールよりも軽くて保温性が高く、毛玉ができにくい。染色せず生成りのままでも、クリーム色、濃淡の茶色、グレー、黒など、カラーバリエーションが豊富。 アルパカの毛の中でも柔らかい繊維のみを使用したベビーアルパカもある[注釈 5]。また、一般的なアルパカはファカヤ︵ワカイヤ︶種だが、希少なスーリー︵スリ︶種の毛を用いたスーリーアルパカもある。 ●カシミヤ カシミアヤギの毛を紡いだもの。ウールよりも繊維が柔らかいため肌刺激も少なく、保温性も高いが、耐久性にはやや劣る。 ●アンゴラ アンゴラウサギの毛を紡いだもの。非常に軽く保温性が高いが、摩擦に弱く、抜け毛も多い。 ●ヤク 柔らかくて保温性が高く、耐久性もある。繊維のほとんどが茶色であるため、毛糸にした場合のカラーバリエーションが少ない。撚りによる分類[編集]
S撚りとZ撚り ●単糸︵Single ply︶ 1本だけを撚り上げたもの。独特の風合いを持つが、力がかかった場合に﹁抜け﹂︵繊維同士の絡みがほぐれて離れてしまうこと︶が起こりやすい。また、編み地が斜めに歪む﹁斜行﹂が出やすい。 ●双糸︵そうし、2-ply︶ 2本を撚り合わせたもの。最も一般的。 ●三子糸︵みこいと、三本子、みっこ、3-ply︶ 3本を撚り合わせたもの。撚り本数が増えていくと四子糸、五子糸と呼ばれるが、4本以上撚り合わせたものを多子糸︵たっこ︶と呼ぶこともある。十数本を撚り合わせたものもある。 また、双糸同士をさらに撚り合わせたものなど、さまざまなパターンがある。 撚りの強弱による分類もあり、撚りの弱いものを甘撚り糸、撚りの強いものを強撚糸という。甘撚り糸をロービングヤーンと呼ぶこともある。 撚り方向による分類もあり、時計回りに撚ったものをS撚り、反時計回りに撚ったものをZ撚りという。 複数の糸を撚り合わせる場合は、バランスが取れるように両方向の撚りを組み合わせる。太さによる分類[編集]
日本における分類︵細→太︶ 極細、合細、中細、合太、並太、極太、超極太 英語圏における分類︵細→太︶ Cobweb、Lace、Light Fingering、Fingering、Sport、DK(Double Kntting)、Worsted、Aran、Bulky(Chunky)、Super Bulky(Chunky)、Jumbo いずれも明確な規格があるわけではなく、慣用的な分類である。染色方法による分類[編集]
●原料染め - 採取したウールを綿のような状態の段階で染めるもの。 ●トップ染め - 糸にする前の段階、繊維の束︵トップ︶の段階で染めるもの。ウール繊維はまずゴミを取り除いたり繊維の方向を整えたりした後に、繊維をまるでロープを巻いたような束にする。この状態を﹁トップ(top)﹂といい、トップの状態で染めるのでトップ染めという。次に説明する糸染めに比べて染色堅牢度︵せんしょくけんろうど。変色・退色しにくい度合い︶が優れている。またトップ染めだと、複数の色の繊維をブレンドして糸にすることができ、糸染めにはない独特の深みのある色合いを作り出すことができる[4]。たとえば深みのある色合いの高級服地は、肉眼では一見無地に見えても、実はトップ染めした複数色の繊維を混ぜた糸で作られているものが多い[5]。[注釈 6] ●糸染め - 紡績して糸の状態にしてから染めること。 ●カセ染め - 糸染めの中でも、カセの状態にしてから染めること。伝統的な手染めや少ロット生産で行われる。次に説明する﹁チーズ染め﹂より染めムラが少ない。 ●チーズ染め - 糸染めの中でも、染色用の穴あきボビンに巻いた状態︵チーズ巻き︶で染めること[6]。カセ染色に比べてバルキー性︵ふんわり感、かさ高感︶はやや低下するが、染色作業の能率は向上し、糸の乱れも無い。チーズ染めは、巻きがきつすぎると染料がうまく中心まで入らず巻きの内外で染まり具合の差︵染めムラ︶ができてしまう。逆に巻きが緩すぎても崩れてしまい、それも染めムラの原因になる[6]。 染色単位をロットといい、ラベルには必ずロットナンバーが記載されている。同じ色番でも、ロットが違うと微妙に色味が異なることがあるためである。 段染め︵多色染め、かすり、プリント︶玉巻きの段染め糸 ●漬け染め - 最も古くからある技法。複数の染色液にカセを部分的に浸すことで色の変化を作る。 ●スペース・ダイイング︵Space Dyeing︶ - カセまたはトップを金型で圧迫して仕切り、仕切りごとに異なる色の染料をノズルで吹き付ける。色変化のピッチをさまざまに調整できる[7]。 ●スプレー染め - 異なる色の噴霧器を並べて糸に染料をスプレーしたのち、糸をローラーで圧縮して色の変わり目をにじませる[7]。 多色染めに対して、単色のものはソリッドともいう。その他の "毛糸"[編集]
本来は﹁毛糸﹂と呼ぶべきではないが、化学繊維を使い毛糸の質感に似せた糸が開発された結果、販売店の便宜上の名称として、そしてその結果、素人たちの間で、合成繊維名+毛糸 の組み合わせの名称で︵﹁アクリル毛糸﹂などと︶呼ばれることがあるもの。 合成繊維 ●アクリル ウールは虫害に遭いやすく、洗うことで縮んだり、繊維が肌を刺激することがあるため、その代替素材として広く用いられるようになった。 安価で発色が良く軽いが、保温性や吸水性はウールには劣り、毛玉ができやすい。 ﹁モヘア﹂とラベルに書いてあっても安価なものは実際には本物の毛糸ではなく﹁アクリル毛糸﹂であることが多い。 ●ナイロン 衣料用繊維の中で最も強度がある。天然繊維の耐久性を高めるため、ウールやコットンに少量混紡されることが多い。 ●ポリエステル ナイロンに次ぐ強度があり、熱にも強いが、毛玉ができやすい。
脚注[編集]
注釈[編集]
(一)^ 実際には、この流通量のほうが非常に多いのだが、一般家庭の人々の目には見えていない︵だけ︶。 (二)^ だが実は、繊維業界のプロは、アクリル毛糸を、合成繊維名抜きで﹁毛糸﹂とは呼ばない。あくまで販売店などで素人向けに﹁アクリル毛糸﹂などと呼んでいる結果、素人たちが﹁毛糸﹂と呼んでいるだけである。 (三)^ ﹃"毛"糸﹄は本来、本物の﹁毛﹂︵哺乳類の毛︶でできたものだけを呼ぶ。 (四)^ 現在では起毛毛糸全般を﹁モヘア﹂と呼ぶことが多いが、本来はアンゴラヤギの毛の繊維を﹁モヘ'ヤ'﹂︵モヘ'ア'ではない︶と称する[2]。 (五)^ ﹁ベビー﹂の名称から幼獣の毛を用いたものと思われがちだが、必ずしもそうではなく、成獣から取れる毛のうち特に細いものも﹁ベビーアルパカ﹂となる。[3] (六)^ 虫眼鏡や顕微鏡などで見ると複数色の繊維がブレンドされていると確認できる。出典[編集]
- ^ 『精選版 日本国語大辞典』【毛糸】
- ^ “「カシミア」「モヘア」と表示してはいけないのですか?”. 公益財団法人日本繊維検査協会. 2020年8月26日閲覧。
- ^ “アルパキータのこと”. アルパキータ. 2020年8月29日閲覧。
- ^ maruam「トップ染め」
- ^ [1]
- ^ a b Itobatake「チーズ染め」
- ^ a b 2012、『毛糸だま vol.153』、日本ヴォーグ社
関連項目[編集]