デジタル大辞泉 「まい」の意味・読み・例文・類語 まい[助動] ﹇助動﹈﹇○|○|まい|︵まい︶|○|○﹈五段活用動詞・助動詞﹁ます﹂の終止形、五段活用以外の動詞・助動詞﹁せる﹂﹁させる﹂﹁れる﹂﹁られる﹂﹁しめる﹂の未然形に付く。ただし、サ変では﹁せ﹂のほか﹁し﹂の形の未然形や、終止形﹁す﹂﹁する﹂にも付き、また、カ変は終止形﹁く﹂﹁くる﹂に付くこともある。 1 打消しの推量の意を表す。…ないだろう。 ﹁よもや化(ばけ)物(もの)ではあるまい﹂︿漱石・草枕﹀ ﹁我ホド不運ナ者ワマタモゴザルマイ﹂︿天草本伊曽保・パストルと狼﹀ 2 打消しの意志の意を表す。…ないつもりだ。﹁何があっても泣くまいと決心した﹂ ﹁人は嫁するとも我は嫁せまい。我は貞女ぞ﹂︿毛詩抄・二﹀ 3 禁止の意を表す。…てはいけない。 ﹁はずれたら笑うまいぞ﹂︿鴎外・佐橋甚五郎﹀ ﹁よい時分に迎へに行く程に、必ず物をいふまいぞ﹂︿虎寛狂・金津﹀ 4 ︵﹁…まいか﹂の形で︶勧誘・依頼の意を表す。﹁少しでもいいから寄付をしてくれまいか﹂ ﹁是はめでたい事ぢゃ程に、いざ囃(はやし)物をして戻るまいか﹂︿虎明狂・三本の柱﹀ 5 ︵﹁…うと…まいと﹂などの形で︶動作・作用を対比し、どちらも関係のない意を表す。﹁話そうと話すまいとぼくの自由だ﹂ 6 ︵現代語では多く﹁あろうことかあるまいことか﹂﹁なろうことかなるまいことか﹂の形で︶否定するのが当然・適当である意を表す。…するべきではない。…するはずがない。﹁あろうことかあるまいことか、子を殺すなんて﹂﹁思いどおりになろうことかなるまいことか、しっかり考えてみろ﹂ 7 ︵﹁あるまいし﹂の形で︶ ㋐打消しの意を伴った逆接条件を表す。…ないのに。﹁選手になれるわけでもあるまいし、よくおそくまでがんばるね﹂﹁身内でもあるまいし、よくそんなに面倒みられるね﹂ ㋑打消しの条件を伴った理由を表す。﹁もう子供ではあるまいし、自分のことは自分でやりなさい﹂ ﹁兄ではあるまいし、意見はいらぬもの﹂︿伎・傾城江戸桜﹀ 8 ︵﹁…まいに﹂の形で︶事実と反対を仮想する意を表す。﹁実の親だったらあんなしうちはしまいに﹂ [補説]室町時代以降に用いられた語で、﹁まじ﹂の音便形﹁まじい﹂の音変化から、﹁べし﹂と﹁まじ﹂の意味的相関関係から、また﹁べい﹂と﹁まじい﹂との対比で﹁べしい﹂形とこの﹁まい﹂形が生じたとする説などがある。室町時代には、﹁まじけれ﹂の口語形として、﹁水の中では見えまいけれども詩人が言ひなすぞ﹂︿毛詩抄・二﹀のように已然形﹁まいけれ﹂も生じた。現代語では、1には﹁ないだろう﹂2には﹁ないことにする﹂﹁のはよそう﹂などを用いるのが普通で、﹁まい﹂が用いられることは少なくなっている。 出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
精選版 日本国語大辞典 「まい」の意味・読み・例文・類語 まい (一)〘 助動詞 〙 ( 活用は﹁◯・◯・まい・まい・︵まいけれ︶・◯﹂。﹁まじ﹂の口語形。一般に、五︵四︶段活用の動詞には終止形に、その他の動詞には未然形に付く。→語誌(1) ) (二)① 当然・適当の意の打消を表わす。…はずがない。…べきでない。 (一)[初出の実例]﹁学問をせいではかなうまい事ぢゃけると思たものぞ﹂(出典‥漢書列伝竺桃抄︵1458‐60︶公孫弘卜式児寛第二八) (三)② 禁止の意を表わす。…してはならない。…するな。 (一)[初出の実例]﹁左手では灰や土をばとるまいぞ﹂(出典‥百丈清規抄︵1462︶四) (四)③ 否定的に推量する意を表わす。…ないだろう。 (一)[初出の実例]﹁誠にあひてがなくはせうぶがしれまひ﹂(出典‥虎明本狂言・鼻取相撲︵室町末‐近世初︶) (五)④ 否定的な意志を表わす。…ないつもりだ。…ないでおこう。 (一)[初出の実例]﹁今となって、網干へ行くまいとぬかし、身に大分の損をかくる﹂(出典‥歌舞伎・仏母摩耶山開帳︵1693︶二) (六)⑤ ( ﹁…うと…まいと﹂﹁…うが…まいが﹂などの対比の形で ) 動作・作用・状態を対比し、その肯定の場合、否定の場合どちらにしても関係のない意を表わす。 (一)[初出の実例]﹁不思議な事に此時丈は後足二本で立つ事が出来た。何だか猫でない様な感じがする。猫であらうが、あるまいが斯うなった日にゃあ構ふものか﹂(出典‥吾輩は猫である︵1905‐06︶︿夏目漱石﹀二) (七)⑥ ( ﹁あるまいし﹂の形で ) (一)(イ) 打消の条件を伴った理由を表わす。…ないのだから。 (一)[初出の実例]﹁兄ではあるまいし意見はいらぬもの﹂(出典‥歌舞伎・傾城江戸桜︵1698︶中) (二)(ロ) 打消の意を伴った逆接条件を表わす。…ないのに。 (一)[初出の実例]﹁他人ぢゃアお在んなさるまいし、︿略﹀お堅いことばかり仰被ますネへ﹂(出典‥人情本・清談若緑︵19C中︶初) (八)⑦ ( ﹁あるまいに﹂の形で ) 事実と反対を仮想する意を表わす。 (九)⑧ ⇒まいか まいの語誌 (1)接続について、( イ )近世までの接続は、四段活用とナ変の動詞には終止形に、ラ変には連体形に付くのが普通であるが、中世︵室町時代︶・近世を通じて、未然形に付いた例もまれにみられる。﹁長ては魚の中には入らまいぞ﹂︹史記抄‐一〇︺など。( ロ )一、二段活用とカ変の動詞には未然形に付くのが一般であるが、終止形に付く場合もある。( ハ )サ変には、未然形に付く﹁せまい﹂の他、﹁しまい﹂の形もみられ、文語的に﹁すまい﹂となる場合もある。﹁人情本・春色梅児誉美‐四﹂の﹁娣(いもと)もなかなか得心しまい﹂など。( ニ )現代語では、五段活用動詞には終止形に、上一段、下一段、カ変、サ変︵﹁し﹂︶の動詞・助動詞には未然形に付くほか、一段動詞の場合、終止形にも、カ変・サ変の場合、﹁くまい﹂﹁くるまい﹂﹁すまい﹂﹁するまい﹂のようにも接続する。 (2)活用形は、終止・連体・已然の三つに限られる。( イ )已然形﹁まいけれ﹂は、室町時代以後、文語﹁まじけれ﹂の口語形として﹁ども﹂に続く場合に用いられたものであるが、近世以後﹁まい﹂と﹁けれども﹂とに分割されて﹁けれども﹂が接続助詞化した。( ロ )連体法は、近世以後次第に少なくなり、現代語では﹁あろうことか、あるまいことか﹂﹁ゆくまいものでもない﹂など限られた表現にのみ用いられ、肯定の﹁う﹂﹁よう﹂の場合と同じく、終助詞的性格を強めている。また、﹁まい﹂の代わりに、﹁…ないだろう﹂﹁…ないでおこう﹂などの表現の用いられることが多い。 (3)語源については﹁まじ﹂に起源が求められる。 まい 〘 助動詞 〙 ( 助動詞「ます」の命令形「まし」の変化した語 ) 軽い敬意をこめた命令を表わす。…なさい。[初出の実例]「ぢざうまいをみまいな、みまいなと、はやさせられひ」(出典:虎明本狂言・地蔵舞(室町末‐近世初)) 出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例