デジタル大辞泉
「アルコール発酵」の意味・読み・例文・類語
アルコール‐はっこう〔‐ハツカウ〕【アルコール発酵】
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アルコール‐はっこう‥ハッカウ【アルコール発酵】
(一)〘 名詞 〙 エチルアルコールを生成する発酵。ヘキソースが酵母によって嫌気的(けんきてき)に分解されエチルアルコールと二酸化炭素を生じる現象をいう。醸造などに応用。酒精発酵。
(一)[初出の実例]﹁酒精(アルコール)醱酵や糖化作用を起して酒精分が増し﹂(出典‥すし通︵1930︶︿永瀬牙之輔﹀二六)
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アルコール発酵
あるこーるはっこう
微生物による炭水化物の無酸素的分解現象︵発酵︶の一種。酒精発酵ともいい、乳酸発酵とともに代表的な発酵の一つである。糖または多糖から最終的にエチルアルコール︵エタノール︶と二酸化炭素︵炭酸ガス︶を生ずる反応で、次式により示される。
C6H12O6―→2CH3CH2OH+2CO2
この作用をもつ微生物でもっともよく知られているのは酵母で、グルコース、フルクトース、マンノース、マルトース、スクロース︵サッカロース︶を発酵しうる。一方、大部分の動物組織においてはアルコール発酵はおこらず、炭水化物は無酸素的に分解されて、乳酸を生成する。
﹇伊藤菁莪﹈
アルコール発酵は、有史以前から人類がアルコール性飲料やパン生産のために利用してきた自然現象であるが、その原因は不明のままで過ごされ、19世紀になってもビールをつくるときたまるビールの粕(かす)︵酵母︶は単なる化学物質にすぎないと考えられていた。しかし、1857年から1858年にかけてフランスの微生物学者パスツールにより、発酵は微生物によっておこることが発見された。ついで1897年ドイツの生化学者ブフナーが、細胞を含まない酵母抽出液によって発酵がおこることを発見し、発酵の原因をなしている物質すなわち酵素をチマーゼと命名した。さらにハルデンA. Harden︵1865―1940︶とヤングW. J. Young︵1878―1942︶は酵母汁によるアルコール発酵が継続するには無機リン酸が必要で、糖のリン酸エステルが生成することおよび酵母の絞り汁の限外濾過(ろか)液中に補酵素の存在することをみいだした。また、ドイツ生まれのアメリカの生化学者ノイベルクCarl Neuberg︵1877―1956︶らにより発酵過程の研究が進む一方、アルコール発酵と筋肉の抽出液によるグリコーゲンの解糖がきわめて類似した経路を通ることが明らかにされた。発酵および解糖過程の解明には、ノイベルクのほか、ドイツの生理化学者マイヤーホーフやドイツの生化学者エムデンをはじめ、パルナスJ. K. Parnas︵1884―1949︶やO・H・ワールブルクら多くの研究者の努力が傾けられ、その分解経路は彼らの名にちなんで﹁エムデン‐マイヤーホーフ‐パルナスの経路﹂とよばれている。
﹇伊藤菁莪﹈
アルコール発酵の過程を要約すると、炭水化物がATP︵アデノシン三リン酸︶によりリン酸化されて六単糖二リン酸になり、これから2分子の三単糖リン酸が生ずる。さらにこれが酸化される過程で、2分子のATPをつくってピルビン酸になる。ピルビン酸は脱炭酸されてアルデヒドになり、さらに還元されて最終的にアルコールを生成する。発酵過程のエネルギー収支をみると、4分子のATPがつくられるが、最初の炭水化物のリン酸化に2分子のATPが使われるので、結局、発酵されたグルコース1分子当り2分子の新しいATPが得られることになり、生物はこの獲得したエネルギーで自らを維持し、成長し、増殖するのに必要な物質の合成を行うわけである。
なお、細菌類のなかにはアルコール発酵以外の形式で糖を発酵するものがあり、乳酸発酵や酢酸発酵など種々の発酵形式が知られている。
1980年︵昭和55︶ころから、稲藁(わら)、麦藁、バガス︵サトウキビの絞り粕︶、廃木材など再生可能な植物資源︵バイオマス︶から、微生物の働きを利用してアルコールを生産する方法が、エネルギーの再生産法として注目されている。
﹇伊藤菁莪﹈
﹃草野昭久著﹃エタノール工業﹄︵1983・発酵工業協会︶﹄▽﹃越智猛夫編著﹃図解 バイオテクノロジー2 醸造・発酵からリアクターまで――微生物・酵素利用の実際﹄︵1989・農業図書︶﹄▽﹃山中健生著﹃生化学入門﹄︵1997・学会出版センター︶﹄▽﹃生田哲著﹃バクテリアのはなし﹄︵1999・日本実業出版︶﹄▽﹃板倉辰六郎ほか監修、バイオインダストリー協会発酵と代謝研究会編﹃発酵ハンドブック﹄︵2001・共立出版︶﹄
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アルコール発酵 (アルコールはっこう)
alcoholic fermentation
生物が酸素のない条件下で次式に従い糖からエタノールと炭酸ガスを生成する代謝様式をいう。
![](/image/dictionary/sekaidaihyakka/inline/20107501.png)
ビール酵母,ブドウ酒酵母,日本酒酵母︵いずれもSaccharomyces cerevisiaeに属する︶をはじめとして,その他の酵母やカビなどの微生物には広く認められる現象である。酵母によるアルコール発酵は酒の醸造のほかに,工業用・燃料用アルコールの製造にも利用されている。アルコール発酵が,生物である酵母の作用によることは19世紀L.パスツールによって初めて明確に指摘され,その機構の研究は生物における糖代謝経路と発酵現象の解明に重要な役割を果たした。その反応の本質は,酸素のない条件下で生物が糖︵有機化合物︶を不完全分解してエネルギーを獲得するための代謝︵=発酵︶であり,多段階の酵素反応から成るその過程の基本的部分は,筋肉においてグルコースから乳酸が生成する解糖現象や乳酸菌による乳酸発酵と共通のエムデン=マイヤーホフ経路である。この反応によって1分子のグルコースから2分子のATP︵アデノシン三リン酸︶がエネルギーとして得られる。熱帯地方のある種の酒の醸造に利用されている細菌の1種Zymomonasはやはりグルコースから同様の比率でエタノールと炭酸ガスを生成するが,その代謝経路は酵母の場合とはまったく異なっていることが知られている。
→発酵
執筆者‥別府 輝彦
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「アルコール発酵」の意味・わかりやすい解説
アルコール発酵【アルコールはっこう】
生物の営む無酸素的炭水化物分解の一種。糖または多糖類が分解され,最終的にはエチルアルコールと炭酸ガスを生成する現象。 C6H12O6→2C2H5OH+2CO2解糖作用とほぼ同じ経過をたどり,最終段階でピルビン酸から,解糖では乳酸が,発酵ではエチルアルコールが生じる。この作用をもつ生物の代表は酵母で,酒類やパン生産に古くから広く利用されている。
→関連項目乳酸発酵|ブフナー
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アルコール発酵
アルコールはっこう
alcoholic fermentation
生物の無酸素 (無気) 的なエネルギー獲得反応系の一つであって,糖を出発物質として,最終産物としてエチルアルコールと二酸化炭素 (炭酸ガス) へと分解する。この間,糖1分子につき2分子のアデノシン三リン酸 ATPを初期に投入するが,後段で4分子の ATPを回収することにより,糖分解のエネルギーの一部分を捕獲する。エネルギー効率は 30%弱。乳酸発酵ないし動物組織の解糖に似た反応経路であり,差は,最後の段階が乳酸になるか,アルコールと二酸化炭素になるかということだけである。酵母に広く認められる代表的な無気エネルギー代謝経路の一つで,E.ブフナーが細胞を含まない抽出液で反応に成功した (1897) ことにより,現代の酵素反応研究の突破口の一つとなった。工業面ではアルコール飲料製造,パン製造の際に風味と伸びを与えるものとして広く利用されている。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
アルコール発酵
アルコールハッコウ
alcohol fermentation
酵母のような微生物の嫌気的条件下におけるエネルギー獲得過程をいう.古くからアルコールおよび酒類の製造に利用されてきた.グルコースの分解(解糖)によって生成したピルビン酸が脱カルボキシル化されて,アセトアルデヒドとなり,ついでエタノールに還元される.酵母としては,Saccharomyces cerevisiae(ビール),S. ellipsoideus(ブドウ酒),S. sake(清酒)などが利用されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
アルコール発酵
炭水化物を無酸素的に分解してアルコール(通常エタノール)とし,エネルギーを獲得する様式.アルコール飲料を製造する目的でこの反応が広く工業的に利用される.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内のアルコール発酵の言及
【解糖】より
…嫌気条件下では酸素は使えないので,ピルビン酸を乳酸に還元する最後の反応でNAD+を再生することになる。酵母における[アルコール発]酵も同様な意味をもっている。解糖の生理的役割は二つあり,その一つは上に述べたようにエネルギーの産生であるが,他の一つは,生体物質の供給である。…
※「アルコール発酵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」