デジタル大辞泉
「キリシタン版」の意味・読み・例文・類語
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キリシタン‐ばん【キリシタン版】
(一)〘 名詞 〙 主として一六~一七世紀、イエズス会が日本国内に印刷所を設置して刊行した活字本の総称。天正一八年︵一五九〇︶帰国した天正遣欧使節に同行したバリニャーノが日本に最初の活字印刷機を伝え、肥前国加津佐で﹁サントスの御作業﹂を刊行したのがはじめ。印刷されたのは、宗教書、宗教文学書、語学書、教外文学書などで、欧文本、ローマ字版を含む邦文本など二九種が知られている。出版地は天草、長崎、京都と転々とし、迫害されて慶長一九年︵一六一四︶には印刷機をマニラに譲渡した。この後、マニラ、ローマなどで出版されたものも含まれ、また、幕末に布教再開後の秘密出版物も含んで呼ぶことがある。
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百科事典マイペディア
「キリシタン版」の意味・わかりやすい解説
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キリシタン版
きりしたんばん
九州三侯︵大友、有馬、大村︶による天正(てんしょう)遣欧使節の舶載した西洋印刷機および同種機を用いて、日本イエズス会が1591年︵天正19︶ごろから約20年間に、おもに九州の各地で印刷した図書・出版物︵加津佐版、天草版、長崎版など︶をいう。またその前後に同機をもってゴア、マカオで出版した4種も同属とみなされる。キリシタン版は、1980年ベニス発見の2点を加え、現在約31種、75点が世界に、1点か数点ずつ散存する。内容別には、(1)キリスト教教義、信心録など。例、﹃ドチリナ・キリシタン﹄︵キリスト教の教義。日本文字、ローマ字各2種︶など。(2)言語関係書。例、﹃ラテン文典﹄︵E・アルバレス著。天草、1594年刊︶など。(3)教養書。例、﹃伊曽保(いそほ)物語﹄︵いそっぷ物語。ローマ字日本文、天草、1593年刊︶、﹃倭漢(わかん)朗詠集﹄︵日本文字、1600年刊︶などの3種に分けられる。文字はローマ字、片仮名、平仮名、漢字で、邦語や外国語を使用して、邦人および外国人の双方に役だて伝道の便に供した。なかに1点﹃こんてむつすむん地﹄︵1610年京都版︶は日本式印刷を利用した木活字版である。遺品の多くは、大英図書館、オックスフォード大学、バチカン図書館、日本天理図書館、東洋文庫、北京(ペキン)北堂などに蔵せられる。キリシタン版は1611~14年︵慶長16~19︶ごろ姿を消すが、本邦書籍史上に和洋混体のユニークな新味を出した。近年専門家解説の下に全種の複製本が完成し、新しい観点から比較研究がなされている。
﹇富永牧太﹈
﹃天理図書館編﹃きりしたん版の研究﹄︵1973・天理大学出版部︶﹄▽﹃土井忠生著﹃吉利支丹文献考﹄︵1963・三省堂︶﹄▽﹃Johannes LauresKirishitan Bunko, 3ed. (1957, Sophia University, Tokyo)﹄▽﹃新村出・柊源一編﹃吉利支丹文学集﹄上下︵1957、60・朝日新聞社︶﹄
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キリシタン版 (キリシタンばん)
1590年︵天正18︶日本イエズス会が輸入した西洋活字印刷機により,91年から1614年︵慶長19︶まで日本で印刷された日本イエズス会公認の版本をいう。活字印刷機は文書伝道を重視した東インド巡察師バリニャーノが天正遣欧使節に依頼し,その帰国に際しバリニャーノ自身が将来して,肥前の加津佐でローマ字版︽サントスの御作業のうち抜書︾︵1591︶が初めて刊行されたが,戦乱と迫害のため天草︵天草版︶,長崎,京都で刊行が続けられた。現存するもの31種,約73本。語学書︽ロドリゲス日本文典︾︽日葡辞書︾︽落葉集︾など,宗教書には︽聖イグナチオ・デ・ロヨラの心霊修行︾︽どちりな・きりしたん︾︽コンテンツス・ムンヂ︾などで,︽ぎや・ど・ぺかどる︾はキリシタン文学の傑作である。教外文学書には,︽平家物語︾︽和漢朗詠集︾︽伊曾保物語︾などがある。使用された活字はローマ字と国字︵漢字,ひらがな,かたかな︶で,欧文書と和文書がある。
執筆者‥井手 勝美
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キリシタン版
キリシタンばん
日本で16世紀末から17世紀初めにかけて活版印刷で出版された欧文,和文の書物。キリスト教伝来以来,イエズス会士は伝道事業の一部として教義書,語学書などの出版をはかったが,天正 18 (1590) 年,A.バリニャーノが初めて活版印刷機を輸入すると,島原半島の加津佐で日本最初の活版印刷が行われ,以後,天草,長崎,京都などで出版が行われた。﹃どちりな・きりしたん﹄などの教義書をはじめ,辞典,文学書,﹃伊曾保物語﹄,さらに﹃平家物語﹄などの古典にまで及んだ。世界各国に残る版本の数は欧文本5種,和文 (ローマ字を含む) 本20種,その他総計32種に及ぶ。慶長 18 (1613) 年の禁教以後,迫害により印刷機をマニラに移し,日本国内での出版活動は消滅した。 (→キリシタン物 )
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キリシタン版
キリシタンばん
近世初期のイエズス会によるヨーロッパ式印刷機を用いた出版物の総称。巡察使バリニャーノのもたらした金属活字印刷機を用いた1591年(天正19)刊のローマ字本「サントスの御作業の内抜書」に始まる。一部,木製活字のものもある。天草・加津佐など九州各地のコレジヨで作業が行われたため天草版ともよばれる。日本での出版は禁教令にともない1614年(慶長19)までだが,この期間に限らずマカオやローマでの同類の出版も含めてよぶことが多い。宣教師や日本人神学生のための教科書用の出版だったらしく,ローマ字の「平家物語」「伊曾保物語」,国字の「ばうちずもの授けやう」「和漢朗詠集」,欧文の「ラテン文典」「日葡辞書」などがある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
キリシタン版
キリシタンばん
近世初め,キリスト教宣教師などによって発行された活版印刷物
ヴァリニャーニのもたらした活版印刷機により島原で印刷されたのが始まりで,長崎・京都などでも出版された。キリスト教関係や日本古典など多方面にわたり,特に天草版が有名。
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世界大百科事典(旧版)内のキリシタン版の言及
【天草版】より
…[キリシタン版]のうち九州の天草学林で出版されたもの。1592年(文禄1)から96年(慶長1)に至る。…
【印刷】より
…その結果,銅活字やそれを模した木活字による印刷が行われるようになり,江戸時代の初期まで活字印刷が主流となった。一方,16世紀末から17世紀にかけ,九州を中心にヨーロッパ式の金属活字による,いわゆる︿[キリシタン版]﹀が行われた。このように一時期流行した活字印刷も17世紀前半で終わり,その後は再び木版印刷が復活した。…
【句読点】より
…個人によるちがいもあるが,正書法としてほぼ確立している点で,日本語の句読点・句読法と異なる。【柴田 武】
[日本文におけるパンクチュエーションの移入]
西洋風の句読点が,日本で最も早く行われたのは16世紀末から17世紀初めへかけてのキリシタン版においてである。そのローマ字綴(つづり)本ではピリオドやコンマ以外にコロンもセミコロンも疑問符も感嘆符も行われた。…
【南蛮文化】より
…92年(文禄1)には天草の志岐に画学舎が設けられイタリア人ニコラオが指導に当たった。
[キリシタン版の印刷]
[天正遣欧使節]将来の活字印刷機は,教育活動用の教科書作成,文書による布教活動促進,ヨーロッパ人宣教師の語学(日本語,ラテン語等)学習用の辞書・辞典作成に大きな原動力となった。印刷機は肥前加津佐に置かれ,91年ローマ字本《サントスの御作業のうち抜書》が初めて印刷され,ひらがなと漢字の木活字による《[どちりなきりしたん]》も同年作られた。…
【原田アントニオ】より
…生没年不詳。本書は現存するキリシタン版中,京都で出版されたと記されている唯一のもの。イエズス会の刊行ではないが,イエズス会上長の許可の下に出版されており,原田がイエズス会と密接な関係にあったことがわかる。…
※「キリシタン版」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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