改訂新版 世界大百科事典 「クチナシ」の意味・わかりやすい解説
クチナシ (梔子)
Gardenia jasminoides Ellis
暖地にはえるアカネ科の常緑低木。花や実を観賞するため庭木とする。花は美しく香りがよいので,花飾や香水とし,三杯酢にして食べたり,乾かして茶の香りをつける。実は古来,黄色染料とされ,布をクチナシ染とし,無毒なので栗飯などに入れたり,きんとん,たくあん,クワイを染める。高さ1~5m。葉は対生,ときに3輪生,葉身は長い楕円形。托葉は片側が斜めに裂けている。花は6数性,葉腋︵ようえき︶に1花ずつつき,6~7月に咲く。花冠は白色,後に黄変し,直径5~8cm。子房は下位で2室。柱頭は棍棒状。果実は楕円体で6稜があり,六つの萼裂片に続く。熟すと赤黄色となる。将棋盤や碁盤の脚はクチナシの実をかたどり,︿口無し﹀を示すという。静岡県以西から琉球,台湾,中国中南部,ベトナムに分布する。八重咲き品をヤエクチナシvar.ovalifolia Nakaiと呼ぶ。近年よく植えられる大輪の八重咲き品はオオヤエクチナシで,アメリカで改良された。全体小型のものをコクチナシvar.radicans︵Thunb.︶Makino,その八重咲きをヤエコクチナシという。クチナシ属Gardeniaはアジアとアフリカの主として熱帯に250種知られ,多くの有用植物がある。クチナシと同様な利用のほかに,黒色の化粧品︵アフリカ︶,魚毒,道具類の柄などとされる。暖地での栽培は容易で,どこでもよく育つ。繁殖は普通,挿木によるが,実生,取木でもよい。ガの1種オオスカシバが好んでつき,食害される。
執筆者‥福岡 誠行
薬用
クチナシやコクチナシなどの果実を漢方で山梔子︵さんしし︶と呼ぶ。イリドイド配糖体ガルデノサイドgardenoside,カロチノイド配糖体クロシンcrocin︵カロチノイドはクロセチンcrocetin︶を含む。他の生薬と配合して,消炎,止血,解熱,鎮静薬として,眼科,耳鼻咽喉科の炎症や化膿,黄疸,膀胱炎,月経過多,不正子宮出血などに用いる。打撲傷には単独であるいは卵白や他の生薬と配合して外用する。 執筆者‥新田 あや染色
クチナシの果実は,中国の漢代から消炎・止血の薬効が知られていたが,熱水で煎じた黄色液は染料としても用いられた。色素成分はクロセチン。日本でも古くから利用され,︽肥前国風土記︾にその名がある。また︽古今和歌集︾巻十九に︿みみなしの山のくちなし得てしかな思ひの色のしたぞめにせむ﹀の歌があり,大和の耳成山は一名くちなし山といった。くちなしの実を得て,黄色に下染めして,緋色を得ようとの意である。︽延喜式︾は︿梔子﹀を用いる染色に,︿紅花﹀との交染による︿深支子﹀と︿浅支子﹀をあげている。また食用染料ともなり,瀬戸乃染飯や豊後染飯が今にのこる。 執筆者‥新井 清出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報