改訂新版 世界大百科事典 「ナマコ」の意味・わかりやすい解説
ナマコ (海鼠)
種類
ナマコ類は世界に約1100種,日本には60種以上が知られている。マナマコ,クロナマコ,フジナマコ,ニセクロナマコ,ジャノメナマコ,テツイロナマコなどがふつうに見られる。大きな種類では,バイカナマコが体長70~80cm,オオイカリナマコが体長3mにもなり,サンゴ礁の上に横たわっている。シロナマコやコモンイモナマコなどは,体の後部が尾のように細くのびている。マナマコはよく酢の物にして食べ,煮て干したいりこは︿海参﹀と呼ばれて強精剤にされ,またキンコも別名フジコと呼ばれ一時は大量に乾製品がつくられた。︿このわた﹀は,内臓を塩づけにしたものであり,︿このこ﹀は卵巣を塩づけにして乾燥したものである。 執筆者‥今島 実料理
︽本草和名︾に︿海鼠 和名古﹀とあるように,日本では古くナマコを︿こ﹀と呼んでいた。生のものが︿なまこ﹀で,火にかけていったものが︿いりこ﹀,日に干したのが︿ほしこ﹀,卵巣を干したのはナマコの子だから︿このこ﹀,腸の塩辛は︿この腸︵わた︶﹀というわけである。︽延喜式︾によると,いりこは能登,若狭,志摩などの7ヵ国から,このわたは能登から貢納され,ともに天皇の食膳にも進められていたが,生鮮品は輸送がむりだったためか貢納された形跡がない。ナマコの料理といえば現在はほぼ酢の物に限られているが,江戸時代には汁,煮物,炊きこみ飯などにも用いていた。︽料理物語︾︵1643︶に見える︿こだたみ汁﹀は,みそ仕立てのとろろ汁に細切りにしてゆでたナマコを入れ,ショウガやアオノリを薬味にしたもの,︿ふくらいり﹀と呼ぶのは大きく切ったナマコをだしとたまりで煮るという料理であった。 執筆者‥鈴木 晋一医術
ナマコが日本の文献に初出するのは︽古事記︾で,天鈿女︵あめのうずめ︶命が海のすべての魚を集めて︿天つ神の御子に仕えるか﹀と問うたとき,海鼠︵ナマコ︶だけが返事をしなかった。そのために,天鈿女命が︿此の口や答へぬ口﹀といって,紐小刀︵紐つきの小刀か︶でその口を裂いたので,今もってナマコの口は裂けている,と書かれている。︽延喜式︾には9月の神嘗祭に伊勢の大神宮や度会宮に熬海鼠︵いりこ︶を供えたことが記されている。中国南北朝の詩文集︽文選︾に付した石華の注から,当時︿土肉﹀といったものがナマコだという説もあるが,︽隋書︾経籍志に書名の残る︽崔禹錫食経︾に海鼠がみえるので,6~7世紀ころには食用にされていた。︽五雑組︾は海参,一名を海男子とし,その名の由来を︿形状が男子の勢︵へのこ︶に似ており,その薬性が温を補すこと人参に匹敵するため﹀と説き,遼東半島の海浜に産したことを記す。︽和漢三才図会︾には,唐船が長崎にくるときは必ず熬海鼠を多量に買いあさっていくと書かれているが,それは薬用や滋養食品とされていたためである。現代中国では薬品名を海参といい,別名を刺参,沙噀,海鼠とし,肺結核や神経衰弱の薬とするほか,血友病のような出血しやすい病気の止血剤として使われている。なお,日本の︽大同類聚方︾︵808︶には宇美古︵ウミコ︶,奈女利古︵ナメリコ︶の薬名がある。 執筆者‥槙 佐知子出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報