デジタル大辞泉
「天鈿女命」の意味・読み・例文・類語
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あまのうずめ‐の‐みこと【天鈿女命】
(一)記紀などに見える神。猿女(さるめ)氏の祖神。天照大神が天の岩屋戸に隠れた時、岩屋戸の前で踊った女神。天孫降臨の際、天の八衢(やちまた)に立っていた猿田彦神を懐柔して、道案内をさせた。鈿女。
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天鈿女命 (あめのうずめのみこと)
日本神話にみえる神の名。記紀神話に登場する女神の名。神事の際,頭に挿す枝葉や花を︿うず﹀といい,ウズメとはこれを挿した女,巫女の意であろう。この神は,天︵あま︶の岩屋戸の神話で,伏せた槽︵おけ︶の上でそれを踏み鳴らしつつ性器もあらわに神憑︵かみがか︶りして舞い狂い,天照大神︵あまてらすおおかみ︶を岩屋戸から引き出すことに成功した。この狂態はシャーマンのものであった。シャーマンは騒擾楽器の音とともに恍惚状態に入り,魂を霊界におもむかせ,そこで得てきた霊力をもって病める肉体や魂の治癒をはかる。天の岩屋戸の神話には,宮廷儀礼鎮魂祭が投射しているが,これは冬至のころの太陽の活力と君主の魂を合わせて賦活する祭りであった。神話におけるアメノウズメの役目は,弱った日の神の力を回復させることにあったのである。この神は,天孫降臨の際に一行を待ち伏せた異形の神を屈服させ,猨田彦大神︵さるたひこのおおかみ︶という名やその参上の由来を明らかにした。この功によりウズメの裔は猿女君︵さるめのきみ︶と称することになったという。猿女,猿楽の︿猿﹀は︿戯︵さ︶る﹀の意で,猿女という名も宮廷神事に滑稽なわざを演ずる俳優︵わざおぎ︶を意味した。平安朝の鎮魂祭には,猿女を含む宮廷巫女が,ウズメに似たわざを演じた。ウズメは,この猿女の古態の神話的形象化であった。天孫に従って天下ったウズメは,のちにサルタヒコを伊勢に送り,志摩の海で魚どもに天孫への奉仕を誓わせた。これらの話から,ウズメとサルタヒコは兄妹であったこと,つまりウズメは原始的呪力をもち,兄弟と一族を共治していた︵ヒメ・ヒコ制︶伊勢土着のシャーマンであり,それが召し上げられ,宮廷神事に奉仕するに至ったらしいことがうかがえる。なお︽弘仁私記︾序に,︽古事記︾編纂に関与した稗田阿礼︵ひえだのあれ︶はアメノウズメの裔とある。阿礼の素姓を考えるのに参考になる。
執筆者‥倉塚 曄子
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天鈿女命
古代に宮中の祭りで巫女の役をした,猿女の祖先の女神。『古事記』では天宇受売命。天岩屋戸の内に隠れた天照大神(アマテラスオオミカミ)を招き出すための祭りで,伏せた桶を踏みとどろかして踊りながら,乳房と陰部を剥き出して,天神たちを哄笑させた。怪しんだアマテラスが,岩戸を少し開け,わけをたずねると,「あなたより,もっと尊い神がいられるので,喜んでいるのです」と答えて誘い,天手力男神に手を取られて,アマテラスが岩屋から引き出され,暗黒だった世界がまた陽光に照らされることになった。邇邇芸命(ニニギノミコト)が地上に降ろうとしたとき,道を塞いでいるようにみえた猿田毘古神(サルタビコノカミ)の面前でも,笑いながらやはり乳房と陰部を剥き出して見せて,この神に名を明かさせ,日向(九州の南部)の高千穂の峰まで,ニニギの降臨を先導する役を務めさせた。サルタビコを,伊勢(三重県)の五十鈴川の川上まで送ったのち,魚類を集め天神の御子ヘの奉仕を誓わせたが,ナマコだけが返答せずに黙っていたので,小刀でその口を裂いた。それでナマコは,今でも口が裂けているのだという。裸体露出により,太陽女神や日の御子が,世界に出現するための道を開く働きを,繰り返し果たしている点で,古代インドの神話で,夜明けごとに,東天に裸体をくまなく露呈することで,太陽の通る道を開くとされているうえに,「鎖された岩屋の戸を開く」ともいわれている,曙の女神ウシャスに酷似している。<参考文献>吉田敦彦『ヤマトタケルと大国主』
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天鈿女命
あめのうずめのみこと
天岩戸(あめのいわと)神話のなかに出てくる女神。天岩戸にこもった天照大神(あまてらすおおみかみ)を引き出すために、胸乳をかき出し、裳(も)の紐(ひも)を陰部まで押し下げて踊った(『古事記』)。また、天孫降臨の際、先導した猿田彦(さるたひこ)神に対しても、同じようなポーズで向かい合っている(『日本書紀』)。しばしば性的なしぐさを演じるのだが、これは、この神を祖神とする猿女君(さるめのきみ)のつかさどった鎮魂祭と関係がある。前者は、この鎮魂祭を基盤にし、衰弱した太陽神に、性の生成力によって、活力を与えているものであり、後者の場合は、他界にいる邪悪なるものを、性の生成力によって打ち破ろうとしているのである。いずれも性的儀礼である。
[守屋俊彦]
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天鈿女命 あめのうずめのみこと
記・紀にみえる神。
猿女君(さるめのきみ)の祖先神。天照大神(あまてらすおおみかみ)が天の岩戸にこもったとき,おどって大神を岩戸からさそいだした。また天孫降臨の際,瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に五部神(いつとものおのかみ)の一神としてしたがい,途中猿田彦神(さるたひこのかみ)と問答をし,道案内をさせた。「古事記」では天宇受売命。
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世界大百科事典(旧版)内の天鈿女命の言及
【天の岩屋戸】より
…神々は集まって評議し,中臣︵なかとみ︶氏の祖天児屋命︵あめのこやねのみこと︶,忌部︵いんべ︶氏の祖太玉命︵ふとたまのみこと︶などに祭りを行わせた。そのとき猿女︵さるめ︶氏の祖[天鈿女命]︵あめのうずめのみこと︶が槽︵おけ︶をふみとどろかし神憑︵かみがか︶りして,胸乳もあらわに踊り狂ったので神々は大いに笑った。それを怪しみアマテラスが岩屋戸から少し出たところを手力雄神︵たぢからおのかみ︶がぐいと外に引き出すと,世界はまた照り輝いた。…
【芸能】より
…
[日本の芸能の歴史]
日本の芸能は村々における神祭りの場を母胎として花をひらいた。《古事記》や《日本書紀》所載の天の岩屋戸(あまのいわやど)における[天鈿女(あめのうずめ)命]の演じた俳優(わざおぎ)は,冬至のころ人と自然の生命力を更新させるために,植物を身につけた巫者が神がかりして鎮魂の所作や託宣を行った古代のシャマニズム儀礼の形を示している。大和朝廷では猿女(さるめ)氏や物部(もののべ)氏がこれを行い,のち芸能化して[神楽](かぐら)の基を作った。…
【稗田阿礼】より
…この論争はいまだに続いているが,アレという語が神の誕生を意味する古語で,それに立ち会う巫女の名にふさわしいこと,︽古事記︾にはあきらかに巫女の霊能への共感が示されていることなどの理由から巫女とみるべきだろう。さらに平安朝のものとはいえ,阿礼が[天鈿女︵あめ]のうずめ︶命の後裔︵こうえい︶であるとする資料(︽弘仁私記︾序)も見逃せない。アメノウズメは,天の岩屋戸神話,天孫降臨神話などでシャーマン的な能力を発揮した女神で,[猿女︵さるめ︶氏]の祖である。…
※「天鈿女命」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」