ユーロ危機(読み)ゆーろきき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ユーロ危機」の意味・わかりやすい解説

ユーロ危機
ゆーろきき


()

  20181119

総論


1999

 20081930

 ()

 ECB

 EUEUEU

 EUEMU()EU

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前史

ユーロの導入



 ()GDP3GDP60199851119991

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進展する金融統合と拡大するリスク

DexiaFortis

 10調

 ECB貿

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ユーロ危機の勃発

グローバル金融・経済危機の発生

2007BNP調()

 20089()調

 FRB退20094G202020105

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ギリシア危機からユーロ危機へ

200910調

 20105IMFIMF3110064400EFSFEU600EFSMEuropean Financial Stability MechanismECBIMF20111European SemesterEU20113調201112Stability and Growth PactSix-Pack20131調Treaty on Stability, Coordination and Governance20135EDPExcessive Deficit ProcedureTwo Pack

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拡大するユーロ圏諸国間の格差

2010EFSF

 使調調20102050

 201072009220111ESRBEuropean Systemic Risk BoardESAsEuropean Supervisory AuthoritiesEBAEuropean Banking AuthorityESMAEuropean Securities and Markets AuthorityEOPIAEuropean Insurance and Occupational Pensions Authority

 201110調 MMF11George A. Papandreou1952 退

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ユーロ危機の転機

スペインへの波及と銀行同盟構想

2011ECB201112201222LTROsLong-term Refinancing Operations13ECB

 20122313005Bankia6

 EU20126ECBEUSSMSingle Supervisory MechanismSRMSingle Resolution MechanismSSM201411SRM20161EDISEuropean Deposit Insurance Scheme

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「ドラギ・マジック」とキプロス危機



 20127ECBECBOMTOutright Monetary TransactionSMPSecurities Markets Programme10EFSFESM12

 2013320126EU100EUIMFECBSRM20135ESM

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銀行危機再発防止に向けた施策

ECBは2013年10月、2014年11月のSSM発足にあわせて、EBAとの協力のもと、ユーロ圏の大手銀行を対象とした包括的資産査定とストレステストを実施すると公表した。これを受けて、遅れていたヨーロッパの銀行の不良債権処理も本格化することになった。2014年10月に公表された結果では、SSMの監視対象となる大手130行のうち、イタリアの9行を最多に25行が資本不足と判定されたものの、ユーロ圏の銀行の健全性が高まっているとして、市場からは好感をもって受け止められた。

 またグローバルなレベルでは、2008年の金融危機発生の後、EUも加わって新バーゼル合意(バーゼルⅢ)の策定が進められていたが、2013年6月の欧州理事会で、バーゼルⅢの自己資本比率規制をEUの法的枠組みに導入する自己資本比率指令(Capital Requirements Directive Ⅳ)が採択された(2014年1月より実施)。2013年12月には、キプロス危機を受けて、銀行の経営破綻に際して公的資金の投入による救済を避け、銀行の株主や債権者、経営者に破綻処理の負担を負わせるBRRD(Bank Recovery and Resolution Directive、銀行再建・破綻処理指令)も採択された(2016年1月より施行)。こうして、危機の鎮静化により、銀行危機再発防止のための一連の規制や法整備が進行することになった。

[星野 郁 2018年11月19日]

デフレ懸念の増大

ECBによる非伝統的金融政策

キプロス危機が収まって以降、ユーロ圏では、経済成長が緩やかに回復し始めた。一方で物価は下落を続け、2015年にはマイナスになるなど、デフレ傾向が鮮明となった。

 ユーロ圏の物価の下落は、2013年初めごろから顕著となっていたが、ECBの利下げの余地は、それ以前の利下げによってすでに狭まっていた。ECBは2013年7月、将来の金融政策の方向性を説明する指針(フォワードガイダンス)の公表によって歯止めをねらったが、その後も物価の下落は続き、同行の目標とする2%のインフレ率の達成は困難になっていった。また、ECBの利下げによって、ドイツをはじめ北部ユーロ圏諸国の貸出金利は低下したものの、イタリアなど南ヨーロッパ諸国の貸出金利は高止まりし、単一通貨圏にもかかわらず、リテール(小口取引)金利の水準が乖離(かいり)する「金融の分断financial disintegration」現象が鮮明となった。これに加え、南ヨーロッパ諸国では銀行による貸し渋りも生じた。

 ECBはこうした状況を打開するため、2014年6月よりマイナス金利を導入した。市中銀行の同行への預け金に対して利子を課すことで、資金を融資に振り向けるよう促すと同時に、ユーロ安への誘導をねらったのである。さらに、資産購入プログラムを通じて本格的な量的緩和にも踏み切った。2014年10月からは資産担保証券と担保付銀行債(カバードボンド)の買入れを、2015年3月からはユーロ圏諸国の国債や政府機関債の買入れを始め、ECBは月額600億ユーロの資金供給を行った。当初同プログラムの期間は2016年9月までとされたが延長され、2018年1月より300億ユーロに減額されて、9月末以降さらに150億ユーロに減額された後、12月末をもって終了する。また、LTORsの終了を受けて、2015年6月からは、融資を行う銀行への資金供給を目的として、期間4年の貸出条件付き長期資金供給オペレーション(TLTORs:Targeted Longer-Term Refinancing Operations)も開始され、2017年3月に終了した。このようにECBは、非伝統的金融政策も駆使しながら、デフレの解消に努めた。

[星野 郁 2018年11月19日]

ギリシア危機の再燃

2015年1月のギリシア総選挙で、反緊縮政策を掲げる急進左派連合(SYRIZA(シリザ))が勝利し、チプラスAlexis Tsipras(1974― )政権が誕生した。6月にチプラス政権は緊縮政策の緩和を求めて債権団との交渉に臨んだものの、決裂し、第二次金融支援も打ち切られた。チプラス政権は7月に国民投票を行い、緊縮政策の見直しに対する国民の支持を得て、債権団との交渉に臨んだが、再度屈服を余儀なくされ、8月に緊縮政策の継続を条件に第三次金融支援を受けることで合意。危機の悪化は回避された。

 これ以降、2016年6月のイギリスの国民投票によるEU離脱(ブレグジット)の決定や、イタリアの銀行危機があったものの、景気拡大が続き、インフレ率も上昇してデフレ懸念は後退した。2017年に入ると、ユーロ圏の経済成長は加速し、アメリカのそれを上回るなど、危機からの回復が鮮明となった。

[星野 郁 2018年11月19日]

残された課題

ユーロ圏はユーロ危機を脱しつつあるものの、最終的な危機の克服までには多くの課題が残されている。

[星野 郁 2018年11月19日]

脆弱(ぜいじゃく)な南ヨーロッパ経済

南ヨーロッパ諸国の経済は、スペインを筆頭に回復傾向にあるとはいえ、成長の基盤は依然脆弱で、銀行が多くの不良債権を抱えると同時に、巨額の政府債務も存在している。また失業率も、低下傾向にあるとはいえ、若年層を中心に依然高水準にある。

 イタリアは、かねてから銀行部門が脆弱であったが、2016年夏以降、同国の総資産規模第3位の大手銀行モンテ・パスキMonte dei Paschi di Sienaをはじめ、数行の経営危機が表面化した。また、巨額の政府債務を抱え、かつBRRDが2016年1月より施行されていたにもかかわらず、2017年夏にイタリア政府は巨額の公的資金を投入し、銀行の救済を図った。銀行危機とソブリン危機のループが断ち切られたとはいいがたい。ギリシアも2017年夏に債務返済に窮し、四度目となる金融支援要請を余儀なくされた。

 他方、同じユーロ圏でも、ドイツやバルト諸国では好景気が続き、不動産バブルやインフレへの懸念も生まれている。ユーロ圏全体をみても、景気回復が進展しているにもかかわらず金融緩和が継続されていることで、リスクテイクの増大による資産価格高騰の兆しがうかがえる。ECBとしては、巨額の政府債務や不良債権を抱える南ヨーロッパ諸国の状況に配慮しなければならないが、インフレや資産バブルの兆候を前に、いつまでも金融緩和を継続するわけにはいかない。しかし、長く緩和を続けた後の引締めは、アメリカ同様、ユーロ圏に新たな波乱をもたらすおそれもある。ユーロ危機の収拾に絶大な貢献を果たしたドラギのECB総裁の任期も終了し、現総裁ならびに執行部は、むずかしい金融政策のかじ取りを余儀なくされている。

[星野 郁 2018年11月19日]

棚上げされた銀行の構造改革

ECB

 ()EU201210EU2024SRM550SRM

 EU

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EMUの完成に向けて

EUEMU

 EDIS

 ESMEuropean Monetary FundEMF

 EU

 

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2013

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百科事典マイペディア 「ユーロ危機」の意味・わかりやすい解説

ユーロ危機【ユーロきき】

2009年秋,ギリシアの財政赤字の危機的実態が判明し,欧州の単一通貨ユーロの信用が一気に低下した。ギリシアの国家財政が破綻し,債務不履行(デフォルト)となる不安から,ギリシア国債が暴落し,ユーロ下落,世界の株価の下落が起こった。続いて2010年にはアイルランドが財政破綻し,高い財政赤字比率を抱えたポルトガル,スペインに不安が拡大,2007年の世界金融危機の再来が強く懸念された。さらに2011年にはイタリアがIMFの監視下に入るなど,ユーロによる通貨統合を基礎に拡大してきたEUの基盤そのものが失われかねない危機が続いている。2013年には,キプロスが危機的状況に陥った。EUとIMFは域内最強の資金力を持つドイツを中心に,ギリシアの救済・支援策を決め,ギリシアをはじめ各国に強く財政緊縮を求め,EU・欧州中央銀行・IMFのトロイカ体制で,各国の緊縮政策の実施プロセスの監査を強め,危機を食い止めようとしている。しかし,危機に陥っている各国とも国内に高い失業率を抱え,公務員の削減,公的年金の加給年齢の引き上げなどを含む緊縮財政は社会不安を増大させることは必至である。緊縮政策だけでなく成長戦略を絡めて国内を説得する方向に動いており,各国政府がどのように実効性のある対策を打ち出すことができるか,予断を許さない状況が続いた。2013年後半には各国の財政改革は次第に軌道に乗りつつあり,ユーロ危機は一段落したという見方も出されるようになった。しかし,2014年3月に起こったウクライナの政治的危機が再びEU経済の大きな不安定要素となる可能性が出てきた。破綻しているウクライナ経済をEUがどのように支援するか,政治的危機とともにEU経済は依然として予断を許さない状況が続くことになる。さらに2015年1月,ギリシアにEUに対し緊縮策の見直しを迫るツィプラス政権が誕生,再び危機的な焦点となっている。→ソブリンリスク欧州基金
→関連項目イギリスイタリア欧州議会欧州債務問題オランダギリシアG20スペインチェコ通貨危機デンマークドイツハンガリーフランスベルギーベルルスコーニメルケルユーロヨーロッパ中央銀行制度ヨーロッパ通貨統合ヨーロッパ連合

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