デジタル大辞泉
「福音書」の意味・読み・例文・類語
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ふくいん‐しょ【福音書】
- 〘 名詞 〙 新約聖書の中で、イエス‐キリストの生涯と言行をしるしたもの。すなわちマルコ・マタイ・ルカ・ヨハネの四書。
- [初出の実例]「その極善なる人の言行は、殆ど福音書に均しく」(出典:西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉一)
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福音書 (ふくいんしょ)
Evangel
Gospel
後2世紀以後の呼称で,イエスの言葉と業︵わざ︶を相互に連関させ,その死にいたるまでを叙述する文書を指す。最古の︽マルコによる福音書︾は後70年ころ,︽マタイによる福音書︾と︽ルカによる福音書︾が80-90年,︽ヨハネによる福音書︾が100年ころの成立と考えられる。︿……による福音書﹀という語法には,元来一つであるべきイエスの救いの︿福音﹀を異なる複数の視点から表現するものという意味が含まれる。最初の三福音書は内容と構成の面で相似点が多く,相互に対照させて読めるため︿共観福音書﹀と呼ばれる。それに対し,︽ヨハネによる福音書︾は内容面でより神学的で,構成面でもそれに応じて独特の特徴を示している。しかし,どの福音書もイエスの教説の梗概やイエスの活動の歴史的に厳密かつ正確な記述を意図してはいない点で共通している。︽マタイによる福音書︾と︽ルカによる福音書︾の冒頭の︿誕生物語﹀にもかかわらず,イエスの生涯に対する伝記的興味は希薄である。いずれも原始キリスト教団のいわゆる︿復活信仰﹀成立後の視点から書かれているため,生前のイエスと,︿復活﹀して︿天に挙げられた﹀キリストとが同一視されることになり,この意味でいずれの福音書の記述も一定の教義学的性格を帯びている。文学的に見ると,最初の福音書記者マルコは,イエスの受洗に始まり,ガリラヤでの活動,エルサレムへの上京,そこでの受難︵刑死︶という叙述の大きな枠組みをおそらくより古い伝承から受け取り,この枠組みの中へイエスの言葉と業に関する個々の短い伝承を︿編集﹀している。それらの伝承はマルコ以前の数十年間に,おもに口頭で,かつ種々の経路で伝承される間に,伝承者の必要に応じて変形を受けているので,そのまま史的な目撃証言とは考えられないものが多い。共観福音書相互間の関係については,最古の︽マルコによる福音書︾と,今は失われたがイエスの言葉だけを集めたもう一つ別の資料︵語録資料︶の二つが,他の二つの福音書の記者の資料となっているとする仮説︵︿二資料説﹀︶が定説となっている。
2世紀の半ば過ぎになると多かれ少なかれグノーシス主義の影響下に,多数の外典福音書が生み出されてくる。いずれも正典福音書を基にして,種々の特殊な伝承を加味しつつ,内容的には思弁的であり,冒頭に掲げた︿福音書﹀の定義に合致しないものが多く,ナザレのイエスに関しての史料的価値は小さい。2世紀後半の教父︵特にエイレナイオス︶以後は,正典四福音書記者を表すシンボルとして四つの天的生物が考えられた。異なる考え方も存在したが,最終的には︽ヨハネの黙示録︾4章6~8節に即して,マルコを︿ライオン﹀,マタイを︿人﹀︵人のような顔をした生き物︶,ルカを︿牛﹀,ヨハネを︿鷲﹀のシンボルでそれぞれ表記したヒエロニムスの考え方が定着した。
→聖書
執筆者‥大貫 隆
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福音書
ふくいんしょ
﹁福音﹂とは﹁よい知らせ﹂のことであり、これにあたるギリシア語﹁エウアンゲリオン﹂は、﹃新約聖書﹄のなかで数多く用いられ、イエスの教えおよびイエスについての教えをさす。しかし﹁福音書﹂という場合には、とくにイエスの言行を記した一連の文書の名称になる。正典として認められている福音書は四つであるが、ほかにもいくつかの外典(がいてん)福音書が残されている。福音書記者たち自身によるこれらの文書の呼び方は一定しておらず、文学類型という意味での福音書が語られるようになるのは、2世紀以後である。今日では、これらはイエスの単純な伝記ではなく、史実を核としながらも、教団や福音書記者の神学に基づいて独自に構成されたものと考えられている。正典に取り入れられた四福音書は、それぞれマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの名前を冠せられているが、初めの三つは相互に密接な関係を保っており、﹁共観福音書﹂とよばれる。19世紀以来、その関係の仕方をめぐっていくつかの仮説が提起され、結局﹁マルコ伝福音書﹂がもっとも古く、他の二つの福音書は、これとイエスの語録集︵Q資料︶を利用したとする説が、広く承認されるに至った。
﹇土屋 博﹈
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福音書【ふくいんしょ】
イエス・キリストの言行(福音)をその死まで述べる新約聖書中の4文書,《マルコによる福音書》《マタイによる福音書》《ルカによる福音書》《ヨハネによる福音書》の総称。前3者をまとめて〈共観福音書〉とも。英語でEvangel,Gospel。マルコ,マタイ,ルカ,ヨハネを福音書記者(福音史家)と称し,その象徴として順に〈ライオン〉〈人(のような顔の生き物)〉〈牛〉〈鷲〉が配される。外典福音書も少なくない。
→関連項目イエス・キリスト|啓典の民
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福音書(ふくいんしょ)
Evangelium[ラテン],Gospel[英]
イエス・キリストの生涯と教説を伝えた書。通常には新約聖書のなかに含まれたマタイ,マルコ,ルカ,ヨハネによる福音書をさす。これを四福音書と総称し,また最初の三つは構成に相関性のあるところから共観福音書と呼ばれる。福音書の基はイエスの言葉や業を口伝的に伝え,それに神学的解釈が加わって物語的形態を整えている。この四福音書のほか,新約聖書の正典外の文献としてトマス福音書,ヘブライ人福音書などがある。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
福音書
ふくいんしょ
Gospels
神からの喜ばしい救いの知らせをもたらした神の子イエス・キリストの教えと生涯についての人々の証言の記録。中核となるテーマは,イエス・キリストの十字架上の死とその復活である。新約聖書正典であるマタイ,マルコ,ルカ,ヨハネのいわゆる4福音書のほかに,経典外聖書に含まれるペテロ,ヘブル人,エジプト人,ニコデモ,ヤコブ,バルトロマイ,トマスの名を冠するものなどがある。4福音書は1世紀後半から2世紀にかけてマルコ,マタイ,ルカ,ヨハネの順で成立したものとみられ,2世紀後半以来正典として認められるようになった。
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福音書
ふくいんしょ
Gospel
『新約聖書』の中でイエスの生涯・奇跡・教えを記した部分
マタイ・マルコ・ルカ・ヨハネの4福音史家によるキリスト伝(4福音書)のことをいう。
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
世界大百科事典(旧版)内の福音書の言及
【聖書】より
…聖書はイスラムの聖典コーランのような一人物を通しての天啓の書物とは異なって,古代イスラエル民族と原始キリスト教の長い歴史の流れの中で多くの人々の手になった多様な文書を収めている。聖書は[旧約聖書]Old Testamentと[新約聖書]New Testamentから構成されているが,この区別と名称は2世紀になって初期の教会が[福音書]や書簡などを,イエス・キリストによる〈新しい契約〉を啓示する書物の意味で新約聖書と呼び,ユダヤ教から継承した聖典をこれと区別して〈古い契約〉(《コリント人への第2の手紙》3:14)の意味で旧約聖書と呼ぶようになったことに由来する。イエスをメシア(救世主)とは認めないユダヤ教では,キリスト教会によって旧約聖書と名づけられた文書が唯一の聖典である。…
【福音】より
…神が〈即位〉したことにより,平和,幸い,救いの支配する,それまでとは質的に異なる新しい時代が始まる,それがここでいう〈よい知らせ〉の内容である。 新約では〈福音〉は主として[福音書](《ヨハネによる福音書》を除く)とパウロに出る。福音書ではそれはイエスの語った言葉の中で使われることが多いが,二次的に持ち込まれた場合が多く,彼自身がこの語を用いた確証はない。…
※「福音書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」