デジタル大辞泉
「管理貿易」の意味・読み・例文・類語
かんり‐ぼうえき〔クワンリ‐〕【管理貿易】
国に直接、管理・統制されている貿易。品目・数量・相手国・決済方法などが指定される。
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かんり‐ぼうえきクヮンリ‥【管理貿易】
(一)〘 名詞 〙 国際収支の均衡などを目的として、国が貿易を統制すること。また、その貿易。輸入禁止措置、輸入割当制などをとったり、貿易の総額、相手国、決済手段などの枠をきめたりする。
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管理貿易
かんりぼうえき
organized trade
国民経済の健全な発展や国際収支均衡の要請、政治的、軍事的な配慮などから、政府が外国との取引の一部または全部に種々の規制を課すこと、もしくはそのような規制を課された貿易をいう。管理の方法としては、輸出管理面では輸出自主規制、輸出の比例割当制、輸出禁止、輸入管理面では輸入割当制、輸入許可制、輸入禁止などがある。管理貿易は1930年代の世界不況、第二次世界大戦後のドル不足︵アメリカ以外の世界諸国で国際収支の赤字が続き、ドル保有高が全体として不足する状態︶対策として各国で実施された。わが国の場合、戦後は50年︵昭和25︶に民間貿易が再開されるまで輸出入はすべて連合国最高司令部︵GHQ︶の管理のもとに政府が行うという全面的管理貿易であった。また50年には外国為替(かわせ)予算制度︵通称は外貨予算制度︶による輸入管理が実施されている。これは、当時わが国にとり貴重であった外貨を日本経済の復興と発展のために必要な部門に割り当てるという為替面からの輸入割当制であった。この制度は、60年代における貿易自由化の急速な進展に伴い64年に廃止され、輸入は原則として自由とする体制ができ、輸入管理は例外として行われることになった。
1970年代に入ると、わが国産業の国際競争力が著しく高まり、それに伴う貿易収支の大幅な黒字によって、アメリカやEC︵ヨーロッパ共同体。EU=ヨーロッパ連合の前身︶との間に貿易摩擦問題が発生した。アメリカは、日本からの特定商品の﹁集中豪雨﹂型の輸出急増に対して輸出自主規制を強く要請し、その結果、繊維製品、鉄鋼、カラーテレビ、自動車、工作機械などについて輸出自主規制が貿易摩擦の解決策として採用された。特定商品の輸入急増に対抗する手段としては、ガット第19条に規定された緊急輸入制限措置がある︵ガットは、1995年世界貿易機関=WTOに引き継がれ、その後は、ガット第19条とWTOのセーフガード協定による︶。しかし、この発動には関係国との協議の成立が必要であり、運用はガットの無差別の原則に従って、特定国のみでなく、すべての加盟国からの輸入品に適用しなければならない。そのため輸入国は、特定商品の輸出国に対して輸出自主規制を求めることが多い。第一次石油危機︵1973︶以降の低成長時代になると、日本対アメリカとEC、アメリカ対ECなど先進工業国間の貿易摩擦は強まる一方である。この傾向に対して、ジスカール・デスタン仏大統領は、77年のロンドン・サミットにおいて、管理された貿易による世界貿易秩序の維持を提唱したといわれる。80年代に入ると、日本とアメリカやECをめぐる貿易摩擦はいっそう激しくなっていく。70年代、80年代における貿易摩擦の多くは﹁隠れた輸入制限﹂といわれる輸出自主規制によって解決されている。その意味において、アメリカやEC︵EU︶は、日本に特定品目の輸出自主規制措置をとらせることによって、特定品目の輸入管理を実現したといえよう。
﹇田中喜助﹈
﹃川口弘・篠原三代平編﹃図説 日本経済論﹄︵1973・有斐閣︶﹄▽﹃小倉和夫著﹃日米経済摩擦﹄︵1982・日本経済新聞社︶﹄▽﹃ローラ・D・タイソン著、竹中平蔵監訳、阿部司訳﹃誰が誰を叩いているのか――戦略的管理貿易は、アメリカの正しい選択?﹄︵1993・ダイヤモンド社︶﹄▽﹃ジャグディッシュ・バグワティ著、佐藤隆三・小川春男訳﹃危機に立つ世界貿易体制――GATT再建と日本の役割﹄︵1993・オースタ研究所、勁草書房発売︶﹄▽﹃新堀聡著﹃ウルグアイ・ラウンド後の世界の貿易体制と貿易政策﹄︵1994・三嶺書房︶﹄▽﹃八代尚宏著﹃対外摩擦の政治経済学﹄︵1995・日本評論社︶﹄▽﹃野林健著﹃一橋大学法学部研究叢書 管理貿易の政治経済学――米国の鉄鋼輸入レジーム‥1959~1995﹄︵1996・有斐閣︶﹄▽﹃野林健・納屋政嗣ほか著﹃国際政治経済学・入門﹄︵1996・有斐閣︶﹄
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管理貿易 (かんりぼうえき)
controlled trade
managed trade
国家がある一定の政策目的を達成するために貿易取引を統制・管理すること,ないしはそうした貿易の形態をいう。通常,政策手段としては貿易・為替の直接的な数量制限を用いるが,輸出入許可制,決済方式の指定などによることもある。しかし第2次大戦後の先進諸国では,IMF-GATT(ガツト)体制のもとに,貿易・為替の制限はしだいに撤廃され,無差別・多角的な貿易自由化は1970年代初めまでの世界貿易拡大をもたらした。ところが,73年の石油危機に端を発した世界的な不況のもとで各国の失業率が上昇し,造船,鉄鋼といった戦略産業で各国間の貿易摩擦が激化した。このような世界貿易が直面する厳しい情勢に対処するため,77年の第3回先進国首脳会議(サミット)において,フランスのジスカール・デスタン大統領は〈管理された自由貿易〉を提唱した。その基本的な考え方は,自由貿易の結果が消費者や生産者に望ましくない変動を強いたり雇用の危機をもたらす場合には,特定部門の貿易を管理し,先進国間で貿易を組織する必要があるというものである。自由貿易体制のもとで国際競争力の強い国の製品に圧迫されて自国の失業が増大したり,特定産業の衰退が顕著となったときに,現実問題として,どこまで政府による介入と貿易の管理が容認されると考えるかは,各国政府によってまちまちである。したがって,今後は自由貿易体制を守っていくうえで,どの程度の政府の管理介入を認めるかが論議のポイントとなろう。なお日本では,第2次大戦直後の数年間,占領軍の管理下,占領軍に従属する機構として貿易庁が設置されて行われた管理貿易が有名である。
執筆者:佐々波 楊子
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管理貿易【かんりぼうえき】
国家の手で統制・管理された貿易,またはその貿易統制。管理の手段には,輸入許可制,輸入割当制,決済方式の指定など貿易・為替両面においていろいろあるが,いずれも直接的ないし数量的貿易制限の形をとり,ふつう関税制度などは含めない。
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管理貿易
かんりぼうえき
government-managed trade
国家によって直接的に管理,統制されている貿易。その方式は輸入禁止,輸入許可制,バーター制 (→求償貿易 ) のほか,貿易の内容,相手国,輸入数量の割当,決済手段などを規制することがある。関税による間接的な管理,統制は一般には含まない。
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世界大百科事典(旧版)内の管理貿易の言及
【非関税障壁】より
…これまで8回行われたGATTの貿易交渉は,関税引下げに関して大きな成果を挙げてきたといってよい。しかし,1970年代後半以降,世界的不況を背景として新保護貿易主義が台頭し,非関税障壁に基づく〈管理貿易〉が著しく増加しており,関税障壁の低下とは対照的に,非関税障壁の改善がほとんど進んでいないことが問題とされてきた。とくに日本に対しては,対アメリカ,対ECの大幅輸出超過を背景に,その通関手続,輸入検査基準,動植物の防疫手続,さらに独特の流通機構や系列取引などが,非関税障壁として改善が要求された。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」