デジタル大辞泉
「謡曲」の意味・読み・例文・類語
よう‐きょく〔エウ‐〕【謡曲】
能の詞章・脚本。また、それに節をつけて謡うこと。謡(うたい)。→能(のう)4
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よう‐きょくエウ‥【謡曲】
(一)〘 名詞 〙
(二)① 能楽の詞章。また、その詞章に節をつけてうたうこと。謡(うたい)。
(一)[初出の実例]﹁月の色人と云しこと仏経より出づ。謡曲の作者も拠る所ある也﹂(出典‥随筆・甲子夜話︵1821‐41︶六〇)
(三)② 歌を歌うこと。唱歌。
(一)[初出の実例]﹁謡曲は至要とするに非ざれども、善良なる教師は能く其原理を会得し﹂(出典‥彼日氏教授論︵1876︶︿ファン=カステール訳﹀四)
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謡曲
ようきょく
能の脚本部分をいい、その声楽部分、つまり謡(うたい)をさすこともある。1772年︵安永1︶の﹃謡曲拾葉抄﹄に﹁謡曲﹂の語が用いられており、今日では﹃謡曲大観﹄﹃謡曲全集﹄﹃謡曲集﹄などと広く使われる。世阿弥(ぜあみ)は脚本のことを﹁能本(のうほん)﹂ということばを用いている。
能の曲目は、どの流儀にも継承されたものもあり、流儀によって異なるものもあり、同じ曲でも名称や表記、本文に相違がある。観世(かんぜ)流は観世流の、金春(こんぱる)流は金春流の詞章を伝えているが、実際の能の上演の場合、ワキの部分はワキ方の、間(あい)狂言は狂言方の脚本によるから、厳密な意味で上演台本とはいいがたい。
作詞の方法については、世阿弥が﹃三道(さんどう)﹄ほかに多く述べており、序一段、破三段、急一段の五段構成を指示している。謡曲の文章は、小段とよばれる類型的な単元の組合せによることが多い。クリ・サシ・クセ、次第・一セイなど。それらは音楽的特徴も共通している。
謡曲作者については、僧侶(そうりょ)が作詞して、能役者が節付けしたのだろうなどという説が明治のころまで流布されていたが、世阿弥の伝書の発見、その後の研究の進展によって、ほとんどが能役者の手で創作されたことが明らかになった。つまり、能は音楽劇であるから、作詞と作曲と演出のくふうが同時進行する必要があったが、それにしても、これは世界の演劇史のなかで、きわめて注目すべきことである。
謡が能から独立して、素謡(すうたい)として演奏され、鑑賞され、あるいは稽古(けいこ)されるようになったのは、主として江戸時代以降のことで、謡のテキストである謡本(うたいぼん)の出版はおびただしい数に上った。謡曲指南の役者も増え、現代も謡を稽古する人が多い。
謡曲の音楽面では、節のある部分と、節のない﹁コトバ﹂とよばれる部分に大別されるが、コトバにも一種の抑揚があり、広義の歌である。節のある部分は、リズムをとらぬ謡い方と、リズムをとる謡い方に分けられる。能のリズムは八拍子に規定され、そこに七五調12音を当てはめる平ノリが基本であり、16音を割り振る躍動的な中ノリ、一音一拍のゆったりした大ノリの区別があり、また発声、息づかい、音階などの相違するヨワ吟とツヨ吟の謡い方がある。
﹇増田正造﹈
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謡曲【ようきょく】
能の台本。また,それを声に出してうたうこと。謡(うたい)とも。現行約250曲。観阿弥,世阿弥,観世信光など室町末期までの能役者自身の作品が主。古典,伝説等の脚色が多い。芝居の言い方でいえば1〜2幕物。序破急5段の構成が基本。クセ,ロンギなど40種ほどの小単位があり,様式性が強い。韻文と候(そうろう)調の散文︵コトバ︶を含む。掛詞(かけことば)や縁語を駆使し,連鎖的なイメージの展開を主とする文体である。近世以降の文芸,演劇,音楽への影響が大きい。
→関連項目蘆刈説話|池田宿|老ノ坂|口説|重頼|智恩寺|横道万里雄
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謡曲 (ようきょく)
能の脚本である︿謡本︵うたいぼん︶﹀を,主として文学作品としてとらえたときの名称。能を文学作品としてみる立場は,初の注釈書である︽謡抄︾︵1595︶にすでにみることができるが,︿謡曲﹀の語は1772年︵明和9︶刊の︽謡曲拾葉抄︾が最も早い使用例と思われる。それまでは︿能本﹀︿謡本﹀︿謡の本文﹀などと称していたようである。近代に入って能の興隆や研究の発展に伴い,大和田建樹︽謡曲通解︾︵1892︶,坪内逍遥︽謡曲文は歌なりや文なりや︾︵︽能楽︾1905年8月号︶など広く用いられるようになり,現在の︽日本古典文学大系︾︽日本古典文学全集︾の︽謡曲集︾などに受け継がれている。なお,同類の語に謡︵うたい︶があり,音楽的芸能的に扱うときは謡の名称を用いる。ただしラジオの︿謡曲・狂言の時間﹀などの例のように,謡を謡曲と呼ぶ場合もある。
→謡 →謡本
執筆者‥松本 雍
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謡曲
ようきょく
(1) 能の詞章と曲。謡 (うたい) 。 (2) 能の台本。謡本は間狂言のせりふを含まないので不完全ではあるが,原則として能の台本でもある。謡曲の構成は,典型的な夢幻能の場合,序破急の5段構成を基本とし,各段はさらに次第,名のり,一声,クリ,サシ,クセなど数十種の小段に分れる。詞章の中心部は枕詞,縁語,懸詞 (かけことば) などを多用し,古詩古歌を引用した文章であり,これは能の象徴性と深い関係をもつ。謡曲は,演奏順序,内容から,初番目物 (脇能物,神事能) ,二番目物 (修羅物,男物) ,三番目物 (鬘物,女物) ,四番目物 (雑能物,狂乱物) ,五番目物 (尾能︿切能﹀物,早舞物,鬼物) の5種に分けられる (→五番立 ) 。
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謡曲
ようきょく
能の詞章,あるいはその節。謡(うたい)と同義であるが,謡のほうが古いいい方で,謡曲の語が使われだすのは近世後期以降。世阿弥時代から酒盛や旅中などで歌われることが多く,素人の武家・公家・庶民の間にも広まり,室町中期には愛好者の組織である謡講(うたいこう)もうまれた。江戸時代には謡曲熱の反映として謡本(うたいぼん)の刊行が盛んになり,寺子屋でも謡が教えられた。近世以降俳諧をはじめ他の文芸・文化に及ぼした影響は大きい。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
謡曲
ようきょく
その詞章を節付けして謡うことを素謡 (すうたい) というが,本来は舞台にかけ囃子方︵笛・大小鼓など︶の伴奏によって歌舞するための台本。その構成は序・破・急の順序に従って進行し,文章は和漢の故事伝説を素材にとり和歌漢詩文を引用し,華麗沈痛な趣がある。文学的価値も高い。脇能物・修羅物・鬘物・現在物・切能物の5種があり,現行曲は240番余。主要作者には観阿弥・世阿弥・金春禅竹らがいる。
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世界大百科事典(旧版)内の謡曲の言及
【能】より
…[狂言][猿楽]
︻能本︼
能の脚本を古くは能本と呼んだ。現在では[謡曲]と呼ぶことが多いが,この言葉は,能の構成要素のうち声楽部門を指す謡という語と同義にも用いるので,能本の呼称を復活させたい。
﹇人物﹈
能の主人公には,神仏,物の精,幽霊など霊体の人物が多い。…
※「謡曲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」