デジタル大辞泉 「退く」の意味・読み・例文・類語 しり‐ぞ・く【退く】 ﹇動カ五︵四︶﹈ 1 後方へ下がる。後ろへのく。あとじさる。﹁大またで三歩―・く﹂⇔進む。 2 ㋐貴人・目上の人の前を離れて出て行く。退出する。また、その場所から去る。﹁御前を―・く﹂﹁控えの間に―・いて待つ﹂ ㋑試合などで、敗れてそこからいなくなる。﹁初戦で―・く﹂ 3 官職などを辞める。引退する。﹁現役を―・く﹂﹁政界から―・く﹂ 4 ︵多く﹁しりぞいて﹂の形で用いる︶置かれている状況を離れる。﹁一歩―・いて考える﹂ 5 譲歩する。引き下がる。﹁自説を固持して一歩も―・かない﹂ ﹇動カ下二﹈﹁しりぞける﹂の文語形。 [類語]︵1︶退(の)く・去る・下がる・退(ど)く・立ち去る・立ち退く・引き下がる・引き上げる・引き取る・引き払う・引っ込む・辞去/︵3︶辞める・離れる・去る・退(の)く・抜ける・離脱する・脱退する・引退する・辞任する・離任する・手を引く・身を退く・骸骨を乞う・退会・退団・退部・脱会・脱党・離党・杯を返す の・く︻▽退く︼ ﹇動カ五︵四︶﹈ 1 今までいた場所から離れる。今までの場所をあけて他へ移る。どく。﹁ちょっとそこを―・いてください﹂﹁借家を―・く﹂ 2 ある場所から離れている。へだたっている。﹁現場から少し―・いた所﹂ 3 地位・職務から離れる。引退する。﹁大学教授を―・く﹂ 4 組織や仲間から抜ける。脱退する。﹁組合から―・く﹂ 5 今までの関係を離れる。縁が切れる。﹁夫婦も―・けば他人﹂ [可能]のける ﹇動カ下二﹈﹁のける﹂の文語形。 [類語]︵1︶退(しりぞ)く・去る・下がる・退(ど)く・立ち去る・立ち退く・引き下がる・引き上げる・引き取る・引き払う・引っ込む・辞去/︵3︶︵4︶辞める・去る・離れる・退(しりぞ)く・抜ける・離脱する・脱退する・引退する・辞任する・離任する・手を引く・身を退く・骸骨を乞う・退会・退団・退部・脱会・脱党・離党・杯を返す ど・く︻▽退く︼ ﹇動カ五︵四︶﹈いる場所を動いて、そこをあける。のく。﹁早く―・いてくれ﹂ [可能]どける ﹇動カ下二﹈﹁どける﹂の文語形。 [類語]下がる・去る・遠ざかる・遠のく・離れる・立ち去る・引き払う・引き上げる・辞去する・退去する・退散する・失(う)せる・退(の)く・立ち退く・引き下がる・引き取る・引っ込む・後(あと)にする そ・く︻▽退く︼ ﹇動カ四﹈遠く離れる。遠ざかる。 ﹁雲離れ―・き居りとも我忘れめや﹂︿記・下・歌謡﹀ ﹇動カ下二﹈遠く離す。遠ざける。 ﹁赤見山草根刈り―・け合はすがへ争ふ妹(いも)しあやにかなしも﹂︿万・三四七九﹀ しぞ・く【▽退く】 [動カ四]「しりぞく」に同じ。「漕げども漕げどもしりへ―・きに―・きて」〈土佐〉 出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
精選版 日本国語大辞典 「退く」の意味・読み・例文・類語 の・く【退】 (一)[1] 〘 自動詞 カ行五︵四︶ 〙 (一)[ 一 ] その位置・立場から離れ去る。また、位置をへだてる。 (一)① 今までいた場所から離れ去る。どく。たちのく。 (一)[初出の実例]﹁つつみもあへず、物ぐるはしきまでけはひもきこえぬべければ、のきぬ﹂(出典‥源氏物語︵1001‐14頃︶手習) (二)② 距離をおく。場所が離れる。 (一)[初出の実例]﹁居給べき所と見ゆるは、寺よりは少しのきてぞありける﹂(出典‥狭衣物語︵1069‐77頃か︶四) (三)③ 逃げる。退却する。 (一)[初出の実例]﹁渚(なぎさ)に百騎ばかりありける物ども、しばしもこらへず、二町ばかりざっと引いてぞのきにける﹂(出典‥平家物語︵13C前︶一一) (四)④ 地位を離れる。 (一)[初出の実例]﹁一条院くらゐにつかせ給しかば、よそ人にて、関白のかせたまひにき﹂(出典‥大鏡︵12C前︶二) (五)⑤ 関係がなくなる。縁が切れる。離縁する。また、﹁のいた﹂の形で、関係がない、無縁だの意で用いる。→のいた仲。 (一)[初出の実例]﹁この宮の御具にては、いと良きあはひなりと、思も譲りつべく、のく心ちし給へど﹂(出典‥源氏物語︵1001‐14頃︶浮舟) (六)⑥ ついていたものが離れる。取れる。 (一)[初出の実例]﹁エイ。申(まうし)申、何と御草臥はのきましてござるか﹂(出典‥虎寛本狂言・呂蓮︵室町末‐近世初︶) (七)⑦ 売れてかたづく。売りさばかれる。 (一)[初出の実例]﹁して﹃此間は、なにかとして、みまいまらせぬと云て、さけは、のきまらするかと云﹄女﹃ようのくと云﹄﹂(出典‥天理本狂言・伯母が酒︵室町末‐近世初︶) (二)[ 二 ] 補助動詞。動詞の連用形に﹁て﹂の付いた形に付いて、﹁…てしまう﹂の意を表わす。 (一)[初出の実例]﹁春は三春とて、九十日を、三にわけた也。三分の春が、二春は塵となりてのくる也﹂(出典‥中華若木詩抄︵1520頃︶下) (二)[2] 〘 他動詞 カ行四段活用 〙 (一)① ( 除 ) 除く。他と区別する。﹁いとのきて﹂の形で、慣用句的に用いられる。→いと︵最︶のきて。 (二)② ( 遺 ) 残す。 (一)[初出の実例]﹁いかなるや人に坐(いま)せか 石の上を 土と踏みなし足跡(あと)乃祁(ノケ)るらむ 貴くもあるか﹂(出典‥仏足石歌︵753頃︶) (三)[3] 〘 他動詞 カ行下二段活用 〙 ⇒のける︵退︶ しり‐ぞ・く︻退︼ (一)( 後方の意の﹁しり﹂に、離れるの意の﹁そく﹂が付いたものという ) (二)[1] 〘 自動詞 カ行五︵四︶ 〙 (一)① あとへひく。ひきさがる。後ろへのく。しぞく。 (一)[初出の実例]﹁是に於いて、古人の大兄、座(しきゐ)を避りて逡巡(シリソキ)て手を拱(つくり)て辞(いな)び曰く﹂(出典‥日本書紀︵720︶孝徳即位前︵北野本訓︶) (二)﹁人々はしりぞきつつさふらへばより給て、などかくいぶせき御もてなしぞ﹂(出典‥源氏物語︵1001‐14頃︶葵) (二)② その場を離れて出て行く。かえる。退出する。特に、貴人・目上の人などの前から退出するのをいう。﹁二回戦で退く﹂ (一)[初出の実例]﹁坐より起ちて、仏を礼して退(シリソキ)ぬ﹂(出典‥立本寺本法華経寛治元年点︵1087︶一) (三)③ 隠退する。今までの官職や職業をやめたり、地位や社会から身をひいたりする。 (一)[初出の実例]﹁つたなきをしらばなんぞやがてしりぞかざる﹂(出典‥徒然草︵1331頃︶一三四) (四)④ へりくだる。けんそんする。ひかえめにする。 (一)[初出の実例]﹁しりぞきて咎なしとこそ昔賢しき人も言ひ置きけれ﹂(出典‥源氏物語︵1001‐14頃︶明石) (五)⑤ ものごとの勢いが弱まったりなくなったりする。 (一)[初出の実例]﹁九月も半ちかくなったが残暑はすこしも退(シリゾ)かぬ﹂(出典‥濹東綺譚︵1937︶︿永井荷風﹀九) (六)⑥ ( 他動詞的に用いて ) しりぞける。遠ざける。 (一)[初出の実例]﹁又みもなきよろこびをしりぞき、はつとのしたに六こんをよくおさめまもるべし﹂(出典‥こんてむつすむん地︵1610︶一) (三)[2] 〘 他動詞 カ行下二段活用 〙 ⇒しりぞける︵退︶ し‐ぞ・く︻退︼ (一)[1] 〘 自動詞 カ行四段活用 〙 後方にひきさがる。うしろにさがる。しりぞく。 (一)[初出の実例]﹁諸の阿素洛驚き怖き退(しソキ)散(あか)れぬといふがごとし﹂(出典‥地蔵十輪経元慶七年点︵883︶八) (二)﹁まづ、しりなるこそは、などいふほどに、それもおなじ心にや、しぞかせ給へ。かたじけなしなどいふ﹂(出典‥枕草子︵10C終︶二七八) (二)[2] 〘 他動詞 カ行四段活用 〙 遠ざける。追いはらう。しりぞける。 (一)[初出の実例]﹁仏を去(シソキ)て時遙かに、病重く行(か)けたれば﹂(出典‥彌勒上生経賛平安初期点︵850頃︶) そ・く︻退︼ (一)[1] 〘 自動詞 カ行四段活用 〙 遠く離れる。遠ざかる。しりぞく。のく。 (一)[初出の実例]﹁大和へに 西風(にし)吹き上げて 雲離れ 曾岐(ソキ)居りとも 我忘れめや﹂(出典‥古事記︵712︶下・歌謡) (二)[2] 〘 他動詞 カ行下二段活用 〙 離す。遠ざける。しりぞかせる。取り去る。 (一)[初出の実例]﹁安可見山草根刈り曾気(ソケ)逢はすがへ争ふ妹しあやに愛(かな)しも﹂(出典‥万葉集︵8C後︶一四・三四七九) ど・く︻退︼ (一)[1] 〘 自動詞 カ行五︵四︶ 〙 その場を離れる。そこから他の場所に移る。しりぞく。のく。 (一)[初出の実例]﹁湯水を遣ふのだものを、かかるが悪くば遠くへ退居(ドイて)るがいい﹂(出典‥滑稽本・浮世風呂︵1809‐13︶二) (二)[2] 〘 他動詞 カ行下二段活用 〙 ⇒どける︵退︶ 出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例