電気工学(読み)デンキコウガク(英語表記)electrical engineering

デジタル大辞泉 「電気工学」の意味・読み・例文・類語

でんき‐こうがく【電気工学】

電気や磁気現象を動力・熱・光・通信などのエネルギー源として利用する理論と応用を研究する工学の一分野。

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精選版 日本国語大辞典 「電気工学」の意味・読み・例文・類語

でんき‐こうがく【電気工学】

  1. 〘 名詞 〙 電気および電磁気現象を動力・熱・光・通信などとして人間生活に応用する際の理論・技術を研究する学問。〔工学字彙(1886)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「電気工学」の意味・わかりやすい解説

電気工学
でんきこうがく
electrical engineering


16002178518191820182018261831184818641888189319001905194819511957JJ1897K. Jansky190519501931193818801950

 21

 

通信技術


18091837401876

 188818981906()196019771962

 

 

電力技術

1799年、ボルタによって電気堆(たい)が発明され、初めて直流電流が得られるようになった。1800年、イギリスのニコルソンとカーライルAnthony Carlisle(1768―1840)はこれを使って水の電気分解に成功した。1802年にはデービーが木炭片を使ってアーク灯の実験に成功した。これらが電気を使って仕事をさせた初期の応用であるが、その規模は実験室の域を出なかった。その後電池の改良が種々行われ、実用性が高まったが、電池は容量、耐久性、取扱いの点に弱点があり、有効な電源とはなりえなかった。そのため、この時代は電気のエネルギーを利用する技術は発達しなかった。その後、1867年、E・W・ジーメンスによって自励式直流発電機が発明され、多量の直流が安定して得られるようになった。またこのころ、エジソンによる白熱電灯の発明(1879)、ジーメンスによる電気鉄道の考案(1879)などがあって、電気エネルギーの利用の道が開かれた。このように電力技術は直流の利用から始まったが、ドイツのドリボ・ドブロボルスキーによって提案された三相交流送電方式は、1891年に行われた実験で、その直流送電方式に対する優位が認められ、交流の実用化が始まった。これによって大量の電力の輸送が効率よく行われるようになり、電力技術が電気工学の中心的役割を担うこととなった。その後の半世紀の間(この時期は通信技術および電子技術が急速かつ広範囲に発展したときであったが)、電力技術の分野では飛躍的な新技術は現れなかったが、1951年アメリカ、アルゴンヌ国立研究所における原子力発電の成功は、電力技術に新局面を開いた。現在では、在来の水力発電、火力発電に加えて、原子力発電が重要な役割を果たすようになっている。しかし、いくつかの原子力発電所の事故を踏まえ、原子力発電をこのまま行うかは世界的な議論の対象となっている。

[布施 正・吉澤昌純]

電子技術

1897年トムソンによる電子の発見は、現在のエレクトロニクスの礎(いしずえ)を築く重要なできごとであった。1906年ド・フォレストによってつくられた三極真空管は、電子を利用した最初の巧妙なデバイス(からくり)であった。それからの半世紀の間に、マグネトロン(1921)、ブラウン管オシログラフ(1927)、アイコノスコープ(1933)、電子顕微鏡(1933)、クライストロン(1939)、進行波管(1944)その他自由電子を利用したデバイス(装置)が次々と出現した。エレクトロニクスという語もこの時期に現れた。1948年、ショックレー、バーディーン、ブラッテンによるトランジスタの発明は、それまでの真空管を中心としたエレクトロニクスに大きな変化をもたらした。それは単に、真空管を半導体に置き換えただけでなく、電子回路の超小型化の端緒を開いた。1959年にアメリカ、テキサス・インスツルメンツ社によって最初の集積回路(IC)がつくられて以来、年を追って集積度が高まり、1966年には大規模集積回路(LSI)が、1978年には超大規模集積回路(VLSI)が出現した。集積回路は小型・軽量で信頼性が高く、かつ安価であることから電子技術に革命的変化をもたらし、人工衛星から電気炊飯器に至るまで、ほとんどすべての工業製品に電子装置が組み込まれるようになった。現在ではスマートフォンにみられるように、身の回りの製品に電子回路やコンピュータが組み込まれ、高度な使用に耐えられる性能が求められている。これにこたえるため、マイクロプロセッサーの低消費電力化と処理速度の向上や、プログラムにより変更できる論理回路、新しいタイプの電子回路の実用化など、電子技術はますます重要な役割を担う分野となっている。

[布施 正・吉澤昌純]

量子エレクトロニクス

1960年、アメリカのメイマンTheodore Harold Maiman(1927―2007)はルビーを用いてレーザーの発振に成功した。これは、従来の自由電子を利用するデバイスとは異なる誘導放出を利用するもので、量子エレクトロニクスとよばれる分野が誕生した。このあと、固体、液体、気体を用いた各種のレーザーが実現し、赤外線から紫外線にわたってレーザー光が得られるようになり、通信技術、計測技術、加工技術、医学、核融合、芸術などに自然光ではなしえなかった新しい応用面を開いた。

[布施 正・吉澤昌純]

情報処理・制御技術

自動制御の考えは、蒸気機関のガバナー(調速機)にみられるように古くからあったが、電気工学の分野では、1932年アメリカのナイキストHarry Nyquist(1889―1976)によって帰還増幅器の安定性が論じられてから発達し始めた。自動制御の方法も、当初はアナログ方式が主であったが、デジタル回路の進歩に伴い、しだいにデジタル方式に移行していった。とくにコンピュータを利用した自動制御技術はロボットの実現をもたらした。1958年アメリカのコンソリデイテッド・コントロール社によって産業用ロボットがつくられて以来、多数のロボットが生産工場で稼動するようになった。

 コンピュータの歴史も古く、1642年にはパスカルによって機械式計算機が考案されたが、自動式計算機は1944年アメリカのエイケンHoward Hathaway Aiken(1900―1973)によってつくられたMARK‐Ⅰ(マークワン)が最初とされている。1941年ごろドイツのツーゼKonrad Zuse(1910―1995)が完成させたZ3(ゼットスリー)が最初という説もある。翌1945年にはノイマンによって蓄積プログラム方式のコンピュータが提案された。1949年、イギリスのウィルクスMaurice Vincent Wilkes(1913―2010)によって最初のプログラム内蔵方式のコンピュータEDSAC(エドサック)がつくられ、現在に至っている。このころ出現した半導体デバイスはただちにコンピュータに取り入れられた。1959年には、全トランジスタ化したコンピュータIBM1401が完成した。半導体を使用することによってコンピュータの信頼性が著しく向上し、コンピュータは実用化の時代に入った。また、半導体技術の進歩は集積回路を生み出し、これを利用することによって高速大型コンピュータが実現した。一方、1969年にはLSIを利用したマイクロプロセッサーが考案され、1971年にはマイクロプロセッサーを使ってマイクロコンピュータ、いわゆるパーソナルコンピュータ(パソコン)が出現した。その大きさは時代につれ小型化され、膝(ひざ)の上にのせられるコンピュータという意味のラップトップ型、ノート型、そして、コンピュータに携帯電話機能をもたせたスマートフォンの出現に至っている。

 このようにコンピュータの進歩は、一方で大規模な情報処理を可能にし、たとえばコンピュータ断層撮影computed tomography(CT)装置のように、コンピュータなしでは不可能な診断装置を実現させており、さらに画像処理等による機能の高度化にも役だっている。また、最先端の技術による演算速度がきわめて高速なスーパーコンピュータは、気象予報、自動車、船舶、航空機、高層ビル、原子力などにおいて設計やシミュレーションに使われ、これまでより精度の高い予報、安全性が高くより燃費のよい自動車、船舶、航空機、地震に強い高層ビル等の実現に役だっている。さらに、分子設計や遺伝子解析などバイオ、化学分野での活用も盛んであり、医療の高度化や新素材開発に果たす役割が大きくなっている。他方では、パソコンやスマートフォンのように小規模の情報処理を個人単位に提供し、さらには超小型のコンピュータをいろいろな機器に組み込み、場合によってはそれらをネットワークにより接続し、互いに協調作業を行うシステムをも可能としている。たとえば、自動車のネットワーク接続による交通事故がなく渋滞しない交通システムの構築が取り組まれており、このような応用が広がりつつある。

[布施 正・吉澤昌純]

医用生体工学

ツウォリキンによって提唱された医用電子工学(ME)は、第二次世界大戦後に誕生した電気工学の一分野であるが、現在では医用生体工学(BME)に拡張され、学際的な先端技術として成長を続けている。これには病気の診断技術の基礎となる生体計測、生体情報処理、生体の機能を代行する技術の基礎となる生体作用、人工生体器官、生体のメカニズムを解明するための生体現象、生体物性、治療のための医用システム、安全性を高めるための人間工学などの諸分野を含んでいる。これらすべての分野で、電気工学がなくてはならないものとなっている。現在のBMEは、工学・技術を生体に適用する方向の考え方が中心をなしているのに対し、生体の機能を手本にした情報処理技術の開発や、生体を機能素子として利用する研究も行われている。

[布施 正・吉澤昌純]

『関英男著『電気の歴史』(1977・日本放送出版協会)』『水島宣彦著『エレクトロニクスの開拓者たち』(1985・電子通信学会)』『高橋雄造著『電気の歴史――人と技術のものがたり』(2011・東京電機大学出版局)』

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改訂新版 世界大百科事典 「電気工学」の意味・わかりやすい解説

電気工学 (でんきこうがく)
electrical engineering




 19191880M.1831E.W.von1866T.A.18791882J.C.1864A.G.1876H.R.1888G.M.189918708061873W.E.101718881880

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百科事典マイペディア 「電気工学」の意味・わかりやすい解説

電気工学【でんきこうがく】

電気および磁気現象に関連した諸現象についての応用技術を研究する学問。電気化学,電気回路,電気計測,照明,電熱,回転機械などの各種電気機器,電気鉄道,発送電関係の諸施設などが対象とされる。広義には通信工学,電子工学(エレクトロニクス)も含む。
→関連項目工学

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「電気工学」の意味・わかりやすい解説

電気工学
でんきこうがく
electric engineering

電気,磁気に関する諸現象の工学的な理論と応用を研究する学問。その分野は電気磁気,電気回路,電気材料,発電機,電動機,発送配電,電気通信,電気化学,電灯照明,さらに各種電気機械を応用した電気鉄道,電気的機器を利用した自動制御,各種機器関係の測定および測定機器など広範囲にわたっている。またその分科としての電気通信工学において有線・無線通信,通信回路理論から,真空管,放電管をはじめ半導体の問題に及び,他の諸科学との関連も深い。

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