翻訳|ATPase
アデノシントリホスファターゼadenosine triphosphataseの略称。ATP(アデノシン三リン酸)をADP(アデノシン二リン酸)と無機リン酸に加水分解する酵素の総称。ATPアーゼ作用を示すタンパク質(酵素)はいずれも,生体内においては同時になんらかの機械的仕事(運動),浸透圧的仕事(能動輸送)などをおこなう機能タンパク質である。すなわち生体は,常になんらかの物理的仕事に対するエネルギーの供給と共役したかたちでATPを分解するように造られており,ATPがむだに加水分解されることはない。たとえば筋肉の収縮タンパク質であるミオシンは機械的仕事と共役したATPアーゼの一つであり,反応過程におけるそれ自身の高次構造変化やアクチンとの相互作用などを通じて,ATPのエネルギーを筋収縮の仕事に変換する機能をもっている。一方,筋小胞体と呼ばれる筋肉の細胞器官の膜に大量に存在する別種のATPアーゼは,ATPの分解に先立って細胞質中のCa2⁺イオンを強く結合し,小胞体内のCa2⁺濃度が細胞質より高い場合でも,ATPの分解とともにそれを膜の内腔に輸送する性質を示す。収縮した筋肉が再び弛緩するのは,このCa2⁺輸送ATPアーゼの働きで筋細胞質内のCa2⁺濃度が低下するためである。細胞膜に存在し,Na⁺およびK⁺によって活性化されるNa⁺,K⁺-ATPアーゼもやはりこれらの1価カチオンの能動輸送をおこなうタンパク質で,細胞膜の興奮性や細胞内イオン環境の維持に重要な役割を果たしている。これらはいずれも,ATPのエネルギーを浸透圧的エネルギーに変換する機能タンパク質である。また,ミトコンドリアの内膜に存在し,H⁺の能動輸送をおこなうF1-ATPアーゼは酸化的リン酸化の共役因子であり,生理的条件のもとでは,呼吸鎖電子伝達反応によって形成された膜内外のH⁺の濃度勾配(こうばい)を利用して,ATPの合成,すなわちATP加水分解の逆反応をおこなう。この酵素は好気的代謝をおこなうすべての細胞に存在し,生体のエネルギー代謝において極めて重要な働きをする酵素である。
執筆者:川喜田 正夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
※「ATPアーゼ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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