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ダンディに先行するものとしてプティ・メートルや{{仮リンク|ミュスカダン|en|Muscadin}}が現れていたことは記録上はっきりしているものの<ref>John C. Prevost, Le Dandysme en France (1817–1839) (Geneva and Paris) 1957.</ref>、現在の意味でのダンディズムが最初に現れたのは[[フランス革命]]期にあたる1790年代の[[ロンドン]]および[[パリ]]である。ダンディは「慎み」について自問・批評を繰り返し洗練させていったが、行き着いた先は「シニシズム([[:en:Cynicism (contemporary)|en]])」こそが「知的ダンディズム」であるとする作家[[ジョージ・メレディス]]の定義であった(なおメレディス自身はダンディではない)。もっとも、この時代を扱った『[[紅はこべ]]』のスカーレット・ピンパーネルは、文学史上でもかなりのダンディではある。先のものよりは手厳しくない定義として、[[トーマス・カーライル]]はダンディを単なる「着道楽」としている。[[オノレ・ド・バルザック]]は人間喜劇の1作『金色の眼の娘』(1835年)に、完全な俗人にして非情の人アンリ・ド・マルセーを登場させており、このマルセーははじめ完璧なダンディの要件を満たしていたが、憑りつかれたような恋愛の過程で激しく凶悪な嫉妬が姿を現していった。 |
ダンディに先行するものとしてプティ・メートルや{{仮リンク|ミュスカダン|en|Muscadin}}が現れていたことは記録上はっきりしているものの<ref>John C. Prevost, Le Dandysme en France (1817–1839) (Geneva and Paris) 1957.</ref>、現在の意味でのダンディズムが最初に現れたのは[[フランス革命]]期にあたる1790年代の[[ロンドン]]および[[パリ]]である。ダンディは「慎み」について自問・批評を繰り返し洗練させていったが、行き着いた先は「シニシズム([[:en:Cynicism (contemporary)|en]])」こそが「知的ダンディズム」であるとする作家[[ジョージ・メレディス]]の定義であった(なおメレディス自身はダンディではない)。もっとも、この時代を扱った『[[紅はこべ]]』のスカーレット・ピンパーネルは、文学史上でもかなりのダンディではある。先のものよりは手厳しくない定義として、[[トーマス・カーライル]]はダンディを単なる「着道楽」としている。[[オノレ・ド・バルザック]]は人間喜劇の1作『金色の眼の娘』(1835年)に、完全な俗人にして非情の人アンリ・ド・マルセーを登場させており、このマルセーははじめ完璧なダンディの要件を満たしていたが、憑りつかれたような恋愛の過程で激しく凶悪な嫉妬が姿を現していった。 |
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[[シャルル・ボードレール]]は、ダンディズム後期の﹁形而上学的﹂段階<ref>John C. Prevost, Le Dandysme en France (1817–1839) (Geneva and Paris) 1957.</ref>にあってダンディを以下のように定義している。すなわち、ダンディとは[[美学]]を宗教にまで高め、それに則って生きる者のことであり<ref>Charles Baudelaire, Le Peintre de la vie moderne, IX. Le dandy, Calmann Lévy, 1885 (Œuvres complètes de Charles Baudelaire III. L’Art romantique, pp. 91-96).</ref>、その宗教というのは、ただダンディが存在するだけで中産階級の |
[[シャルル・ボードレール]]は、ダンディズム後期の﹁形而上学的﹂段階<ref>John C. Prevost, Le Dandysme en France (1817–1839) (Geneva and Paris) 1957.</ref>にあってダンディを以下のように定義している。すなわち、ダンディとは[[美学]]を宗教にまで高め、それに則って生きる者のことであり<ref>Charles Baudelaire, Le Peintre de la vie moderne, IX. Le dandy, Calmann Lévy, 1885 (Œuvres complètes de Charles Baudelaire III. L’Art romantique, pp. 91-96).</ref>、その宗教というのは、ただダンディが存在するだけで責任ある中産階級の市民への非難となる、というものである。﹁ある面で、ダンディズムは精神主義および[[禁欲主義|ストイシズム]]に近づいてい﹂き、﹁[充分な資産を持ち労働を免れた]こうした存在は<ref group="注">ダンディのこと。ボードレールは資産と余暇をダンディの要件としている。</ref>、自らにとっての美の観念の洗練、趣味の上での追求、感性と思索とに生きている状態に他ならない。︵中略︶ダンディズムは[[ロマン主義]]の1形態である。考えの足りない世上の連中が信じているらしいこととは裏腹に、ダンディズムは着る物に大はしゃぎをしてみせたり道具立てが逸品であったりすることですらない。こうしたことは、完全なダンディにとっては精神における貴族的優越の象徴以上のものではない。﹂
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﹁何を着るか﹂ということと政治的抗議との結びつきは、イングランドでは18世紀に至ってことに顕著となっており<ref>Aileen Ribeiro, "On Englishness in dress" in ''The Englishness of English Dress'', Christopher Breward, Becky Conekin and Caroline Cox, ed., 2002.</ref>、このことを含み置くと、ダンディズムは[[平等主義]]の勃興に対する政治的異議申し立てとみなすこともできる。ダンディズムはしばしば封建社会や前工業社会の諸価値、たとえば﹁完璧なジェントルマン﹂や﹁自律せる貴族﹂といったものへの郷愁に執着したが、矛盾したことに、ダンディは観衆を必要とするものであった。[[オスカー・ワイルド]]と[[バイロン卿]]の﹁マーケティング的に成功した人生﹂を調査した Susann Schmid は、両者のうちに作家でありゴシップおよびスキャンダルの発生源・供給源であるという、ダンディというものの公共空間における役割をみてとっている<ref>Susann Schmid, "Byron and Wilde: The Dandy in the Public Sphere" in Julie Hibbard et al. , eds. The Importance of Reinventing Oscar: versions of Wilde during the last 100 years 2002</ref>。英国の作家 Nigel Rodgers ︵[[:en:Nigel Rodgers|en]]︶は、天才的なダンディであるというワイルドの地位に疑義を呈し、ワイルドは便宜としてダンディ風な構えをとっただけに過ぎず、求道者に苛烈な要求を課すダンディズムの理念に身を奉げたのではないとみている。
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﹁何を着るか﹂ということと政治的抗議との結びつきは、イングランドでは18世紀に至ってことに顕著となっており<ref>Aileen Ribeiro, "On Englishness in dress" in ''The Englishness of English Dress'', Christopher Breward, Becky Conekin and Caroline Cox, ed., 2002.</ref>、このことを含み置くと、ダンディズムは[[平等主義]]の勃興に対する政治的異議申し立てとみなすこともできる。ダンディズムはしばしば封建社会や前工業社会の諸価値、たとえば﹁完璧なジェントルマン﹂や﹁自律せる貴族﹂といったものへの郷愁に執着したが、矛盾したことに、ダンディは観衆を必要とするものであった。[[オスカー・ワイルド]]と[[バイロン卿]]の﹁マーケティング的に成功した人生﹂を調査した Susann Schmid は、両者のうちに作家でありゴシップおよびスキャンダルの発生源・供給源であるという、ダンディというものの公共空間における役割をみてとっている<ref>Susann Schmid, "Byron and Wilde: The Dandy in the Public Sphere" in Julie Hibbard et al. , eds. The Importance of Reinventing Oscar: versions of Wilde during the last 100 years 2002</ref>。英国の作家 Nigel Rodgers ︵[[:en:Nigel Rodgers|en]]︶は、天才的なダンディであるというワイルドの地位に疑義を呈し、ワイルドは便宜としてダンディ風な構えをとっただけに過ぎず、求道者に苛烈な要求を課すダンディズムの理念に身を奉げたのではないとみている。
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2016年7月23日 (土) 10:03時点における版
語源
ボー・ブランメルと英国における初期ダンディズム
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/63/BrummellDighton1805.jpg/200px-BrummellDighton1805.jpg)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/ee/Lord_Byron_in_Albanian_dress.jpg/200px-Lord_Byron_in_Albanian_dress.jpg)
フランスにおけるダンディズム
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/62/F%C3%A9lix_Nadar_1820-1910_portraits_Eug%C3%A8ne_Delacroix.jpg/220px-F%C3%A9lix_Nadar_1820-1910_portraits_Eug%C3%A8ne_Delacroix.jpg)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0a/Mallarme.jpg/220px-Mallarme.jpg)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/05/Barbey.jpg/220px-Barbey.jpg)
その後の展開
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/8e/Homosexualitywilde.jpg/234px-Homosexualitywilde.jpg)
注釈
- ^ ダンディのこと。ボードレールは資産と余暇をダンディの要件としている。
脚注
- ^ Cult de soi-même Charles Baudelaire, "Le Dandy", noted in Susann Schmid, "Byron and Wilde: The Dandy in the Public Sphere" in Julie Hibbard et al. , eds. The Importance of Reinventing Oscar: versions of Wilde during the last 100 years 2002
- ^ John C. Prevost, Le Dandysme en France (1817–1839) (Geneva and Paris) 1957.
- ^ John C. Prevost, Le Dandysme en France (1817–1839) (Geneva and Paris) 1957.
- ^ Charles Baudelaire, Le Peintre de la vie moderne, IX. Le dandy, Calmann Lévy, 1885 (Œuvres complètes de Charles Baudelaire III. L’Art romantique, pp. 91-96).
- ^ Aileen Ribeiro, "On Englishness in dress" in The Englishness of English Dress, Christopher Breward, Becky Conekin and Caroline Cox, ed., 2002.
- ^ Susann Schmid, "Byron and Wilde: The Dandy in the Public Sphere" in Julie Hibbard et al. , eds. The Importance of Reinventing Oscar: versions of Wilde during the last 100 years 2002
- ^ Ribeiro 2002:20, under the subheading "Eccentricity, Extremes, and Affectation".
- ^ "Yankee Doodle"; Maccaroni.
- ^ Oxford English Dictionary. Oxford University Press. (1989) . "dandy 1.a. One who studies above everything to dress elegantly and fashionably; a beau, fop, 'exquisite'. c1780 Sc. Song (see N. & Q. 8th Ser. IV. 81), I've heard my granny crack O' sixty twa years back When there were sic a stock of Dandies O; Oh they gaed to Kirk and Fair, Wi' their ribbons round their hair, And their stumpie drugget coats, quite the Dandy O."
- ^ Encyclopaedia Britannica, 1911]
参考文献
- Barbey d'Aurevilly, Jules. Of Dandyism and of George Brummell. Translated by Douglas Ainslie. New York: PAJ Publications, 1988.
- Carlyle, Thomas. Sartor Resartus. In A Carlyle Reader: Selections from the Writings of Thomas Carlyle. Edited by G.B. Tennyson. London: Cambridge University Press, 1984.
- Jesse, Captain William. The Life of Beau Brummell. London: The Navarre Society Limited, 1927.
- Lytton, Edward Bulwer, Lord Lytton. Pelham or the Adventures of a Gentleman. Edited by Jerome J. McGann. Lincoln: University of Nebraska Press, 1972.
- Moers, Ellen. The Dandy: Brummell to Beerbohm. London: Secker and Warburg, 1960.
- Murray, Venetia. An Elegant Madness: High Society in Regency England. New York: Viking, 1998.
- Nicolay, Claire. Origins and Reception of Regency Dandyism: Brummell to Baudelaire. Ph.D. diss., Loyola U of Chicago, 1998.
- Wharton, Grace and Philip. Wits and Beaux of Society. New York: Harper and Brothers, 1861.
- 宝木範義『パリ物語』(新潮選書、1984年)第14章「ダンディスムの系譜」pp.97-103