「福音主義」の版間の差分
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'''福音主義'''(ふくいんしゅぎ)は、[[キリスト教]]の用語で、大別して以下2つの異なる意味を持つ。 |
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'''福音主義'''(ふくいんしゅぎ、{{lang-en|Evangelicalism}})とは、福音主義キリスト教、または福音主義プロテスタントは、[[プロテスタント]]キリスト教における世界的な宗派を超えた運動であり、[[福音書|福音]]の本質は、イエスの贖罪を信じることによる恵みのみによる救いという教義であるという信念を持っている<ref name="Stanley">{{Cite book|last=Stanley|first=Brian|author-link=Brian Stanley (historian)|title=The Global Diffusion of Evangelicalism: The Age of Billy Graham and John Stott|publisher=[[InterVarsity Press|IVP Academic]]|year=2013|isbn=978-0-8308-2585-1|volume=5|location=[[Downers Grove]], [[Illinois]]|page=11|quote=As a transnational and trans-denominational movement, evangelicalism had from the outset encompassed considerable and often problematic diversity, but this diversity had been held in check by the commonalities evangelicals on either side of the North Atlantic shared - most notably a clear consensus about the essential content of the gospel and a shared sense of the priority of awakening those who inhabited a broadly Christian environment to the urgent necessity of a conscious individual decision to turn to Christ in repentance and faith. Evangelicalism had maintained an ambiguous relationship with the structures of Christendom, whether those structures took the institutional form of a [[Established church|legal union between church and state]], as in most of the United Kingdom, or the more elusive character that obtained in the United States, where the sharp [[Separation of church and state in the United States|constitutional separation between church and state]] masked an underlying set of shared assumptions about the Christian (and indeed Protestant) identity of the nation. Evangelicals had differed over whether the moral imperative of national recognition of godly religion should also imply the national recognition of a particular church, but all had been agreed that being born or baptized within the boundaries of Christendom did not in itself make one a Christian.}}</ref> <ref name="Oxf">{{Cite book|title=The Concise Oxford Dictionary|publisher=Oxford University Press|year=1978}}</ref> <ref>{{Citation|title=Operation World|url=http://www.operationworld.org/glossary}}</ref>。福音主義者は、救いを得るためには改心や「[[新生 (キリスト教)|新生]]」の経験が重要であること、神が人類に啓示したものとしての[[聖書]]の権威、そして[[福音伝道|キリスト教のメッセージを広めること]]を信じている。この運動は、19世紀、20世紀、そして21世紀初頭に広く普及した後、長い間、英国圏で存在感を示してきた。 |
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# {{lang-de}}[[wikt:en:evangelisch#German|evangelisch]](主に[[ドイツ語圏]]で) |
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その起源は1738年にさかのぼり、[[敬虔主義]]、[[ピューリタン|ピューリタニズム]]、[[長老派教会]]、[[モラヴィア兄弟団]](特に[[ニコラウス・フォン・ツィンツェンドルフ|ニコラウス・ツィンツェンドルフ]]司教とヘルフートの共同体)など、さまざまな神学的流れがその基礎となっている。特に、[[ジョン・ウェスレー]]をはじめとする初期の[[メソジスト]]たちは、[[第一次大覚醒]]の際にこの新しいムーブメントの火付け役となった。現在、福音派はプロテスタントの多くの教派に存在し、また特定の教派に属さない様々な教派にも存在している<ref>{{Cite web|url=http://www.pewforum.org/files/2011/12/Christianity-fullreport-web.pdf|title=Christianity report|archiveurl=https://web.archive.org/web/20130805020311/http://www.pewforum.org/files/2011/12/Christianity-fullreport-web.pdf|archivedate=2013-08-05|accessdate=2014-12-30}}</ref>。福音主義プロテスタントのリーダーや主要人物としては、[[ジョン・ウェスレー]]、[[ジョージ・ホウィットフィールド|ジョージ・ホワイトフィールド]]、[[ジョナサン・エドワーズ (神学者)|ジョナサン・エドワーズ]]、[[ビリー・グラハム]]、[[ビル・ブライト]]、[[ハロルド・オッケンガ]]、ジョン・ストット、[[マーティン・ロイドジョンズ]]などが挙げられる。この運動は、18世紀から19世紀にかけて、イギリスとアメリカで起きた[[大覚醒]]によって大きな盛り上がりを見せた。 |
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#* ︵狭義︶[[16世紀]]の[[宗教改革]]において主流派の地位を築き、その伝統の上にある[[教派]]。具体的には、[[ルーテル教会|ルター派教会]]、[[改革派教会]]︵[[カルヴァン主義]]︶、そしてその両者からなる[[福音主義合同教会]]が含まれる。→'''[[福音主義教会]]'''
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#* (歴史的)その中でも特に、初期のルター派が自己言及において用いた言葉。 |
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#* (広義)現代ドイツ語では、いわゆる新教([[プロテスタント]])全般を指す言葉。 |
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# {{lang-en}}[[wikt:en:evangelicalism|evangelicalism]], [[wikt:en:evangelical|evangelical]] / {{lang-de}}[[:de:Evangelikalismus|Evangelikalismus]], [[wikt:en:evangelikal|evangelikal]] |
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#* [[プロテスタント]]のうち、[[アメリカ合衆国|米国]]・[[イギリス|英国]]をはじめとする[[英語圏]]を中心として、[[自由主義神学]]に対抗して近現代に勃 した、[[聖書信仰]]を軸とする[[キリスト教神学|神学的]]・[[社会思想|社会的]]に[[保守|保守派]]のムーブメント。→'''[[福音派]]''' |
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2016年、世界の福音派は6億1,900万人と推定されており、クリスチャンの4人に1人が福音派に分類されることになる<ref name="CNRS">Loup Besmond de Senneville, la-croix.com, [https://www.la-croix.com/Religion/Monde/Dans-monde-chretien-quatre-evangelique-2016-01-25-1200735150 Dans le monde, un chrétien sur quatre est évangélique], France, January 25, 2016</ref>。[[アメリカ合衆国の福音派|アメリカは、世界で最も福音派の割合が大きい国]]である<ref name="How Many Evangelicals Are There">{{Citation|title=How Many Evangelicals Are There?|url=http://www.wheaton.edu/ISAE/Defining-Evangelicalism/How-Many-Are-There/|archiveurl=https://web.archive.org/web/20160130062242/http://www.wheaton.edu/ISAE/Defining-Evangelicalism/How-Many-Are-There|place=Wheaton College|publisher=Institute for the Study of American Evangelicals|archivedate=2016-01-30}}</ref>。アメリカの福音派は、同国の人口の4分の1を占め、[[アメリカ合衆国の宗教|唯一最大の宗教グループ]]である<ref name="pew research">{{Cite web|url=http://www.pewresearch.org/fact-tank/2018/03/01/5-facts-about-u-s-evangelical-protestants/|title=5 facts about U.S. evangelical Protestants|author=Smith|first=Gregory A.|date=3 March 2018|publisher=[[Pew Research Center]]}}</ref> <ref>{{Cite web|url=http://www.pewforum.org/religious-landscape-study/|title=Religion in America: US Religious groups|publisher=[[Pew Research Center]]}}</ref>。福音派は、プロテスタントのほぼすべての教派に存在し、特に[[カルヴァン主義|改革派]]、[[バプテスト教会|バプテスト]]派、ウェスリアン派、[[ペンテコステ派]]、[[カリスマ運動|カリスマ]]派の教会に多く見られる<ref>{{Harvtxt|Mohler|2011}}: "A new dynamic emerged in the last half of the twentieth century as the charismatic and Pentecostal movements also began to participate in the larger evangelical world. By the end of the century, observers would often describe the evangelical movement in terms of Reformed, Baptist, Wesleyan, and charismatic traditions."</ref> {{Sfn|Ohlmann|1991|p=155}}。
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{{main|福音主義教会}} |
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'''福音主義'''︵[[wikt:en:evangelisch#German|evangelisch]]︶は、{{lang-grc|εὐαγγέλιον}}︵euangelion、エウアンゲリオン︶、すなわち﹁[[wikt:ja:福音|福音]]﹂に由来しており、[[ドイツ語圏]]では一般に“'''[[wikt:en:evangelisch#German|evangelisch]]︵エヴァンゲリッシュ︶=﹁福音の﹂'''”という[[形容詞]]で用いられる。ドイツ語圏において﹁evangelisch﹂は、主として[[マルティン・ルター]]あるいは[[ジャン・カルヴァン]]の教えに基づく[[福音主義教会]]︵[[:de:Evangelische Kirche|Evangelische Kirche]]︶を指す呼称である。伝統的に﹁福音主義教会﹂と呼ばれるのは、[[16世紀]][[宗教改革]]以来の伝統を持ち、[[ドイツ]]においては[[連邦州#ドイツ|州政府]]︵かつての[[領邦]]︶に公認され主流派の地位を築いた{{仮リンク|州教会|de|Landeskirche}}であり、[[教派]]としては[[ルーテル教会|ルター派教会]]と[[改革派教会]]に分けられる。ルター派と改革派が合同して一つの福音主義州教会を形成する場合もある。その[[合同教会|合同派]]州教会は、ドイツでは[[福音主義合同教会]]に属している。その場合、各個教会が自教派の伝統に従った礼拝と教義を保持しながら合同している。ドイツの全ての州教会は[[ドイツ福音主義教会]]︵EKD︶に加盟している。また、州教会とは別に、独立した福音主義の[[自由教会]]も存在している。
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現代では語義が広がり、[[ドイツ人]]の[[プロテスタント|新教]]諸教派の信徒が自身の信仰を示す時、「[[プロテスタント]]」ではなく「evangelisch」という語を用いる。[[ルーテル教会|ルター派教会]]、[[改革派教会]]、[[福音主義合同教会]]に属している大部分の信徒たちは「evangelisch」という語だけで信仰を示す。ルター派であっても改革派であっても「evangelisch」の一言で済ませてしまう。ドイツでは[[教会税]]申告時に所属教会を登録するが、「ローマ・[[カトリック教会]]」、「[[福音主義教会]]」をはじめ、州によっては[[復古カトリック教会]]なども含まれる幾つかの選択肢から選択することになっている。その際、[[ドイツ福音主義教会]](EKD)に加盟している教会の信徒の場合、「プロテスタント」、「ルター派」、「改革派」等という名称は使われず、「福音主義」(evangelisch)の略語である「EV」を選択することとなっている<ref>“[[:de:Kirchensteuer (Deutschland)#Kirchensteuereinzug durch den Staat]]”{{de icon}}参照。(2021年9月3日閲覧。)</ref>。また、教会税の選択肢外ではあるが、{{仮リンク|福音主義自由教会連合 (ドイツ)|label=福音主義自由教会連合|de|Vereinigung Evangelischer Freikirchen}}には、16世紀宗教改革において非主流派として排斥された[[アナバプテスト]](再洗礼派)の一派である[[メノナイト]]や、[[イギリス|英国]]・[[アメリカ合衆国|米国]]発祥の比較的新しい[[プロテスタント]]教派である[[メソジスト]]、[[バプテスト教会|バプテスト]]等も含まれている<ref>{{cite web|url=https://www.vef.de/mitgliedskirchen|title=Mitgliedskirchen|publisher=VEF - Vereinigung Evangelischer Freikirchen|accessdate=2021-09-01}}{{de icon}}</ref>。 |
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'''福音主義'''は[[福音]]に由来しており、ドイツでは一般に |
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ドイツ人新教徒が自身の信仰を示す時、﹁evangelisch﹂という語だけを用いる。[[ルター派]]教会、[[改革派教会]]、[[福音主義合同教会]]に属している大部分の信徒たちは evangelisch という語だけで信仰を示す。[[ルター派]]であっても Evangelisch の一言で済ませてしまう。ドイツでは[[教会税]]申告時に所属教会を登録するが、[[ローマ・カトリック教会]]か[[福音主義教会]]のどちらかを選択することになっている。その時、[[プロテスタント]]、ルター派、改革派教会という名称は使われず、福音主義が使われる。
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=== 教会名称としての定着と発展 === |
=== 教会名称としての定着と発展 === |
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宗教改革者[[マルティン・ルター]]は福音[[:de:Evangelium|Evangelium]] |
宗教改革者[[マルティン・ルター]]は、﹁[[wikt:ja:福音|福音]]﹂︵[[:de:Evangelium|Evangelium]]︶、﹁福音の﹂︵[[:de:evangelisch|evangelisch]]︶という概念を、[[使徒]][[パウロ]]の﹃[[ガラテヤの信徒への手紙]]﹄1章7節{{efn2|“(6)キリストの恵みへと招いてくださった方から、あなたがたがこんなにも早く離れて、ほかの福音に移って行こうとしていることに、私は驚いています。(7)ほかの福音といっても、もう一つ別の福音があるわけではなく、ある人たちがあなたがたをかき乱し、キリストの福音をゆがめようとしているだけなのです。”―﹃[[ガラテヤの信徒への手紙]]﹄1章6-7節︵[[聖書協会共同訳聖書|聖書協会共同訳]]︶}}にならって用いた。その際ルターは﹁福音﹂を、[[イエス・キリスト]]への信仰によってのみ救われるという使信に結びつけている。福音主義︵evangelisch︶はルターにとって[[キリスト教会]]そのものであった。なぜなら、キリスト教会はイエスの使信を宣教するからである。
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しかしながら、「ルター派の」[[: |
しかしながら、﹁ルター派の﹂︵[[wikt:en:lutherisch|lutherisch]]︶と﹁福音の﹂︵[[wikt:en:evangelisch#German|evangelisch]]︶という語を特定教派の名称として使用することについて、ルター本人は忌避した<ref name="RGG">W. Maurer: Art. „''Evangelisch,''“ in: „''Die Religion in Geschichte und Gegenwart,''“ 3. Aufl. 1958–1963, Bd. 2, Sp.775f.{{de icon}}</ref>。
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宗教改革の |
宗教改革の進展の中で、﹁福音主義﹂︵evangelisch︶という語が[[教派]]を示す意味を持つようになった。[[ヴェストファーレン条約]]締結後の[[1653年]]以降になると、公的な名称として、[[マルティン・ルター]]の流れを汲む﹁[[ルーテル教会|福音ルター派教会]]﹂︵[[:de:Evangelisch-lutherische Kirchen|Evangelisch-Lutherische Kirchen]]︶および、[[フルドリッヒ・ツヴィングリ|ツヴィングリ派]]の一部と[[ジャン・カルヴァン]]の流れ︵[[カルヴァン主義]]︶を汲む﹁[[改革派教会]]﹂︵[[:de:Reformierte Kirchen|Reformierte Kirchen]]︶という名称も認知され始めた。[[1817年]]にルター派と改革派の教会合同によって成立した[[古プロイセン合同福音主義教会|プロイセン福音主義教会]]において、﹁福音主義の﹂︵evangelisch︶という語が[[合同教会]]を包括的に示すものとして使われた。
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さらに、現代のドイツ語圏において「福音主義の」(evangelisch)という語は、ルター派教会、改革派教会とその2派の合同教会以外にも、[[アメリカ合衆国|米国]]・[[イギリス|英国]]を中心とする[[メソジスト]]、[[バプテスト教会|バプテスト]]等、いわゆる[[プロテスタント]]諸教派の[[自由教会]]に対しても使われている。そのような広義の「福音主義教会」への所属を示すものとしても、「福音主義の」(evangelisch)という語が使われている<ref name="RGG"></ref><ref>Hermann Mulert: „''Konfessionskunde.''“ Verlag Alfred Töpelmann, Berlin, 2. Auflage 1937, S. 343.{{de icon}}</ref>。 |
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[[プロテスタント]]という語も存在するが、個人の信仰を表明する場合にはあまり用いられない。 |
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﹁[[プロテスタント]]﹂という語も存在するが、個人の信仰を表明する場合にはあまり用いられない。プロテスタントという語は、[[ルーテル教会|ルター派教会]]、[[改革派教会]]等という特定の[[教派]]ではなく、広義の[[宗教改革]]に立脚する教会全体を指す。[[自由主義]]が支配的だった[[19世紀]]後半から[[20世紀]]初めのドイツにおいて、プロテスタントという語は現在よりも積極的に使われていた。しかし、現代ドイツにおいてプロテスタントという語は、福音主義︵evangelisch︶と同じ意味で使われる場合もあるが、そうではなく、[[教会政治]]において[[革新|革新的]]︵[[急進主義|急進的]]︶路線を支持する人物、また、それとは反対の立場である[[保守|保守派]]が、プロテスタントという語を用いて自らの立場を表明することもある。近年のドイツの福音主義教会では、[[自由主義神学|︵神学的︶自由主義]]︵リベラル、進歩派︶の影響が強く、教会の人事等でも︵穏健な︶進歩派が強い地域が多い。この進歩派優勢の状況に不満を持つ教会内の保守派、あるいは急進派が集会を開催する場合に、主流の︵穏健的︶進歩派に抗する﹁プロテスタント︵抗議者︶運動﹂と称することが多いのである<ref>[[村上伸]]﹃西ドイツ教会事情﹄[[新教出版社]], p.206</ref>。教会政治における主流派に抗する[[革新|革新派]]︵[[急進主義|急進派]]︶・[[保守|保守派]]の両対極集団が﹁プロテスタント﹂という名称を用いることを好むので、プロテスタントという語は現代ドイツでは政治的色彩を帯び続けている。
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=== 概念 === |
=== 概念 === |
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[[宗教改革]]の教会は福音主義という名称を用いることで、聖書のみを典拠にする立場を明確にする。 |
[[宗教改革]]の教会は福音主義︵evangelisch︶という名称を用いることで、[[聖書のみ]]を典拠にする立場を明確にする。古代の[[正統教義|正統派教会]]が採択した[[信仰告白]]や教条︵[[ニカイア・コンスタンティノポリス信条]]、[[カルケドン信条]]等︶は定められた教義として認められているが、[[使徒教父]]文書のような伝承は単に歴史的に価値のある伝承としてのみに用いている。
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ドイツ語圏において、福音主義︵evangelisch︶という呼称は、新しい概念'''﹁[[福音派]]﹂︵[[wikt:en:evangelikal|evangelikal]]‥エヴァンゲリカール︶'''とは区別する必要がある。﹁[[福音派]]﹂を指すドイツ語の﹁[[wikt:en:evangelikal|evangelikal]]﹂は、[[英語]]の﹁[[wikt:en:evangelical|evangelical]]﹂から来ている。しかし英語の﹁evangelical﹂も、元々はドイツ語の﹁[[wikt:en:evangelisch#German|evangelisch]]﹂と同義語であったため、英語からの逆輸入を経ることで語義の乖離が生じている。ルター派内のムーブメントである[[敬虔主義]]などを端緒として、近現代の[[アメリカ合衆国|米国]]・[[イギリス|英国]]を中心に隆盛したこの大きな流れは、﹁evangelikal﹂という語で頻繁に表現されている。そこでの信仰姿勢においては、[[聖書信仰]]と個人の敬虔さが重きをなしている。[[福音派]]キリスト者と[[キリスト教根本主義]]︵ファンダメンタル︶は信仰理解が類似しており、[[性道徳|性倫理]]についての見解などに関して、ドイツ国内ではその両者間で大きな違いは生じていない。ドイツにおいて[[福音派]]︵evangelikal︶は、新参の[[自由教会]]だけでなく、在来の[[ドイツ福音主義教会]]︵EKD︶に属する州教会の内部にも存在している。
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== 英語圏を中心とする「evangelical」 == |
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ドイツにおいて、福音主義 |
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いわゆる「'''[[福音派]]'''」を指すことが多い[[英語]]の「[[wikt:en:evangelical|evangelical]]」も、語源は[[ドイツ語圏]]における「[[wikt:en:evangelisch#German|evangelisch]]」と同じく「[[wikt:ja:福音|福音]]的」という意味だが、近現代においては[[プロテスタント]]のうち特に、[[アメリカ合衆国|米国]]・[[イギリス|英国]]をはじめとする[[英語圏]]を中心に勃興・隆盛した、[[キリスト教神学|神学的]]・[[社会思想|社会的]]に[[保守|保守派]]・[[原理主義]]的なグループを指す名称として新しく生まれた概念・語義である。ここでいう「保守派」とは「伝統的」という意味ではなく、むしろ礼拝様式などの文化的要素に関しては、従来の教派に見られる伝統性を不純で旧教的なものと見なして否定し、簡素化・現代化する傾向が強い{{efn2|その点、文化的な面では伝統的でありながら、思想的な面では進歩的な傾向が強い[[聖公会]](の主流派)とは対極にある。ただし、聖公会内部にも[[福音派]]、あるいは福音主義的な派閥([[ロウ・チャーチ]]と呼ばれる)が存在する。}}。 |
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==教派による |
=== 教派・学派による解釈の違い === |
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===福音派の立場=== |
==== 福音派の立場 ==== |
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[[日本福音同盟]]初代理事長の[[泉田昭]]は[[自由主義神学]]に対して福音主義、エキュメニカル派に対して福音派と定義した。福音派の自己認識は、自らは福音主義であり、福音派だというものである<ref>[[日本福音同盟]]﹃日本の福音派﹄[[いのちのことば社]]</ref>{{sfn|宇田進|2003}}。
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[[日本福音同盟]]初代理事長の[[泉田昭]]は、﹁[[自由主義神学|︵神学的︶自由主義]]︵リベラル派︶に対しての福音主義、[[エキュメニズム|エキュメニカル派]]に対しての[[福音派]]﹂と定義した。福音派の自己認識は、自らは福音主義であり、福音派だというものである<ref>[[日本福音同盟]]﹃日本の福音派﹄[[いのちのことば社]]</ref>{{sfn|宇田進|2003}}。
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⚫ | [[日本キリスト教協議会]](NCC)や、それに加盟する[[日本基督教団]]等は、[[エキュメニズム]]([[カトリック教会]]等も含めた超教派融和運動)推進派(エキュメニカル派)であり、福音派の立場からは福音主義的ではないと見なされている<ref>日本福音同盟『はばたく日本の福音派』p.142</ref>。 |
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[[改革派教会|改革派]]の[[ジョン・グレッサム・メイチェン]]の定義によれば自由主義(リベラリズム)自体がキリスト教ではないので、穏やかな自由主義と表現せず、かろうじてキリスト教である部分霊感と非キリスト教の自由主義が区別される。ただし、部分霊感も聖書の権威を部分的にしか認めないことから、メイチェンは部分霊感も正統的なキリスト教から離れた立場と看做している{{sfn|J・G・メイチェン|2000}}。そのため、十全霊感を信じない立場の教会を広い意味でリベラル派と総称することがある{{sfn|宇田進|1993}}<ref>[[共立基督教研究所]]『宣教ハンドブック』[[いのちのことば社]]</ref>。 |
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⚫ | [[日本キリスト教協議会]]に加盟する[[日本基督教団]]等は、[[エキュメニズム]](教会 |
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===エキュメニカル派の立場=== |
==== リベラル派・エキュメニカル派の立場 ==== |
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プロテスタント諸教派の信仰は、元々広く「福音主義」という名称で語られてきた歴史がある。よって、福音主義という語は、いわゆる「[[福音派]]」の専売特許ではないとする見方がある。例えば、[[アメリカ福音ルター派教会]](Evangelical Lutheran Church in America)も、[[世界教会協議会]](WCC)に加盟する[[エキュメニズム|エキュメニカル派]]に分類され、強いリベラル傾向を持つが、「Evangelical」、すなわち「福音主義の」という意味の名称を持っている。 |
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[[日本基督教団]]は公式にはプロテスタント主義を掲げるが、日本基督教団内部には「[[教会派]]」と「[[社会派]]」の対立がある。 |
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「[[聖書のみ]]」が[[宗教改革]]者[[マルティン・ルター]]や[[ジャン・カルヴァン]]らの原理であったが、プロテスタント諸教派がすべてこの原理を「厳密に([[福音派]]の解釈どおりに)」解釈・適用しているわけではない。早くも16世紀宗教改革当時に[[ルーテル教会|ルター派]]の基本理念をまとめた『[[アウクスブルク信仰告白]]』においても、“''第15条 教会の儀式について-福音に反しない限りにおいて、古くからの教会の益となる伝統は守られるべきである''”と宣言されている。また、広義のプロテスタントに含まれることもある[[聖公会]]は、「聖書・[[聖伝|伝統]]・[[理性]]」の三本柱を信仰の基盤とする<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.nskk.org/osaka/church/sakai/Anglican_Church.htm|title=聖公会とは|publisher=[[日本聖公会]]大坂教区 堺聖テモテ教会|accessdate=2021-09-03}}</ref>。そして、近現代の[[自由主義神学]]派や[[新正統主義]]神学派は、[[福音派]]が根本原理とする「[[聖書信仰]]」([[聖書無謬説]]、[[十全霊感]]説等)に対して懐疑的・否定的である。しかし、それらの教派・学派も、自らの立場を([[福音派]]とは異なった意味で)「福音主義」あるいは「福音的」(evangelical)であると自認する場合がある<ref>{{Cite web|和書|url=https://uccj.org/history|title=日本基督教団成立の沿革|publisher=[[日本基督教団]]|accessdate=2021-09-03}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=http://www.nskk.org/kyoto/seiko/seikoukai.html|title=日本聖公会について|publisher=[[日本聖公会]]京都教区 聖光教会|accessdate=2021-09-03}}</ref>。 |
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他方、いわゆる[[福音派]]も、様々な教義的・歴史的背景を持つプロテスタント諸教派にまたがるムーブメントであるため、実際には必ずしも一枚岩ではなく、様々な見解の違いや温度差がある<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.kohara.ac/blog/2006/12/post-381.html|title=福音派の多様性|publisher=小原克博 On-Line|accessdate=2021-09-03}}</ref>。また、[[自由主義神学]]や[[エキュメニズム]]に対して否定的であり、[[聖書信仰]]を軸とするプロテスタント[[保守|保守派]]であっても、それが即ち[[福音派]]というわけではない。[[アメリカ合衆国|米国]]に拠点を置く[[ルーテル教会|ルター派]]の一派である{{仮リンク|ルター派教会ミズーリ・シノッド|label=ミズーリ・シノッド|en|Lutheran Church–Missouri Synod}}や{{仮リンク|ウィスコンシン福音ルター派シノッド|label=ウィスコンシン・シノッド|en|Wisconsin Evangelical Lutheran Synod}}などは、思想的には保守的で[[福音派]]と共通する面が多いが、礼拝様式などの面ではむしろ[[改革派教会|改革派]]の影響を受けたドイツのルター派よりも伝統的であり、福音派のグループとは距離を置いている。 |
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「聖書のみ」が宗教改革者マルティン・ルターの原理であったが、現代のプロテスタントがすべてこの原理を受け継いでいるわけではない。プロテスタントの信仰は元々福音主義の名称で語られてきた事実がある。 |
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==脚注== |
== 脚注 == |
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=== 注釈 === |
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=== 出典 === |
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==参考文献== |
== 参考文献 == |
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* {{citation|和書|author=宇田進|authorlink=宇田進|title=福音主義キリスト教と福音派|date=1993|publisher=[[いのちのことば社]]|isbn=9784264014232|ref=harv}} |
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* {{Cite |和書 |
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* {{citation|和書|author=宇田進|authorlink=宇田進|title=総説 現代福音主義神学|date=2003|publisher=[[いのちのことば社]]|isbn=4264020492|ref=harv}} |
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|author = 宇田進 |
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* {{citation|和書|author=J・G・メイチェン|authorlink=ジョン・グレッサム・メイチェン|translator=吉岡繁|title=キリスト教とは何か - リベラリズムとの対決|date=2000|publisher=[[聖書図書刊行会]]|series=リパブックス|isbn=9784791201075|ref=harv}} |
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|authorlink = 宇田進 |
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* [[:de:Albrecht Geck|Albrecht Geck]]: „''Warum heißt und warum ist buhi8.{{de icon}} |
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|title = 福音主義キリスト教と福音派 |
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|date = 1993 |
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|publisher = [[いのちのことば社]] |
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|isbn = 9784264014232 |
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|ref = harv }} |
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* {{Cite |和書 |
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|author = 宇田進 |
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|authorlink = 宇田進 |
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|date = 2003 |
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|publisher = [[いのちのことば社]] |
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|isbn = 4264020492 |
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|ref = harv }} |
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* {{Cite |和書 |
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|author = J・G・メイチェン |
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|authorlink = J・G・メイチェン |
|||
|title = キリスト教とは何か - リベラリズムとの対決 |
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|date = 2000 |
|||
|publisher = [[聖書図書刊行会]] |
|||
|series = リパブックス |
|||
|isbn = 9784791201075 |
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|ref = harv }} |
|||
* Albrecht Geck: ''Warum heißt und warum ist die evangelische Kirche evangelisch?'' In: Frauke Büchner: ''Perspektiven Religion. Arbeitsbuch für die Sekundarstufe II''. Göttingen 2000, S. 228–229. |
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== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
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* [[wikt:ja:福音|福音]](日本語版[[ウィクショナリー]]) |
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*[[大宣教命令]] |
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* [[福音書]] |
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* [[福音主義教会]] |
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* [[福音派]] |
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* [[プロテスタント]] |
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* [[新福音主義]] |
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