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結婚︵けっこん︶とは、配偶者と呼ばれる人々の間の、文化的、若しくは法的に認められた繋がりの事で、配偶者同士、その子との間に権利と義務を確立する行為である[1]。それはほぼ普遍的な文化[2]であるが、結婚の定義は文化や宗教によって、また時間の経過とともに変化する。
エドマンド・レイトン﹃結婚記録﹄。
結婚は婚姻︵こんいん︶とも言われ[3][4][5]、配偶関係の締結を意味するとある[6][7]。社会の持続に必要不可欠である人口再生産を行う者らに、不貞行為への罰など夫婦関係への法的保護、寡婦や嫡出子の保護や子育て家庭への社会的利益や扶助を付与する為のみに設けられた制度であった。主権国家体制成立前は教会や寺社等の宗教者又は地域の権力者が秘跡や契約として、許可する宗教婚︵儀式婚︶が主流だったが、主権国家体制の成立以降は各国家︵政府︶が管轄する法律婚︵民事婚︶が基本となり、家庭生活及び国民の維持と次世代の再生産の基礎として、対価として男女カップルへ憲法の特別の保護を与えた。﹁結婚﹂という概念は宗教婚から法律婚へ移行した国では、法律上の手続を要件とする﹁法律婚﹂と同一の意味とされるようになった[8][9][10][11][12][13][14][15]。
その後の21世紀には生活様式や価値観の変化とともに個人の結婚観も多様化し、国や地域によっては異性間に限定しない同性結婚︵同性婚︶も含むようになった[9][16]。同性婚制度自体は2001年にオランダで初導入され、それを皮切りに西ヨーロッパ、北アメリカ、ラテンアメリカ諸国で導入され[16]、2024年時点で37の国・地域︵世界人口の17%を占める14億人を有する︶[17]で同性婚制度が存在する[18]。ただし、新たに発生した多様な価値観の中には、婚姻制度自体へ否定的な価値観もある[15][19]。他にもフィクトセクシュアルの広まりから、民間団体が認証する二次元キャラクターとの結婚もある[20]。
婚姻︵こんいん、英‥conjugality[21]︶は、﹁夫婦となること[22]﹂﹁社会的に承認された夫と妻の結合[23]﹂という配偶関係の締結を意味する﹁結婚[22]﹂の意味以外にも、配偶関係の状態の意味も含めて指している言葉である[6]。本記事では﹁婚姻﹂﹁結婚﹂︵英: marriage︶における主に両性の配偶関係[24]の締結について解説する。
﹁婚姻﹂と﹁結婚﹂
﹁婚姻﹂と﹁結婚﹂では、﹁婚姻﹂のほうが、学術的にも、法的にも、正式の用語として扱われている。
先述のように学術的には﹁婚姻﹂は配偶関係の締結のほか配偶関係の状態をも含めた概念として、﹁結婚﹂は配偶関係の締結を指し、用いられている[6]。平凡社世界大百科事典[23]やブリタニカ国際大百科事典[25]などの百科事典では﹁婚姻﹂を項目として立てている。
法概念としても﹁結婚﹂ではなく﹁婚姻﹂のほうが用いられている。日本の民法上でも﹁婚姻﹂と表現されており︵民法731条︶、講学上においても法概念としては﹁婚姻﹂が用いられる。
一方、日常用語としては﹁結婚﹂という表現が用いられる頻度が増えている。広辞苑では﹁婚姻﹂の定義として、﹁結婚すること﹂とした上で、﹁夫婦間の継続的な性的結合を基礎とした社会的経済的結合で、その間に生まれた子が嫡出子として認められる関係﹂としている。
﹁結婚﹂の文字は﹁婚姻﹂の文字とともに漢籍を由来とし、日本では平安時代より用いられてきた。しかし、当時はどちらかといえば﹁婚姻﹂の文字の方が使用例が多かった。
明治時代になり、この関係が逆転して﹁結婚﹂の二文字が多く使用されるようになった[28]。中国では﹁婚姻﹂である。
﹁婚姻﹂の範囲、多様な意味
婚姻について説明するにあたって、まずその位置づけを広い視野で見てみると、男女の成人の性的関係というのは人類の発生以来人間関係の基礎的形態であり、それが成立するのに必ずしも規範や制度を必要としない[25]。
だが、社会がその男女の結合関係の成立を許容し承認するのは、これが婚姻という形態をとることによるのである[25]。婚姻というのは社会的に承認された夫と妻の結合なのであるが、ところがこの︽夫︾や︽妻︾の資格や役割については、各社会・各時代において独自に意味づけがなされており、比較する社会によっては、互いに非常に異なった意味づけを行っているものがある[23]。
よって上記の﹁社会的に承認された夫と妻の結合﹂という定義以上に細かい定義を盛り込むと、すぐにそうした定義文に当てはまらないような社会が見つかってしまう[23]。
例えば仮に婚姻を﹁一対の男女の継続的な性的結合を基礎とした社会的経済的結合で、その間に生まれた子供が嫡出子として認められる関係﹂などと定義してしまうと、日本などではこれは当てはまるものの、他の地域・文化ではこれに当てはまらない事例が多数見つかってしまう。
例えば南インドのナヤール・カーストにおける妻訪形式の男女関係は、性的関係に留まるもので、男は﹁生みの親﹂︵en:genitor︶にはなるものの、居住・生産・消費・子の養育・しつけなどには一切関与せず、社会的・経済的なつながりを持たないのである[23]。ナヤール・カーストでは子は父親のカーストの身分を得はするが、それ以上の社会的・経済的なつながりは一切なく、父親の葬儀にも参加しない[23]。
また、たとえば北アメリカのクワキウトル族では、首長の特権は︵息子ではなく︶娘の夫︵義理の息子︶を通じて孫に伝えられる。そして娘がない場合は、息子︵男︶が︵娘の代わりに︶他の男を﹁婿︵むこ︶﹂として迎え入れ、その結婚式は通常と全く同じ方式で行われ、その式を行ってはじめて婿は特権を譲り受けることができるのであり、つまりこの同性間の婚姻では、男女の性的な要素は全く含まれておらず、婚姻はあくまで地位や財産の継承の道筋をつけるために行われている[23]。
このように、﹁婚姻﹂︵や﹁結婚﹂︶という用語・概念は、社会によって全く異なった意味を持ちうる[23]。
個々人の婚姻状態の行政上の分類用語。﹁未婚﹂﹁有配偶﹂﹁死別﹂﹁離別﹂。﹁非婚﹂。分類の困難。
日本の行政機関の統計においては、﹁有配偶﹂という用語を使い、﹁未婚﹂﹁有配偶﹂﹁死別﹂﹁離別﹂で、結婚に関連する状態を分類していることが多い[29]。結婚していないことを﹁未婚﹂︵みこん︶、すでに結婚していることを﹁既婚﹂︵きこん︶と単純に分類することもあるが、これでは死別や離別について正しく把握できない点が問題となる。なお﹁死別﹂とは、配偶者が死亡した状態で、通俗的には﹁やもめ﹂とも言う。
さらに最近、日本では、本人の積極的な意思で結婚しないことを選択することを﹁非婚﹂と呼ぶ。﹁未婚﹂と言うと、まるで本人は結婚を望んでいてその状態にたどりついていないかのような印象、誤解を生むが、結婚しないことを意識的に、意思を伴って選択していることを、はっきり明示する表現である[30]。
なおフランスでは、男女の結びつきが可能な年齢になった人に関しては、古くは celibataire 独身 / marié(e) 既婚 という対比が基本で、それに加えてveuve︵やもめ︶という分類があったわけだが、20世紀半ばには結婚に加えて、あえて結婚しないcohabitation︵コアビタシオン、同棲︶という選択が一般化した。その後、PACS︵パックス︶という結婚と同棲の中間的な関係を保障する制度が実施された。近年では統計的には結婚制度を避けて、むしろPACS制度を選ぶ人々の割合が大きくなり、結婚制度を選択する人のほうがむしろ少数派︵マイノリティ︶になる。昔の単純な分類には当てはまらない男女の割合が増え、分類はかなり複雑化している。
単婚と複婚[編集]