ラメント
ラメント︵英語‥lament, またはlamentation, ラメンテーション、フランス語およびドイツ語‥Lamento、イタリア語‥lamentazione, ラメンタツィオーネ︶とは、嘆き、遺憾、哀悼を表した詩や歌、楽曲。日本語では哀歌︵あいか︶、嘆き歌︵なげきうた︶、悲歌︵ひか︶、挽歌︵ばんか︶と訳される。
文学のラメント[編集]
ラメントは古くからあり、﹃イーリアス﹄、﹃オデュッセイア﹄、﹃ベーオウルフ﹄、ヒンドゥー︵Hindu︶のヴェーダ、それに﹃ウル市滅亡哀歌﹄などのメソポタミアの都市のラメントやユダヤ教のタナハ︵旧約聖書︶を含む古代中東︵Ancient Near East︶の宗教的テキストの中にも登場する。古代・近代を問わず、多くの口承の中では、ラメントは普通女性によって演じられるジャンルだった。 ﹁lamentation︵哀歌︶﹂という語は旧約聖書の﹃Lamentations of Jeremiah︵エレミアの哀歌︶﹄の短い書名として使われる。芸術においては、﹁キリストの哀悼︵Lamentation of Christ︶﹂は﹁キリストの生涯︵Life of Christ︶﹂からのよくあるテーマで、磔刑後、人々に悼まれるキリストの遺骸を描いたものである。音楽のラメント[編集]
音楽で、ラメントは悲しみの歌を指す。記録に残っているもので最古のものは13世紀の作者不詳のエスタンピー﹃トリスタンの哀歌︵Lamento di Tristano︶﹄である。 クラシック音楽には、﹃エレミアの哀歌﹄をテキスト使用または題材にした曲が多くある。主のものは以下の通り。 ●トマス・タリス﹃エレミアの哀歌﹄ ●ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナ﹃エレミアの哀歌﹄第1巻〜第4巻 ●オルランド・ディ・ラッソ﹃預言者エレミアの哀歌﹄ ●エミリオ・デ・カヴァリエーリ﹃エレミアの哀歌﹄ ●マルカントワーヌ・シャルパンティエ﹃ルソン・ド・テネブレ﹄ ●フランソワ・クープラン﹃ルソン・ド・テネブレ﹄ ●フランツ・ヨーゼフ・ハイドン﹃交響曲第26番"ラメンタツィオーネ"﹄ ●シャルル・グノー﹃ガリア﹄ ●イーゴリ・ストラヴィンスキー﹃トレニ-予言者エレミアの哀歌﹄ ●アルベルト・ヒナステラ﹃エレミアの哀歌﹄ 他には、次のような曲がある。 ●ギヨーム・デュファイ﹃コンスタンチノープル教会の聖母の嘆き︵Lamentatio Sanctae Matris Ecclesiae Constantinopolitanae︶﹄ ●ジョン・ダウランド﹃Mr. Henry Noell Lamentations﹄ ●マルカントワーヌ・シャルパンティエ﹃In Obitum Augustissimae Nec Non Piissimae Gallorum Reginae Lamentum﹄ - マリー・テレーズ・ドートリッシュへのラメント。 ●ガエターノ・ドニゼッティ﹃Lamento in morte di V.Bellini﹄ - ヴィンチェンツォ・ベッリーニへのラメント。 ●エマニュエル・シャブリエ﹃悲歌︵Lamento︶﹄ ●アンリ・デュパルク﹃ラメント︵Lamento︶﹄ - テキスト‥テオフィル・ゴーティエ。 ●レオポルド・ゴドフスキー﹃Lament﹄︵﹃トリアコンタメロン﹄の中の1曲︶ ●シリル・スコット﹃Lamentation﹄ - 作詞‥スコット。 ●グスターヴ・ホルスト﹃David's Lament for Jonathan﹄ ●ドミートリイ・ショスタコーヴィチ﹃Lament for a Dead Infant﹄︵﹃ユダヤの民族詩より﹄の1曲︶ ●ソフィア・グバイドゥーリナ﹃ラメント︵Lamento︶﹄ ●ギヤ・カンチェリ﹃ラメント"哀歌"︵Lament︶﹄ - ルイジ・ノーノへのラメント。 ●ヴォイチェフ・キラール﹃ラメント﹄ ●廣瀬量平﹃五つのラメント﹄ ●西村朗﹃ラメント﹄ ●亜沙﹃吉原ラメント﹄ 17世紀になって、クラウディオ・モンテヴェルディの﹃アリアンナの嘆き︵Lamento d'Arianna︶﹄︵1608年︶、﹃ニンフの嘆き︵Lamento della Ninfa︶﹄︵1638年︶で﹁ラメント・バス︵Lamento bass︶﹂という楽式が生まれた。﹁a-g-f-e﹂あるいは﹁a-gis-g-fis-f-e﹂と音階が全音階または半音階ずつ完全4度まで下がってゆくものである。オスティナートとしてはとくに珍しいものではなく、たとえば、ヘンリー・パーセルの﹃ディドとエネアス﹄のアリア﹃ディドの嘆き﹄や、J・S・バッハの﹃ミサ曲 ロ短調﹄の﹃クルシフィクス︵十字架につけられ︶﹄、モーツァルトの﹃大ミサ曲﹄などに使われている。 他に、グレート・ハイランド・バグパイプのためのピーブロホク︵Pìobaireachd︶の形式にも﹁ラメント︵lament︶﹂と呼ばれるものがある。関連項目[編集]
- エレジー - 悲しみを歌った詩、歌、楽曲。「哀歌」「悲歌」「挽歌」。
- Complainte - 中世フランス・プロヴァンスの抒情詩の一種。「哀歌」「悲歌」「嘆き歌」。
- エレミアの哀歌
参考文献[編集]
- Margaret Alexiou, The ritual lament in Greek tradition. Cambridge: Cambridge University Press, 1974.
- H. Munro Chadwick, Nora Kershaw Chadwick, The growth of literature (Cambridge: Cambridge University Press, 1932-40), e.g. vol. 2 p. 229.
- Andrew Dalby, Rediscovering Homer (New York: Norton, 2006. ISBN 0393057887) pp. 141-143.
- Gail Holst-Warhaft, Dangerous voices: women's laments and Greek literature. London: Routledge, 1992. ISBN 0415121655.
- Claus Westermann, Praise and Lament in the Psalms. Westminster: John Knox Press, 1981. ISBN 0804217920.
- Ulrich Kaiser: Lamentobass, Ein musikalischer Topos von Monteverdi bis zu den Eagles. Applaus 24. Leipzig 2006, ISBN 3-12-177822-6