レー (詩形)
レー︵仏語‥lai、複数形lais︶は、13世紀から14世紀後半にかけてアルプス以北のヨーロッパで作曲された歌曲︵または歌詞︶の形式のこと。中世のフランスで成立し、ドイツに入って﹁ライヒ︵独語‥Leich︶﹂と呼ばれた。中世プロヴァンスにはデスコルト︵descort ︶と呼ばれる、レーに非常によく似た詩形がある。
レー[編集]
レーの詩形は、通常いくつかのスタンザからなるが、各連が同じ形式を取ることはない。結果として音楽には反復がなくなる。この特徴ゆえに、レーを他の同時期の音楽的に重要な詩形︵たとえばロンドーやバラード︶と見分けることは容易である。14世紀においてレーの発展が終わるまでには、スタンザの反復されるレーも数例見受けられるようになったが、あくまで長詩において見られるに過ぎない。レーの末期の例として、アジャンクールの戦いにおけるフランス軍の敗走を偲んだ、ピエール・ド・ネソンによる﹃戦いのレー︵Lay de la guerre︶﹄︵1415年︶があげられるが、その旋律は伝承されていない。 ﹃フォーヴェル物語﹄には4つのレーが存在し、いずれも作者不詳である。これらのレーは、文学的にも音楽的にも、ギヨーム・ド・マショーの作品と同じ高みに到達している。このほかに、14世紀アルス・ノヴァの作曲家による別々の19例が現存しており、そのいずれもが、最も洗練され、かつ高度に発達した世俗歌曲に数えることができる。主要なレー作家[編集]
●アイメリック・デ・ペギヤン ●シャルル・ダンジュー ●ゴーティエ・ド・コワンシ ●ギヨーム・ド・マショー ●フィリップ・ド・ヴィトリ︵伝承による。真作か否か不明︶ ●マリー・ド・フランス ●タンホイザーブルターニュのレー︵Breton lai ︶[編集]
あるいは﹁語りのレー (narrative lay) ﹂とも呼ばれる。中世フランス語や古英語による恋愛文学の形式をさす。レーは恋愛や騎士道を扱った韻文で、短く︵600~1000文︶、しばしば超自然的な、ケルト風の妖精の世界のモチーフが含まれている。 文章として残された最古の﹁語りのレー﹂は、おそらく﹃マリー・ド・フランスのレー﹄であろう。おそらくこれは、12世紀後半から13世紀初頭にイングランドに過ごしたフランスの女性詩人マリー・ド・フランスによって、1170年代に構成されたと考えられている。彼女のレーや、13世紀フランスのいくつかの無名のレーにおける記述から、初期のレーがケルト起源であり、文体においてはより叙情的でブルターニュのミンストレルが口ずさんだことがうかがわれる。これらブルターニュの﹁叙情的なレー﹂は、一つとして現存していないが、歌曲のレーに道を開いたそれらの要約によって紹介され、なおかつ﹁語りのレー﹂の基礎となった。 古フランス語のレー21篇を13世紀に古ノルド語に散文訳した﹃ストレングレイカル﹄は、マリー・ド・フランスのレーの翻案が主とした集成であるが、そのうち﹃浜辺のレー﹄(Strandar Lióð, Strandar Strengleikar)など四篇については、元のフランス語作品は判明していない︵あるいは現存していない︶[1][2]。 ブルターニュで書かれた最初のレーは、中世フランスのさまざまな方言に置き換えられ、13世紀から14世紀には中世英語によっても再構成された。脚注[編集]
- ^ Schlauch, Margaret (1971) (google). Studies in language and literature in honour of Margaret Schlauch. Russell & Russell. p. 210
- ^ Kjeldeskriftfondet (Norway) (1979) (google). Strengleikar: an Old Norse translation of twenty-one Old French lais. Norsk historisk kjeldeskrift-institutt. p. 201-