石油精製
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石油精製︵せきゆせいせい︶とは、原油を精製して燃料油、石油化学製品など多種多様な製品を製造する工業プロセスである。
石油精製工場は、原料受入から製品︵他の装置の原料として使用される中間製品も含む︶を製造する設備と各種付帯設備からなる。これらの設備は、その機能によって次のように分類できる。
Schematic flow diagram of a typi cal oil refinery
常圧蒸留工程
●常圧蒸留装置︵Atmospheric Distillation)
●原油︵Crude Oil︶は、上図左手の常圧蒸留装置︵Atmospheric Distillation︶に掛けられ、ナフサ︵化学・ガソリン原料︶・灯油︵Kerosine︶・軽油・A重油︵Diesel Fuel︶等を沸点分留で搾られる。残った絞り滓が常圧残渣油=C重油留分︵半製品︶である。
●ナフサ︵LPG/灯油/軽油︶が、石油化学工業の大元のエチレン装置の原料となる。
●1980年代以前は、常圧残渣油は石油火力発電所で大量に焚かれていたが、石油価格の上昇で火力発電所が石炭やLNGに燃料転換したため、1980年代以降は常圧残渣油︵C重油︶を分解して白油︵ナフサ・灯油・軽油・A重油︶にする白油化設備が建設された。
白油化工程
●減圧蒸留装置︵Vacuum Distillation)
●常圧蒸留装置の絞り滓の残渣油︵常圧残渣油=C重油︶が減圧蒸留装置︵Vacuum Distillation︶に掛けられて減圧軽油を搾られる。残渣の減圧残油は、アスファルトなどの原料にも使われる。
●減圧軽油/残油は下記の分解装置に掛けられる
●流動接触分解装置︵FCC)
●軽質減圧軽油は、流動接触分解装置︵FCC: Fluid Catalytic Cracker︶で分解され、ブテン︵合成ゴムやオクタン価向上剤原料︶とナフサ・︵灯油︶・FCC軽油を産出する。触媒に析出した石油コークスは、空気吹き込みで燃焼され反応熱を供給する。
●水素化分解装置︵Hydro Cracker︶
●重質減圧軽油は、水素化分解装置︵Hydro Cracker︶で分解され、LPG・ブテン・ガソリン・︵灯油︶・軽油を産出する。燃料生成のみが目的の場合、水素化分解工程で残留したボトム留分は通常リサイクルされるが、水素化分解によりパラフィンリッチと潤滑油原料に適した組成となっているため高粘度指数基油の原料として利用される事もある。水素化で鎖を切って軽い留分にするのでコークス析出はないが、水素を消費する。
●最近の研究では、減圧軽油の代わりにパーム油などの植物油を水素化分解装置に掛けても、LPG・ブテン・ナフサ・ガソリン・︵灯油︶・軽油が取れることがわかっている。
●環境省資料16ページを参照
●熱分解装置︵Delayed Coker)
●減圧残渣油熱分解装置︵Delayed Coker︶に掛けられ、熱分解でナフサ・暖房軽油︵Gas OIL︶と石油コークス︵Petro Coke︶を産出する。石油コークスは、石炭の代替品として使用可能。
石油精製設備[編集]
以下、精製の流れについて解説する。蒸留分離[編集]
蒸留は、混合物を各成分の沸点の差によって分離するプロセスである。原油を直接蒸留する常圧蒸留装置︵トッパー︶や、そこから得られる重油をさらに蒸留分離する減圧蒸留装置がある。蒸留によって分離された各生成物は、留分と呼ばれる。 なお2013年時点の石油精製・石油化学産業で消費されるエネルギーの約40%は蒸留操作による分離・精製によるものである[1]。分解装置[編集]
分解反応によって、高沸点の重質留分からより低沸点の軽質油を得るプロセスである。流動接触分解︵FCC︶、熱分解、水素化分解︵ハイドロクラッキング︶などのプロセスがある。 この工程により、初期蒸留工程のものよりもオレフィンに富む軽油製品や、オクタン価の高いガソリンを生成することができる。低沸点の軽質油は需要が高く、この工程により原油からは蒸留装置のみの場合より製品収量を上げることができる。不純物除去[編集]
触媒の存在下で原料油に水素を加えて反応させ、硫黄などの不純物を除去する水素化精製が代表的である。性状改善[編集]
触媒反応によってガソリンのオクタン価を高める接触改質が代表的である。付帯設備[編集]
製造設備が消費する電力、水、燃料、蒸気、圧縮空気などを供給するユーティリティー設備、廃水処理設備などの環境関連施設、入出荷に関わるタンク、パイプライン、貯油施設、港湾施設などがある。また火災防止のためタンクに固定泡消火設備、消火栓、化学3点セットあるいは化学2点セットを完備している[疑問点]。また、漏油防止のため、オイルフェンスや吸着剤、回収船を備えている。石油製品[編集]
液化石油ガス︵LPG︶、ガソリン、ナフサ、灯油、ジェット燃料油、軽油、潤滑油ベースオイル、重油、アスファルトなどがある。設備構成によっては、芳香族炭化水素やプロピレンなどの石油化学製品も生産される。製油所[編集]
日本にある主な製油所において、設備が能力いっぱいで稼動する際の一日あたり処理量︵BPSD︶は、2008年時点で、各常圧蒸留装置の合計で4,894,924バレル、各減圧蒸留装置の合計で1,774,500バレルである[2]。 2017年4月には、常圧蒸留装置能力は合計351万8,800バレル/日 ︵製油所数‥22ヵ所︶になっている[3]。「Category:日本の製油所」を参照
先進国では近代的な設備を有する製油所が一般的であるが、後進国の違法製油所では単に原油を煮詰めて蒸留を行う原始的な手法が採られている。ナイジェリアの例では、1日40万バレルの原油が盗まれて違法製油所で処理されており、深刻な大気汚染や違法施設の爆発事故などが問題となっている[4]。
脚注・参照[編集]
(一)^ ﹁戦略プロポーザル-分離工学イノベーション~持続可能な社会を実現する分離の科学技術~﹂、国立研究開発法人科学技術振興機構︵JST︶、2016年3月、2017年2月2日閲覧。
(二)^ 製油所装置能力・装置別潤滑油精製設備一覧︵2008年4月1日現在 資料‥石油連盟 技術環境安全部 技術グループ︶<潤滑管理とメンテナンスのポータルサイト‥ジュンツウネット21
(三)^ http://www.paj.gr.jp/statis/statis/data/08/paj-8精製能力一覧201704.pdf石油連盟 製油所の所在地と原油処理能力︵2017年4月末現在︶
(四)^ “違法製油所で爆発、子どもを含む109人死亡 ナイジェリア”. CNN (2022年4月25日). 2022年4月24日閲覧。