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道具屋︵どうぐや︶は古典落語の演目の一つ。古くからある小咄を集めて、一席の落語にしたオムニバス形式の落語である。
主な演者[編集]
物故者[編集]
●五代目柳家小さん
●林家彦六
●四代目春風亭柳好
●二代目桂春蝶
●林家木久扇
道具屋が初高座の落語家[編集]
●十代目柳家小三治
●三代目古今亭圓菊
●春風亭百栄
あらすじ[編集]
原話がある場合は、各章の末尾に記載しておく。
神田三河町の大家・杢兵衛の甥っ子の与太郎。もう二十歳にもなるのに、働かないで遊んでばかりいるため、叔父さんは常にハラハラさせられている。
﹁お前のお袋がな、﹃何か商売を覚えさせてくれ﹄と言っていたが…何かやるか?﹂
﹁いいよ、そんなの﹂
彼自身も、遊んでばかりいてはいけないと考えており、この前珍しく商売をしてみたというのだが…?
﹁伝書鳩を買ってね、あたいのところに戻るよう訓練するんだよ。そうすれば、他人に売っても絶対にあたいの所へ戻ってくるだろ? それを繰り返して大儲け…﹂
﹁へんなことを考える奴だな。で、上手くいったのか?﹂
﹁いんや。放してみたんだけど、鳥屋に帰っていっちゃった﹂
叔父さんは唖然。それでも、ほうっておく訳にはいかないと思い、自分が﹃副業﹄でやっている"あること"をやらないかと提案した。
﹁知ってるよ、アタマに﹃ド﹄の字のつくやつだろ?﹂
﹁何だ、知っていたのか﹂
﹁うん、泥棒!﹂
﹁道具屋だよ…﹂
元帳があるからそれを見て、いくらか掛け値をすれば儲けになるから、それで好きなものでも食いなと言われて与太郎早くも舌なめずり。
しかし…その品物というのが凄かった!
﹁その鋸はな、火事場で拾ってきた奴なんだ。紙やすりで削って、柄を付け替えたんだよ﹂
股引は履いて"ヒョロッ"とよろけると"ビリッ"と破れちゃう﹃ヒョロビリ﹄だし、カメラの三脚は脚が一本取れて﹃二脚﹄になっている。
お雛様の首はグラグラで抜けそうだし、唐詩選は間がすっぽ抜けていて表紙だけ…。
﹁まぁ、置いとけば誰かが買ってくれるよ。場所は蔵前の伊勢屋っていう質屋の前だ。友蔵っていう人が采配をやっているから、訊けば色々教えてくれる﹂
下準備[編集]
いわれた場所へやってくると、煉瓦塀の前に、日向ぼっこしている間に売れるという通称﹃天道干し﹄の露天商が店を並べている。
﹁おい、道具屋﹂
﹁へい、何か差し上げますか?﹂
﹁おもしれえな。そこになる石をさしあげてみろい﹂
道具屋ビックリ…。
﹁友蔵っていう野郎はいるか?﹂
﹁俺だよ﹂
﹁なるほど。海老蔵っていうツラじゃねぇや﹂
友蔵さん度肝を抜かれたが、﹁ああ、あの話にきいている杢兵衛さんの甥で、馬…﹂…と言いかけて口を押さえ、商売のやり方を教えてくれた。
最初の客[編集]
最初にやってきたのは、威勢のよさそうな大工の棟梁。
﹁おい、その"ノコ"見せろ﹂
﹁のこ…ノコニある?﹂
﹁"ヤリトリ"だよ﹂
﹁命の?﹂
要は﹃鋸﹄の事だった。
﹁︵焼きが︶甘そうだなぁ…﹂
﹁︵味が︶甘いの?﹂
勘違いして鋸をなめ、ゲーゲーしたりと大混乱。その上、﹃火事場で拾ってきた﹄という内輪の話を喋ってしまったため、棟梁はあきれて帰ってしまった。
﹁アーぁ、"ションベン"されちゃったな﹂
﹁しょんべん? トイレは向こうですよ…?﹂
﹁違うよ! 道具屋の符丁で、︻買わずに逃げられること︼を言うんだ!﹂
二人目の客[編集]
次に来たのは車屋。
﹁"タコ"見せろ﹂
﹁蛸? 魚屋はそこの角を曲がって六件目…﹂
﹁股引の事だ!﹂
手にとるとなかなかいい品物なので、買おうとすると。
﹁あなた、断っときますが、小便はだめですよ﹂
﹁だって、割れてるじゃねえか﹂
﹁割れてたってダメです﹂
これでまた失敗…。
●宝永4年(1707年)に出版された笑話本・﹁露休置土産﹂の一遍である﹃小便の了見違﹄。
三人目の客[編集]
お次は田舎出らしい中年紳士。
﹁カメラの三脚か。ちょっと、それを見せてくれんか?﹂
﹁あ、それ…、足が二本しかないんですよ﹂
﹁それじゃ、立つめえ﹂
﹁だから、石の塀に立てかけてあるんです。この家に話して、塀ごとお買いなさい﹂
がっくり来た紳士がひょいと横を見ると…なかなかよさそうな短刀がおいてある。
﹁おい、その短刀を見せんか﹂
刃を見ようとするが、錆びついているのか、なかなか抜けない。
﹁反対側から引っ張れ。抜くのを手伝うんだ。一・二の…サン!! ぬーけーなーい!﹂
﹁抜けないはずです…! 木刀です!!﹂
ギャフン。
﹁"抜ける物"はないのか?﹂
﹁えーと…あ、お雛様の首!﹂
﹁それは抜けん方がいいな。じゃあ、その鉄砲を見せい﹂
手にとると、なかなかいい品物だ。
﹁これはなんぼか?﹂
﹁一本です﹂
﹁代じゃ﹂
﹁樫です﹂
﹁金じゃ!﹂
﹁鉄です﹂
﹁値(ね)は!?﹂
﹁ズドーン!﹂
●安永2年(1773年)に出版された笑話本・﹁今歳花時﹂の一遍である﹃鉄砲﹄。
最後の客[編集]
次に来たのはご隠居さん。
﹁ひどい埃じゃな。ちゃんとハタキをかけておかなくてはいかんよ﹂
小言を言いながら、傍らにある笛を手に取った。
﹁ホレ、見なさい。この笛なんか、穴に煤がたまっておる。買う前に掃除しなければ…指が抜けない!﹂
なんと、掃除しようと突っ込んだ指が抜けなくなったのだ。
﹁困るなぁ。それ、売り物なんだけど﹂
﹁仕方がない。これ、幾らじゃ?﹂
﹁お有難うござい!! 掛け値、掛け値…十万円です﹂
﹁高すぎる! 貴様、足元を見たな?﹂
﹁いいえー、手元を見ました﹂
●安永3年(1774年)に出版された笑話本・﹁稚獅子﹂の一遍である﹃田舎者﹄。
その形態ゆえにどこで切ってもよく、人物の出入りも自由なため、寄席の時間調整には重宝がられている。
通常は﹃前座の修行用﹄の噺とされているが、実は初代三遊亭圓朝の速記も残っている。