デジタル大辞泉 「人体」の意味・読み・例文・類語
じん‐たい【人体/仁体】
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ヒトの体をいう。人体でもっとも特徴的であり、また高度な働きをもつ部分は神経系である。この神経系は、人間が下肢で立ち、歩く生活を始めた段階で発達したものであり、他の動物と人間との差を大きく分けるに至った。そして、とくに他の霊長類と人間とを大きく区別したのは、人間が周囲の環境に適応する能力に加えて、環境を人間に適応させる能力(知力)をも兼ね備えるに至ったことであろう。そしてその原動力となったのは人体の肉体的構造である。これによって人体は環境に適応するように進化・発達するとともに、環境を人間に適応させる能力が発達して現在に至ったと考えられる。肉体的構造のなかで、もっとも驚異的であり、精密であるのは脳である。人間は脳を駆使することによって複雑な体の仕組みを統御・調節し、さらにそれらの仕組みを高度に発達させたといえる。脳の働きに応じてとくに活躍したのは骨格と筋の構造である。人間は下肢によって立つ生活を始めたことにより、上肢を使用することが可能となり、飛躍的に発達したと考えることができる。
[嶋井和世]
すでに述べたように、人体の構造は解剖学的にはいくつかの系統に分けられ、それらの各系統に属する諸器官は総合的に働いて人体の生活活動を支えている。その生活に「動」の統御・調節を行うのが神経系のなかの脳脊髄である。神経系は、その働きのうえから動物神経系と植物神経系に分けられる。動物神経系は人体の運動作用や感覚作用など、動物一般に備わっている働きをつかさどるため、この名称がある。植物神経系は人体の消化、呼吸、腺(せん)分泌や排泄(はいせつ)、血液の循環、生殖作用など、われわれの意志の活動とは別に、生命現象を統御・調節する自律的な作用をつかさどるもので、同様の作用が植物の代謝、生育活動にもみられることからこの名称がある。これらの神経系の活動によって人体には高度の精神作用が発達していることとなる。
人体の諸器官は基本的には4組織、つまり上皮組織、支持組織、筋組織、神経組織の組合せによって構成されている。これら組織をつくる単位が細胞である。人体の細胞の大きさは平均すれば10~20マイクロメートルほどであるが、最小は血液中のリンパ球(径5マイクロメートル)、最大は卵子(径200マイクロメートル)である。なお、種々の刺激興奮を伝達する神経細胞の突起(神経線維)は1メートルほどになるものもある。体内では同じ形態、同じ働きをもつ細胞が集まって一つの組織をつくる。
上皮組織は、体の表面(皮膚)やこれに続く器官の内腔の表面(粘膜)を覆う細胞の集まりであり、分化した分泌腺も上皮組織からできている。支持組織は体内ではもっとも広く分布するものであり、その種類も多い。支持組織の一つである結合組織は、各器官相互間や器官の実質の中に入り込んで細胞のつなぎの役をするものであり、その働きはきわめて複雑である。また、結合組織は器官の修復にも重要な役割を果たしている。支持組織に含まれるその他の組織として、骨(こつ)組織、軟骨組織、血液などがある。筋組織は筋細胞(線維)で構成され、もっぱら収縮をその役割としている。人体では平滑筋、横紋筋、心筋の3種類がある。神経組織は、神経細胞とその突起(神経線維)およびそれらの間を埋めている神経膠細(こうさい)からなっている。
人体の各臓器はこれら各種の組織の組合せで構成されている。たとえば、胃や腸の場合は上皮組織、支持組織のうちの結合組織、筋組織で構成されており、脳脊髄はほとんど神経組織だけでできているなどである。1個の受精卵から出発した人体は、その分裂・増殖と分化によって、これまで述べてきたようなきわめて精密な、また複雑な構造と機能をもつに至るわけである。このことを考えれば、人体にはまだまだ多くの未知、未開の部分があるということができる。
[嶋井和世]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
※「人体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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