デジタル大辞泉 「分一」の意味・読み・例文・類語 ぶ‐いち【分一】 1 江戸時代、商業・漁業・山林などの生産高・売上高から何分の一かを税として徴収したもの。2 江戸時代、海難で沈んだ荷物を引き上げた者に、荷主がその10分の1を報酬とした制度。 出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
精選版 日本国語大辞典 「分一」の意味・読み・例文・類語 ぶ‐いち【分一・歩一】 (一)〘 名詞 〙 全体の何分の一かに相当するものの意。その率や銭や量をさしていう語。 (二)① 室町時代、徳政令公布の際、債務者から債務額の何分の一かの銭を上納させて債務の破棄を認め、または債権者から納めさせて未納の債務者に対する債権の確認とした上納銭︵分一銭︶の比率。 (一)[初出の実例]﹁御代官被仰付者、上使を申請相共に収納申て、分一をは給り候て、取渡申候べき由﹂(出典‥政基公旅引付‐永正元年︵1504︶八月二三日) (三)② ( ﹁十分の一﹂の略。十分の一が周旋料の定額であったところからいう ) 奉公人、妾、縁組、商談、借金などの媒介・周旋料。分一金。 (一)[初出の実例]﹁をのれらが分一の多くとれるをねがひて、弐百両でよいといふ所へ五百両持かけ﹂(出典‥浮世草子・商人軍配団︵1712か︶三) (四)③ 江戸時代、租税の取り方の一種。主として農業生産物以外の商業、漁業、山林業などにかかる税で、生産高・売上高の何分の一かを徴収するもの。鰯分一、鯨分一、市売分一、請山分一などがある。 (一)[初出の実例]﹁畿内・京・伏見・大坂・堺、諸売物不レ嫌二大小を一五分一の役被二召上一﹂(出典‥官本当代記‐慶長二年︵1597︶︵古事類苑・政治八三︶) (五)④ 近世の海難荷物取揚げの際の褒賞制度の一つ。御城米はじめ商人荷物にいたるまで、すべて海底に沈んだ荷物を引き揚げた者に対して、その何分の一かを荷主から与えるもの。ひき揚げの難易度によって、割合が異なった。寛永二〇年︵一六四三︶幕府によって制定された廻船作法の一条に沈荷物は拾歩一とあるところからの略称。 (一)[初出の実例]﹁積荷物取揚、歩一受取方之儀﹂(出典‥半沢家文書‐歩一之訳︵1839︶) ぶん‐いち︻分一︼ (一)〘 名詞 〙 十分の一。一分。また、その割合の金額。ぶんいつ。 (一)[初出の実例]﹁家のかいてより分一出べき事﹂(出典‥冷泉町記録‐天正一三年︵1585︶正月) 出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
改訂新版 世界大百科事典 「分一」の意味・わかりやすい解説 分一 (ぶいち) 江戸時代における雑税の一種。その内容は,︵1︶商業,漁業,山林業などに従事する者からその売上高,収穫高の何分の1かを徴収するもの,︵2︶幕府が特定の河川に沿って分一番所を設け,通行荷物から何分の1かの分一銭を徴収するもの,がある。︵1︶については,江戸時代の田制,税制についての代表的な手引書である︽地方凡例録︵じかたはんれいろく︶︾によると,鰯分一,鯨分一,市売分一,請山分一などの例が紹介されている。たとえば鰯分一とは,イワシの漁獲があったときに漁師と魚商人と地元役人が立ち会ってその日の相場を決定し,その収益の何分の1かを分一として徴収するもので,通例は20分の1であったという。鯨分一とは,鯨を捕獲した場合,浦役人が立ち会って近くの村々に入札させ,落札分の何分の1かを徴収した。この場合,鯨の捕獲の状況いかんによって,たとえばもりで突き止めた突鯨と,傷をうけたり死んだりして海岸に漂着した鯨とでは,分一の割合が異なっていた。︵2︶については,幕府は主要河川に分一番所を設けて分一を徴収した。たとえば三河︵愛知県︶の豊川では,東上村に番所を設けて川を下る船から分一を,近くの伊那街道を下る荷物からは陸分一を徴収し,また同じ三河の矢作︵やはぎ︶川では,細川村に分一番所を設けてここでも分一を徴収していた。分一の内容は,東上番所の場合,品目ごとに10分の1から100分の1の6段階に税率を分け,また同一品目でも容量によって差があった。番所で幕府役人がみずから徴収した場合と,有力商人に徴収を請け負わせた場合とがある。 なお分一には,海上交通で船が難破してそれを救助した場合,その報奨として積荷の何分の1かを分一として与える意味も含まれていた。たとえば,船が海難にあって積荷が海上に流れ出したときにこれを拾えばその20分の1,海底に沈んだ積荷を拾い上げれば10分の1といったぐあいに,その率は海難の事情によって異なっていた。 執筆者‥吉永 昭 出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
百科事典マイペディア 「分一」の意味・わかりやすい解説 分一【ぶいち】 江戸時代に課された雑税の一種。商業・漁業・山林業などに従事する者を対象とし,売上高・収穫高に応じてその何分の一かを徴収した。課税対象の品目はさまざまで,課税率も一定ではなかった。納入は原則として貨幣により行われた(分一金・分一銀)。主なものに市売分一・鰯分一・鯨分一・請山分一・魚分一・木地分一・楮分一などがある。またこれとは別に幕府が特定の河川の要所に番所(分一番所)を設置し,通過する船舶の積荷の品目に応じ,その価格の何分の一かにあたる金額を徴収した税も分一と称した。さらに難破船の救助にあたった報酬として,その積荷の何分の一かが荷主から渡されることも分一と称された。支払いは初め現物・金銭の双方で行われたが,18世紀後半以降は金銭に一本化された。 出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
世界大百科事典(旧版)内の分一の言及 【運上】より … 市場運上馬市,肴市,絹市などに課すもので,町数によって異なり,市の繁盛いかんにかかわらず一定額を年ごとに納めた。 小漁運上クジラ,イワシは大漁として分一を課し,そのほかのカツオ,サケ,コイ,フナなどは小漁として運上を課した。 簗︵やな︶運上川魚を捕る簗に対して課すもの。… ※「分一」について言及している用語解説の一部を掲載しています。 出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」