育児(読み)イクジ

デジタル大辞泉 「育児」の意味・読み・例文・類語

いく‐じ【育児】

[名](スル)子を養い育てること。子育て。「育児休暇」
[類語]子育て保育養育愛育訓育守り育てる養う育む培う育て上げる食わせる手塩に掛ける扶養養護

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精選版 日本国語大辞典 「育児」の意味・読み・例文・類語

いく‐じ【育児】

  1. 〘 名詞 〙 乳幼児を養い育てること。育子。
    1. [初出の実例]「女教の素あるを暁り、育児の法をも知るに足るべし」(出典:華族の海外留学を奨励し給へる勅諭‐明治四年(1871)一〇月二二日)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「育児」の意味・わかりやすい解説

育児
いくじ




 

 2024118

育児の歴史




 2024118
江戸期の育児

江戸期(近世)の親子関係の特徴としては、しつけの対象としての「子どもの発見」があげられる。江戸期は多くの育児書が書かれた時代であり、「父親が子どもを育てた時代」であった。当時の育児書登場の背景には、子どもを育て教育することへの人々の関心の高まりとこれを求める読者層の存在があるが、育児書のおもな読み手は武士階層の父親であった。

 江戸期において子育ての目的は、「家にとっての子ども」、とくに「跡継ぎとしての男子」の社会化であった。なかでももっとも意識的に子どもの教育を行っていた武士階層では、男子の養育は家長としての父親の役割であり、「家」の継承責任を子に伝える公的意味をもっていた。江戸期は、父親が社会化の担い手として「家にとっての子ども」を育てた時代といえる。

 他方、当時の女性、とくに武士階層の女性に要請された育児は、夫や舅(しゅうと)の意思に従って子どもの世話にあたることであった。江戸期には女訓書が多数出版されたが、そこにはあるべき「妻」「嫁」の姿は書かれているものの、母としての役割に言及した徳目は存在しなかった。女性(母親)に期待されていたのは「家にとっての子ども」「跡継ぎとしての子ども」を産み、世話する役割であって、子どもの教育役割は父親の責務とされていたのである。

 江戸期において、家名(屋号)・家産・家業の世代的伝達という家意識は庶民の間にも存在した。農民や町人の親たちは、子どもに幼少時から農作業や家業を通して経験知を伝達し、家業を継ぐために必要な知識や技術を習得させ、家産や家業の維持・存続を図っていった。また、家と村落共同体とが密接な関係をもっていた江戸期において、「家にとっての子ども」だけでなく「村にとっての子ども」を育てることも要請された。親が子どもに伝達した経験知は、家業を継ぐために必要な知識にとどまらず、隣近所や親族、寺社とのつきあい方、村のしきたりや冠婚葬祭時のふるまい方などであった。

[中村強士 2024年1月18日]

明治期の育児

退

 18725

 

 退

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大正期の育児



 

 調

 沿()

 ()()

 2024118
高度経済成長期の育児



 

 調41960

 

 197019701980

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1990年代以降の育児

198560198619913199219801990199019970146519992000

 

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男性による育児

2000使1990

 3

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家庭教育

19901980姿1990199810 調

 20051720061980

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育児の民俗

育児は生まれ出てからではなく、身ごもったときからすでに始まっている。とくに5か月目ごろに行われる帯祝いは、妊娠の社会的な承認であり、胎児の生存権を社会的に認めるという重い意味があった。近世の間引が多く行われた時代でも、帯祝いを済ませた子どもは育てねばならなかった。帯祝いは妊婦にとっては妊娠の社会的な承認であり、着帯のころから妊娠の忌みの生活に入るものであった。妊娠の忌みは、妊婦の行動上の禁忌や食物上の禁忌という形で示されたが、それは胎教にもつながるものであった。

[大藤ゆき]

胎教

5


乳付け

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三日祝い

7()()()3使()()11


七夜

七夜は全国的にたいせつな日と考えられて、三日祝いをしない所でも、七夜の祝いは盛大に行う所が多い。この日に名付け祝いをする風習は全国的である。命名をするということは、子どもが一人前の人間として社会に参加する資格を承認することでもある。名前は普通は親がつけるが、産婆、仲人(なこうど)親、子福者(こぶくしゃ)、有力者などが名付け者として命名する例も多い。名付け親は仮親として、生児とは一生親子の関係をもつ。生児が弱くて育たないときに、神職に名付け親になってもらうのを、申し子とかトリゴなどという。

[大藤ゆき]

初外出

11()()()()


宮参り

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食い初め

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初正月・初節供

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初誕生

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七五三祝い

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仮親




エジコと子守

生後3日目または七夜に、生児をエジコ、ツグラ、イズミという藁(わら)製の籠(かご)に入れる風習が各地にある。はい出すようになると子守をつける。

[大藤ゆき]

その他の民俗

夜泣き、疳(かん)の虫、麻疹(ましん)(はしか)、疱瘡(ほうそう)など多くの病気には、各地に種々の呪法(じゅほう)や俗信がある。

 また四国から瀬戸内海周辺にかけて、子どもを養育することを「児(こ)ヤライ」という。ヤライは追い立てることで、子どもの臀(しり)を後ろから追いたたきながら一人前に育て上げることを意味している。

[大藤ゆき]

諸民族にみられる育児様式

誕生直後の馬の赤ん坊がおそるおそる歩き出すシーンは感動的だが、人間の赤ん坊は歩くことはおろか、栄養摂取も排泄(はいせつ)処理もすべて養育者に全面的に頼らねば、その生存の維持さえ危うい。人間の嬰児(えいじ)の特徴はその未熟性にあり、そのために育児のもつ比重は非常に大きい。これまで世界各地で発見されてきた「野生児」、つまり人間的養育環境が得られずに育った子どもに関する報告は、成長の各段階において適当な養育を経ることが、人間としての心身両面での成長にとっていかに大切かを示している。また、世界の諸民族における育児をみると、人類として共通している部分と、それぞれの文化に特徴的な部分のあることがわかる。

[横山廣子]

授乳

母親の最初の授乳に際して伝統的に特別の処置がとられていたことが知られている。北米先住民のスー(ダコタ)の人々では、初乳は毒だとされ、新生児が最初に飲まされるのは野草などの汁であった。タイ人のかつての慣習は、生後3日間は母乳を与えず、蜂蜜(はちみつ)などを食べさせるというもので、母親が初めて授乳するときには、年配の婦人にまず乳を吸ってもらう儀式が行われた。ひとたび授乳が始まると、どの社会でも伝統的には授乳時間など気にせずに子どもが欲しがるときに飲ませるのが一般的であった。そして、離乳についても特定の時期を意識することなく、次子の誕生まで授乳が続けられる場合が多かった。また、早くから乳以外の食物が並行して与えられることもあり、そのような社会では離乳は比較的問題なく果たされた。また、乳首に異物を塗るなどのくふうもよくみられた。人工乳の導入に伴って計画的授乳が普及したが、最近では古来からの融通性のある母乳による授乳が、母子の心身衛生上、優れていると見直されている。

[横山廣子]

排便

便


育児担当者

伝統的社会では、乳児にとって第一の養育者が母親であることは、例外的な場合を除いてほとんどの社会に共通していた。しかし、日本でも江戸時代に武家を中心にみられたが、実母にかわって乳母(うば)が養育することが、社会の一部の上層においてみられる場合があった。現代社会では、仕事をもつ母親のために集団保育施設が発達し、乳児を含めた保育が行われている。伝統的社会では、離乳後も母親が主たる育児担当者であることが一般に多いが、サモアでは6、7歳の同じ家に住む少女たちが中心となってその役目を引き受けた。またサモアでは大家族が普通で、家に大人の女性が何人もいるため、母子の密着した関係は存在しなかった。母親が戸外に出て働かねばならないときの乳幼児の世話の問題には、世界各地で伝統的にいろいろな解決法がとられてきた。手のあいている者に子守を頼む場合、多くの社会が年配者に限らず、乳幼児の兄や姉にあたる子どもたちにそれを任せてきた。子どもを動けないように籠(かご)や板に縛り付けておくこともあった。あるいは母親が子どもを背負うなど、自分の体につけて働くこともあった。

[横山廣子]

育児様式の違いと文化

どのような育児が行われるかは、その社会の人々が子どもをどう考えているかによって左右される。また育児様式は各文化に適合した人格を形成するように仕組まれているともいえる。M・ミードのニューギニアにおける研究から対照的な2事例が取り出せる。ムンドゥグモルの人々は子どもの誕生を喜ばなかった。彼らの社会では、息子は母の、娘は父の集団に属し、それぞれから財産を相続した。一夫多妻婚が理想で、結婚は、男性間でその近親の女性を交換するのが原則であった。したがって、女性を自分の結婚の交換要員にすることをめぐって、父と息子はライバルとなった。またすべての男たちが敵対しあう社会であった。夫は男児を嫌い、妻は女児を嫌い、嬰児(えいじ)殺しも珍しくなかったという。育児態度はそっけなく、優しさがなかった。子どもは夫婦間に亀裂をつくり、また夫婦の対立に利用された。このように育てられることで、子どもは荒々しさや攻撃性を身につけた。一方、アラペシュの人々は父系制で、各部落は一つの父系親族で構成され、親族間の協力によって農耕などの生計活動が営まれていた。子どもはだいじに育てられ、夫も育児に協力した。泣けば乳がすぐ与えられ、つねにだれかがそばで見守っていた。乱暴なふるまいは禁じられていた。こうして彼らの社会にあった穏和で協調性のある人格が形づくられていくとミードは分析した。しかし、育児様式と性格的特徴とを結び付けることには慎重な態度をとるべきだとする議論もある。

[横山廣子]

通過儀礼

子どもの成長に対して各社会は節目をつくり、それまでの成長をみんなで確認し、喜び合い、以後の順調な生育を祈るための通過儀礼を行う。中国の漢民族の伝統的慣習では、まず3日目に「三朝」があり、新生児を洗ったのち、家の神仏や祖先に拝礼した。1か月目の「満月」では子どもの剃髪(ていはつ)があり、やはり拝礼が行われた。1歳の誕生日は「周歳」とよばれ、拝礼後、いくつかの品物を並べて子どもにとらせ、それで将来を占った。いずれの祝いにも親族・友人が贈り物持参で集まり、祝宴が催された。

 移動生活をする南米の採集狩猟民シリオノの人々は、生後3日間は子どもが危険な状態にあり、両親との親密なつながりが維持されると考え、父母と新生児に特別の措置を施した。たとえば、親はその間、食物のタブーを守り、最初の日には足を傷つけて血を流さねばならなかった。子どもを病気にするかもしれない古い血を出すためだといわれた。2日間のさまざまな行為ののち、3日目には終了の儀式が行われた。家族が列をなして森に入り、そこで薪(たきぎ)を集めた。先頭の父親は子どもを守るために弓と矢を携え、続く母親は子どもを肩から吊(つ)り下げ、水の入ったひょうたんをもった。ほかの家族がその後に続いた。森から帰ると、とってきた薪に火をつけ、ひょうたんの水で子どもに水浴させ、そこで初めて人々は日常生活に復帰した。

[横山廣子]

病気

病気や事故で命を落としやすい子どもを守るため、近代医療の発達前から伝統的にいろいろな方法がとられてきた。動物名や奇妙な意味の名を幼名とする慣習は世界に広く分布したが、これは邪悪なものの注目や嫉妬(しっと)を避けるためであった。また護符となるものを身につけさせることもよくみられる。子どもをとくに守護する神々の信仰も知られている。

[横山廣子]

『有賀美和子・篠目清美・東京女子大学女性学研究所編『親子関係のゆくえ』(2004・勁草書房)』『本田由紀著『「家庭教育」の隘路 子育てに強迫される母親たち』(2008・勁草書房)』『沢山美果子著『近代家族と子育て』(2014・吉川弘文館)』『平木典子・柏木惠子編著『日本の親子 不安・怒りからあらたな関係の創造へ』(2015・金子書房)』『E・H・エリクソン著、仁科弥生訳『幼児期と社会Ⅰ』(1977・みすず書房)』『原ひろ子著『子どもの文化人類学』(1979・晶文社)』『ヒルドレッド・ギアツ著、戸谷修・大鐘武訳『ジャワの家族』(1980・みすず書房)』『大藤ゆき著『子どもの民俗学――一人前に育てる』(1982・草土文化)』『柳田国男・橋浦泰雄著『産育習俗語彙』(1984・国書刊行会)』『大藤ゆき著『児やらい』(1985・岩崎美術社)』『母子愛育会編『日本産育習俗資料集成』(2008・日本図書センター)』『吉田禎吾著『未開民族を探る――失われゆく世界』(社会思想社・現代教養文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「育児」の意味・わかりやすい解説

育児 (いくじ)




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 210

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 退

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 pediatrics

 ethology

 pedology

 



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 綿

 

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「育児」の意味・わかりやすい解説

育児
いくじ

 
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世界大百科事典(旧版)内の育児の言及

【教育】より


︿

【孫】より

… ラドクリフ・ブラウンの主張からも明らかなように祖父母と孫の親和的関係はどの民族の人間関係にも共通した傾向であり,日本の場合にも例外ではない。日本における祖父母と孫の関係としてとくに注目されるのは,育児がしばしば父母ではなくて祖父母によって担われることである。親夫婦と子ども夫婦が同一家族であっても別々の生活単位を形成する隠居型家族においてとくにこの傾向が強く見られる。…

※「育児」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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