デジタル大辞泉
「蒲団」の意味・読み・例文・類語
ふとん【蒲団/FUTON】[書名]
︵蒲団︶田山花袋の小説。明治40年︵1907︶発表。中年の作家竹中が、美貌の弟子芳子に寄せる恋と嫉(しっ)妬(と)の思いを赤裸々に描く。最初の私小説とされ、その後の自然主義文学に大きな影響を与えた。
︵FUTON︶中島京子の長編小説。平成15年︵2003︶刊行。
を題材とする、著者のデビュー作品。
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ふ‐とん【蒲団・布団】
(一)[1] 〘 名詞 〙 ( ﹁ふ﹂﹁とん﹂は、それぞれ﹁蒲﹂﹁団﹂の唐宋音 )
(一)① 蒲(がま)の葉で編んだ円座。また、蒲の穂またはパンヤなどを布で包み円形に作ったもの。坐禅などに用いる。
(一)[初出の実例]﹁蒲団は全跏にしくにはあらず、跏趺の半よりはうしろにしくなり﹂(出典‥正法眼蔵︵1231‐53︶坐禅儀)
(二)② 座蒲団のこと。
(一)[初出の実例]﹁夜寒の由申間、ふとんを遣了﹂(出典‥多聞院日記‐天正二〇年︵1592︶三月二八日)
(二)[その他の文献]︹許渾‐送惟素上人帰新安詩︺
(三)③ 中に綿・鳥の羽毛・わらなどを入れ、布地で縫いくるんだ寝具。敷き蒲団・掛け蒲団・かいまきの類。夜具。夜着。ふすま。︽ 季語・冬 ︾
(一)[初出の実例]﹁蒲団(フトン)敷﹂(出典‥俳諧・毛吹草︵1638︶二)
(二)﹁蒲団着て寝たる姿や東山︿嵐雪﹀﹂(出典‥俳諧・俳諧古選︵1763︶四)
(二)[2] ( 蒲団 ) 小説。田山花袋作。明治四〇年︵一九〇七︶発表。中年の文学者竹中時雄の内弟子横山芳子に対する恋情と嫉妬の心理を赤裸々に描く。私小説の最初と目され、後の自然主義文学に影響を与えた。
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蒲団 (ふとん)
田山花袋の中編小説。1907年︵明治40︶︽新小説︾に発表。花袋みずからをモデルとした中年の文学者竹中時雄が雑誌社の仕事や結婚生活に倦怠を覚えているとき,ミッション・スクールの神戸女学院の学生横山芳子が父親伴十郎に連れられて入門して来る。時雄は,女をG.ハウプトマンの︽寂しき人々︾の女子学生アンナ・マールに擬し,その才知と美貌に心ひかれ,芳子の愛人田中秀夫に激しい嫉妬心をいだく。しだいに身辺に非難の眼を感ずるようになったので,保護者の立場にかくれ,芳子を国元に帰した彼は,女の残していった蒲団に顔を埋め,性欲と悲哀と絶望に泣く。H.イプセンが︽ロスメルスホルム︾において対象にしている問題を取り上げ,明治末期における新旧思想や人間のエゴイズムといった事柄をはじめ,人間内部の醜悪な面の暴露に焦点を据え,自虐的に客観視している。島村抱月は︿肉の人,赤裸々の人間の大胆なる懺悔録﹀と評しており,島崎藤村の︽破戒︾とともに自然主義文学の位置を決定づけた作である。
執筆者‥小林 一郎
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蒲団
ふとん
田山花袋(かたい)の中編小説。1907年(明治40)9月『新小説』に発表。翌年易風社刊の短編集『花袋集』に収録。中年の文学者竹中時雄が雑誌社の仕事や結婚生活に倦怠(けんたい)を覚えているとき、ミッションスクール神戸女学院の学生である横山芳子が父親に連れられて入門してくる。竹中は女をハウプトマンの『寂しき人々』の女子学生アンナ・マールに擬し、その才知と美貌(びぼう)に心ひかれ、芳子の愛人である田中秀夫に激しい嫉妬(しっと)を感ずる。しだいに非難の目を感じ、保護者の立場に隠れ、女を国元に帰し、残していった蒲団に顔を埋め、性欲と悲哀と絶望に泣くのである。抱月は「肉の人」、赤裸々な「懺悔(ざんげ)録」と評し、自然主義作品としての位置づけをした。
[小林一郎]
『『蒲団』(岩波文庫・角川文庫・新潮文庫)』
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蒲団【ふとん】
綿や羽毛などを布で平らにくるんだもの。寝具と座蒲団に大別されるが,一般には前者をさし,敷蒲団と掛蒲団がある。褥(しとね)と同類の布毯(ふたん)から転じた語といわれ,元来はガマで作った円座をいった。最近は軽い合繊綿や,吸湿性のよい羊毛も使用される。
→関連項目綿
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蒲団
もともと中国語としての﹁蒲団﹂は、蒲(がま)の葉で編んだ円形の敷物、または蒲の穂などを布で包んだ敷物のこと。日本では、室町時代頃に綿を布で包んだ敷物が﹁蒲団﹂と呼ばれ、江戸時代になって綿の栽培が大規模化し、大型の敷物が作られて寝具として利用されるようになり、現在の﹁ふとん﹂となった。
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蒲団
ふとん
田山花袋の小説。 1907年発表。中年の作家と若い女弟子との交渉に託して,みずからの愛欲の体験を赤裸々に告白し,日本自然主義文学の性格を決定し,私小説への道を開いた作品。
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蒲団
ふとん
明治後期,田山花袋 (かたい) の短編小説
1907年発表。自然主義文学の代表作。空前の大胆さ,赤裸々な告白的描写で大きな反響を呼んだ。私小説の源流をここにみる見方もある。
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世界大百科事典(旧版)内の蒲団の言及
【自然主義】より
…そして日本の自然主義は日露戦争後に,浪漫詩人の自己転身の形をとって,個の解放を求める主我性が既成の権威を否定して人生の真に徹しようとする志向と結びつくという形で成立した。島崎藤村の《破戒》(1906)と田山花袋の《蒲団(ふとん)》(1907)がその記念碑的な作品である。先駆的存在として,小民(庶民)の生活を描き続けた国木田独歩もいた。…
【私小説】より
…最も日本的な文学形態だけに,日本的な偏りを批判されることが多かった。
[発生と日本的特異性]
用語例として〈私小説〉が確立される以前,田山花袋《[蒲団]》(1907)が赤裸々な恋愛感情を表現したのが私小説の事実上の発祥とされている。ヨーロッパの自然主義の影響による事実尊重と近代自我拡充の欲求が結合して私小説を生んだのである。…
※「蒲団」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」