デジタル大辞泉
「送り仮名」の意味・読み・例文・類語
おくり‐がな【送り仮名】
1言葉を漢字を使って書き表す場合に、誤読を避け読みやすくするために、その漢字に添える仮名。﹁明かり﹂﹁明るい﹂﹁明ける﹂﹁明らか﹂の﹁かり﹂﹁るい﹂﹁ける﹂﹁らか﹂の類。送り。
2 漢文の訓読を助けるために、漢字の右下に小さく添える仮名。片仮名で活用語尾や助詞・助動詞などを添える。添え仮名。捨て仮名。
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送り仮名
おくりがな
単語を漢字と仮名で表記する場合、漢字のあとに書き添える仮名の部分をいう。古くは副(そえ)仮名、捨(す)て仮名ともいった。漢字の読みを明らかにし、誤読のないように、単語の末尾の部分を示すのである。﹁お兄さん﹂﹁湿しん﹂のように、接頭語、接尾語や漢語の一部などを記した仮名の部分は、漢字の読みを明らかにするためのものではないから、送り仮名ではない。
﹇沖森卓也﹈
送り仮名は、漢字の訓義を借りて日本語の表記に用いた段階から行われたもので、﹁常念弊利(つねにおもへど)﹂︵﹃万葉集﹄巻4︶﹁他支事交倍波(ほかしきことまじへば)﹂︵天平勝宝(てんぴょうしょうほう)九年宣命(せんみょう)︶など、奈良時代にすでに万葉仮名でみえる。後者の宣命体は仮名の発達に伴って平仮名宣命体、片仮名宣命体となり、中世以降は小字の仮名も大きく表記することが多くなった。また平仮名文でもしだいに漢字を交え用いるようになって、送り仮名が行われるに至った。漢文の訓点で漢字の読みを傍らに記入することも、形式的には似たものである。しかし、これらの送り仮名のつけ方は一様ではなく、活用語尾などは記さないことも少なくなかった。読みが明らかな場合には、ことさらに送り仮名をつける必要がないから、法則的に活用語尾などを送る習慣もなかったのである。
そのような無秩序なつけ方では実務上不便であることから、明治以降、送り仮名の整理統一が説かれるようになった。送り仮名のつけ方に関する規則、すなわち送り仮名法がいくつか提出されたが、なかでも1907年︵明治40︶の国語調査委員会﹁送仮名法﹂は比較的広く行われた。
1959年︵昭和34︶、それまでまちまちであった送り仮名法に対して、初めての公的な基準﹁送りがなのつけ方﹂が内閣訓令・告示をもって定められた。これを改定して、73年に﹁送り仮名の付け方﹂が内閣訓令・告示をもって公布された。これは七つの通則からなり、本則のほか例外、許容を設けている。改定前のものに比べて、例外、許容を大幅に認めるとともに、その運用は個々人の自由な選択にゆだねるようになっている。
﹇沖森卓也﹈
その大要を次に示す︵︿ ﹀内は語例︶。
通則1 本則―活用のある語︵通則2を適用する語を除く︶は、活用語尾を送る︿憤る、荒い、主だ﹀。
例外―語幹がシで終わる形容詞は、﹁し﹂から送り︿著しい﹀、活用語尾の前にカ、ヤカ、ラカを含む形容動詞は、その音節から送る︿暖かだ、穏やかだ﹀。また﹁あじわう、あわれだ﹂などは︿味わう、哀れだ﹀のように送る。
許容―︿表す︵表わす︶、行う︵行なう︶﹀などは、︵ ︶の中に示すように送ることができる。
注意―語幹と活用語尾との区別がつかない動詞は、たとえば︿着る、寝る、来る﹀などのように送る。
通則2 本則―活用語尾以外の部分に他の語を含む語は、含まれている語の送り仮名の付け方によって送る︵含まれている語を︹ ︺の中に示す︶︿動かす︹動く︺、勇ましい︹勇む︺、重んずる︹重い︺、細かい︹細かだ︺、汗ばむ︹汗︺、後ろめたい︹後ろ︺﹀。
許容―︿浮かぶ︵浮ぶ︶、晴れやかだ︵晴やかだ︶﹀などは、︵ ︶の中に示すように、送り仮名を省くことができる。
注意―︿明るい︹明ける︺、悔しい︹悔いる︺﹀などは、︹ ︺の中に示す語を含むものとは考えず、通則1によるものとする。
通則3 本則―名詞︵通則4を適用する語を除く︶は、送り仮名を付けない︿月、男、彼﹀。
例外―︿辺り、情け、自ら﹀などは、最後の音節を送る。数をかぞえるツを含む名詞は、その﹁つ﹂を送る︿一つ、幾つ﹀。
通則4 本則―活用のある語から転じた名詞および活用のある語にサ、ミ、ゲなどの接尾語が付いて名詞になったものは、もとの語の送り仮名の付け方によって送る︿動き、大きさ、明るみ、惜しげ﹀。
例外―︿謡、折﹀などは、送り仮名を付けない。ただし、この例外は、動詞の意識が残っているような使い方の場合には該当しない。
許容―︿曇り︵曇︶、当たり︵当り︶﹀などは、︵ ︶の中に示すように、送り仮名を省くことができる。
通則5 本則―副詞、連体詞、接続詞は、最後の音節を送る︿必ず、来る、及び﹀。
例外―﹁あくる、おおいに﹂などは︿明くる、大いに﹀のように送る。︿又﹀は送り仮名を付けない。他の語を含む語は、含まれている語の送り仮名の付け方によって送る︿併せて︹併せる︺、辛うじて︹辛い︺﹀。
通則6 本則―複合の語︵通則7を適用する語を除く︶の送り仮名は、その複合の語を書き表す漢字の、それぞれの音訓を用いた単独の語の送り仮名の付け方による︿書き抜く、斜め左、田植え、申し込み、休み休み﹀。
許容―︿書き抜く︵書抜く︶、田植え︵田植︶、申し込み︵申込み、申込︶﹀などは、︵ ︶の中に示すように、送り仮名を省くことができる。
通則7 本則―複合の語のうち、特定の領域で、または一般に慣用が固定していると認められる名詞は、送り仮名を付けない︿関取、博多織、書留、木立、合図、受付﹀。
注意―慣用が固定しているかどうか、通則7の適用に判断がつかない場合には、通則6を適用する。
﹇沖森卓也﹈
﹃﹃送り仮名法資料集﹄︵﹃国立国語研究所資料集 3﹄1952・国立国語研究所︶﹄
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送り仮名 (おくりがな)
日本語を漢字と仮名とで書く場合,漢字の読み方をはっきり限定するために添える仮名。たとえば︿行く﹀︿美しい﹀の︿く﹀︿しい﹀などが送り仮名であるが,︿起る﹀︿細い﹀のような場合,それぞれ︿おきる﹀︿おこる﹀,︿ほそい﹀︿こまかい﹀と二様に読まれるおそれがあるときは,︿起きる﹀︿起こる﹀,︿細い﹀︿細かい﹀と送り仮名して読み方を明らかにすることができる。すでに送り仮名の芽ばえは奈良時代の万葉仮名の中にある。︽続日本紀︾宣名︵せんみよう︶の表記︿授賜比負賜布貴支高支広支厚支大命乎﹀を,︿さづけたまひおほせたまふたふときたかきひろきあつきおほみことを﹀と読むときの比︵ひ︶,布︵ふ︶,支︵き︶,乎︵を︶などがそれである。片仮名が広く用いられるようになると,︿帝王ド︵みかど︶﹀︿夜ル︵よる︶﹀などと,名詞の終末部に仮名を送るものさえあった。しかし一般には動詞・形容詞・副詞の終末部を読み定めるために仮名を添えた。その方式には一定のものがなかった。
明治時代以後,法律の文章や公文書,学校教育における教科書,また新聞・雑誌などの編集者は,統一の必要を感じていろいろの案を立てた。明治時代の案は,漢文の読み下しのような,いわゆる普通文における送り仮名であったから,送る仮名は一般に少なかったが,しだいに口語文が普及してきて,異なる二つの文体が並び行われるために送る基準にずれが生じ,仮名をなるべく多く送って誤読を防ぐという方向に進んでいる。しかし実際に書く場合は,少なく送る方がスペース,手間からいって楽であるから,その間の調節がむずかしい。中根淑はその著︽日本文典︾︵1876︶の中に︿送り仮名法則﹀を付した。それは後︽送仮名大概︾︵1895︶として公にされた。国語調査委員会もこれを取り上げ︽送仮名法︾︵1907︶を発表して,法文,教科書の用字の統一をはかった。これは文語文を対象とするがかなりよく整ったものである。口語文を対象とするものとして,服部嘉香,木枝増一の案があり,雑誌︽国語運動︾による人々も簡潔な案を出した。倉野憲司はきわめて多くの仮名を送る案を作った。
第2次世界大戦後,漢字制限,仮名づかい改訂を機縁として︽公文用語の手引︾︽表記の基準︾などが公にされ,送り仮名の問題は,単にそれ自身に限定した問題として取り扱われず,国語の表記法全体の問題として,仮名づかい,漢字の訓の整理,句読︵くとう︶法などとの関連において考究されてきたが,1959年政府は,前年の国語審議会の建議にもとづき,内閣告示として︿送りがなのつけ方﹀を定めた。これは,︵1︶活用語は語尾を送る,︵2︶誤読・難読をさける,︵3︶固定した慣用には従う--を方針として品詞別に計26の通則を示したが,この告示の方向では示し方が煩雑で,送りすぎの傾向があるとの批判を受けて,73年改定内閣告示︿送り仮名の付け方﹀が出された。これは,単独の語︵活用のある語とない語に大別︶と複合語に分けて計7の通則︵および付表︶に簡素化し,また送りすぎの批判に応えようとしているが,やはり例外と許容を多く含んでいる。
→国語国字問題
執筆者‥大野 晋
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送り仮名
おくりがな
漢字とかなを使って単語を表記する場合,その漢字の読み方を示すためにそのあとに添えられるかなをさす。ただし,合成語では各構成部分についていわれる。起源的には漢文の訓読にさかのぼるが,平安時代に漢字仮名交り文が成立して以来,習慣的に用いられるようになった。漢字の誤読を避けるという実用的目的によるもので,用法が一定しておらず,名称も「捨て仮名」「添え仮名」という補助的な呼び方をされたりした。いまでも送り仮名は,人により,文脈により一定しておらず,1973年に公布された「送りがなの付け方」自体一貫した原則に基づいているとはいえない点がある。これには,実際の文脈において,送り仮名の有無により読み方が左右されることがそう多くはない点もからんでいる。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
送り仮名【おくりがな】
漢字と仮名を交えて日本語を記すとき,漢字の読み方を限定するために添える仮名。︿書く﹀︿静か﹀の︿く﹀︿か﹀など。もと漢文に訓点で字の読み方を注することから起こり,漢字仮名交じり文でも用いられた。元来は漢字を読みやすくする目的であって,特に法則もなかったが,明治以後,活用語尾や特定の接尾語を必ず送り仮名として書き表す習慣が一般化した。1959年には国語審議会の建議に基づいて︿送りがなのつけ方﹀が告示されたが︵1973年改定して︿送り仮名の付け方﹀となり,1981年一部改定︶,まだ例外と許容が多い。
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