琉球祖語
分岐年代
編集音韻論
編集母音
編集前舌 | 後舌 | |
---|---|---|
高 | *i | *u |
中 | *e | *o |
低 | *a |
Thorpe (1983)は、舌頂阻害音(= t, d, s, z)の後では *u の音声は非円唇母音 *[ï] であったとする[4]。この環境では、琉球諸語の多くの地域で *i と *u の合流が見られる[5]。
子音
編集Thorpe (1983)以来,以下の13子音が再建されている。*b, *d, *g, *z はそれぞれ日琉祖語の *{n, m}p, *{n, m}t, *{n, m}k, *{n, m}s から生じた[7]。
両唇 | 歯茎 | 硬口蓋 | 軟口蓋 | |
---|---|---|---|---|
破裂音 | *p, *b | *t, *d | *k, *g | |
摩擦音 | *s, *z | |||
鼻音 | *m | *n | ||
その他 | *w | *r | *j |
原音素(archiphoneme)
編集Thorpe (1983) 以来 *Q(促音)、*N(撥音)が再建されている。これらは母音の消失などによって二次的に出現したものである。[7]
アクセント
編集この節の加筆が望まれています。 |
音韻対応
編集一般的に、日琉祖語及び上代日本語とは以下のような音韻対応が見られる。
母音
編集イ列乙類との対応
編集日琉祖語の *ui, *oi, *əi は上代日本語でいずれもイ列乙類(i₂)として合流したが、琉球祖語では *ui, *oi が *i, *əi が *e に対応している。[9][10]したがって、上代日本語と琉球祖語は奈良時代よりも前に分岐したと考えることができる。
グロス | 上代日本語 | 日琉祖語 | 琉球祖語 |
---|---|---|---|
口 | kuti ~ kutu- | *kutui | *kuti |
月 | tuki₂ ~ tuku- | *tukui (*tukoi) | *tuki |
火 | pi₂ ~ po(₁)- | *poi | *pi |
黄色 | ki₂ ~ ku- | *koi | *ki |
木 | ki₂ ~ ko₂- | *kəi | *ke |
落ちる | oti- ~ oto₂s- | *ətəi | *{u, o}te- |
オ列乙類との対応
編集一部の研究者は奄美大島・加計呂麻島の一部の方言で上代日本語のオ列甲乙の対立に相当するものが保存されているとかつて主張したが、対応は顕著に複雑であり、琉球祖語に *ə(> o₂)と *o(> o₁)の対立を再構することはできないと考えられている。[11]
上代日本語 | 日琉祖語 | 琉球祖語 | 奄美語 |
---|---|---|---|
o₂ | *ə | *o | /u/ |
o₁ | *o, *ua, *au, etc. | *o | /o/ |
中段母音の再構
編集琉球祖語 :: 上代日本語に *e :: i₁, *o :: u という音韻対応が見られる単語は、日琉祖語に *e, *o が再建されている[12]。
現代日本語 | 日琉祖語 | 琉球祖語 | 上代日本語 |
---|---|---|---|
ヒル(ニンニク) | *peru | *peru | pi₁ru |
水 | *meNtu | *mezu | mi₁Ntu |
昼 | *piru | *piru | pi₁ru |
薬 | *kusori | *kusori | kusuri |
臼 | *{u, o}su | *{u, o}su | usu |
馬 | *uma | *uma | uma |
海 | *omi | *omi | umi₁ |
母音対応表
編集この節の加筆が望まれています。 |
規則上は以下が予想される。琉球諸語の内部での対応はおおまかなものであり、個別の言語内部でも方言差がある。
日琉祖語 | 上代日本語 | 琉球祖語 | 北琉球語群 | 南琉球語群 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
奄美語 | 沖縄語 | 宮古語 | 八重山語 | 与那国語 | |||
*a | a | *a | a | a | a | a | a |
*e | i₁ ~ e₁ | *e[14] | ʰɨ, i | ʰi, i | i | i | i |
*ai | e₂ | ||||||
*əi | i₂ ~ e₂ | ||||||
*i | i₁ | *i | ʔi, N | ʔi, ʲi, N | ɿ, ɯ, s, N, ∅ | ɿ, N, ∅ | i, N, ∅ |
*oi | i₂ | ||||||
*ui | |||||||
*o | u ~ o₁ | *o[15] | ʰu | u | u | u | u |
*au | o₁ | ||||||
*ua | |||||||
*uə | |||||||
*ə | o₂ | ||||||
*u | u | *u | ʔu, N | u, N | u, N, ∅ | u, N, ∅ | u, N, ∅ |
子音
編集接近音
編集子音対応表
編集この節の加筆が望まれています。 |
日琉祖語 | 上代日本語 | 琉球祖語 | 北琉球語群 | 南琉球語群 | 備考 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
奄美語 | 沖縄語 | 宮古語 | 八重山語 | 与那国語 | |||||
語頭 | *p | p | *p- | ||||||
語中 | *p ~ *∅ ~ *w | ||||||||
語頭 | *w | w | *w- | w- | w- | b- | b- | b- | 北琉球諸語では一部の /b-/ や /g-/ になるいくつかの方言を除いて /w-/ が一般的である。[16] |
語中 | *w ~ *∅ |
統語論
編集この節の加筆が望まれています。 |
形態統語論
編集この節の加筆が望まれています。 |
動詞
編集琉球諸語の動詞活用表の一部は日本語のものとしばしば厳密に音韻対応しない。
北琉球諸語の終止形・連体形
編集上代日本語 | 奄美語 | 沖縄語 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
大和浜方言 | 与論 東区方言 | 今帰仁 与那嶺方言 | 首里方言 | 久高方言 | ||
終止形 | kaku | kʰakuɴ | kakjuɴ | hatɕuɴ | katɕuɴ | hakiɴ |
連体形 | kaku | kʰakuɾu | kajuɾu | hatɕuːɾu | katɕuɾu | hakiɾu |
形容詞
編集動詞と同様、一部は日本語のものとしばしば厳密に音韻対応しない。
語彙
編集琉球祖語の語彙の一部には、九州地方の諸言語と類似した語彙が含まれていることが知られており、「九州琉球同源語」と呼ばれている[18]。
娘言語での変化
編集北琉球祖語
編集この節の加筆が望まれています。 |
南琉球祖語
編集この節の加筆が望まれています。 |
九州=琉球祖語
編集琉球祖語以前の言語
編集琉球祖語が日本語派から分岐して琉球に到来するより以前の琉球列島でどのような言語が話されていたのかは不明であり、また現在の琉球語にははっきりとした痕跡は確認されていない。 地名などの断片的な痕跡から琉球祖語到達以前の先史時代の琉球で話されていた言語を推測しようという試みがあり、オーストロネシア語族説(金関丈夫ら)とアイヌ語族説(伊波普猷・アレキサンダー・ボビン)がある。
脚注
編集- ^ Pellard (2016).
- ^ Vovin, Alexander. 縄文時代から上代までの日本列島:言語は何語? .
- ^ Pellard (2022), p. 2.
- ^ Thorpe 1983, p. 31
- ^ Thorpe 1983, pp. 63–74
- ^ Pellard (2022), p. 3.
- ^ a b Pellard (2022), p. 7.
- ^ a b Vovin (2012).
- ^ Pellard (2013), p. 90.
- ^ Pellard (2022), p. 4.
- ^ Pellard (2022), p. 6.
- ^ Pellard (2013), pp. 84–85.
- ^ Pellard (2022).
- ^ Pellard (2013), p. 84.
- ^ Pellard (2013), p. 85.
- ^ a b Pellard (2022), pp. 7–8.
- ^ Pellard (2022), p. 16.
- ^ 五十嵐 (2018), pp. 13–15.
- ^ 五十嵐 (2018), p. 3.
- ^ Pellard (2021), p. 9.
- ^ 狩俣 (2018), p. 2.
参考文献
編集Bentley, John R. (2015), “Proto-Ryukyuan”, Handbook of the Ryukyuan languages: History, Culture and Use, pp. 39-60
五十嵐, 陽介 (2018), “九州語と琉球語からなる「南日本語派」は成立するか?: 共通改新としての九州・琉球同源語に焦点を置いた系統樹構築” , 平成 30 年度琉球大学学長 PI プロジェクト「琉球諸語における『動的』言語系統樹システムの構築をめざして」―鹿児島大学公 開共同シンポジウム「九州-沖縄におけるコトバとヒト・モノの移動」, 鹿児島大学.
狩俣, 繁久 (2018), “琉球語研究における系統樹研究の可能性” , シンポジウム「フィールドと文献から見る日琉諸語の系統と歴史」 1 琉球語研究における系統樹研究の可能性, NINJAL.
Pellard, Thomas (2013), “Ryukyuan Perspectives on the proto-Japonic Vowel System”, in Bjarke, Frellesvig; Peter, Sells, Japanese/Korean Linguistics, CSLI Publications, pp. 81–96
Pellard, Thomas (2016), “日琉祖語の分岐年代”, 琉球諸語と古代日本語:日琉祖語の再建に向けて, くろしお出版 (2016年4月7日発行), ISBN 978-4-87424-692-4
Pellard, Thomas (2021), “日琉諸語の系統分類と分岐について”, フィールドと文献からみる日琉諸語の系統と歴史, 開拓社 (2021年9月22日発行), ISBN 978-4-7589-2354-5
Pellard, Thomas (2022), “Ryukyuan and the Reconstruction of proto-Japanese-Ryukyuan”, Handbook of Japanese Historical Linguistics
Thorpe, Maner Lawton (1983), Ryūkyūan language history, University of Southern California 博士論文
Vovin, Alexander (2012), “琉球祖語の語中における有声子音の再建について”, 国立国語研究所『「日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究」研究発表会』