酵素

触媒として機能する大きな生体分子

これはこのページの過去の版です。T-Chouette (会話 | 投稿記録) による 2008年7月18日 (金) 11:25個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎所在による分類: wikify)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。







pH



︿

調

役割

 
細胞内の主要代謝経路
 
細胞呼吸における酵素の調節機構
(上の経路図の緑・紫矢印部分のみ)
赤点が酵素、黒線が調節機構を表す。丸く配置された赤点がTCAサイクルである。









1




発見

 
ヒトの唾液に含まれるアミラーゼ(リボン図)。薄黄はカルシウムイオン、黄緑は塩化物イオン
 
エドゥアルト・ブフナー
ノーベル化学賞 
 
エミール・フィッシャー

1832A (Anselme Payen) JF (Jean Francois Persoz) [1]1833

1836T[2]

 (enzyme) (in yeast) "εν ζυμη"1878[3]

19





1896[4]

鍵と鍵穴説


19

1894[5]


酵素の実体の発見


1926[6]


酵素と分子細胞生物学


20X 

1986[7]

[8][9][10]

特性

酵素は生体内での代謝経路のそれぞれの生化学反応を担当するために、有機化学で使用されるいわゆる触媒とは異なる基質特異性反応特異性などの機能上の特性を持つ。

また、酵素はタンパク質を基に構成されているため、他のタンパク質と同様に失活の特性、すなわち熱やpHにより変性し活性を失う特性を持つ。次に酵素に共通の特性である基質特異性と反応特異性、および失活について説明する。

基質特異性

 
基質に結合する酵素
クリックで拡大・説明

substrate specificity

;



20X



X


誘導適合

 
基質に結合することで誘導適合する酵素
クリックで拡大・説明

pH




反応特異性


11

11

1

 (isozyme) 

酵素作用の失活


pH

pH

pHpH

pH

分類

酵素の分類方法はいくつかあるが、ここでは酵素の所在による分類と、基質と酵素反応の種類(基質特異性と反応特異性の違い)による系統的分類を取り上げる。後者による分類は酵素の命名法と関連している。

所在による分類





膜酵素

 
膜酵素の模式図
左から埋没型、貫通型、付着型

ATPATP3

 - 

 - ATP

 - 


可溶型酵素



分泌型酵素



pH

系統的分類


EC

EC"EC"[11] 4"EC X.X.X.X"XECATP6

EC 1.X.X.X

EC 2.X.X.X

EC 3.X.X.X

EC 4.X.X.X

EC 5.X.X.X

EC 6.X.X.X

EC 3,000 [12]

ATPATPEC

命名法


EC

ECEC 1.1.1.1

NAD+ 



DNA

使




構成

 
酵素と補因子の関係
クリックで拡大と説明



[13][14]


補欠分子族

酵素と必須元素[15][16]
元素名 酵素名
シトクロームcオキシダーゼ (E.C. 1.9.3.1[17])、 コレステロールモノオキシゲナーゼ(E.C. 1.14.15.6)、  リボヌクレオシド二リン酸レダクターゼE.C. 1.17.4.1[17]、 アコニターゼ(E.C. 4.2.1.3[17])
亜鉛 DNAポリメラーゼ (E.C. 2.7.7.7[17])、 RNAポリメラーゼ(E.C. 2.7.7.6[17])、 カルボネートデヒドラターゼ(E.C. 4.2.1.1,)、 アルカリホスファターゼ (E.C. 3.1.3.1[17])、  アルドラーゼ(E.C. 4.2.1.1)、 カルボキシペプチダーゼA/B(E.C. 3.4.17.1/2)、  ロイシンアミノペプチダーゼ (E.C. 3.4.11.1[17])、 アルコールデヒドロゲナーゼ(E.C. 1.1.1.1[17])
元素名 酵素名
L-アスコルビン酸オキシダーゼ(E.C. 1.10.3.3[17])、 ラッカーゼ(E.C. 1.10.3.2[17])、 モノフェノールモノオキシゲナーゼ(E.C. 1.14.18.1[17])、 カテコールオキシダーゼ(E.C. 1.10.3.2[17])
カルシウム カルパイン (E.C. 3.4.22.17[17])
マンガン スーパーオキシドディスムターゼ(E.C. 1.15.1.1[17])
モリブデン キサンチンオキシダーゼ (E.C. 1.1.3.22[17])、 亜硫酸オキシダーゼ(E.C. 1.8.3.1[17])、 ニトロゲナーゼ(E.C. 1.18.6.1[17])
コバルト ビタミンB12レダクターゼ(E.C. 1.6.99.9)
ニッケル ウレアーゼ(E.C. 3.5.1.5[17])
セレン グルタチオンペルオキシダーゼ(E.C. 1.11.1.9[17])

prosthetic group[18]

P450 

補酵素


coenzyme[19]NADPH

P450

1931

NADNADPFMNFADA

サブユニットとアイソザイム

 
ホウレンソウRubisCOは大サブユニットと小サブユニットのヘテロダイマーの8量体で構成される。(サブユニット毎に色分け)

酵素が複数のペプチド鎖(タンパク質鎖)から構成される場合がある。その場合、各ペプチド鎖はそれぞれ固有の三次構造(立体構造)をとり、サブユニットと呼ばれる。サブユニット構成を酵素の四次構造と呼ぶ場合もある。

ヒト乳酸デヒドロゲナーゼと
アイソザイムタイプ
アイソザイム
タイプ
サブユニット
構成
組織分布
LD1 H4 心臓
LD2 H3M 骨格筋
・横隔膜
・腎臓など
LD3 H2M2
LD4 HM3
LD5 M4 肝臓

LDH; E.C. 1.1.1.274H[17]M[17]24H2M2H2M25


複合酵素

 
複合酵素の模式図
脂肪酸生成系
クリックで拡大・解説

一連の代謝過程を担当する複数の酵素がクラスターを形成して複合酵素となる場合も多い。

代表例として脂肪酸合成系の複合酵素を示す。これらは [ACP]S-アセチルトランスフェラーゼ (AT; E.C. 2.3.1.38)、マロニルトランスフェラーゼ (MT; E,C.2.3.1.39)、3-オキソアシル-ACPシンターゼI (KS)、3-オキソアシル-ACPレダクターゼ (KR; E.C. 1.1.1.100)、クロトニル-ACPヒドラターゼ (DH; E.C. 4.2.1.58)、エノイル-ACPレダクターゼ (ER; E.C. 1.3.1.10) の6種類の酵素がアシルキャリアタンパク質 (ACP) と共にクラスターとなって複合酵素を形成している。脂肪酸合成系はほとんどが複合酵素で、単独の酵素はアセチルCoAカルボギラーゼ (TE; E.C. 6.4.1.2) のみである[15]

生化学

酵素反応速度


 (JIS K 3600-1310) 

 

[S] Vmax[ν][S]

1

酵素反応の定式化


1913LM

 (E) +  (S)    (ES)   (E) +  (P)

12

1 ( )

阻害様式と酵素反応速度

 
酵素の反応速度曲線を阻害剤のない原系の場合を青線、阻害剤の存在する系を赤線で示す

酵素の反応速度は、基質と構造の似た分子の存在や、後述のアロステリック効果により影響を受ける(阻害される)。阻害作用の種類によって、酵素の反応速度の応答の様式(阻害様式)が変わる。そこで、反応速度や反応速度パラメーターを解析して阻害様式を調べることで、逆にどのような阻害作用を受けているかを識別することができる。どのような阻害様式であるかを調べることによって、酵素がどのような調節作用を受けているか類推することができる。調節作用を研究することは医薬品開発においては酵素作用を制御することにより症状を改善する新たな治療薬の開発に応用されている。

阻害様式は大きく分けると次のように分類される:

  • 拮抗阻害(競争阻害)
  • 拮抗的ではない阻害
    • 非拮抗阻害
    • 不拮抗阻害
  • 混合型阻害

酵素反応の活性化エネルギー

触媒の活性化エネルギー比較[20]
反応名 触媒/酵素† エネルギー値
(cal/mol)[21]
H2O2の分解 (なし) 18,000
白金コロイド 11,000
カタラーゼ
Catalase;
5,000
ショ糖の加水分解 H+ 26,500
サッカラーゼ
(酵母)
11,500
カゼイン
の加水分解
HCl aq. 20,000
キモトリプシン
(Trypsin)
12,000
酢酸エチル
加水分解
H+ 13,200
リパーゼ
(Lipase;
4,200

一般に化学反応の進行する方向は化学ポテンシャルが小さくなる方向(エネルギーを消費する方向)に進行し、反応速度は反応の活性化エネルギーが高いか否かに大きく左右される(化学平衡反応速度論を参照)。

酵素反応は触媒反応で、化学反応の一種なので、その性質は同様である。ただし、一般に触媒反応は化学反応の中でも活性化エネルギーが低いのが通常であるが、酵素反応の活性化エネルギーは特に低いものが多い。

一般に活性エネルギーが15,000cal/molから10,000cal/molに低下すると、反応速度定数はおよそ4.5×107倍になる。

反応機構モデル





 


  1. His57プロトンを負に荷電した Asp102 に譲渡する
  2. His57 が塩基となり、活性中心の Ser195 からプロトンを奪う
  3. Ser195 が活性化されて(負に荷電して)基質を攻撃する
  4. His57 がプロトンを基質に譲渡する
  5. Asp102 から His57 がプロトンを奪い 1. の状態に戻る

遷移状態と抗体酵素








1986 (abzyme) 


酵素反応の調節機構


[22]

(一)

(二)

(三)

1調調231

23調

利用

酵素は実生活の色々な場面で応用されている。1つは酵素自体を利用するもので、代表的な分野として食品加工業が挙げられる。もう1つは生体が持つ酵素を観測・制御するもので、代表的な分野として医療・製薬業が挙げられる。

食品

 
チーズの製造にはレンネットが利用される

使使


酵素の工業利用
目的 たんぱく質
分解
でんぷん類を
分解
セルロース
木質を分解
成分を変換 その他
酵素名 プロテアーゼ類 アミラーゼ類 セルラーゼ類 イソメラーゼ類
化粧品日用品 アルカリプロテアーゼ
セリンプロテアーゼ
デキストラナーゼ      
食品工業 グルタミナーゼ α-アミラーゼ
β-アミラーゼ
アミロプルラナーゼ
グルコアミラーゼ
ヘミセルラーゼ
アラバナーゼ
イソメラーゼ全般
グルコースイソメラーゼ(転化糖)
 
醸造工業 プロテアーゼ全般 α-アミラーゼ
β-グルカナーゼ
セルラーゼ全般
ヘミセルラーゼ
   
飼料   α-アミラーゼ セルラーゼ全般
ヘミセルラーゼ
ペクチナーゼ
フィターゼ
   
洗剤
繊維加工用
アルカリプロテアーゼ アミロプルラナーゼ セルラーゼ全般
プロトペクチナーゼ
ペクチナーゼ
  リパーゼ
(分分解)
ペルオキシダーゼ
(漂白)
パルプ関連     キシラナーゼ   リパーゼ
(エステル交換)

使


α- - 

β- - 

 - 

 - 

 - 


 - 

 - 


 - L-

 - 

 - 


 - 


日用品






pH

1947 (M. Ottesen) 60%[15]
 






医療


20()

調︿調

︿ 

工業利用の技術(固定化酵素)



 
()

使

κ-

使1967DEAE-Sepadex (E.C. 3.5.1.14) 使 N--DL- L-[15]

バイオセンサー


19601976[23]

尿調


生命の起源と酵素


DNADNADNADNA
 

mRNA

1986RNA3[24]

(一)RNA I, II, III 

(二)RNARNAP

(三)23S rRNA

12RNA3RNARNARNA

323S rRNAtRNA23S rRNA[25]23S rRNAV[26]

RNA[27]

RNADNARNARNA[28]

DNARNARNA2'AMPDNA2'RNA

RNARNA[29]

人工酵素




(一)

(二)



1980199020002008[30]

1980

12001

代表的な酵素の一覧


ECCategory:



(一)

  

  

  


  
  



P450  


  ︿


ATP  ATP

1,5-/ ︿RubisCO ︿

(二)
DNA  DNA 

RNA  m-RNA

 DNAm-RNA
  

tRNA  t-RNA

(三)
  

 

  

DNA  

酵素に関する年表


19
1833 

1836 

1857  (fermente)

1873 

1878  "zyme" "en" (en-zyme)

1894 

1894 

1897 

20
1902 

1907  

1913 

1925 GEJBS

1926 

1930 

1931    

1945 11

1946  

1955 

1955    

1960 

1965 

1965 調   

1965 

1968 H.O.Smith, K.W.DNA

1969 

1972  

1975    

1978    

1986 RNARNARNA

1986  (abzyme) 

1989  

1992   

1997  ATPATP Na+, K+-ATP  

出典



(一)^ "amylase", The Columbia Encyclopedia. 6th ed. Bartleby.com.

(二)^ Theodor Schwann. Encyclopædia Britannica. 2007. Encyclopædia Britannica Online.

(三)^ Harper, D (2001). "enzyme". Online Etymology Dictionary.

(四)^ (CD-ROM2)1998

(五)^ Fischer E (1894). Einfluss der Configuration auf die Wirkung der Enzyme. Ber Dt Chem Ges 27: 2985-93. http://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k90736r/f364.chemindefer. 

(六)^ 1946 Nobel prize for Chemistry laureates at http://nobelprize.org

(七)^ 1989 Nobel prize for Chemistrylaureates at http://nobelprize.org

(八)^ Eisenmesser EZ, Bosco DA, Akke M, Kern D (2002). Enzyme dynamics during catalysis. Science 295: 1520-3.  PMID: 11859194.

(九)^ Agarwal PK (2005). Role of protein dynamics in reaction rate enhancement by enzymes.. J Am Chem Soc 127: 15248-56.  PMID: 16248667.

(十)^ Eisenmesser EZ, Millet O, Labeikovsky W, Korzhnev DM, Wolf-Watz M, Bosco DA, Skalicky JJ, Kay LE, Kern D (2005). Intrinsic dynamics of an enzyme underlies catalysis. Nature 438: 117-21.  PMID: 16267559.

(11)^ "E.C.""EC."

(12)^ ECEC

(13)^ 21997

(14)^  ,  196982-119

(15)^ abcd  1995ISBN 4-254-14555-1

(16)^ Sang-Hwan Oh, Ganther HE, Hoekstra WG (1974). Selenium as a Component of Glutathione Peroxidase Isolated from Ovine Erythrocytest. Biochemistry 13: 1825-9.  [1]

(17)^ abcdefghijklmnopqrstu"Molecule of the Month" RCSB PDB

(18)^ 51998

(19)^ 51998

(20)^  ,   196989

(21)^ 1,000cal/mol4.2kJ/mol

(22)^ 調 51998

(23)^ 2003 ISBN 4873264294

(24)^ T.A. Brown 2000ISBN 4895922375

(25)^ Nitta I, Ueda T, Watanabe K (1998). Possivble involvement of Escherichia coli 23S ribosomal RNA in peptide bond formation. RNA 4: 25767. 

(26)^ Nitta I, Kamada Y, Noda H, Ueda T, Watanabe K (1998). Reconstitution of peptide bond formation with Escherichia coli 23S ribosomal RNA domains. Science 281: 6669.  PMID: 9685252.

(27)^ Scott WG, Klug A (1996). Ribozymes: structure and mechanism in RNA catalysis. Trends Biochem Sci 21: 3515. 

(28)^ Szathmary E, Smith JM (1993). The evolution of chromosomes. II. Molecular mechanisms. J Theoret Biol 164: 44754. 

(29)^ Csermely P (1997). Proteins, RNAs and chaperones in enzyme evolution: a folding perspective. Trends Biochem Sci 22: 1479. 

(30)^ Giovanna Ghirlanda, "Old enzymes, new tricks", Nature 453, 164-166 (2008). doi:10.1038/453164a

関連項目

Template:Link FA Template:Link FA Template:Link FA Template:Link FA Template:Link FA Template:Link FA