門跡
門跡寺院の住職を務める皇族・公家
概要
沿革
宇多天皇が出家して仁和寺に入室し御室御所と称し、御室門跡となったのが始まりである。仁和寺は当初は宇多天皇の子孫︵宇多源氏︶が住職である別当を務めていたが、三条天皇の皇子である性信入道親王が住職に就いた際に別当よりも上位である検校を称し、その後を白河天皇の皇子である覚行法親王が継いだことから皇族が住職を務める真言宗の寺院と認識されるようになった[2]。
鎌倉時代初期頃からは皇族や摂家等の子弟が特定の寺院に出家するようになる︵摂政九条道家の息法助が初めて皇族でない御室門跡となる[3]︶。これは、武家が実権を持ったために平安時代よりも経済力が低下した皇室や公家が、跡取りとなる長男や次男以外を出家させたためである。医療の発達していなかった時代は、病気で子に万一のことがあり、家系が断絶することがないように、正妻の他に側室を持ちたくさんの子をもうけることが、上流階級の﹁家﹂の存続のために必要であったが、同時にそのことは冠婚葬祭で多くの出費を伴うことに直結した。出家すると婚姻しないため、結納・支度金・婚礼費用等の直接的な出費の削減になるだけでなく、子を作らないため、宮家や別家を作ることがなく、家として大幅な経費の節減となった。なお、家に残った跡取りに万一のことがあれば、出家した子弟のうちの選ばれたものが還俗して家を継いだ。
子弟らは荘園を所有しておりその経済力を背景とした政治力をもって、受け入れた寺院内の支配権を掌握するようになり、各門流を継承するようになった。これらが慣例化してやがて、﹁門跡﹂自体が﹁貴族﹂出身者によって継承される特定の院家・寺院を指す称号へと変化した。
そして室町時代になると、寺格としての﹁門跡﹂が確立し、室町幕府には、門跡寺院に関する政務を執る門跡奉行が置かれた。さらに江戸幕府では、宮門跡︵親王門跡︶・摂家門跡・清華門跡・公方門跡︵武家門跡︶・准門跡︵脇門跡︶などに区分して制度化した。禁中並公家諸法度︵第13条︶では、天皇の皇子・連枝︵兄弟︶である宮門跡は摂家出身の摂家門跡よりも上とされ︵宮中内では摂家は親王の上とされていたことから反対の扱いとなる︶、同格であればその修行期間の長さに基づいた。この規定によって天皇の孫以下︵具体的には宮家出身者︶は宮門跡にはなれないと解されたが、宮家出身者が天皇の猶子になった場合の解釈は曖昧のまま残された。実際に天和元年︵1681年︶に後陽成天皇の孫で伯父の後水尾天皇の猶子となっていた良尚入道親王︵八条宮家︶が門跡に列せられ、18世紀の末には宮門跡は全員天皇の猶子となった宮家出身者が占めてこの状態で明治維新を迎える事になった︵安永8年︵1780年︶には皇統断絶により閑院宮家から光格天皇が即位しており、天皇の皇子・連枝を出家させる余裕は失われていたのである︶[4]。
門跡寺院
門跡
宮門跡(親王門跡)
法親王、または入道親王が住職として居住する13の寺院。十三門跡とも称する。実際には親王家に限って入寺するのは輪王寺・仁和寺・大覚寺の3門跡で、その他は摂家や足利将軍家からも入寺することができた。6代将軍義教が青蓮院から、15代将軍義昭が一乗院からそれぞれ還俗して将軍となったほか、足利義視︵10代将軍義稙の父︶が浄土寺から還俗して8代将軍義政の養子となっている。
- 輪王寺
- 妙法院
- 聖護院
- 照高院
- 青蓮院
- 三千院
- 曼殊院
- 毘沙門堂
- 円満院
- 仁和寺
- 大覚寺
- 勧修寺
- 知恩院
摂家門跡
摂家の子弟が住職となる。個々の門跡寺院に固有の称号ではなく、その時々の住持の出身を指す。室町時代頃から用いられるようになった。
准門跡
門跡に準ずる格式の寺院のこと。または、他の門跡寺に対して従の関係にある門跡寺のこと。脇門跡ともいう。
天台宗五門跡(京都五箇室門跡)
- 青蓮院
- 三千院
- 毘沙門堂
- 曼殊院
- 妙法院
醍醐寺五門跡
- 三宝院
- 報恩院
- 金剛王院
- 理性院
- 無量寿院
五門跡
浄土真宗で門跡に准ぜられた五寺の総称。五門徒ともいう。江戸時代中期、文化11年(1814年)に真宗木辺派本山錦織寺が、それまでの浄土宗から浄土真宗に復帰し、准門跡に加えられた。
これら6家は明治5年3月にいずれも華族となった[5]。明治29年6月9日、両本願寺の大谷家が伯爵、佛光寺の渋谷家・専修寺の常磐井家・興正寺の華園家・錦織寺の木辺家がそれぞれ男爵に叙せられている。
尼門跡
皇女や貴族の息女が住職となる寺院。正式には比丘尼御所と称した。「尼門跡」は明治以降の名称である。
御里房
脚注
- ^ 永村眞「中世寺院と〈門跡〉」永村眞 編『中世の門跡と公武権力』(戎光祥出版、2017年) ISBN 978-4-86403-251-3
- ^ 横内裕人「仁和寺御室論をめぐる覚書」永村眞 編『中世の門跡と公武権力』(戎光祥出版、2017年) ISBN 978-4-86403-251-3
- ^ 和田英松、所功校訂『官職要解』 講談社学術文庫 ISBN 978-4061586215、376p
- ^ 高埜利彦『近世の朝廷と宗教』吉川弘文館、2014年、P129-130・135-139
- ^ 浅見雅男 『華族誕生 名誉と体面の明治』 中公文庫 ISBN 978-4122035423、68p