電気車の速度制御

電気を動力とする鉄道車両の速度の制御方法
弱め界磁から転送)
電気車の例動力を伝える台車
機関士による制御速度計


概要

編集



 - 

 - 

 - 

 - 

 - 

 - 1rpm

 - ××

1879


 

 



[1]


電気車と電動機

編集

電気車に求められる電動機特性

編集














直流整流子電動機

編集



 - 

 - 3
 
整流子電動機の動作。外側に配置される界磁と、内側で回転する電機子による構成。手前は整流子とブラシ。




直流整流子電動機の種類と特性
 
図中 - M-電機子 ・ f-界磁
種別 分巻電動機 直巻電動機 複巻電動機
界磁 電機子と並列
(図-A)
電機子と直列
(図-B)
並列および直列
(図-C)
特性 トルクは負荷電流に比例
定速度特性
始動トルク大
トルクは電流の2乗に比例
負荷に応じ速度変化
分巻と直巻の中間特性


 

   

 

 2

 

 

 







2


三相交流電動機

編集

単相交流と三相交流

   
単相交流 三相交流
 
かご形三相誘導電動機。
固定子に三相交流を流すと、誘導電流を生じた回転子が回転。

使

使使

使20



     

 

 

  

22





2

 (IPMSM) IPMSM()



速度制御の基本

編集

電気車における速度制御

編集

本来、速度制御とは電動機に与える特性値を調整して、負荷とつり合う回転速度を得ることを指す用語である。しかし、鉄道車両はあらゆる負荷が大きく、目標とする速度に達するまで相応の時間を要することから、異なる手法が採られる。

一般に電気車では、各速度領域における可能な限りの出力を得て、目標となる速度までいち早く加速するよう制御する。目標速度に達すると、電動機の出力を切ってしまい(ノッチオフという)惰性で走行するか、もしくは出力を低減して速度を維持するといった手法が採られる。このように、電気車においては、出力の制御を行った結果として得られる速度を、慣例的に速度制御と呼んでいる。

電動機と電気車における速度制御の違い
電動機の速度制御 電気車の速度制御
電圧や界磁を制御

負荷とつり合う速度で定回転
電圧や界磁を制御し
最大の加速力を得る

目標の速度に達する

加速を止め惰行運転
または定速度制御
 
図A - 速度制御の考え方
低速域ではトルクを抑え、高速域ではトルクを向上させる
 
図B - 速度に応じて特性曲線(細線)を変え、太線に沿った制御を行う。



AT1V1B



使

V1

B

定トルク制御

編集

BV1


定出力制御

編集

=V12=×2


特性領域

編集

V1V22


表 - 各速度領域における速度上昇と特性の関係
速度領域 定トルク制御域 定出力制御域 特性領域
起動から低速域 中速域 高速域
電圧 増加
速度に比例
一定(最大値) 一定(最大値)
電流 一定 一定 低下
速度に反比例
トルク 一定 低下
速度に反比例
急激に低下
速度の2乗に反比例
出力 増加
速度に比例
一定 低下
速度に反比例

速度やトルクを制御する方法

編集

電動機の印加電圧を変える方法

編集





(一)

(二)

(三)


図解 - 速度の変化と電圧の制御
第一段階 第二段階 第三段階
     
起動時。逆起電力が小さいので、印加電圧を低くして起動する。 回転速度が上がるにつれ、逆起電力が増加して電機子電流が減少する。 そこで、印加電圧を上げて、電機子電流を確保する。

便



便











調(PWM)
電圧制御の方式
方式 ワードレオナード タップ制御 位相制御 チョッパ制御
動作 交流→直流(可変電圧)・交流(可変電圧) 直流→直流(可変電圧)
概念図        
特徴 電動発電機を用いて、出力電圧を連続制御。 変圧器の巻線比率を変えて、出力電圧を制御。 スイッチング素子により、導通時間(電気を流す時間)を変え、平均電圧を連続制御。

界磁を制御する方法

編集
 
界磁が強いときの状態。逆起電力が大きく、流れる電流は小さい。
 
界磁が弱いときの状態。逆起電力が小さくなり、たくさんの電流が流れる。

調調

   

 

=×



 - 

 - 






電圧と周波数を制御する方法

編集
 
インバータによる交流出力波形。低回転域では電圧と周波数を比例的に増加させ、高速域では周波数のみを増す。





PWMVVVF=V/fV-f

制御方式の変遷と各制御方式の詳説

編集

本節では、実際に用いられる代表的な制御方法を変遷とともに示し、各速度領域における制御の実際について述べる。まず、下表におもな速度制御の手法について、一覧を示した。速度制御の名称は特徴的な部分を抜き出したものとなっているが、実際は速度領域によって複数の制御方法を併用しているものがある。たとえば、界磁制御に特徴のあるものは、定トルク領域では大半が抵抗制御を採用している。

表 - おもな制御方式と各領域での実制御
制御方式 電化方式 電動機 速度制御の方法 回生ブレーキ 摘要
定トルク制御域 定出力制御域
抵抗制御 直流・(交流)* 直巻 抵抗制御(+組合せ制御) 分流回路による弱め界磁 一般に不可[註 2]
チョッパ制御
(電機子チョッパ)
チョッパ装置による電圧制御
他励界磁制御
界磁チョッパ制御
複巻 抵抗制御(+組合せ制御) 分巻界磁の制御による弱め界磁
界磁添加励磁制御 直巻 位相制御電流の添加による弱め界磁(※) ※界磁の位相制御に別途三相交流電源が必要。
タップ制御 交流 直巻 変圧器のタップ切換による電圧制御 分流回路による弱め界磁(※) 不可 ※定トルク制御のみとする場合もあり。
無電弧タップ切換 タップ切換と位相制御併用による電圧制御
(要サイリスタインバータ)
サイリスタ位相制御 位相制御による電圧制御
VVVFインバータ制御 直流・(交流)* IM
PMSM
可変電圧可変周波数制御 すべり周波数制御

*電化方式の『(交流)』は、交流でも可能であるが、いったん直流に整流してから制御するものを示す。

古典的な直流電気車の制御

編集
   
ジーメンス(左)とスプレイグ(右)

18792188121888 ()

便20

抵抗制御

編集
 
 
1N5N


電化方式 直流電化(数百ボルトから数千ボルト)
電動機 直巻整流子電動機
定トルク制御 抵抗制御・直並列組合せ制御
定出力制御 弱め界磁制御





[3]

45416寿調

直並列組合せ制御

編集
抵抗損失
上段 - 組合せ制御なし
下段 - 組合せ制御あり



44412212

232

使使
 
電源電圧 E
印加電圧 - 1/4E(直列)・1/2E(並列)
 
2段組合せの例。上段直列、下段並列。
並列時は直列時の2倍の電圧が電動機に作用する。
抵抗制御と組合せ制御による速度と電流の関係。直列および並列最終段は、抵抗を用いないので連続使用が可能。

弱め界磁制御

編集
 
界磁を弱めると(青線)、回転速度nにおけるトルクはT1からT2に増加する。

   2

 



=×
図解 - 弱め界磁制御
第一段階 第二段階 第三段階
     
回転速度が上がり、印加電圧が最大となった状態。 さらに回転速度を上げると、逆起電力が上昇し電流が減少する。電圧はこれ以上上げられない。 界磁電流をの一部をバイパスして界磁を弱めると、逆起電力が低下し、電流が確保できる。

弱め界磁は電圧を変えることなく中高速域のトルク特性を向上できるが、際限なく界磁を弱めていくと電機子反作用により磁束が乱れ、整流不良を起こしてしまうことから、一般に全界磁(弱め界磁を用いない状態)の35%程度にまで弱めることが限界とされる。さらに界磁を弱める場合は、電機子反作用を抑える補償巻線を界磁に付与することで25%程度まで可能となる。

また、弱め界磁はトルク向上の手段として用いられる以外に、逆にトルクを抑制する目的で使われる場合もある。逆起電力は回転速度に比例するため、回転速度がごく低い起動時はほとんど発生しない。したがって起動時に界磁を弱めた場合、逆起電力の影響はごく小さく、電機子電流はほとんど増加しない一方で、界磁磁束のみが小さくなることから、トルクは抑えられる方向へ作用する。この特性を利用して起動時のトルクを低く抑え、発車時の衝動を抑制する方式を弱め界磁起動と呼ぶ。

交流電気車の制御

編集
世界初の交流電化。スイスのユングフラウ鉄道
交流電化を採用する日本の新幹線

19


交流電気車と電動機

編集

使







20使50Hz60Hz16 2/3Hz16.7Hz50Hz31



1950使



20VVVF

1
電化方式 交流電化(1万数千ボルトから数万ボルト)  
タップ制御と位相制御
電動機 直巻整流子電動機
定トルク制御 タップ制御・位相制御
定出力制御 弱め界磁制御
特記事項 変圧器による降圧・直流への整流が必要


タップ制御

編集
 
 
 

1212212調 - 

2便



""()()() ()

位相制御と無電弧タップ切換

編集
位相制御による電圧連続制御。制御極に信号電流(トリガ)を流すと整流器がオンになることを利用することで制御している。
2 (T1,T2) 





19351019501960

1T1T112T2T2T1T21

サイリスタによる連続位相制御

編集
サイリスタ連続位相制御(4分割、混合ブリッジ)の回路(上)と動作(下)。サイリスタT1からT4まで順に位相制御し、電圧を連続制御する。
JR九州783系電車のサイリスタ連続位相制御(純ブリッジ)回路。界磁制御回路付き。



22462

使使

調2

[4]

交流電気車と弱め界磁の組合せ

編集
 
直流電気車と交流電気車の速度-牽引力特性の例を示した事例図。

抵抗制御を用いた直流電気車では印加電圧が最大に達すると弱め界磁制御により中高速域のトルク特性を改善するが、同様に直流整流子電動機を用いる交流電気車でも弱め界磁を用いることは可能である。しかしながら、電源電圧と電動機個数の組合せで最大印加電圧が決定する直流電気車とは異なり、交流電気車では変圧器の設定で幅広い電圧制御が可能であることから、必ずしも弱め界磁を必要としない場合がある。

右図は、抵抗制御と弱め界磁制御を用いた直流電気車(青線)と、交流電気車(赤線)の速度と牽引力の関係を示した事例である。一般に直流電気車は定トルク領域(抵抗制御)が低い速度で頭打ちとなり、弱め界磁により定出力制御を行って中高速域のトルク特性を補うのに対し、交流電気車では比較的高い速度まで定トルク(電圧制御)で制御できる。したがって、とくに弱め界磁を利用しなくても、あるいはわずかに界磁を弱めるだけで十分な高速性能が得られる。初代新幹線車両である0系は定トルク領域を167km/hの高速度まで設定し、弱め界磁を用いない設計であった。一方、さらなる高速性能を確保したい場合は、弱め界磁の併用も有効である[註 5]

直流電気車へのサイリスタの適用

編集
 
位相制御(左)とチョッパ制御(右)

使


電化方式 直流電化 (数百ボルトから数千ボルト)
制御方式 電機子チョッパ制御 界磁チョッパ制御 界磁位相制御 界磁添加励磁制御 高周波分巻チョッパ
電動機 直巻電動機 複巻電動機 直巻電動機 分巻電動機
定トルク制御 チョッパ制御 抵抗制御・直並列組合せ制御 チョッパ制御
定出力制御 弱め界磁制御 界磁チョッパ制御 界磁の位相制御 界磁チョッパ制御

チョッパ制御の仕組み

編集
 
チョッパ制御の概念。高速でスイッチのオンオフを行い、オン時間の長さで平均電圧を制御。

chop調 (PWM) 



PWMGTOIGBT

電機子チョッパ制御

編集
電機子チョッパ制御の力行時回路。
同回生ブレーキ時。回路を昇圧チョッパに組み替える。





19601970



調



使使


界磁制御への適用

編集











調










調使

   

 

  15km/h30km/h

使

3
 
 



[6]使調使







調調





DC-DC




     
界磁添加励磁制御の回路図。
力行(全界磁)。抵抗制御で起動する。
力行(弱め界磁)。速度が上昇すると添加電流を連続制御して弱め界磁を行う。
回生ブレーキ。速度の変化に合わせて界磁を連続制御する。

電機子チョッパ制御が地下鉄車輌を中心に用いられたのに対し、これらの手法は高速運転を行う郊外電車や優等列車に用いられた。高速電車においては、界磁制御領域が広いため抵抗損失の影響は軽微である一方、回生電力は速度の二乗に比例するため、高速域での回生ブレーキ性能に優れる本方式が一般に有利となる。

VVVFインバータ制御

編集

-VVVFVVVF=VVVF

使 (50Hz60Hz) 使

2Pf/P4f/(4/2) 60Hz260rps430rps620rps60-rpm

トルクの電圧・周波数特性

編集
 
電動機の1相誘起電圧と回転数

トルクの周波数特性としては、(電圧V/周波数f)2 に比例し、さらに誘導電動機では、停動トルクより微少な場合はスベリ周波数fs に比例する(一般的な「すべり率S」ではなく「すべり周波数fs 」であることに注意)。同期電動機では電機子磁界と回転子磁界の角度δに関して sin(δ/2) に比例する。これを式で表現すれば、

  •  

ここに、 は比例定数、Iは電機子電流、 は鎖交総磁束、Vは電圧、fは電源周波数、 はすべり周波数である。すなわち V/f を一定にして(=電圧と周波数を比例させて)ゼロから徐々に増やして起動すればよく、周波数に応じた任意の速度での運転ができる。

任意周波数電源をパワー半導体で構成

編集

近年の電力用半導体の進歩により、任意周波数、任意電圧の交流電力を生成するインバータ(直流-交流変換器)が得られるようになり、交流モータの特性に合わせて、電機子誘起起電力+インピーダンス降下の電圧を供給して駆動することで任意の速度で運転できるようになった。電機子誘導起電力は磁界が一定であれば回転数、すなわち周波数に比例するから、供給電圧/周波数をほぼ一定にして速度制御することがVVVFインバータ制御の基本である。

鉄道車両では

編集

V/fVVVF=CVVF=CVVF=×2V/f



δ調

 (PMSM) ()()PMSMCVVF

IPMSM調0

直流電動機制御との比較

編集

直流電動機制御との比較でいえば、「電機子誘導起電力(=逆起電力)+内部抵抗降下」を直流電動機に加えて起動させるのが抵抗制御チョッパ制御の基本だから、VVVFインバータ制御はその制御に周波数と位相が加わるだけで基本は同様である。「定電力領域」と「特性領域」についても直流電動機の「弱界磁領域=定電力領域」「特性領域」と変わらない。またVVVF領域も定トルクに制御すれば抵抗制御直流電動機での「定トルク領域」と同様である。

鉄道では折れ点を合わせてVVVF制御車と抵抗制御車を併結運転している例もある。

インバータの制御対象

編集

TGVS (DDM) 42JRE993E3311(=7×214)E233

交流直流両用車両

編集

 - 

使

シリコン整流器式

編集

直流用の新性能電車の構造を基本構造としてトランスとシリコン整流器を搭載した車両が常磐線と関門トンネル運用を含む鹿児島本線に投入された。当初は電源周波数毎に別形式として投入されたが、長距離用車両から50/60Hz両周波数共用形式となった。基本的な走行装置は低い周波数の50Hzに対応していれば60Hz兼用にでき、周辺装置の共用化で3電源化したことで大阪 - 青森間特急「白鳥」などが運行された。シリコン整流器では回生制動が不可能だが、当初の新性能電車は発電制動方式のみ採用していたので支障はなかった。

PWMコンバータ式

編集

ところが、VVVFインバータ制御車両になると、整流部に可逆性のある (PWM) コンバータを採用して、高力率で広範に回生制動を可能にして効率改善を図ると共に、交流専用車両に匹敵する高い粘着力を利用でき、高加速度、高減速度、そして編成の中に組み入れられる電動車を減らせるようになった。

脚注

編集


(一)^ 

(二)^ Vμ17001800

(三)^  - 

(四)^ 2008p.65-p.67ISBN 9784274501920 

(五)^ 0100270km/h100N80%

(六)^ 使

参考文献

編集

  200741 - 58

  199937 - 50

  19706 - 53

  198726 - 37180 - 190

Michael C. Duffy; Institution of Electrical Engineers (2003). Electric railways 1880 - 1990. IET. pp. pp247 - 248 

調Q&A (PDF, 218 KB) 14

  4321970 205 - 213

20072

200388800

関連項目

編集