戦略
戦略(せんりゃく、英: strategy)は、一般的には特定の目的を達成するために、長期的視野と複合思考で力や資源を総合的に運用する技術・応用科学である[注釈 1]。
概説
編集歴史
編集初期の戦略
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現存する史料から考えて、世界で最初に戦略の概念を使用したのは孫子だと考えられる。戦略という言葉こそ出てこないものの、国家戦略や戦争哲学を示し、また軍事学的な戦術や軍事地理の内容を論じて戦略の思考法を示しており、今日においても孫子は極めて優れた戦略教書と考えられている。ヨーロッパにおける戦略の概念はクセノポンが将軍または将軍の軍隊指揮を意味する「στρατεγος」「στρατεγια」という言葉を用いたのに始まり[要出典]、これが戦略の語源となった。しかしながら当時の戦略は定義が曖昧であり、戦略・戦術は区別されずに戦争術・兵術として理解していたために、現代のような意味を必ずしも持たなかった。
戦略と戦術の分化
編集陸海空の戦略分化
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近現代の戦略理論
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定義
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「戦略概念が戦術学の中から発展してきた」という歴史的な経緯もあるため、戦略の定義は非常に多様であり、一概に言うのは難しい。
陸軍の定義
編集陸軍ではしばしば部隊の規模によって戦略・戦術を区別して考えていた。そのため戦略の定義を巡る論争では有視界距離によって戦略・戦術を区別した定義も一時的に見られたが、これはクラウゼヴィッツなどによって否定された[要出典]。大日本帝国陸軍においては陸大兵語の解によると、戦略とは「作戦計画を立案してその実行を統制し、部隊行動の方向・目的・時期・場所などの関係性を定めて適切に調整し、会戦を優勢に導き戦果を拡大するための方策」で、戦術は「戦闘での勝利獲得のための戦闘実施の術」であった。
海軍の定義
編集海軍ではしばしば彼我の距離関係によって戦略・戦術を区別した。大日本帝国海軍では戦略を「敵と離隔してわが兵力を運用する兵術」と定義している。また日本海軍の作戦参謀であった秋山真之は戦略を戦術の上位に置いて、「これを指導し、よって戦闘の時期・場所・戦力などを定めるものであり」と位置づけていた[4]。
一般の定義
編集戦略の一般的な定義については未だ研究が途上である。ハーバード大学のトーマス・シェリング教授は、戦略を勢力の適用ではなく潜在的な勢力の発掘であるとし、取引のプロセスというモデルでこれを説明した。またロジンスキー教授は戦略を「力の総合的な制御」と定義し、戦術はその直接的な運用であると論じた。つまり戦略とは「あらゆる行動の総合的な調整と最適選択」であると考えた。ただし近年では企業経営やスポーツにまで軍事用語の戦略の概念が応用されているために新しく定義され、「長期的・大局的な観点から物事を見通して行動を調整する技術」として再認識されるようになっている[4]。
戦略構造の概念図
編集国家の戦略
編集国家戦略の概観
編集軍事戦略
編集軍事戦略の概観
編集軍事戦略は平時と戦時における戦力整備・教育訓練・戦力運用に関する全体的な戦略である。外交戦略とも密接に関係しており、まとめて安全保障戦略として考えられることもある。これは戦争指導という概念でもある。
決戦戦略・持久戦略
編集抑止戦略・間接戦略
編集第一次世界大戦・第二次世界大戦を通じて「直接的な武力行使では不用な殺戮や破壊をもたらしかねない」という反省が得られた。そのため戦争勝利の戦略だけでなく、抑止戦略が形成された。抑止とは戦力の準備により、敵が軍事行動に出ることによって予想される費用と効果が吊り合わない状況を作り出し、軍事行動を防ぐことである。
間接戦略とはボーフルが提唱したもので、軍事上の勝利以外の手段によって政治目的を達成する戦略である。これと似たものにリデル・ハートの間接アプローチ戦略がある。これは敵との正面衝突を回避しながら後方の敵の弱点を叩くことで勝利する戦略である。
陸上・海洋・航空戦略
編集ゲーム理論における戦略
編集経営における戦略
編集経営戦略論においても戦略・戦術というクラウゼヴィッツ以来のスキームが適用されている。しかし軍事戦略におけるそれとは異なり、両者を明確には区別せず、戦術に相当することも「~戦略」と言われるなど、用法は極めて曖昧である。一般的に戦術という用語は経営戦略論では使われない。以下のように用いられる場合がある。
生物学における戦略
編集生物学の分野、特に生態学の個体群生態学や行動生態学の分野では「個々の生物種あるいは個体が複数の行動を取りうるときに、それぞれの行動や行動の組み合わせ」を戦略と呼び、以下のように用いる:
生物学における「戦略」は生物自身の意思や自主性を含意しない。つまり意図的にその生物が特定の戦略をとっているのではなく(そのような場合もあるかもしれないが)「そのような行動を促す遺伝子が自然選択によって広まる(広まった)」という意味で用いられている点に注意が必要である。
ボードゲームにおける戦略
編集チェス・将棋・囲碁などの戦略性が高いボードゲームでは、盤面の状況に応じた戦術(両取りなど)だけでなく、ゲームの目的(王を追い詰めるなど)に応じた戦略も重要となる。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ 松村 2005, p. 1.
- ^ 前原 & 片岡 2003.
- ^ 喬 & 王 2001.
- ^ a b 栗栖 1997, p. 170.
- ^ 防衛学研究会 2000, p. 141.
- ^ ニコラス et al. 1987.
- ^ 服部1980.
- ^ 岡田 2011, p. 20.
- ^ ギボンズ 1995, p. 3.
- ^ ギボンズ, p. 116.
- ^ グレーヴァ 2011, p. 6.
引用文献
編集参考文献
編集日本語文献
編集- 防衛大学校安全保障学研究会『新訂第4版 安全保障学入門』(亜紀書房、2009年)
- 西村繁樹編著『「戦略」の強化書』(芙蓉書房出版、2009年)
- 菊池『戦略原論』(内外出版、1991年)
- コリンズ著、佐藤孝之助訳『大戦略入門』(原書房、1982年)
- 金谷治訳『新訂孫子』(岩波書店、2000年)
- マキアヴェリ著、河島英昭訳『君主論』(岩波文庫、1998年)
- クラウゼヴィッツ著、清水多吉訳『戦争論 上・下』(中公文庫)
- ジョミニ著、佐藤徳太郎訳『戦争概論』(原書房、1997年)
- マハン著、北村謙一訳『海上権力史論』(原書房、2008年)
- ジュリアン・コーベット著、矢吹啓訳『海洋戦略の諸原則』(原書房、2016年)
- リデル・ハート著、森沢亀鶴訳『戦略論 間接的アプローチ』(原書房、1986年)
- マッキンダー著、曽村保信訳『マッキンダーの地政学』(原書房、2008年)
- フラー著、中村好寿訳『制限戦争指導論』(原書房、1992年)
- 毛沢東著、藤田敬一、吉田富夫訳『遊撃戦論』(中央公論新社、2001年)
- ニコラス・スパイクマン著、奥山真司訳『平和の地政学 アメリカ世界戦略の原点』(芙蓉書房出版、2008年)
- キッシンジャー著、田中武克・桃井真共訳『核兵器と外交政策』(日本外政学会、1958年)
- J.C.ワイリー著、奥山真司 (戦略学者)|奥山真司訳『戦略論の原点 軍事戦略入門』(芙蓉書房出版、2007年)
- ピーター・パレット編、防衛大学校・「戦争・戦略の変遷」研究会訳『現代戦略思想の系譜 マキャヴェリから核時代まで』(ダイヤモンド社、1989年)
- マイケル・ハワード著、岡村房夫訳『ヨーロッパ史と戦争』(学陽書房、1981年)
- 上田修一郎『西欧近世軍事思想史』(甲陽書房、1977年)
- 戦略研究学会編集・瀬井勝公編著『戦略論大系6 ドゥーエ』(芙蓉書房出版、2002年)
- ウィリアムソン・マーレー、マクレガー・ノックス、アルヴィン・バーンスタイン編著、石津朋之、永末聡監訳『戦略の形成 支配者、国家、戦争 上下』(中央公論新社、2007年)
- コリン・グレイ著、奥山真司訳『現代の戦略』(中央公論新社、2015年)
- エドワード・ルトワック著、武田康裕、塚本勝也訳『エドワード・ルトワックの戦略論』(毎日新聞社、2014年)
- ジョン・ベイリス、ジェームズ・ウィルツ、コリン・グレイ編、石津朋之 監訳『戦争論 現代世界の軍事と戦争(抄訳)』(勁草書房、2012年)
- 石津朋之、永末聡、塚本勝也編著『戦略原論 軍事と平和のグランド・ストラテジー』(日本経済新聞出版社、2010年)
- 石津朋之編『名著で学ぶ戦争論』(日経ビジネス人文庫、2009年)
- 野中郁次郎 編著『戦略論の名著 孫子、マキアヴェリから現代まで』(中公新書、2013年)
その他の言語の文献
編集- John Baylis, James J. Wirtz, and Colin S. Gray, eds., Strategy in the Contemporary World, An Introduction to Strategic Studies, Fifth Edition(Oxford: Oxford University Press, 2015).
- Giulio Douhet, Command of the Air, (Office of Air Force History, United States Government Printing Office, 1983).
- André Beaufre, Introduction to Strategy (New York: Praeger, 1965 [Introduction à la stratégie, Paris, 1963]).
- B. Brodie, War and Politics (London: Faber&Faber 1973).
- John S. Gray, Strategic Strudies: A Critical Assessment (London: Aldwych Press, 1982).
関連項目
編集外部リンク
編集- 戦略学序説 Ⅰ (PDF)
- 戦略 – 英語版 Wikipedia 翻訳記事(2019年2月15日時点でのアーカイブ)