9K330
9K330 トール︵ロシア語: 9К330 «Тор» ヂェーヴャチ・カー・トリースタ・トリーッツァチ・トール︶は、ソビエト連邦が開発した中空~低空域短距離防空ミサイル・システム。派生型には、9К331、9К332などがある。愛称はロシア語で﹁トーラス﹂のこと。NATOコードネームでは、派生型によりSA-15またはSA-N-9 ゴーントレト/ガントレット︵Gauntlet‥籠手︶と呼ばれる。
基礎データ | |
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全長 | 7.5m |
全幅 | 3.3m |
全高 | 5.1m |
重量 | 34.250t |
装甲・武装 | |
装甲 | 10mm |
主武装 | 9M330/9M331地対空ミサイル |
機動力 | |
速度 | 65km/h |
エンジン |
4ストローク液冷V型12気筒スーパーチャージド・ディーゼル 618kW(830hp) |
行動距離 | 500km |
開発
編集設計
編集車体
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車体のベースは、整備、運用、補給等を考慮し2K22と同じGM-569A装甲装軌車両で、対空ミサイルおよびVLS︵ランチャー︶等を含む全備重量は32tである。
通常この手の地対空ミサイル・システムは、指揮車両、レーダー車両、ランチャー車両といったように数両でユニットを編成し運用するが、9K330は車両中央のターレット︵砲塔︶上に必要な全てのシステムが集約され、完全単独運用が可能となっているのが最大の特徴である。また、9K332 トールM2では行進間射撃も可能となっている。
VLSを採用していることから、外見からはランチャーが見えないため、他の地対空ミサイル・システムの捜索レーダー車両のように見える。
レーダー
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車両には2種類のレーダーが取り付けられている。システム後方のマストに立っているのが﹁ドッグイア﹂E/F-band 捜索レーダーで、最大探知距離は25kmである。﹁ドッグイア﹂はレーダーのみ回転させることができ、使用しない場合はマストを折り畳むことができる。
初期の捜索レーダーは機械走査式であったが、9K331M トールM1以降は電子走査式になっており、探知距離や目標数が増加し、最大で48個の目標を探知し、10個の目標を追尾することができる。[1]。
また、9K332 トールM2シリーズではフェーズドアレイレーダーに替わっている。
ターレット前面に取り付けられたのが﹁スクラムハーフ﹂G/H-band ︵後には K-band︶ パルス/ドップラーフェーズドアレイ誘導レーダーで、最大追跡距離は20km。最大で2発のミサイルを誘導可能である。﹁スクラムハーフ﹂自体は俯仰のみ可能であり、捕捉やミサイル誘導時にはターレットごと旋回する[2]。
ミサイル
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コンテナに格納された状態で展示された9M330 | |
種類 |
短距離防空ミサイル (SHORADミサイル/短SAM) |
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製造国 | ロシア |
性能諸元 | |
ミサイル直径 | 235mm |
ミサイル全長 | 2,898mm/3,500mm |
ミサイル重量 | 165kg |
弾頭 | HE破片効果(14.8kg) |
射程 | 1,500~12,000m |
射高 | 10,000~6,000m |
推進方式 | 固体ロケット・モーター |
誘導方式 | 赤外線誘導+TV誘導式無線指令誘導 |
飛翔速度 | M2.8(850m/s) |
搭載するミサイルは9M330および9M331である。ミサイル先端とノズル部に各4枚のフィンがあり、前部のフィンが可動する[1]。
誘導方式は赤外線による自己誘導に加え、レーダー/TV誘導式指令誘導が併用されており、チャフや電波妨害等各種対抗手段に対応できる[2]。
VLSは、ソ連の艦対空ミサイルと同じコールド・ローンチ方式で、ボンベに充填された不燃性高圧ガスにより20m上空まで射出された後、TVCで目標に指向し、主ロケットモーターに点火する。︵外部リンク参照︶
9M330/9M331対空ミサイルおよび各種の支援機器システムを開発したのは、P.D.グルシン主任技師が率いるファケル設計局である[2]。
飛行機やヘリコプターといった一般的な航空機だけでなく、無人機・巡航ミサイルや誘導爆弾も破壊できるという。また特に西側攻撃ヘリコプターの迎撃能力を重視している。
有効射程内でのミサイル1発当たりの標準目標航空機︵F-15クラスの戦闘機を想定︶に対する命中率は、26~75%である[2]。
9M331は、4発が1列に並んだコンテナに格納されており、2個のコンテナが前後方向に搭載される[1]。装填はクレーンを用いて上方から行われる。
運用
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乗員は4名︵操縦手1名、ミサイル操作員3名︶で、前任の9K33 オサーより大きく自動化が進んでおり、よくイギリスのレイピアやフランスのクロタルと比べられる。
9K330対空ミサイル・システムの1個中隊は4両の9A330自走発射機の装備が基本となっており、支援装備として中隊指揮車両9S737﹁ランジール﹂︵Ranzhir‥規律︶、装輪式トラックから成る再装填支援車両9T231、ミサイル運搬車両9T245が配備される。大隊指揮官車にはBTR-80装甲兵員輸送車をベースとしたPU-12Mが使用され、大隊は基本的に2K22﹁ツングースカ﹂自走対空システム1個中隊と混成されることになっている[2]。
派生型として、装輪装甲車やトレーラーなどの装輪車両や、飛行場や軍事施設防空用の固定式発射装置も提案されている。
輸出
編集派生型
編集詳細は「3K95 キンジャール」を参照
9K330 トールの艦船発射型。愛称の﹁キンジャール﹂とはコサックの用いる短剣の名前。アドミラル・クズネツォフ級空母・ウダロイ級駆逐艦・ネウストラシムイ級フリゲートに装備されており、同時に4目標を攻撃することができる。NATOコードネームではSA-N-9と呼ばれる。輸出型は﹁クリノーク﹂︵Клинок クリノーク‥﹁刀身﹂の意︶として知られている。一説によると3K95の方が先に開発が開始され、9K330に発展したともいわれる。
事件
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2020年1月8日にイランで発生したウクライナ国際航空752便撃墜事件において、ウクライナ国際航空752便は9K330により撃墜されたとされる。
同日、twitter上に﹁墜落現場近くでミサイルの残骸を発見した﹂という写真がアップロードされたが、これは9K330で運用されている9M330系ミサイルの残骸と見られる[3]。この写真にはアラビア語で﹁(墜落した)飛行機にこのようなものがありますか?これはミサイルじゃないのか?﹂とコメントも付けられていた。その後投稿者のアカウントは凍結された[4]。
1月11日、イスラム革命防衛隊が﹁ウクライナ国際航空機を、地対空ミサイルで誤って撃墜した﹂との声明を発表し、謝罪した。地対空ミサイルの部品が事故後に散乱していたことが、決定的な証拠とみなされた[5]。
出典
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(一)^ abcd日本兵器研究会 編﹃世界の装軌装甲車カタログ﹄アリアドネ企画 ISBN 4-384-02660-9 2001年
(二)^ abcdefghijklm戦車研究室﹃9K330トール対空ミサイル・システム﹄http://combat1.sakura.ne.jp/9K330.htm 最終更新 2019年、ページ最下部に出典文献記載
(三)^ “ミサイルの残骸を発見”. unknown (unknown). 2020年1月13日閲覧。
(四)^ “旅客機墜落事故、ミサイルの残骸を発見か”. zapzapjp.com (2020年1月10日). 2020年1月13日閲覧。
(五)^ “shot-down of flight ps752 of ukrainian international airlines”. BabakTaghvaee (2020年1月9日). 2020年1月13日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- Missile system tor-M1 "9K331"(ЗРК тор-М1) - YouTube9K331MトールM1の映像
- Crazy Russian "TOR M2" Anti-Aircraft System (SAM) - YouTube9K332 トールM2/M2Eの映像