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帰国子女︵きこくしじょ︶とは、両親の海外勤務などの理由により海外での長期滞在生活を経て帰国した学齢期にある子どもたちのことをいう。︵ここでは海外から日本に帰国した場合のことを中心に述べる︶
概要
多くの帰国子女の場合、親の海外赴任や転勤に合わせて短くて2、3年、長くて15年から20年ぐらい海外で暮らす。そのため幼少時代から大学卒業までの成年になるまで海外で暮らすような帰国子女もいる。また滞在国は1カ国だけに留まらず、3、4カ国を点々と複数の国に渡って滞在する場合も多く、その結果、数ヶ国語の言語が堪能になった帰国子女もいる。なお、帰国子女たちの海外での滞在先は必ずしも英語圏とは限らず、スペイン語や中国語、フランス語圏に滞在することもある。よって﹁帰国子女であれば英語に堪能である﹂という思い込みは単なる偏見であるといえる。
1960年代から1970年代にかけての高度成長期に伴い、帰国子女の数は増加したが、日本企業が現地化を進めたことや、不況が長引き、経費がかかる海外駐在員を減らしたことから近年その数は減少してきている。また、これまでは海外に支社や工場がある大企業や外資系企業、在外公館や国際機関に勤務する親の子弟がその殆どであったが、近年海外進出する企業の多様化が進むに連れてこれまで海外に進出してこなかったような中小企業に勤務する親の子供が増加してきている。
なお、自らの意思で海外の中学や高校、大学に進学・留学し帰国した場合は帰国子女には当たらないが、それを知らずに誤って使用されているケースがままある。また短期留学生などが、故意に﹁偽って﹂帰国子女を自称しているケースもある。
現地での教育
世界中の殆どの大都市には日本人学校や補習授業校があり、大抵の場合、日本に帰国した際に学力がついていけなくなるのを防ぐために、日本人学校や補習授業校に入れるのが一般的である。しかし、外務省の一時嘱託扱いになって海外の日本人学校や補習授業校に派遣されている教師は、全国各地の都道府県から派遣されているため、帰国時に特定地方の日本語の訛りが染み付いてしまっているということもままある。また、日本人学校に通っていた場合には、現地語に堪能でない場合も多い︵これは通っていた日本人学校の教育内容、及び親の教育方針に左右される︶。なお、現地に日本人学校がない場合、英語圏の場合は現地校に、英語圏でない場合はアメリカンスクールなどの英語での教育を主体とした学校に入れるケースが多い。
私立日本人学校
公立の日本人学校の他に、立教学院が英国のサセックスに﹁立教英国学院﹂を、慶応義塾がアメリカ合衆国のニューヨークに﹁慶應義塾ニューヨーク学院﹂を他、早稲田大学がシンガポールに早稲田渋谷シンガポール校︵渋谷幕張シンガポール校の株式を取得、系属校化︶を、アラビア石油と明星学苑が共同でサウジアラビアのカフジに、同地のアラビア鉱業所に勤務する社員の子女向けの﹁カフジ明星小学校﹂を開設している。
補習授業校
日本人人口が少ない地域や、アメリカやイギリスのような現地校へ行く生徒が多い地域には、週1、2回、日本語を中心とした補修的内容の授業を行う﹁補習校﹂も多く存在する。
週1回の授業はほとんどの場合、現地校の校舎を借りて土曜日に行われている。小学生は日曜日から金曜日までに宿題を行うよう指導されているが、多数の児童は金曜日にまとめて宿題を済ませるようで、金曜日は﹁魔の金曜日﹂と呼ばれている。中学・高校部では宿題は出ない。また、現地で生まれたり、保護者と共に永住する生徒も多数︵ほぼ50%以上︶登校しており、生徒の日本語レベルに大きなばらつきがあり、教師はどのように教えるべきか苦慮している。
週1回の授業を行う学校は少ない。アメリカのカリフォルニア州には平日登校するキリスト教系の補習校がある。現地校を終えて登校する。登校のない日に宿題を行うシステムを導入しおり、毎日日本語に触れるよう意図的に計画されており、日本語の保持と発展、日本での受験に有利のようである。週日に1度、学校で友人と遊ぶことができるので、現地校でのストレス発散に役立っているとも言われている。週末は家族でアメリカ生活を楽しむこともできる。漢字検定や英検を実施されており、日本に帰国する生徒向きの学校である。永住組の生徒もいるが、少数派である。
どのような補習校を選ぶかは、生徒の年齢や現地の状況や保護者の価値観、経済状況など様々な要素が関係している。
塾
また、バンコクやシンガポール、サンパウロなどの日本人駐在員が多い都市には、河合塾や公文式などの日本の塾が進出しており、多くの生徒を集めている。
帰国後の教育
ほぼ全ての都道府県に、帰国子女教育のためのクラスを設置した﹁帰国子女教育学級設置校﹂が設定されている他、﹁国際理解教育推進﹂校などが設定されている。また、暁星国際高等学校や青山学院、ICU、早稲田大学本庄高等学院、同志社国際高等学校、立命館宇治高等学校など、多くの私立や国立の高校や大学の入学試験において優遇制度が設けられていることがある。この場合、単に海外での長期滞在経験があるだけでなく、帰国してからの時期などによって﹁帰国子女﹂と認定される要件が設定されており、これは学校ごとに異なる。
帰国時が中3もしくは中2後期である場合、本人の意思により、1年下の学年から編入できることがある。また、高校卒業に帰国がぶつかってしまう場合、日本の大学を受験せずにそのまま現地の大学に進学するケースも多い。
就職
海外経験が豊富なことや外国語に堪能なことから、海外経験や語学スキルをそのまま生かすことができる、世界中に多くの拠点を持つ大企業や外資系企業、国際機関などに就職する人が多い。また、幼少時から多様な価値観の中で育ったせいか、枠にとらわれないユニークな人生を送るケースも多い。
帰国子女の著名人
日本
●皇太子妃雅子︵皇族。アメリカからの帰国子女︶
●梨本宮妃伊都子︵皇族。イタリアからの帰国子女︶
●デーモン小暮閣下︵聖飢魔II。英国からの帰国子女︶
●石田ゆり子︵女優。中華民国からの帰国子女︶
●石田ひかり︵女優。中華民国からの帰国子女︶
●内田恭子︵フジテレビアナウンサー。ドイツ、アメリカからの帰国子女︶
●尾崎秀実︵ジャーナリスト。ゾルゲ事件に連座。日本統治下の台湾からの帰国子女︶
●木村佳乃︵女優。英国、アメリカ・ニューヨークからの帰国子女︶
●川上麻衣子︵女優。スウェーデン生まれの帰国子女︶
●東儀秀樹︵雅楽家。タイ、メキシコからの帰国子女︶
●早見優︵歌手。アメリカからの帰国子女︶
帰国子女アイドルの先鞭をつけた。
●西田ひかる︵歌手・女優。アメリカからの帰国子女︶
●野口健︵登山家。サウジアラビア、エジプト、アメリカ、英国からの帰国子女︶
●福澤幸雄︵レーシングドライバー、モデル。フランスからの帰国子女︶
●エッセンス︵ミュージシャン、斎藤環と斎藤希の双子、アメリカからの帰国子女︶
外国
●ヴィヴィアン・リー︵英国人。女優。インドからの帰国子女︶
●エドウィン・O・ライシャワー︵アメリカ人。学者・外交官。日本からの帰国子女︶
●フレディ・マーキュリー︵英国人。クイーン。タンザニアからの帰国子女︶
●ブルース・ウィリス︵アメリカ人。俳優。ドイツからの帰国子女︶
●マーク・ハミル︵アメリカ人、日本の横須賀、横浜で子供時代を過ごした帰国子女︶
関連項目
●日本人学校
●暁星国際高等学校
●横浜国立大学
●東京学芸大学
外部リンク