文末助詞
形式上の特質[編集]
文末助詞に典型的な音韻論上の特徴として、以下のものが挙げられる[16][17]。 ●単音節から成る。 ●声調や強勢のような韻律的要素を欠く。 また、形態論・統語論的に、文末助詞は以下の性質を持つことが多い[16][18]。 ●品詞を問わず、様々な要素に後続する。 ●拘束形態素であり、他の語を伴わず単独で用いられることがない。 ●﹁文﹂の末尾に現れる。単音節性[編集]
東南アジアの言語には、語が一つの音節のみから成る傾向が見られる[19]。日本語のように単音節的でない言語においても、文末助詞に関しては単音節のものが少なくない[20]。ただし、満州語のdabalaのように、言語によっては2音節以上から成る文末助詞も存在する。満州語を含むツングース諸語では3音節の文末助詞が珍しくない[21]。(1)
tere
これ
min-i
私-GEN
waka
間違い
dabala.
FP
「これは勿論、私の間違いだ」(Gorelova 2002: 371)
また、一文の中で複数の文末助詞が使用される場合もある。以下の広東語の文では、添加を表す「添 (tìm)」に、「嘅 (ge)」「喇 (la)」「喎 (wo)」という3つの文末助詞が更に連続している[22]。
(2)
Kéuih
彼/女
ló-jó
とる-PFV
daih
第
yat
一
mìhng
名
tìm
も
ge
FP
la
FP
wo.
FP
「あいつ、一位まで取っちゃってるんよな。」(Matthews and Yip 1994)
韻律[編集]
通常、文末助詞は韻律上、先行要素に従属しており、両者の間にポーズが置かれることはない (アステリスクは文法的に非適格な文を表す)[23][24]。
(3)
*Chanto kikoeta, yo.
「*ちゃんと聞こえた、よ。」(Iida 2018: 69)
広東語では「係咪 (hai6mai6)」という形式が疑問文の「タグ」として文末に現れうるが、これはポーズ挿入が可能であるため文末助詞とは形式上区別される。
(4a)
*Daai6gaa1
皆
dou1
全て
teng1 dou2,
聴-倒
laa1.
FP
「皆さん、全部聞こえましたね?」(Iida 2018: 68)
(4b)
Daai6gaa1
皆
dou1
全て
teng1 dou2,
聴-倒
hai6mai6?
FP
「皆さん、全部聞こえましたね?」(Iida 2018: 68)
(5)
nĭ
あなた
chī
食べる
fàn
飯
le
FP
ma?
FP
「もうご飯食べた?」(Panov 2020: 27)
拘束性[編集]
感動詞と異なり、文末助詞はふつう単独では現れない。例えば、ブリヤート語の文末助詞daaは、常に何らかの先行要素を伴う[27]。(6a)
hain
良い
daa.
FP
「ありがとう (=良いね)」(Panov 2020: 25)
(6b)
*daa
FP
出現位置[編集]
動詞などに付く接辞と異なり、文末助詞は先行要素として必ずしも特定の品詞を要求するわけではない[30]。日本語や韓国語のようなSOV型語順の言語でも、漢語やタイ語のようなSVO型でも、基本的には文の末尾に現れる[1]。(7)
klàp
帰る
bâan
家
khâ
FP
「家に帰ります。」(Smyth 2002: 126)
(8)
chəən
どうぞ
nâŋ
座る
sí
FP
khâ
FP
「どうぞお座りください。」(Smyth 2002: 135)
(11)
Yīnggwok
英国
a,
FP
Fāatgwok
フランス
a,
PRT
douh-douh
ところ-ところ
dōu
全て
leng.
美しい
「イギリスもさ、フランスもさ、 素敵なところばかりだよ。」(Matthews and Yip 1994: 341)
意味上の特質[編集]
文末助詞の中には、平叙文・疑問文・命令文といった特定の文のタイプや発話行為と結びついたものがある[18]。また、モダリティ・証拠性・ミラティビティ・アロキュティビティ・敬語といった文法機能に関わる文末助詞も存在する[18]。参考文献[編集]
書籍・論文[編集]
●飯田, 真紀 (2005). 広東語の文末助詞 (Ph.D thesis). 東京大学. 2024年4月6日閲覧。 ●井上, 優 著﹁終助詞﹂、木部, 暢子 編﹃明解方言学辞典﹄三省堂、2019年、80頁。ISBN 9784385135793。 ●春日, 悠生 (2021), 日本語終助詞・文末表現の意味記述‥発話行為・相互行為の観点から, 京都大学, doi:10.14989/doctor.k23274. ●Enfield, N. J. (2018). Mainland Southeast Asian Languages: A Concise Typological Introduction. Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/9781139019552. ISBN 9781139019552 ●Goddard, Cliff (2005). The Languages of East and Southeast Asia:An Introduction. Oxford: Oxford University Press. ISBN 978-0-19-924860-5 ●Gorelova, Liliya (2002). Manchu Grammar. Leiden, Boston & Köln: Brill. ISBN 978-90-04-12307-6 ●Hancil, Sylvie; Post, Margje; Haselow, Alexander (2015). “Introduction: Final particles from a typological perspective”. In Sylvie Hancil , Alexander Haselow and Margje Post. Final Particles. Berlin: De Gruyter. pp. 3-36. doi:10.1515/9783110375572-001 ●Iida, Maki (2018). “Sentence-final particles in Cantonese and Japanese from a cross-linguistic perspective”. メディア・コミュニケーション研究 (北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院) 71: 65–93. ISSN 1882-5303 2024年4月6日閲覧。. ●Matthews, Stephen; Yip, Virginia (1994). Cantonese: A Comprehensive Grammar. London: Routledge. ISBN 0-415-08945-X ●Panov, Vladimir (2020). “Final particles in Asia: Establishing an areal feature”. Linguistic Typology 24 (1): 13–70. doi:10.1515/lingty-2019-2032. ISSN 1613-415X. ●Smyth, David (2002). Thai. London and New York: Psychology Press. ISBN 0-415-22614-7 ●Thompson, Laurence C (1965). A Vietnamese Grammar. Seattle: University of Washington ●Thompson, Sandra A.; Suzuki, Ryoko (2012). “The Grammaticalization of final particles”. In Bernd Heine and Heiko Narrog. The Oxford Handbook of Grammaticalization. Oxford: Oxford University Press. pp. 668–680. doi:10.1093/oxfordhb/9780199586783.013.0055. ISBN 978-0-19-958678-3ウェブサイト[編集]
●“語気助詞の“吧””. 東京大学言語モジュール 中国語 文法モジュール. 2024年4月6日閲覧。 ●“文末詞”. 東京大学言語モジュール ベトナム語 文法モジュール. 2024年4月6日閲覧。脚注[編集]
- ^ a b Hancil, Post & Haselow 2015, p. 4.
- ^ Enfield 2018, p. 37.
- ^ a b c 井上 2019.
- ^ Goddard 2005, pp. 144–146.
- ^ Enfield 2018, pp. 37–38.
- ^ Panov 2020.
- ^ 春日 2021, pp. 15–18.
- ^ “語気助詞の“吧””. 東京大学言語モジュール 中国語 文法モジュール. 2024年4月6日閲覧。
- ^ a b Matthews & Yip 1994, p. 340.
- ^ 飯田 2005, p. 1.
- ^ Thompson 1965, pp. 260–261.
- ^ “文末詞”. 東京大学言語モジュール ベトナム語 文法モジュール. 2024年4月6日閲覧。
- ^ Thompson & Suzuki 2011, p. 668.
- ^ Hancil, Post & Haselow 2015, pp. 12–16.
- ^ Hancil, Post & Haselow 2015, p. 10.
- ^ a b Hancil, Post & Haselow 2015, p. 16.
- ^ Panov 2020, pp. 26–28.
- ^ a b c Panov 2020, p. 24.
- ^ Enfield 2018, pp. 46.
- ^ Panov 2020, pp. 26–27.
- ^ a b Panov 2020, p. 27.
- ^ Matthews & Yip 1994.
- ^ Matthews & Yip 1994, p. 338.
- ^ Iida 2018, pp. 68–69.
- ^ Iida 2018, pp. 76–77.
- ^ Iida 2018, pp. 74–77.
- ^ Panov 2020, p. 25.
- ^ Panov 2020, p. 26.
- ^ Smyth 2002, pp. 127–128.
- ^ Panov 2020, pp. 24–25.
- ^ Matthews & Yip 1994, pp. 340–341.