神学大全
﹃神学大全﹄︵しんがくたいぜん、羅: Summa Theologiae, Summa Theologica, Summa︶は、﹁神学の要綱﹂﹁神学の集大成﹂という意味の題を持つ中世ヨーロッパの神学書。13世紀に中世的なキリスト教神学が体系化されると共に出現した。一般的にはトマス・アクィナスの﹃神学大全﹄が最もよく知られているが、他にもヘールズのアレクサンデルやアルベルトゥス・マグヌスの手による﹃神学大全﹄も存在する。
﹃神学大全﹄の特徴は、当時の神学において用いられていた﹃命題集﹄︵センテンティエ︶や﹃注解﹄︵コメンタリウム︶にばらばらに記されていた内容を有機的に分類し、体系的に整列し直しているところにある。つまり、聖書の言葉や教父・神学者の言葉が抜書きされていたものをわかりやすくまとめなおしているのである。さらに中世の司教座聖堂付属学校や大学において盛んにおこなわれた討論や解釈の成果が盛り込まれている。
本項ではトマス・アクィナスの﹃神学大全﹄を例に詳しい内容について述べる。
成立[編集]
﹃神学大全﹄はトマス・アクィナスの数ある著作の中でも最も有名なものであるが、序文の言葉によれば神学の初学者向けの教科書として書かれたものであるという[1]。決してキリスト教徒でない人々を想定して書かれているわけではないが、それでもきわめて明快に理性と啓示︵信仰︶の融合がはかられ、読者がキリスト教信仰に関する事柄でも理性で納得できるように書かれている。そして﹁大全﹂を名乗る以上、それまでの神学において扱われたあらゆるテーマについて論じようという意欲作であった。 ﹃神学大全﹄はトマス・アクィナスのライフワークであり、彼の生涯の研究の集大成であった。彼はそれまでに﹃対異教徒大全︵Summa Contra Gentiles︶﹄という書を書き上げているが、﹃神学大全﹄はその成果も踏まえて、より洗練されたものになっている。 トマスは1265年ごろから﹃神学大全﹄の著述にとりかかっているが、第三部の完成を目指して著述を続けていた1273年12月6日、ミサを捧げていたトマスに突然の心境の変化が起こった。神の圧倒的な直接的体験をしたと伝えられている。﹃神学大全﹄も秘跡の部の途中まで完成していたが、彼は以後一切の著述をやめてしまう[2]。 1274年3月7日にトマスが世を去ると、残された弟子たちが師の構想を引き継いで第三部の残りの部分︵秘跡と終末︶を完成させた。構成[編集]
全体構成[編集]
﹃神学大全﹄は以下のような三部構成からなっている[1]。第一部は119の問題が、第二部は303の問題が、第三部では90の問題が、合計512の問題が取り上げられている。 ●第一部 : 神について、119問 ●問1 : 聖なる教え ●問2-26 : 神 ●問27-43 : 三位一体 ●問44-46 : 創造 ●問47 : 一般事物の区別 ●問48-49 : 善と悪の区別 ●問50-64 : 天使 ●問65-74 : 創造の7日間 ●問78-102 : 人間 ●問103-119 : 被造物︵世界︶の保全統率 ●第二部 : 人間について、303問 ●第1部 : 114問 ●問1-5 : 目的 ●問6-21 : 人間特有の行為 ●問22-48 : 情念 ●問49-54 : 習性 ●問55-70 : 美徳と幸福 ●問71-89 : 悪徳と罪 ●問90-108 : 法 ●問109-114 : 恩寵 ●第2部 : 189問 ●︻対神徳、神学的徳︼ ●問1-16 : 信仰 ●問17-22 : 希望 ●問23-44 : 愛 ●問45-46 : 知恵︵智慧/英知/叡智︶ ●︻枢要徳︵四元徳︶︼ ●問47-56 : 思慮 ●問57-122 : 正義 ●問123-140 : 勇気 ●問141-170 : 節制 ●問171-174 : 預言 ●問175 : 携挙 ●問176-178 : 恩寵 ●問179-182 : 観想的生活と活動的生活 ●問183-189 : 生活の分化 ●第三部 : キリストについて、90問 ●問1-59 : 受肉 ●問60-90 : 秘跡 ●問66-71 : 洗礼 ●問72 : 堅信 ●問73-83 : 聖餐 ●問84-90 : ゆるし 全体の構成としては、第一部で、神による創造を描き、第二部で神へと向かう理性的被造物である人間の運動について描き、第三部で、神へと向かう際の道しるべであるキリストについて描くという構想に基づくもので、ネオプラトニズム的な発出と還帰の原理を超えて、聖書に記された出来事を理解するためのキリスト中心的、救済史的な世界観があった[3]。叙述形式[編集]
個々の部分の構成を見ると、基本的には次のようになっている。 まず、冒頭に問題︵テーゼ︶が提示される。例えば、﹁イエスは貧しかったということは彼にふさわしいことであるか?﹂という質問を例としよう。次に質問に対するいくつかの異論が挙げられる。異論は聖書や過去の大学者の引用によっておこなわれる。例えば、例に対しては﹁アリストテレスは中庸を重んじ、金持ちでも貧乏でもない中庸を選ぶのが最高の生き方であるとしている﹂などという具合である。 次に対論が提示される。これは異論に反対する見方である。例えば、﹁聖書によれば神は正しいことをされる方であるという。イエスが貧しい生き方をし、イエスが神であるなら、貧しい生き方は正しい生き方であったにちがいない﹂などである。 最後にこれらの流れを踏まえた解答が示される。解答は異論あるいは対論をそのまま採用したものではなく、全体を統合した解答になっていることが多い。つまり単純に異論を否定していないところに﹃神学大全﹄の面白さがある。たとえば例に対する解答では﹁中庸に生きることが最高の生き方であるというのは正しい。ただ、その理由は、贅沢に心奪われる、あるいは毎日の暮らしに汲々とすることで人生の目的を見失わないためである。イエスにとって人生の目的は神のことばをより広めることであった。そのためには貧しい暮らしのほうが動きやすかったといえる。﹂といった具合にまとめられる。内容[編集]
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